さくっとざっくり
ご指摘を含め修正いたしました。28.12.17
お父様の爽やかで軽い暴言を気にしつつも授業の前に雑談を入れてもいいですか、と聞けば内容にもよるよ、と返ってきた。
じゃあそのままのノリで「目のことで」と言えばそれはすぐに聞かなきゃね、と簡単に雑談できる時間が作れた。
では早速と――私は目を治す時に大丈夫なのか心配している部分をあげていく。今ではもうほとんどが信じられない精霊の助言。魔塊を取ったら失明してしまうらしい事を伝える。ついでに魔力が光となって見える仕組みについても。よく覚えていたね、私。
言ったか言っていないかと言えば言っていなかったらしい。ポカンとした表情でありながら真剣に私の話を聞いてくれた。
全部を話してみてどう思うか聞いてみると少しだけ考えるように自分の顎を掴んだお父様。私的にはすでに何が正しくて何が偽りなのかがわからない。こうして誰かの意見を聞かなくては判断もできないのだ。難しい話ってそれだけで面倒だよね。……正しくは一人で突っ走りたくないだけなんだけど。
ちょっと考えて出た言葉は「診るしかない」だった。どういう事かを聞いてみると魔塊である体内で作られた魔力の塊は、魔石に匹敵すると言われている。ただ、体内にあるので触れないしあるだけで体調不良になるのだからあまりいいものではない。魔塊ができてしまって何かの効果を得られるのは不調だけだと言う。取り出せば魔石として使えるんだとか。取り出す人はいないが。
だから本当に私はイレギュラーであり、魔塊によってそんな効果が得られるのが不思議だと言う。ただ私は精霊とちょっとした関わりがあるので精霊が手助けしてくれたと考えるならあり得る話だろうとも。
特に私は3つの属性を所持しているからね。まず魔塊が綺麗に別れていることがおかしいから私はエジーラ様と同じくらい秘匿な存在なんだって。初めて知ったわ。
「ソマディオ殿とはもう少し詳しく内密に話さなければならないだろうな。完全にソマディオ殿をこちらに縛り付けなくてはクフィーへの安全性が狂う」
「契約魔法だけでは足りないかもしれませんね」
「見返りもつけた方が良さそうだな」
一筋縄ではいきそうにないものね。右側の人が何かを企んでいたら警戒しなくちゃならないし――私は数回しか会っていないからあの人がどんな人物か知らない。飴と鞭は用意しておいた方が断然いいね。飴の加減が問われるけど……お父様、頑張ってください。私にはその辺がさっぱりなので。
とりあえず、さっきの話を含めてもう少し右側の人と内容を詰めてから私の目を見ることに話しはまとまった。
「あと、もう一ついいですか?」
「いいよ。その話が終わったらちょっと問題集をやってみようか」
えー。いきなりテストー?しかも抜き打ちじゃないですかっ。
顔に出てしまったらしい。いや、むしろ出していたら笑われてしまった!簡単なものだよ、なんて言っているけどね、そういう時に限って簡単じゃないんだよ!絶対に1つくらい難問か引っかけが存在するんだらっ!
「とあるお方からの情報です。そうですね……私だけに聞こえるその人は尊く、永く、私たちを見てきたお方です」
「……集え」
おお。これだけで察してくれたんだ!まあ私だけに聞こえると言えばちょっとは予想が付くよね。魔素を集めたらさらさら~と魔法文字を書き出して円を描く。キラキラが指先に集中していたそれは円を描くとすぐに散っちゃって残念に思えるんだよね。
そう言えばヴィグマンお爺ちゃんが監督する中で私も結界の魔法を使ったけど……終わった後がちょっと大変だったんだよね。まさか結界が解けないとは思わなかったよ。
帰ろうか、なんて言って身支度を整えつつ騎士の一人が先導して森を抜けようとしたら透明な壁に当たっちゃったらしくてさ。いきなり後ろへよろめくからみんなが目を丸くして戸惑ったものだよ。結界が解けていなかったから騎士が顔面を打ち付けちゃったらしい。かなりいったね。あれは本当に申し訳なかった。
でもね、ここでちょっと問題が。どうやって解けばいいのかがわからなくて出られなくなったんだよねー。聞けば魔法の威力は魔力で決まるから継続時間も魔力で決まるんだって。エモール先生、説明は威力だけだったと思われます!教本のどこに書いてあるの!?
魔力は威力なので、結界や本来の身体強化は継続時間に変換されるらしい。だから込めすぎると継続時間が長くなってしまうのだとか!
そう言えば私がやった時……ちょっと大きかったかな。ヴィグマンお爺ちゃんの結界を越えて小屋を丸々と覆っちゃったし。つまりはどちらも多かったから出るに出られなかったんだね。みんな苦笑いして解けるまで寛いでいたのを覚えているよ。
「よし、まぐとりの話だね?」
「はい。実は城で一度会話をしたことがあるんです。教会のことを、教えてもらいました。それで気になった事があるのですが……『眼を会わせたくない、近づきたくもない歪んだ魔力を持った人。精霊を食い殺している人』――が教会にいた、と」
「まぐとりが?そんなことを?誰だい、それは……?」
「それっきりまぐとりと連絡が取れなかったのですが、城から出てしばらくしたらまた、声が聞こえました」
「……屋敷で、かい?なんと言っていた?」
「はい――先ほど言った人がこの城にいるそうですよ。まったく動かないから会うことはないと思うけど気を付けて、と。それだけ告げて後はまた何もありません」
「協会にいて、今度は城にいると言えばシェムピスだな……ヴィグマン様に聞いてみるか」
あ、そっか。ヴィグマンお爺ちゃんって感じる人だったっけ。なんだかすっかり忘れちゃうんだよなー。てかシェムピスが歪んだ人ね。気を付けよう。どんな人か知らないけどさ。
それと、私の人生相談。目が治ることはちょっと置いておいて……私は魔学医になりたいのですよ、お父様。て――言ったら驚愕して見るからにしょんぼりしちゃった。なんで?と聞かれても。
私は治したい。右側の人のおかげで治るのだったらそれでもいい。でも、保険のために魔学医を学んでおきたいのだよ。大きな期待はしすぎちゃ駄目だから。落胆が大きすぎると、元に戻すときに時間がかかる。
ただね、魔学医を目指すにも私は物の見分けが苦しい。エジーラ様の所でキズナオ草とドクデス草の見分けがつかなかった事を伝えた。驚かれたけど、私はそこに驚いてほしいのではない。見分けがつけられないのだったら調合ができないので魔学医を目指す意味がないのだ。
知識だけを得ても私が指示できる立場ではない。私はまだ7歳児。親の七光りは疎まれるし使っても意味がない。単身で魔学医になったところで今は足が悪くて目も悪い設定になってしまった。
それで魔学医を目指せる?私にはペナルティを背負いすぎて不安だよ。目は最初からの付き合いだから、ちょっとした疎外感に当てられるけど慣れた。でも魔学医としてはその慣れたは使えない。
私は何を目指すべきだと思う?
「私の意見としては……そのまま上り詰めて魔法師になって――願わくば私の位置まで来てほしい」
「後釜ですか?……いえ、なにかあるのですよね?因みにどちらでしょうか?」
「クフィーからはそう聞こえるか……ただ私の傍にいてほしかったんだよ。私の傍で一緒に娘と働けるなんて、いいだろう?」
「お父様の傍にいたら甘えてしまいますよ」
「甘えてほしいんだがなー……でも一番、薦めたくない位置でもあるんだよ。王宮筆頭なんて魔法棟の管理職みたいなものだし、何かあったら駆り出されて役割の割り振りとかもだいたいは王宮筆頭から始まって各団に通達してとか役割が多すぎるっ!」
お父様が吠えた……うがー!と頭も抱えてやけになったのか振り始めちゃったよ。ころんと私が飛んでいきそうになったから軽くジャンプして離れたけどね。でも私の重みがなくなったことに気づいたのかすぐに止めて抱え直した。ブレないよね、本当に。
とりあえず私はまだ若魔法師の一年生なんだから焦ることはないよ、と言われました。それもそうだ。なんでこんなに不安にも焦っているのか不思議だね。私は7歳児、7歳児なんだよって唱えているくせにまったく反映されない。
解剖してからでも遅くないよ、だなんて言われたら納得するしかないね。解剖で何かわかるかもしれないから、って。お父様、解剖はやめて手術って言いません?
じゃあそろそろ――とお父様がお仕事モードに入ったので私はようやく!膝から下ろされ隣に座らされた。これからテストである。問題集を持ってくるので待っているようにと言われたので待つさ!
「べびゅぎゅわ!べびゅぎゅわ!」
「………………お父様、シュナイガルが帰ってきたみたいです」
「みたいだね。早いな~さすがシュナイガルだ。いい仕事をしてくれる」
「私が開けましょうか?」
「危ないから駄目だよ。逃げないからそのままにしておいて大丈夫」
逃げたらシュナイガルがお仕事を放棄したことになるもんね。
例の問題集は見つかったらしい。数枚を手にささっと扉に向かって開けた。シュナイガルはばさばさと羽音を立てながら入ってきて……私の後ろのソファーに止まった。なぜそこなのかはわかりません。とりあえず、首を傾げて私を見るけど……あんまり可愛くはないね、やっぱり……私ってばイメージを持ちすぎだよっ。
その前に鷲と鷹と隼だと……て言うか大きい鳥って爪が鋭いんじゃないかな?でもソファーを見てみると……爪、ないや。ぎゅっと爪がない足が握ってソファーに変なシワが出来上がっている。なんかの皮って思ってたけど……光を反射させるとわ。
肌触りはなんとなく馬の肌みたいにほんのちょっと嫌ではないザラッとした感覚なんだけど……まあ、いいか。白い線が入ったのは明暗がしっかりしていると言うことで。
シュナイガルをそのままに手際よく体に着けてあるホルダーから手紙を取り出す。丁寧に蝋で捺されている手紙で心なしか手紙から――なんだろう?森林のような青臭いとまでいかないけど、緑のような匂いがする。
気になったら聞いてみよう!もしかして森が近いの?
「ウェルターがあの牧場を持てるぐらいだ。緑は多い方だね。実家にはなかったと思うけど……まさか引退したのかな?」
「引退したら隠居ですよね。手紙には何が書かれていたのですか?」
「んー……ああ、やっぱり引退したようだ。最後まで調べておくべきだったなー。ああ、やっぱり兄上の独断か……謝罪の手紙がなければもう実家とは縁を切るしかないな」
「肉親との縁を……切るのですか。決断が早いかと……」
「そうかな?私は家族に害が及ぶと思うものはすべて排除する心情でいる。そうでもしないと愛する家族を泣かせてしまうからね。それに、貴族は面倒だけど仕来たりを重んじるものなんだ。それをしない者には貴族から追い出されるんだよ」
「お祖父様も、その家族ですよ。お祖父様やお婆様だけと言うわけにはいかないのですか?」
「クフィーの頼みならお祖父様もお婆様も我がアーガスト家の縁者、家族として私は守るよ。でもね、区切らなきゃそれに胡座をかく者もいる。そいつのせいでクフィーたちが苦しい思いや泣かせてしまうような事になるなら縁を切らなきゃちゃんと守れないんだよ。私は不器用だからね」
「私の家族はアーガスト家に住まう住人と伯母のユリユア様、それにノルアだけですから……お父様が守ってくださるなら何も言いませんよ。それがお父様が大切な者を守るやり方なのでしょう」
「知らなければ驚くほどに物分かりのいい娘で困惑するね。今なら知れてよかったと思うよ」
そしてはい、お膝の上ー。私はマスコットか。
と言う突っ込みはしません。なんだかぎゅー、と抱き締めて守るよ、なんて言われたら、ね。それだけ大切なんだなってわかる。
それとやっぱりやる事がばっさりとしているな、なんて。縁を切るとかざっくりしすぎじゃない?最初に聞いたときには驚いたよ。この世界ではこんな簡単に口を出せるほど離縁ができるんだね。お父様ったら勢いがすごいわー。
そして一段落したところでお父様が手を振ったらシュナイガルは飛んでいく。でも扉が開いていなかったからまた可愛くない声で「開けろ!」て。
苦笑いしながら扉をわざわざ開けに行くお父様になんだか笑えてしまった。上に専用の窓口でも付けておけば?雰囲気がちょっと重かったから空気が換えれてよかったけど。
「じゃ、この問題集を昼の十二の鐘、お昼までやろうか!クフィー、頑張るんだよっ!」
ドサッ!て――お父様、実はスパルタですか?パサッ、じゃなくてドサッ!て聞こえたんだけど……?
お父様の膝を割って間に収まった私はさっき見たときには厚さなんて感じなかった紙束が2、3センクターあるようにしか見えない。本一冊分ですか?そしていつの間にか用意されている羽ペンとインクに動揺しながら笑顔のお父様……
笑顔とともに「ん?」と返されたのですが――切り替えが早くありませんかね?私、その辺が受け継がれていないようなんですが、前世持ちだと性格とか関係がないと?お父様、どう思われます?




