裏工作がつけられ、親戚と思わしき人は無礼だった
間違えました。
誤→庭園
正→植物園
修正いたしました。28.12.17
「さーてと……とりあえずは部屋に入ったけど……おっかしいな。ドトイルとロノウィスには部屋に来いって言っておいたのに……」
「誰もいませんね」
レーバレンス様に追い出された私たちは二つ挟んだ部屋に入りましたとさ。ここがお父様の部屋だったらしい。なぜか今ようやく認識できました。部屋の中はシンプル、イズ、ザ、ベスト!……『ザ』っているっけ?いいか。どうせこの世界で習えないし。英文はこの1回きりだと思われるし。
前に入った時はどんな感じだったかな。他の人との内装は変わらなくて誰がどの部屋の持ち主だったのか覚えていないよ。よくて仕事机に紙束の山がどれだけあるかの違いなんじゃない?お父様の部屋はわりと綺麗に整頓されているね。
とりあえず、真ん中にセッティングされているお茶ができるテーブルとソファーの所に座って待つことに。もちろん私はお父様のお膝の上。離れることなかれ……ヌイグルミを離さない子どもみたい。言わないけどさ。お父様ってなんでこんなに“ 家族 ”が大切なんだろうか。
「お茶でも出そうか」
「私が淹れましょうか?」
「……クフィーの飲みたい!でも離れたくないっ!だからもう少し待って来なかったら私が淹れる!!」
あ、そう。じゃあ待とうか。私はお父様のようにお喋りはしていないし、寒い季節になったおかげで乾燥も今のところないので喉は渇いていないのですよ。
よしよし、と頭を撫でたりぎゅっ、と抱き締めたり……見上げてみれば癒されたような表情で私を見下ろしているね。慈しむ表情って、お父様がやっても違和感がない。すごいね。
「今日は本当に個人授業なのですか?」
「ああ、するよ。でも、今日はちょっと先に優先することがあるからそれをやってからだ」
「何をするのですか?」
「……面会だよ。私の父だ。つまり、クフィーのお祖父様に逢うことになっている」
「唐突ですね。デュグランと何か関係があったりするのでしょうか?」
「さすがクフィー。正解だ!でも会うだけでもし何か言ってきたら『お断りします』ときっぱり言ってくれればいい。もう嫌そうな表情をしてこれでもかと冷たく言い放ってくれるといいね。ついでに大っ嫌いと言ってやるといい」
「……なんとなく……わかってきましたよ」
つまり、デュグランは元々は私の婚約者として従者を送り込んでいたのでしょうから、それについてだ。お祖父様に会うのならそうしかない。そして、お父様は私と婚約を結ばせる気はない、と。そのお話しなんだね?
だから手酷くあしらえと言うのか……嫌そうね表情に冷たく言い放つってそれもう嫌です!て言っているようなものだし。
因みにお父様の説明ではデュグランは候補の一人だったそうです。他にお祖父様の方でもう一人いたそうな。それがデュグランの一個上の兄に当たるジュラムと言う三男くん。デュグランが駄目ならデュグランを本当の従者に仕立てて兄のジュラムが送った形にし、婚約しようとしたらしい。トールお兄様、意外に早く真意が暴かれたよ。
「宰相様が言っていたのはこの事なんですね。確かに決めるのが大変そうでいいお話しではありません」
「……他人事ではないぞ?クフィーの魔力が高いと言う噂は遅かれ早かれでもう広まっている。私の娘と言うのもあって直に縁談を持ちかけてくる貴族が絶えないんだ。それだけクフィーの縁談が押し寄せてきている。魔法棟にいたから蹴散らせたけど、城から出れば上流貴族が押し掛けてくるから相手をしなければならなくて大変なんだ」
「今はどのような体裁をお作りに?」
「クフィーの欠陥を二つ提示した。一つは目の事。もう一つは足が悪いこと。だから縁談もその理由で断れるよ」
「……………………………………………………………………もしかして最近やたらと抱き上げられているのって――え?ではアビグーア中隊長ももしかして」
「ちょっと貴族の中では扱いにくい令嬢になったかな。目は令嬢の中でよく語られる。色がわからないのだからそれこそ疎外されるだろう。貴族に足が悪いと知れればどこにも遊びに行けない令嬢だ。遠乗りが出来ないと言う事だからね。気兼ねに遊びに行けません、と言うことだ。アビグーア中隊長はただの親切。それに私が目をつけてそう言う設定にしたんだ」
「私、いつの間にそんな子になったんですか……でも私は魔法院の食堂まで歩いていますよ?それはいいのですか?」
「休憩をしているだろう?」
歩けるけど、長い休憩が必要だろう?と言われてなんとも言えなくなる私。足が悪い私を徹底したいらしい……そうきたかっ。しかも、私は走るのが遅い。アーグラム王子の情報提供から私は足の具合が悪くても大丈夫だろうと決まったらしい。アーグラム王子、どんな説明をしたの!?
それでも私を婚約者にしたい人は、高確率で魔力を狙っていると思われるので断っているのだそうだ。稀に私へ愛を語る輩がいるらしいが私が誰とも文通も面会もしていないと分かっているし、アビグーア中隊長に恐れる者と権力を振りかざす者ばかりだったので結局は追っ払っているらしい。
私、知らないところでモテモテだわ。魔力が、だけど……
そんな事を話していたらやっと来たロノウィスくんとドトイル。礼節を弁えてしっかりとした挨拶で入ってきた。あのドタバタはどこに行ったんだろうね、って聞きたくなるくらい別人の振る舞い。ギャップが見える!
来た二人には今日の予定を言い渡すために呼んだらしい。お父様は私を離すこともせずにアレとコレを頼むぞ。いつに戻ってくるからその間にソレを終わらせておいてくれ、などなど。こうしていれば自慢のお父様なんだけどなー……親馬鹿の自慢ならぶっちぎりなんだけどね。
じゃ、よろしくと告げて移動。どこに移動ですか?わからないけど、抱っこで運ばれた私は行くしか道がないのです。聞いたら早速会いに行くんだって……面倒だねー。その内に玄関に到着です。用意した馬車を待つそうですよ。
「そう言えばケーリィム男爵からの出なのにお父様はアーガストですよね?家名は変えられるのですか?」
「三男からはその家の家名を継げないしあまり言えないからね。ほとんどがすぐに婿入りだと思うよ。私の場合は陛下への功績が認められて爵位を賜ったから家名を付けてくださったんだ」
「なるほど……となるとケーリィム男爵ですけど、お祖父様からお父様の兄弟に当たる方を紹介してさらに婚約者を紹介してくるんですよね?紹介される親と息子はどんな人たちか教えてください」
「どんなって……もう会っていないからなぁ………………まだあの家にいた時なら細々とだけど確実に実力を得る人かな。要領は悪い人だけどね」
「不器用、て事ですか?」
「そんな感じかな。剣も魔法も半端で、だからこそ努力するんだけど中々ね――実らないんだよなー、兄上は。でも慈悲はいらない。嫌だと思ったらすぐにでも言うんだよ、クフィー。父上の頼みで私の兄上だから形だけでも計らっただけであって情はいらないから。ぶったぎってあげなさい」
「けっこう、冷たいですね」
「貴族の手紙ってね、内容で相手を思っているかいないのかがだいたい分かるんだよ」
それは……ヴィグマンお爺ちゃんの手紙はほとんど孫にあてる手紙のようで気にかけている感じ。レーバレンス様の手紙は仕事場の上司のようなやり取り。でも私が読めるように言い方とかはそんなに難しくはない。
これは――自惚れじゃなければ思われている方かな?でも私は幼女だし。そうしているだけだったり。でも幼女相手に手紙を書いてくれるなら優しさがあるよね。
ちょっとだけ首を傾げたら色々とあるんだよ、て言われてしまった。それもそうだね。人はそれぞれ違うもの。同じなんて、ないよ。似ているって言うのはあるかもしれないけど。同じは、ない。
納得したところでちょうど馬車がやって来る。タイミングがばっちりな理由はその馬車を引いてきた全身鎧の人のなせる技だと思うよ!軽く手をあげて挨拶をしてくるのはウェルターさんだね!
顔のところがぱかっと開くらしい。親指で慣れたように持ち上げると出てくるウェルターさんの顔。さっきぶりだな、とか挨拶を交わして見送ってくれました!門兵だから見送りは必然的だけどね!
でもここでふと思うのです。夏の暑い日差しを受けながら家族でウェルターさんの牧場へ向かったあの日……朝から夕方を駆けていったような気がするんだけどね。今日中に帰ってこれるのですか?
「まさか。貴族で有名な植物園で軽くお食事だよ。見合いじゃない。お食事だからね?そこは間違えないように」
そうか。よくよく考えたらお見合いに行くんだね、私。違うらしいけど。お父様は当然のように認めていません!と言うようなへの字で意気込んでいる。相手のポジションが父親と兄でちょっと断りづらくて仕方なく、と言うのが滲み出てきたかな。
カタカタポコポコと揺られながら目的地にたどり着いて……あ、理想がここにない――と私はがっかりする。まあ、これが正しいわけじゃないんだけど。理想としてはお出迎えがあったらポイントが高いよねって。色々と想像していたのに……公共の場ならなくてもいいか。
馬車の中でもやっぱり離してくれないお父様に目的地の最後まで膝の上から下ろしてくれなかったから着く前に抗議したのに……挨拶は大事でしょ?きっと待っていてくれるんだろうと思って着いたら下ろしてくださいね、てお願いまでして――
着いたら誰も待ってくれていなかったと言う、ね。私の理想に皹が入った瞬間だった。いや、理想が高いね、私。いつの間にか高慢さが出てきたかな?
そのまま私を下ろさずに歩き出して……軽食ができるエリアまで進んだら三人がすでに座って待ち構えていた。
左から女と、男と、男の子。家族で来たんでしょうね。なんだか若そうな女性の髪は薄くはないけどグレーと言えないような濃さの色。瞳もなんだか黒ともグレーとも言えないようなわからない色に見えた。カナリアの髪にオリーブの実の色でいいや。なんか、若いせいか……あの視線が嫌だ。狙っている感じがする。
対して男性の方はお父様の似たような人の良さそうなイケメン。髪はお父様と比べると濃さがそんなにないから新緑ではないね。常磐色とかそれぐらい。あんまり変わんないかな?瞳は一緒。濃い黒は藍色だと思う。
その間に生まれただろう男の子……は、母親のカナリア色と父親の藍色を受け継いだのかな。グレーと断定できない髪色に、距離があるせいか黒く見える瞳だ。そうなるとデュグランの配色が茄子の髪と南瓜の瞳じゃ駄目なのか……難しいなー。
あれ、ちょっと待って!今日はお祖父様に会う予定じゃなかったの!?
「待っていた。いい天気だろう?クロムフィーアちゃんも喜んでくれるといいな」
……挨拶、なし。理想にまた皹が入った。そなたは誰ぞ。この催しの意味を説明せよ。私は招かれた方の人間。お父様、動くことなかれ。いや、動けないよね。貴族のたしなみが見てとれない。これは仕組まれたのかな……
「ん?どうしたんだ?早く座ったらどうだ?」
「……本気で、言っているのか?」
「本気?ああ、クロムフィーアちゃんの婚約だろう?本気だ。デュグランは駄目だったがジュラムを連れてきたんだ」
「……今日は父上とここで会うはずなんだ。兄上は後で、でしょう?――父上は?」
「そんな堅いことを言うな。私が父にお願いしたんだ」
それで挨拶も紹介もなく兄弟の仲だろう?みたいなノリで招かないでほしい。疎遠だったくせに。少しは躊躇ってもいいと思うよ。今一度、人との距離を確かめてほしいね。しかもこの人ってば親の伝を使って呼んだみたいだね。――なんか、嫌だな。
それはお父様も思ったらしい。実際はどうなのか知らないけど見上げた顔の表情は穏やかな顔を作っているけど、目が冷たかった。お父様の兄なのに……なんか、嫌。あり得ない。理想を描きすぎちゃったなぁ。
「火急の報せが来ているんだ。今日は失礼する」
「来たばかりだろう。せめてクロムフィーアちゃんは置いていったらどうだ?俺たちが面倒をみよう。ね、クロムフィーアちゃん」
拒否する!
なんか、勝手すぎる人たちなので喋るのも億劫だよ。だから首をふるふると振って拒否した。ついでにお父様の貴族ですと言わんばかりの質のいい服を強く握って顔を背けとく。これでお父様はわかるはずだ。と言うかね、お父様が置いていくはずがないんだから。
その期待はまったく外れないからまたすごい。置いていくわけがないだろう、と言葉を捨ててあの三人に背を向けて歩き出していた。後ろで待て!って聞こえるけどお父様の足は止まらない。スタスタと大股で歩いていく。
「挨拶も説明も誘導もなし。加えてお父様の事情も聞かないで娘を置いていけ。お見合いで両親なしの相手だけで成り立つと思っているのですか?」
「ケーリィム男爵から見るなら普通は、あちらから呼んだのだから出迎えて挨拶をし客人を座らせてから自分が座り今日はどのような集まりかを告げて軽い日常会話から本題に入るのが筋なんだよ。兄が私より上位の貴族なら、その場で立って挨拶を交わし手や言葉で促すだけでいい。来たのに挨拶もないなんて失礼だ。父上がどうしてもと言うから来たのにっ……」
「ああ、やはり兄弟だからと言っても挨拶は必要ですよね」
「当たり前だろう。軽い挨拶だけでもするべきだ。それに私たちは実家だろうがもう縁遠い。近しい仲でもないのにあの態度はなんなんだ」
「あともう一つ。子供用の席がなぜか見合い相手の隣だったのでがこれも普通なのですか?」
「クフィー、そんなわけないだろう?初めて逢うんだよ?なぜそんな詰め寄った距離から始めなければならないんだ。親のお茶会じゃあるまいし」
「ですよね」
「すまない、クフィー。信頼できた父上からの手紙だった事から会ってもいいかなと思った私が浅はかだった。直接で断った方がいいなと思った私が馬鹿だったよ。私の方で終わらせておくから、クフィーは自分の好きな人を選ぶんだよ?いいね」
「当然です。政略結婚なんてお断りですから!」
二人してちょっとイライラしながら立ち去る。呼び掛ける声はなくなったし、追いかけてくるような足音もないので私たちは早々に植物園から立ち去った。今度は家族で見に行こうと言う約束をつけて。
行きに乗って来た馬車にまた乗って城へと戻ればお父様の部屋に行って早急に断りの手紙を書いて送った。ついでに今日の出来事も書き殴ったらしい。手紙を書いて送り届けてくれるのは人か馬か鳥。順番からも鳥が一っ番!早く相手に届けてくれる。
届けてくれるのはお父様がよう使うシュナイガルと言う名の隼だった。あ、ごめん。もしかして鷹かも?いや、鷲だったり?翼の広がりで見分けをつけるんだっけ?広げてくれなきゃわかんないよ!
でも名前でなんとかっ――て聞いてみたら『ワタブサ』って全部が合体しているような名前っ……名前の由来は羽が綿のようにふわふわとして軽く、その顔が不細工であるからだ。
そうだね。不細工、って言ったらあの大きな嘴で食べられちゃいそうだね。首が短くて目がやはり円らで鳥としてはちょっと大きめ。瞼はゆっくりと閉じるようですよ。嘴が横にも縦にも大きくてどちらかと言うとアヒルの口だね。あ、顔はなんかへらべったい。そして極めつけは鳴き声。
「べびゅぎゅわー」
「可愛いく、ない」
そう呟いた時にお父様に笑われてしまったがこれは仕方がないじゃないか。さすがにこれは可愛くないよっ。
手紙を体に固定されている革製(肌触りから予想)のホルダーに入れて……バサ!と広げたら来た時と同じでふさあと、どっか行った。本当に早くなるのは外に出てからなんだって。しまった。外で放ってもらえばよかった。
「じゃ、さっきの事は忘れよう。婚約はぜーんぶ破棄にするから大丈夫だよ。クフィーにいらない虫はお父様が握り潰しておくから安心しておいて大丈夫だ!」
……揉み消すんじゃないんだ………………




