流されよう
修正いたしました。28.12.17
……わざとじゃ、ないよ?気づいてはいたけど――加減は難しいのです。
お父様の休暇がほしいと言った私。当然ながら私の中では『色々とお話しがしたい』と言う理由であって、『父親想いの優しい娘』ではありません。
個人的には微笑んで嬉しさを全快に自慢しながらグラムディア殿下に報告をするぐらいだと思っていたんだ。……もう少し考えればよかったと、後悔しています。
陛下、ならびに王族関係者様、そしてお父様と一緒にお仕事をしている皆様――大変、ご迷惑をお掛けします。
言った側から感涙に涙を流しながら天を仰いで「絶対にもぎ取ってみせるっ」なんて言っていた時はそこまでに至らなかったんだよね。一通り泣いたと思ったらぎゅっー!と抱き締めて私をべた褒め。この辺から「あ」なんて思っても遅い。
私をお母様に預けて行って来る、なんて告げてスタスタとどこかに行ってしまった。しかも無駄にキリッとしてどこかへ。
いなくなってすぐにトールお兄様から「本当にそれでいいのか?」と聞かれた時には笑っておくしかできなかったよ。にへら……
深く考えなくてもわかります。今の発言はいわゆる、仕事で忙しいお父様を労る娘。これを、お父様ならどう変換するか……大好きな娘が殿下からの褒美を自分の休暇に当てて願う。ここ最近はあまり顔も会わせていないので答えはこうなるでしょうね。
大好きな娘が私と一緒にいたい(遊びたい)と言ってくれている!
飛躍しすぎか。そうであってほしい。勘違いにしてくれても構いません。でもお父様だからこれくらいの変換は当たり前のような気がするのです。てかこれが正しいような気もしてくるのです。
後悔って本当に字の如く後から来るよね。言葉って奥が深い。まあ、悔やんでいても仕方がない。話がしたいのは変わらないのだから……
そして夕方に帰ってきたお父様。笑顔が眩しいくらいに輝いています。魔力のキラキラより負けない輝きですっ。もぎ取ってきたんだね?顔を見ればわかるよ!
そして有無を言わさずに私は強制的に川の字で今日――今だと昨日が終わったのです。7歳との川の字はありか。まあ有りにしておこう。意外にもお母様の方がノリノリだったのですからっ。そして細身のお母様にも敵わない虚しさ!
両親に挟まれてにこにこされながらあっさり眠りにつく私も私だけどね!だってふかふかだから気持ちよくてすぐに眠れちゃうんだもんっ!
そして今日はトールお兄様の遠征の旅にでる日ですっ。お母様の抱擁とリディお姉様のちょっと遠回しの激励を受けて馬車でお城へ。そのまま騎士棟で涙ぐみなから別れを惜しむお父様と別れて……ちょっと虚しくなる。
そして私は魔法院へ!――と言うわけではありません。さっきからお父様の腕に乗っているからアレ?とは思っておりましたとも。そこで悟りましたさ。
今日は魔法院じゃないな、と。
案の定、魔法棟へ向かっていくお父様。私を乗せたままなので目立つ目立つ。懐かしきロノウィスくんが駆けてきてご挨拶ももう昔ですね。肩までのローブを着けているのでお堅い挨拶で勘弁してください。それでも笑顔のロノウィスくんは素敵です!
で、どちらへ向かうと言うのか……乗せられたまま行く先はまあ、十進魔法師の個人部屋。でも入ったらお父様の部屋じゃなかったみたい。レーバレンス様が待ち構えておりましたとも!そして睨まれる、と……もう、影響は出てしまいました………………?
「レーバレンス、頼む」
「……俺はいつ、お前の運搬係になった?」
「最近は素が出るようになったな~。いいだろう?変わりに魔力を提供してやる、と言っているんだ」
「ついでにそいつも」
「クフィーは駄目だ。クフィーは若魔法師だからね」
ねー、なんて言われましても。なんだかお父様が浮かれすぎているよ。原因はわかっているけどね。まあいいや。私が一人で悶々するよりもう腹を括るしかない。
で、レーバレンス様は深い、それはもう空気をすべて吐き出す勢いでため息をついて影渡りをしてくださいました。いつもお世話になっています。
飛んだ先はどこかの廊下。の、影。この時間帯だとここに影ができるんだって。私は【闇】の属性ではないので聞いても意味がないからね。そうなんだー、ぐらいで会話を終わらせておいた。
そして一番近くの部屋に入っていく。挨拶は「王宮筆頭魔法師」なんだね。十進魔法師と王宮筆頭魔法師って使い分ける意味ってあるのかな?――と、グラムディア様の執務室なのかな?でも机はない。どっちかって言うとお茶ができそうなソファーに合う低いテーブル。
グラムディア殿下の隣には似たような配色のセレリュナ様。金(予想)と銀の夫婦って、なんだかいいな。異世界って感じがする。王子様やお姫様に金髪とか銀髪って王道だよね!
てか突然の訪問はいいのかな?堂々と入っちゃった。これって執務室とかそんな類いの部屋じゃないよね?個人に与えられた部屋だよね?なんでこんなに堂々と入れるの。いいの?……いいのか。その前に私を下ろしてくださいよ。
「……いつでもいいとは、言ったけどね。朝の六の鐘からそんなに経っていないと思うのだが?――ちょうど半分くらいか」
「急がなくてはグラムディア殿下はどこにおられるか分かりませんから」
「私の行動範囲は実に狭い。……娘までもこちらに連れてきて、魔法院の授業はどうする」
「今日はお休みです」
「え?」
「本人に伝わっていないじゃないか、グレストフ魔法師」
「今日は、お休みにする変わりに私が授業をするのです!」
それって休みじゃないから。ただ単に個人指導に代わっただけだから。
そんな突っ込みは心の中にしまっておきます。だって、グラムディア殿下がそれを突っ込んでくれたから。私は黙って……何をすればいいのでしょうか……とりあえず、壁でも見つめてようか。私は今から無心になる。
「昨日も突然に来て娘の褒美が私の休暇なんです!と騒ぎまくったじゃないか。次はなにがある」
「え、そりゃあ私からでは信憑性がないでしょうから本人からも聞かせてあげようかと」
「……じゅうぶんだ。信じるから止めてくれ。父上にでも相談してくれればいい。私からも言っておこう」
気のせいかな。グラムディア殿下がちょっとうんざりしたように肩の力を抜いた気がします。そしてセレリュナ様が肩を叩いて慰めているような気もする。お父様で迷惑をいっぱいかけたからかな。そんな風にしか見えないや。
お父様は渋々、と言った感じで短い会話を終わらせて退出。これはなんだったんだ、と聞かれればお父様の暴走と答えよう。まだそんなに爆発してはいないけどね。
廊下で待っていたらしいレーバレンス様とともに今度は陛下の元へ。私はそのまま仏の顔で無心になる。挨拶はするけど話しかけないで下さい。お父様は私を下ろす気なんて更々ないようなので私は人形となりましょう。
ここは執務室だね。なんだか近衛騎士が数人も引き積めているから広いはずの部屋が狭く感じちゃうよ。初めてここに入るけどなんか配置がちょっと面白い。仕事机が窓よりだけど真ん中にドンとおいてあるよ!後ろは見えないけど窓のすぐ側じゃないことがよくわかる。だって後ろにも騎士が並んでいるんだもの。
陛下が座っている仕事机から右側の少し離れた場所に宰相様が。せっせと書類にサインか何かをして動いていますよ。反対側は空欄の席。誰かのために置いてあるのだと思います。グラムディア殿下かな?
陛下の机から等間隔に出入り口に並ぶ騎士が両脇に待機していて、お父様はここでも堂々と中に入っていく。だから私を下ろしてくださいよ。ある程度のところまで来たら立ち止まって軽く会話が開始されるけどさ。私を先に下ろさないと軽い刑罰だって。お父様ってどんだけ度胸があるの!?
「……あのな、娘をせめて廊下に待たせておけ」
「嫌です。今日はクフィーの可愛さをみなさんに教えようと思っているので」
お父様の休暇をねだったらこうなるのか……見返りが大きいな…………………………………………あ、コデギス近衛補佐を発見。近衛って兜を被らないんだね。天辺の輝きがよくわかる。
「今度はなんだ。お前の休暇は冬にやると言ったぞ」
「さらに休暇を一日、下さい。水の日か風の日にでも」
「意味がわからん」
あーあ。説明させたらきっとお父様が……
「聞いてください!グラムディア殿下からクフィーが色々と魔法剣に助力を尽くしてくれたからと褒美を与えると言ってくれたのでクフィーに何がいいかと聞けば私の休暇と言ってくれたのです!!つまり、私と一緒にいたいと言うことですから早く休暇がほしくてグラムディア殿下にお聞きすれば陛下に、と言うじゃありませんか!クフィーの願いですから叶えてあげたいのが父親である私の役目!クフィーが願っているのですからなるべく早く叶えてあげたいのは当たり前!クフィーのお願いで私の休暇ですよ!?ならば私は仕事を捨ててでも早急にクフィーの願いを叶えて遊びたいので少し仕事を考慮して水の日と風の日は大丈夫だと思われるだろう日ですからその日にお願いしたいのです!クフィーのおねだりなんて早々にありませんからね!せっかくの休暇なのですからちょっと奮発して色々と買ってあげるつもりです。当然ながら妻のクレラリアとも一緒にお茶から始まり仕立て屋に趣き、宝石店でクフィーに似合う物を見立てて楽しみながら次は最近の噂になっている装飾店でクフィーの可愛さがより引きだ」
「やめろ!!それ以上は語るな!!朝っぱらからぺらぺらと喋り出すなっ!!」
……………………こうなるって、わかっていたよ。
まるで演技でもしているような大振りの表現に熱のこもった語りは男優賞を送ってもいい。と言うか、私が作ってあげるからお父様は黙って!そのまま陛下と口論をしないで!
なんだか父と息子のようにぎゃーぎゃーと騒ぎ始めちゃったよ……そしてそれに私を巻き込まないでほしい。「ほら見てください!」と私をずずいと前に出さないで下さい。今の私は仏になっているので。
でもお構いなしなのがこの二人。不毛な言い合いが始まってしまった。そして私は宰相様に拾われて陛下の後ろ(やっぱり空間があったよ)でお茶。宰相様が自ら入れてくれるらしい。いい香りの紅茶が運ばれてきた。よく私がお父様の手から抜け出せたものだ。
お父様と陛下の――もはやなんの言い合いをしているかさっぱりわからない会話をBGMに宰相様とお話しをすることになった。なんか、誰が一番か決めているみたい。何の一番かは……うん、わからない。とりあえず私はアルティと言う誰かと可愛さ対決をしているらしい。あと王妃様ね。
「本当に、父君の休暇を望んだのですか?」
「はい。私も魔法師を目指していますから……お父様とゆっくりお話しもしたかったので」
「親孝行ですね~……私の娘とは大違いだ」
ありゃ。なんだか傷を掘り返しちゃった?目を伏せないで下さい、宰相様。不可抗力です。ふっ、て笑ってティーカップの中身を見つめだしちゃったよ。もう朝からグタグタなんだけどっ。
とりあえず慰めるために色々と聞いてみた。わからないから宰相様のお仕事はなんですか、て。これってば子どもが聞きそうな質問だよね!だから使ってみた!意味はない!
でもそんな私の質問にもにこりと笑って答えてくれるのが宰相様です!親切な人だよね!そして回答は子ども向けだった。陛下のお手伝い……まあ、知っても知らなくても別にいいので適当に返事を返しちゃうんだけどね。
それより今日はなぜか強制的に魔法院の授業が個人レッスンに変わったことを聞いた方がいいのかもしれない。お父様は――白熱しているねー。陛下の顔はやっぱりキラキラしていてわからないけどね。なんかああ言うキャラっていたよね。パンが主役の奴らの中に。なんだっけ……確か絵本からの登場で全身が銀色ののっぺらぼうで正義のヒーローって言ってたあれ。アニメで出たかな?覚えてないや。
キラキラと光って顔の部品がわからないからそんな感じにしか見えないんだよね。そう言えば今さらだけど、お父様って魔法具を着けていないんだよね。どこも光っていないのですよ。微弱なのかな?でもお父様なら増幅はいらないし……万が一に備えた結界の類いも着けていない。――お父様ってけっこう、無防備?
「そう言えばもう決めたのかな?けっこう大変だと聞いているけど?」
「……?なんの話でしょう?」
「え?あー……父君は言っていないようですね。でしたら私が教えしまったらグレストフ魔法師のやっかみを受ける事になるでしょうから、父君に伺ってください」
「わかり、ました。今日はなぜかお父様の授業を受けることになっているので、今日にでも聞いてみたいと思います」
「今日、ですか。では、そのお話しのためにそうしたのでしょう」
「宰相様はどんなお話しか知っていらっしゃいますよね?どのようなお話しですか?」
「私の口からでは何も言えませんよ」
「少しだけでもですか?」
「――少しだけですよ?不安にさせたくはないのですが――あまりいい話ではない、とお伝えしておきましょう」
んー?不安にさせたくない話。えー、なんだろう。今の私にとって不安になるようなお話しって『帝王』とかかな?今、会いたくない人ランキングで堂々と1位を陣取っているからね。
でもお父様だって私に近づけないようにしているし、『帝王』ぐらいで深刻な話は違うよね。授業を潰すほどの話。なんだろう?てか昨日の内に言ってくれればよかったのに……
「あー!!ベルック宰相殿っ!なぜ私のクフィーと和やかにお茶をしているのですかっ!こっちはクフィーから始まってトールやリディとそしてクレラリアの愛しさを伝えるのに必死だと言うのに!!」
「いつもながら言い合いを始めたら範囲が広がりますね。家族限定ですが」
「当たり前だろう」
それを当たり前だと言い切るお父様がもう素晴らしいよ。胸を張ってそんなことを言われたら納得しちゃいそう……あ、もしかして陛下はお疲れですか?心なしか顔の位置が下に下がっているような気がしますよ。ついでに頭を抱えていらっしゃいますね。
どうやら、明日と明後日の休日をもぎ取ったらしいです。あの言い争いの中にどうやってそんな結論を弾き出せるのか謎だよ。すっごい笑顔のお父様がもう清々しすぎて輝いていますね。
そんなわけだから~とスキップする勢いで私を抱え直して出ていくんだけど……いいの?振り返ってみるけど――陛下の顔がわからないので何も言えません。とりあえず陛下、頑張れ!
「廊下にまで聞こえたぞ」
「本当か?照れるな~」
「だったら恥じて身悶えて隅で縮こまって静かにしていろ」
「それ、明らかに変な奴の出来上がりだぞ。私はそんなことはしない。胸を張って自慢する!!」
「誰だ。こいつの自制を剥ぎ取った奴っ」
「私かな」
「脱皮なんかするな。気色悪い」
「大丈夫だ。人間は脱皮をしない」
なんだ、この会話。とりあえずレーバレンス様がお怒りなのがよくわかります。もう口調が総崩れで口が悪い。イライラしているようで腕を組んでいる指がトントンと動いている。ちょっと高速で。
それでも影渡りで運んでくれるのだから優しいよね。まあ、お父様を置き去りにできないって口にしているんだけど。かなり投げ捨てる台詞で。ご機嫌が斜めのようだ。
そして魔法を使ったら速攻で追い出されると言うね!それだけでレーバレンス様の個人部屋だと言うことがわかります。ぺぺいと追い出したらバタン!と閉め出されたよ……鍵が付いているのか、ガチャって言う音がやけに大きく聞こえた。
お父様を見上げれば苦笑いですよっ。
「じゃあ、お父様の部屋に行こう」
「はい」
部屋ねー。今日はいったい何が待ち構えて……待ち受けているのかな?




