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内緒

ちょっと修正しました。

生身はそんなに変わっていないはず。

修正いたしました。28.12.17

 ふらふら~と屋敷の中でさえ出歩くときもポメアが一緒。別に苦ではない。ポメアは可愛いし。器量のいい子である。


 最近は「お側にいます!」と宣言されていたにも関わらず、お父様によって近くにいなかったから変な感じなんだよね。


 ポメアってば私の侍女なのに魔法院とかにも着いてくるから余計に変な感覚が……ジジルとエリーにもまたお預けだし。それもこれも試験のせいなんだけどね。


 冬に魔法棟でそれぞれの試験があるから、そのための準備にお休みがあるだなんて誰が思うんだか。みんな知っていそうだけど。私は知りませんから!


 しかも、わざわざ準備期間を作ってでしょ?2日とか言っていたけどポメアは一週間って言ってたよ、トールお兄様。それを聞いてどれだけ大掛かりな試験なんだよー、て思うわけでして……嘆いてもしかたがない、か。


 でも今になって準備期間を作らなくてもいいと思う。そういうのは前々から考えておいて、当日に~て言うのがセオリーでしょうよ!――まさか、これは生徒側である試験を受ける側の心構えでもしておけ、的な期間だったりして……いくらなんでも考えすぎだよね。


 騎士は遠征をすることが試験だと言うし……その場合はデュグランはどうなるのかな。ダリスさんとお仕事?まあいいや。


 デュグラン・トルン・ケーリィム。男爵家の四男坊。女はお母さんただ一人でほとんど男が生まれる確率が高い家系。資料的なものを読むとそこそこのなんでも出来る器用貧乏な感じかな。


 騎士も文官的な役所も魔法も強く突飛することがあまりない。けど、それなりに色々な場面に対応ができるから穴埋めはケーリィム家がいると便利、と言う感覚。それほど大きな活躍はしていないね。


 そんな男爵家の四男がここにたどり着いたわけは?お父様に聞かなくてはわからないでしょうね。あちらから奉公にお願いしますと言われて受け取ったか……必要と思って引き抜いたか。うーん……読めないなあ。親戚らしいんだけど。


 お父様の兄弟でその息子の四男くんが来ているんだけど……えーと、いとこ違い?でいいのかな?トールお兄様と5つ下。見習いにしては早いよね。やっぱり奉公かな。この資料、いい仕事をしてくれる。


「誰だ?」


 おう。お父様の書斎からトールお兄様の声が!?なんで?勉強は自室じゃないの?――と、言うことはダリスさんとデュグランもいるんだね?


「クロムフィーアです。書斎の本を返しに参りました」


「……入れ」


 なんだか変な感じ。すごい違和感。近からず遠からずでお父様と交代するんだからこれは当然か……後8年後に私は出ていかなきゃならないのかな?トールお兄様にお嫁さんが来たら私の居場所ってないよね?だからリディお姉様は殿方探しなのかな?あれ?私も焦った方がいい?


 そんな事を思いつつもポメアが開けてしまったので私は堂々と中に入る。本棚は入って左にずらり。書類等の保管の棚は逆の右の棚にずらり。窓に大きな机と椅子。そこにトールお兄様が座って右隣にダリスさん。その後ろに控えているのがデュグランだね。


「まさかと思うが『貴族名簿』を持っていないよな?」


「『貴族名簿』ですか?………………違う名前の物なら今、返しに来ました」


「――はあ……………………………………………………どうりで……」


「まさかクロムフィーアお嬢様が持っていたとは……これは旦那様に言っておかなければ」


 あー……なんか、私ってばやっちゃいけない事をやっちゃったの……かな?『貴族名簿』とか名前だけで物騒だよね。それに近い『貴族明記』を私は持ち出したんだけど……なんか見た覚えがなかったし。ここにあるのならいいかな、なんて思ってたんだけど?


 これをトールお兄様は必要としていたのかな?いやー、さっきのデュグランとかもこれで知ったんだよねー。明記ってだけあって色々と細かく書いてあってさ、面白いんだよ!親戚の事情ってこうもわかるんだね!お母様のはまったく出てこないが!


「ポメア、お前は外に控えろ」


「かしこまりました」


 ……調子に乗ってしまったっぽいですね!もしかしてお叱りのためにポメアは除外ですか!?内緒話はよそでやってほしいな!でも先に本は置いておこうか!もしものためだよ。


 そっとダリスさんに預けさせて――背後でパタンと小さな音が響くのですよ。ははは。逃げられませんっ。目の前にトールお兄様、ポメアから2冊の本を受け取って一つをぱらぱらーと捲って確認のダリスさん。それをトールお兄様へ。顔色を楽しそうに浮かべるデュグランがちょっと憎いです。


 とりあえず遠いから近くによりなさい、と言われたので近くに。近すぎると、きっとトールお兄様が使っている大きな机で見えなくなるから適当な距離を保つ。怖いからじゃないよ!?適切な距離です。でもため息が聞こえたら「どうしよう」って考えるよね……


「言いたいことは色々ありすぎて何を言えばいいんだか……クフィー、とりあえずそんなに固くなるな。私の質問に答えるだけでいい」


「……わかりました」


「場合によっては怒るからな?」


 なに、その宣言。逆に怖いんだけどっ。


「書斎への入室許可、及び本の閲覧、持ち出しの許可は得ているのか?」


「はい。――2年ほど前からです」


「そんな前からか?父上……なんでそんなに大っぴらに見せているんですかっ」


「旦那様から見て知られても良いと判断したと愚考します。決して愛しの娘のためではないと思いたいです」


 ごめん。そんなノリで解放してくれたよ。私情が全快でした。


「ああ、そうか。だから前にあんな言葉が出たのか。確か下の方に魔法関係が並んでいた気がする」


「それよりクロムフィーアお嬢様、この本まで手にとって何をなさるおつもりで?」


「何、とは?私からすれば読書の暇潰しだったのですが……?」


「デュグランの事を知ったのか?」


「親戚でしたね。お父様のご実家となっておりました」


「ああ、もう……クフィー、せっかく隠しているんだから暴くな」


「と言われましても……本棚になぜ『貴族明記』が並んでいたのかが謎ですが。あ、さすがに日記のような気がした本は冒頭3文字で止めて一度も読んでおりません」


「父上っ」


「旦那様っ――あれほど保管するようにと言っておいたのに……」


 トールお兄様が頭を抱えて机に項垂れました。ダリスさんは額を押さえて天を仰いじゃったよ。お父様の大雑把っぷりに2人して嘆いちゃった。デュグランなんか哀れんだ顔になっているね。


 これは私が悪いわけじゃないと思うんだ。許可はちゃんともらっていたし、外に出さないのなら持ち運びもいいって言ってたし。『貴族明記』はたぶんヴィグマンお爺ちゃんに借りた上流貴族の情報を先に読んじゃっていたから家の物も気にせず読んでいたんだよね……


 今さらながら思うと欠陥であってもアーガスト家に留まる事はない女が色々な貴族の内政を知っちゃってどうするよ、て話。とある貴族の情報がほしいけど入らない。けど私は大まかに知ってしまいました。さて、私の利用価値は十分にあるんではないでしょうか。まあ、私が正直に話す話さないは別として、かなり利用価値はあるよね。まだ私は7歳だし。拐いたい放題。虐待し放題。わあ……


 この事が知れたらどうなるでしょうか?微々たる物だと笑う?必死になって囲う?上下で別れそうだね。



「今一度、クフィーの教育方針を見直した方が良さそうだな。母上に聞いておかねば――」


「旦那様はどうなさいますか?」


「母上から言ってもらう。私では制御できない。だからクフィー、分かっていると思うが誰にも喋るなよ?」


「小娘に耳を傾ける輩はおりませんよ。そう言えばトールお兄様はなぜこれを?」


「貴族社会の引き継ぎとか色々だ。……クフィー、もしかしてここにある本をすべて読破してしまったりは――」


「だいたいはしているかと。中身もまあまあ覚えている程度です」


「……………………………………………………資金帳簿がどこにあるか知らないか?」


「本の後ろですね。下から2段目の、真ん中あたりです」


 目配らせでダリスさんを動かすトールお兄様。格好いい。いつ当主が代わってもおかしくないね!そして私はどうなることやら。色々と秘密を知っちゃった、てへ!――なんて言えないよねぇ。少しは警戒しようよ、私。


 で、ダリスさんは私が言った2段目の真ん中あたりの本を丁寧に退かせて漁る。そして出てくるグレーの本。グレーの本って何色なんだろうね。木は光を浴びても本棚の奥って暗いからほとんど黒っぽいんだよね。だからグレーの本が分かったんだけど。


 中身は見たか?ですって?見ましたよ。でも金貨1枚とか大銀貨が何枚とかしか書いていなくて貨幣にどれだけの単価がついているのかまだその時はわからなかったから詳しくは見ていないんだよね。数枚を捲ってすぐに閉じました。


 それに……金銭面は怖いじゃないですか。リディお姉様にけっこうな額をつぎ込んでいるような気がするし、廊下に飾ってある絵画とかも値打ちものでしょう?どんな数字が飛び交うか想像したらなんか恐ろしいよ。迂闊に見ちゃいけない、てね。


 と言えば何となく安堵したようなため息をつかれた。そしてよかった、とも。帳簿までも見られてしまったらアーガスト家の事情を私は網羅しちゃうもんね。危ない危ない。


「口外するなよ?それとここの本は諦めてくれ。もう貸し出しは駄目だ。このままじゃクフィーを外に出すに出せなくなる。秘密は知りすぎてはいけないぞ」


「まず貰い手がいるといいですねー」


「他人事だな……魔力が高いと知られているからデュグランがこちらに来たと言うのに」


「デュグランが?どう言うことですか?」


「本当はお前の従者だ。昨日、話しただろう?」


 えー……つまり、唾をつけるために寄越したの?うわ。やり方が汚い。


「トフトグル様、せめて言い方をもう少し変えていただけませんか?それに私はそのような申し出で来たわけではありません」


「悪いが、ケーリィム男爵家とアーガスト伯爵家は縁の結ばれが緩いようでな。部外者には厳しくさせてもらう」


 やっぱりトールお兄様が格好いい。身内贔屓でも格好いい!これならお父様が引退してもアーガスト家は安泰だと思う!


「大丈夫ですよ、トールお兄様。ケーリィム男爵家が私との縁談で従者を送っても婚約すら出来ませんよ」


「……そうなのですか?どうしてでしょうか?一応、アーガスト伯爵家とは親戚ですから縁は結べるはずですよ?」


「親戚と言うだけですから。私が伯爵令嬢でケーリィム家は男爵。中級と下級との差もありますし、まずお父様がそれをお許しにならないでしょう。ケーリィム男爵家がすごい功績を掲げたとしても、我がアーガスト家は政略結婚を否定しています。お父様の権限は中々に強いので下級貴族が何を言おうと私が否定すれば成立しません。だから、成り立つことはないでしょう。私を取り込めても私は欠陥を持つ令嬢。見栄を取って代償を支払うか、平穏を取って今までと変わらずにいるか……男爵では無理ですよ。何も知らないのですから」


「そうだろうな……それに、ケーリィム男爵家とアーガスト伯爵家は……十年くらいか?もう疎遠になっているので縁の復興もほどほどだろう」


「では……私はなぜ、追い返されずトフトグル様の従者に納まったのでしょうか……?」


「こればかりは私でも分からないな」


「ダリスが知っているでしょう?」


 黙ったまま見つめちゃってー。本当なら、ダリスさんはお父様の執事。お父様の回りに男がいないから従者も担っていると思うんだ。それはさておき、お父様のことだからぶつぶつと文句でも言ってダリスさんに手配でもさせていると思うんだよね。


 お父様のお父様がどうしても、なんて言ったらとりあえず――が妥当かな。デュグランは若いし。ダリスさんは能力を見ながら監視とか。てかトールお兄様の従者を考えていてちょうどよかったから頷いたか……いやいや、もしかしたらトールお兄様が気づけるかの試練?深みにはまるとわからなくなるね。


「黙秘します」


 じぃー……………………………………………………………………


「……クロムフィーアお嬢様、私の主は旦那様ですので」


 じぃー……………………………………………………………………


 はい、トールお兄様も。


 じぃー……………………………………………………………………


「――っ、旦那様から……お聞きください」


「「よし、聞いてみよう」」


 あら。トールお兄様、同じことを?そう思ったのはトールお兄様もでした!お互いに顔を見合わせてにやりと笑ってみる。ダリスさんが深そうなため息をついたような気がするけど気にしないよ。


 たぶん、私たちのお願いなら喋ってくれるような気がするんだ~。今は夜中に帰ってくるから……さて、いつお話ししようかな?どうしようと考えていたらトールお兄様がさらににっこり。


「私が聞いておこう。クフィーはいつか、だ」


 いつか、が強調されました。5日ってボケたらさすがに呆れられるかな。


「……つまりトールお兄様、深入りするなと言うことですね?」


「クフィーは賢くて助かる」


「アーガスト家の秘密をさらに知るいい機会だと思いましたのに……」


「私としてはこれ以上を知りすぎないでほしいんだが?」


 まったく、なんて語尾に付きそうな勢いで頬杖をつかれました。いやー。知るのって楽しいんだよ?興味がなかったりするとド忘れしちゃうけど。


 まあ、しかたない。どう転んでも私の結婚は成り立たないから別に放っておいてもいいか。こう言うのは忘れた頃に聞けばぽろんと出てくるもんなんだよね!私も忘れていたらどうでもよかった、て事だし。


 暇になっちゃったから今日のところは帰りますか。大人しく手芸か音楽でもやりますかね。お辞儀をして退出して、うん……どーしよーかなー。暇をもて余すとは――貴族の娘のあり方の本でも出回ってないかな?




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