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兄妹の一時

修正いたしました。28.12.17

「最近、 寒さが厳しくなってきましたわね」


「そうだな。そんな中で私は遠征だ」


「トールお兄様が遠征となると淋しくなります」


「騎士見習いですもの。行かなくては学べませんわ」


「まあそうだが……リディ、私がいなくても母上からしっかり学ぶんだぞ?」


「寒いからと最近はお部屋から出ていないとお聞きしました。リディお姉様、大丈夫ですか?」


「これくらいの寒さなら問題ありませんわ!トール兄様もクフィーもお父様に似て心配性ですね。見ておいてくださいまし!トール兄様が帰ったときには立派な淑女として来年の成人の儀には噂の的になって差し上げますわ!」


「季節半だけの遠征なんだがな」


 季節半って言うと一季節が四ヶ月だからだいたい2ヶ月――だったよね……そんな中でリディお姉様が立派な淑女になって、約1年後に噂の的か――その噂はいい噂の的であってほしい。


 ふんぬー!と扇で顔の半分を隠しているけど、勢い的には鼻息を荒くして憤っている感じだよ、リディお姉様。


 今日は……今日も、寒いから屋敷の2階に設置してあるガラス張りのテラスにて、兄妹3人が仲良くお茶会です。私が真ん中。5人が座っても大丈夫な広さのあるソファーがデン!と。床から少し高めのソファーで2階か見える庭の景色は最高だよ。さすがボテガイラ。こんな所があるなんて知らなかった。もう少し散策をしておけばよかったかな。


 本当はお母様も参加する予定だったけど、生憎とお母様の方に急遽ユリユア様の方からお呼びだしを貰ったのでそっちに行ってしまいました。


 なんでもユリユア様の憂さ晴らし第2弾がお母様とお茶らしい。本当はここに甥と姪も招待してユリユア様の鬱憤を排除したいそうなんだけど――いるからね、『帝王』が。ユリユア様いわく、『下品』が。


 なんでもユリユア様の前ではやたらと積極的に絡んできてうざいらしい。そして誘い文句とかが私には聞かせられない言葉でとにかく貴族であるユリユア様から見て『下品』としか名前が付けられないらしい。あいつは『下品』と呼ぶんだよ、て言われたときはさすがに私とトールお兄様はどう反応すればいいのかわからなかったよ。リディお姉様は即決で「わかりましたわ!」て言っていたね。ユリユア様に従順する勢いで。


 そんな『帝王(げひん)』がいるところに可愛い可愛い私たち(ユリユア様談)と顔合わせはさせられない、とのことでお母様だけが召喚されて今あっちに行っているんだよね。


 お母様はお父様の奥さまですから。『帝王』も手を出さないし迂闊なことをしてお父様が暴れることを理解しているから変な事をされない。そういう目論見でユリユア様は呼んだらしいよ。


 思うに、お母様に敵うものはいないと私は見るね。お父様との馴れ初めとか話し出したら止まらないって、トールお兄様が言っていたよ。まだお母様の膝の上にいた時だからかなり小さい頃に聞いてしまったんだって。途中で寝ちゃったらしいけど。


 それを聞いたときに写真がないのが悔やまれたよ!トールお兄様の小さい頃とか普通に見たい!トールお兄様は嫌かもしれないけど、トールお兄様ってばお父様の若い頃とあんまり変わんないんだって!それを聞いて写真とかビデオがないことが悔やまれる……くっ。


 ………………まあ、そんなわけでいくら『帝王(げひん)』が相手でもお母様は手を出されないし、夫婦愛を語らせたらお父様とユリユア様ぐらいしか付き合えないから『帝王(げひん)』も追い払えて憂さ晴らしになると言うことさ!


 本当にそうなりそうだよね。もしそうなったら逃げ出すおっさんを見てみたいかも。きっと滑稽に違いない。


 と言うわけで、兄妹3人でお茶会。後ろにはもちろん私たちの侍女であるポメアとワーナとマティス。それにトールお兄様に新しく着いた従者のデュグランが控えている。


 デュグランは短くカットした短髪で私から見て色は黒っぽい。黒よりの髪は濃いってことだから予想としては茄子みたいな紫紺で言えばいいかな。濃い紺色に覗く紫。光の加減で艶ができるから茄子っぽい。目はトールお兄様に近い感じがするから南瓜かな。濃い緑の瞳。うん。朝食は無事に済ませたよ?いっぱい食べたんだけどなー。


 成人の儀を迎えた男性には従者が付くんだって。クリミアみたいに女の人にも着くことがあるけど、男性は成人の儀を行ってからなんだって。一人前の男になったわけだから、女性が近くにいるとあらぬ誤解を生むかららしい。


 じゃあクリミアももう少し大人になったら誤解がでるのでは?と問い返せば、幼い幼女に従者を着ける事はそれだけ将来がほとんど決まっている令嬢なんだとか。だから、その従者は相手が用意した従者であることが多いんだって。


 でもクリミアは出会ったって言ってたけど……まあ、そこはそこの家庭事情なので細かくは考えないようにと言われたら考えないとこうっと。余計にごちゃごちゃしちゃうからね。


「遠征と言えば初めてですよね?トールお兄様は5年も騎士棟にいたのに、なぜ今なのですか?」


「魔法院も進級があるように、騎士にも進級があるんだ。教官が認めないとその遠征に参加が出来ないので選ばれるのはまちまちになる。因みに呼ばれない者はただひたすら教官にしごかれるぞ」


「ウォガー大隊長のしごきは辛そうです……ユリユア様も混じって」


「ですが、最近は『帝王』と名乗る野蛮な年配の殿方をお預かりしたと聞いていますわ。ユリユア様もそちらに付きっきりで騎士棟へは出向いていないと聞いておりますわよ?」


「ぷっ………~~っ!」


「年配……出向いていないから余計に酷くなったんだがな……」


「まあ。よほど気合いが入りましたのね。――クフィーは何を笑っていますの?」


 いっ、いいえ!気にしないでいただけると嬉しいな!『帝王(げひん)』がリディお姉様の中で野蛮な年配の殿方とかもうね!年配と言えば最低ラインは50を過ぎた中年だと思う。それ以上になるとおっさんを通り越してお年寄りにしか聞こえない!!


 でも我慢ができそうになかったからどんな年配の殿方なのかを聞けば、剣を振り回す野蛮でユリユア様に迫るご老人(・・・)!ぶはっ!我慢ができないや!!


 トールお兄様も老けたご老人の『帝王(げひん)』を想像していたんだろうね。リディお姉様の聞いた情報はご老人だから思わずって言う感じに吹き出していたよ。私も吹き出したけどね!


 一人取り残されたリディお姉様がすねるけど、こればかりはっ。もう『帝王(げひん)』がおっさんからご老人になったことが面白すぎてお腹がっ。ゲラゲラと笑わないようになんとか声は押し殺すけど、笑えるものは笑えるんです!肩が言うことを聞かないっ。


 トールお兄様と一緒に一頻り笑えばリディお姉様が拗ねてしまったけど、正すつもりはまったくない。むしろこれをユリユア様に伝えたい!ちょっとこのお茶会が終わったら手紙を書いて速攻で教えてあげよう。まだお昼じゃないから早馬か何かで飛ばしたら今日中に読めると思う。誰かな、リディお姉様にこんな説明をしたのっ。お腹が笑いすぎて痛い。あ、顔がまだにやけているかも……


「なんですの。わたくしに内緒で笑うだなんて、私が笑い者ではありませんか」


「すみません、リディお姉様。――ちょっとユリユア様に迫るご老人を想像しただけです」


「そうだなっ……ははは!まったく――父上だろうか?母上だろうか?それともユリユア様か?面白いな。徹底しているような気がする」


「まあ!二人とも、絶対に知っていますわね!?抜けものだなんて嫌ですわ!」


 ああ、リディお姉様がぷりぷりしてきちゃった。そんな時はこれです。


 私の膝の上で頬袋に激甘クッキーをぱんぱんに詰め込んだノルアを見せてあげる。するとリディお姉様は葛藤するのだ。リディお姉様は可愛いものが好きである。綺麗なものも、好きである。しかし、リディお姉様の性格では表立った表現は出来ないみたい。


 可愛いものは触りたい。触ると嬉しくて破顔してしまう。しかし、優雅に見せるには顔を引き締めなくてはならない……普通にリディお姉様の笑う顔は綺麗なんだけどね。うっとりとして笑う顔のどこが駄目なのか、私にはわかりません。こっそりノルアを抱えてうっとりしているのに……


 でもリディお姉様はそう言う笑顔は武器ですから普段は見せませんのよ!とかなんとか。笑顔が武器なんだって。リディお姉様、どこの戦場へ行くの?あ、お見合い?隠し武器で男を落とすとか考えているんだね……リディお姉様ってどんなタイプが好きなんだろうか。


 そんな葛藤の末――扇で半分を隠して触るらしい。眉間をくりくりっとね。気持ちいいのか、口をちっちゃい手で抑えながら嬉しそうに目を細めて……はい、リディお姉様が落ちましたー。


「そう言えばノルアはトール兄様の頭上が好きですわよね。立っている時だけですが」


「背が高いからではありませんか?私もアビグーア中隊長様の肩に乗っている時の景色は楽しいですよ」


「クフィーは自重をしような」


「あの強面の肩に乗っていますの!?クフィーにはずっと驚かされてばかりですわ……」


「足元にいたら蹴り飛ばしそうと言われたので……でも私も成長しますから、今だけですよ」


「まあ、今だけだろう。今後などどうなるのかわからないからな……護衛は続けるような気がするが」


「そこはお父様に聞いてみないと、ですね」


「そうね。父様に聞いてみるしかないでしょうね」



 でも残念ながらそのお父様が捕まらないんだよねー。無の日に伝えたいことがあるから伝えなきゃ!と思って右側の人と別れたらすぐにお父様に逢いにいったのにさ。ヴィグマンお爺ちゃんが連行している所だったんだよね。


 そんな所を目撃してしまったら……言えないよね?私の名前を呼んで理由を必死に作ろうとしているからなおさら。ヴィグマンお爺ちゃんのキラリと光る場所が天辺だけじゃなくて目まで鋭く光っちゃうからね。お父様を持ち上げて見送るしかなかったとさ……


 仕方ないからポメアに目についてお話しがしたい、て伝言を頼んで火の日なのに2日も会っていないと言う驚き。こんな事は初めてで空を何度も見上げちゃったよ。夜には帰ってきているんだって。そして早朝に出ていくんだって。寝に帰っているような感じ。


 なんでこんなにお父様が忙しいのだろうか?どうしてかな、困ったときのトールお兄様。


「知らなかったのか?冬は魔法棟の試験期間でもあり、冬の季節を長く使って試験を行うんだよ。騎士の遠征もいわば試験だ」


「因みに冬の終わりには大会もございますのよ。成人していなければ参加ができませんが、見る分なら誰でも行けますわ」


「そうなのですか?でも、お父様の仕事が立て込んでいるなんて珍しいですね。何かあったのでしょうか?」


 絶対に暴れていそうなんだよね。よく仕事に打ち込めるものだと思う。


「クフィーは帝国の話を知っているか?視察団が来ているからこちらも視察団を派遣したんだ。人数は限りがあるから少人数で帝国へ行ったらしいが、どうも帝国は深刻らしい。だから早めに現状を打破させるべく、父上は身を粉にして仕事をしているのだとか。それにこちらの視察団も早く送り返したいからと短期間で終わらせようとしているらしい」


「そのような事を言っていましたの?父様にしてはずいぶんと性急ですわね」


「こちらにいる視察団をなんとしてでも早く、追い出したいそうだ。特に『帝王』を早く追い出したいらしい」


「お父様はやれば凄い、とは思うのですけど……すごい私情が挟まれていて納得がいきました」


「因みに終わったら夏の季節と同じように長期休暇をもぎ取るらしい。リディ、クフィー。とりあえず今はそっとしておくように。母上に任せるんだ」


 つまり、余計な荒波を立ててお父様の制御を乱すな、と言うことですね?ここで私たちが何か言い出したら仕事を放って行きそうだもんね。私はリディお姉様と顔を見合わせてしっかりと頷いておいたよ!


「欲しいもがありましたが、我慢いたしますわ」


「……リディはまだ欲しいものがあるのか?」


「まあトール兄様。女は常に磨いていなければ美しくいられませんのよ!」


「私はその辺がわからないので熱弁しないでくれ。クフィー、頼んだ」


「え」


「クフィーはわかりますでしょう?同じ女ですもの。美しくあるために手に入れるものであればお願いは必須ですわ」


 あ、いや……私もどちらかと言うとトールお兄様よりなんだけど……ほ、ほら、まだ私は7歳だからね!美に疎くてもいいと思うんだ!


 だからわざとノルアの毛を美しく?するためにブラシが必要だと言う。隣のトールお兄様がさりげなーくため息をついてお茶を飲んでいるが、気にしないでおこう。美なんてリディお姉様と語ると大変なことになるのは間違えようがない!話している内に買うものが決まってしまうので無理矢理にでも話題を変えなくてはならないのだよ!!


 話題に出たノルアは食べ終わったらしい。顔をくしくししていたけど呼ばれたので反応したのか、円らな瞳でこちらを見ている。よし、そのままリディお姉様の思考を奪って差し上げなさい。


 お茶が飲みたいからリディお姉様に持ってもらう、と言う名目でパス!私はもう少し前に出ないと手が届かないのですよ。だからノルアなんか抱えていたら下へストーン!だよ。さすがに抱っこしながらは持てません。


 脇に置けばいい?いえいえ。リディお姉様の話題を変えるのが目的なのでこれでいいのです。ほら、リディお姉様が服が汚れるとか、クフィーが言うならとか、仕方がありませんわ!とかなんとか言ってノルアを抱っこしていて意識はもうノルアに首ったけ。眉間を撫でたりそのまま顎の下を撫でたりね。よしよし。


「……ノルアは変わっているよな」


「一般のリッスンを知りませんので。私にはなんとも言えません」


「とりあえず普通と逸脱していると思ってもいいだろう。ポメアに聞いてみるといい」


 ちらりとポメアを見てみると……慌てているよ!さすがに動物まではわからないみたいじゃんか!あ、しっかりもののマティスさんに軽く怒られた。デュグランは知っているらしい。後でポメアに教えるそうな。


「明日もお休みでしたよね……トールお兄様はどうなさるんですか?」


「父上抜きの休日か……今日はのんびりクフィーとリディに付き合って明日はいつも通りダリスと勉強だな」


「リディお姉様は?」


「わたくしは決まっています。お母様と一緒に殿方選びですわ」


「……見つかると、いいですね」


「クフィーはまだ早いですわね。わたくし、お母様のように素敵な恋をして見せますわ!」


「頼むから貢げと迫るなよ?」


「なんですの。わたくしはそこまで、がめつくありませんわ!」


 いや、昔はそうで今もその面影がちらほらと……とは言わない。言葉を放つ前にお茶を口に含んでしまったのだ。言葉は放てません。それをトールお兄様と一緒にやったものだから静まり返ってしまったんだけどね。


 うん。アーガスト家が静かだ……今日の午後はどうしようかな。




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