医者を一時的に取り込みました
ご指摘を含む修正をいたしました。28.12.17
ふん!と嫌みでなく鼻を鳴らして意気込む右側の人。どうやら医師として見過ごせないらしい。それを聞いたヴィグマンお爺ちゃんの声色はずいぶんと弾んでいるように聞こえた。
「そうかそうか!お主の決意、しかと受け取るぞ。騎士の分はこっちの契約書じゃ」
そうと決まれば、と言うようにさくさくと進むヴィグマンお爺ちゃん。お爺ちゃんのわりには手際が早いように見える。てか、ユリユア様が手伝っているんだけどね。
それぞれ羽ペンを数本ほど用意して順番に。ちゃんと来ている人数分をぴったりに変なことが起きるわけでもなく責任者としてヴィグマンお爺ちゃんが最後に名前を書いて契約書は所々にキラキラしていた魔力を強く輝かせてサインした人たちに降りかかる。
ただ降り注いぐだけなのでなんの変哲もなくいつも通り。ただ契約書が書く前より輝いて契約実行中!と示しているのがよくわかった。
「これが二国の架け橋となることを祈る」
「ユリユア殿、そんなに重々しく言わないでくれ。重みに耐えられなくなってしまう」
「その時はその時……言い忘れていたが、話を聞いて抜け出せるからな?新たな契約を結ばねばならぬが」
「は!?――いや、いい。それだけこの子の病は難病だと言うことだな?」
「さっきからそう言っておろうに」
「あの、喧嘩は止めてくださいね?」
なぜか睨み合っちゃったんだけどさ、その……剣呑な空気で説明するのもどうかと思うわけだから、できるだけお互いに友好的にですね?……ノルアでも連れて来ればよかったかな?
ユリユア様もいるし護衛騎士もいるからトールお兄様に預けてきたんだけど……ポメアも嘆いていたんだよね。さすがに集まるメンバーに侍女の座る場所がないと言うか……同じ感覚で一緒にいられないと言うか。
出るときもすごかったなー。トールお兄様ってば慣れたのかノルアを頭に乗せたままポメアの首根っこを引っ付かんで止めていたし。そう言えばお父様の時もそんな光景を見た気がする……
それは置いておいて、牽制のためにノルアを抱えていれば普通にちょっとは躊躇うと思うんだよね。頬袋を膨らませた可愛いノルアが前に立てば嫌でも見ちゃうし。
まあ、手元にないものをねだっても仕方がない。とりあえず仲介してみたら意外と素直に2人ともいがみ合いを止めてくれたので……ヴィグマンお爺ちゃんに説明を丸投げした。
「まず、娘っ子は三つの病に侵されておる。一つ目は色が見えぬこと。二つ目は魔塊があること、三つ目は……世にも珍しく、魔虚像混合を患っておること」
「なに!?魔虚像混合だと!?よ、よく生きているな……」
「そこは抑制魔法具で凌いでおる。して、じゃ……ここから厄介なのじゃが、眼で見て色がわからないと聞くがわしの“ 感じる ”異能からその目に魔塊がおってな、その魔塊が面白いことに片方に属性が一つ――つまりは両目で二つの属性の魔塊が存在する。それも、抑えこんだ属性じゃ」
「属性が複数あるのだろう?なぜ一つの魔塊に一つの属性で別れるんだ?普通は混じるぞ。彼女の属性は?」
「【火】【風】主体は【水】じゃ。わしにもわからんが、わしが見る限り混ざっておらぬようじゃな」
「混ざっていない?それは……あり得ない。純粋な魔塊は一つの属性を持つ者しかできないんだ。同じ体内で均衡を保つ属性はそれぞれ平等に動く。一つが躓けばもう一つが躓き、魔塊は混ざる」
あれ。私って精霊に別けてもらっちゃった、て言ったっけ?いや、言っていないような……そして精霊に何か重要な事を言われたような……………………思い出せない。
でも3人……人?精霊はどうやって数えるんだろう。それはいいか。とにかく、あの3人を信じるのも躊躇うんだよね。中の精霊を助けるために私と接触したんであって、アトラナの体は見捨てる気だったみたいだし。
どうしたものかね。またお父様と相談しなきゃ。これで眼が治るんだったら、相談はしなくてもいいんだけどね。
「しかし、この老いぼれでも医学、魔学に関しての衰えはしておらぬ。こんな場所で嘘は言わんぞ」
「言われたら困る。……つまり薬で何かするのは無理なわけだ。だから私なのだな?その魔塊を取り除くためにこんな事までしたと言うわけだ」
「お主も医者として誇りはあるのじゃろう?それこそ救うことが何よりの褒美じゃ」
「ああ。救ってこそ、私の至福となる。最高の褒美だ」
いつの間にかちょっと熱血漢が溢れてきたのはなぜだろうか。男の会話はわからぬ!
しかもお互いに握手なんかして意気投合した模様。その様子をユリユア様とちょっと冷めた目で見るのが私たちです。こそこそと「暑くらしい」や「男の友情は単純」とぼやいてみたり。
お茶が無くなったのでユリユア様と一緒に淹れてみたりね。なんだか私がやるとユリユア様はハラハラした様子で見ているけど、ちゃんと出来ますから。ただ茶器が大きいだけでやりづらいだけですから。
そんな中で護衛騎士様たちからなぜか頭になでなで攻撃が!?それぞれ「大変だったな」とか。「可哀想だが負けるな」とか。鼻をすする音まで聞こえる。特にこの鼻をすすっている人は私と1個上の女の子がいて、やんちゃなんだって。元気を別けてあげたいと言われても貰えないので曖昧に返しておいたけどさ。
右側の人とヴィグマンお爺ちゃんとの間に友情と思わしきものが生まれたところで……右側の人はここで改めて、私の治療を受け持つことを決意してくれた。なんだかおもちゃを見つけた眼差しが突き刺さるのは私の思い違いにしておこう。興奮しながらいうから胡散臭く思えるのも黙っておこう。
「それでだ。まずは状態を見たい。しかし私のやり方は侵されている部分を解剖してから治療に取りかかるんだ。どうせグレストフに話を通さなければ何も出来ないのだろう?もう少し問診をしたいのたがいいだろうか?」
「構わんじゃろ。娘っ子、よかったのう……これで魔塊を取り除き、目を治せば色が分かるぞい」
「ヴィグマン殿。まだ分かりませんから適当な事を言って期待を大きくしないでくれるか。ないと思うが、仮にクフィーの眼が治らなかったら……どうなるか」
「ソ、ソマディオ様!よろしくお願いします!」
「お、おう」
ユリユア様が怖い雰囲気を出してきたので、ここは私が空気をぶったぎらねば!!やだよっ!空気が淀んだ場所でお話しなんて!
ちょっとあからさま過ぎたけどまあ私がおかしいのはいつもの事だ。言っていてかなり虚しいけどさっ。てかユリユア様ったらなんでそんな脅すような事を言っちゃうの!?おかげで思い出したけど!
そうだよ――ヴィグマンお爺ちゃんのおかげでもあるけど、精霊が言っていたじゃない。『魔塊を取ったら死ぬ』て。嘘と本当はわからないけどっ!そう言えば言っていたよっ。そして私の色盲は眼球本体……魔法という奇跡は起こってくれるのだろうか。
今すぐ何かするわけではないみたいだから、とりあえず帰ったらお父様に相談。よし。こればっかりは忘れないぞ!
「では、色が分からないのは何時から?」
「さ(……最初だと怪しい!色が分かるわけがない。ここは途中から分からなくなったことにして………そうすると何歳が妥当!?)3歳?でしょうか。覚えていません」
「なぜ三歳だと?」
「物心ついても色がなかったことが私の普通でしたから……生まれた頃はぼんやりと色があったと思うのです。覚えていませんが」
これでだ、大丈夫だよね!?私はおかしな事を言っていないだろうか!?
「そうか……色が分からないというが、本当に分からないのか?」
「白と黒ならわかります」
「どうして?」
「お父様とお話しして教えていただきました。光属性が白で闇属性が黒なんですよね?」
たぶん!咄嗟に思い付いた!お父様、本当に後で辻褄合わせをいたしましょう。帰りに逢えると聞いているので大丈夫と思いたい……あ、グレーも分かるけど――いいか。
「なるほど。魔塊は知っていたのか?」
「ヴィグマン様から……今年の夏ですね」
「こればっかりはわしのうっかりじゃった」
「ヴィグマン殿?」
「娘っ子を初めて見たときは3歳じゃ。その時には小指の爪、それより小さいくらいの魔塊がすでにあった」
「なっ!?どうしてっ――」
「まて、色々と理由があるから聞いてくれぬか?」
右側の人は、自分の専門分野が関わると熱くなるタイプだね。すごい顔でヴィグマンお爺ちゃんを睨んでいますよ。これはさすがにヴィグマンお爺ちゃんの説明を聞いてもらわねば静められないかな。
「その時はまだ娘っ子は三歳。魔塊は小さいが、本人に影響がまったくなかったんじゃ。それに、そんな幼子に薬など投与できぬ。様子見にしておったのじゃ。属性がいまいち感じられんかったのもあるんじゃがな。そして忘れておった。これはわしの落ち度じゃ。グレストフには、伝えておったが……」
「本人に……いや、三歳か……わからんよな……」
なんだこの泥沼に嵌まる寸前の会話は。私が幼いのがいけないようじゃないか。
さっきまで睨みあって分かち合って今度は落ち込んで……面倒な2人だね。そんな2人にばっさり切り込むのがユリユア様です。「後にしてくれ」と先を促して会話を続けさせようとしていますね。項垂れたまま続く会話って……覇気がない。
「魔塊の位置はわかるか?異物的な感覚や魔塊の影響は?」
「魔力操作で存在は分かる程度なので異物感はありません。魔塊の影響は……魔力の乱れで出ます」
「どのような?」
「説明が出来ないので――ヴィグマン様、お願いします」
感情で左右された魔力が属性によって熱くなったりぴりぴりするんです。さて、そんな事を言ったら右側の人はどんな反応をするだろうか。もちろん私が説明できるわけではないので丸投げ上等!お願いしまーす。
丸投げしたらちゃんと受け取ってくれました。そうそう、チェーカス魔法師って言うんだっけ。感情によって魔力暴走が属性に左右されて被害が出るんですよ、ってお話し。
興味津々にそれを聞いている右側の人は「なるほど」とか言って納得している様子。帝国には知らない話だったみたいでお父様と同じようにその文献が読めないか聞いていますね。でも国が違うから駄目だそうです。視察団と言ってもそれは建前だからね。どんな事をしに来たの?って聞いたら詰まるんじゃないかな。
ヴィグマンお爺ちゃんに断られたのが悔しいらしい。唇を噛み締めて私の問診は続く。続けるんだ……いや、いいんだけどね。
どんな症状が出たか。――怒ったら右目は熱くなり、人を不信に思ったら左目はぴりりと痛くなります。
それは眼球の全体か。――全体です。今のところ眼だけなんです。
眼の異常はその他にないのか。――ありません。あ、この前【風】の濃いめの魔素にやられて左目が痛み出しました。魔素でも影響が出るみたいですね。
最近になって気になることはあるのか。体のどの部分でもいい。気になる点を答えてくれ。――これと言って特には。しいて言うならすごく冷静でいられる時があります。
例えば?――回りが焦っていて、私も一度は焦るのですが……色々と考えを巡らせると冷静になっていきます。急に熱が冷めていくような感じでしょうか?
「それは……焦った拍子に【火】が熱くなるが、全体を覆う【水】が冷やしているのかもしれないな。いや、でも属性は均衡に保たれているのだから――魔塊か」
「ソマディオ殿。もう一つほど驚いてほしいのだが……娘っ子は三つの属性の均衡がすでに崩れておる。故に、下手をすれば死ぬかもしれないのじゃ」
「………………よく、生きているな。奇跡じゃないか?」
「わしも、そう思う。今は抑制魔法具と魔塊のおかげじゃな。別々になったことにより均衡が保っておるようじゃ」
「――お前さん、何かと規格外だな」
「皆様のおかげで」
にこりと笑えば苦笑いを返されてしまった。いや、だってお父様たちが何かをしてくれていなかったら今頃……怖くなるのでこれ以上は考えません。恐ろしや。
さっきの問診が最後だったみたい。結果はやっぱり解剖して分析した方がいいって。魔塊の位置と魔塊がどこまで眼球に及んでいるかによって原因が分かるかもしれないんだとか。
その事に関してはお父様に言っておかなければならないので、今度はお父様を交えて相談したい、とのこと。私はその前にお父様と辻褄合わせと精霊の事を話さねば……
それとやっぱり私が嘘をついているのではないのかと、疑いが晴れたのはその後にこれを持ってみてくれ、と手渡されたものだ。
渡されたものは白っぽい石の欠片?ほんのり生暖かいから体温が移るほど肌身離さず持っていたんだと思う。これがなにか?わけがわからずに首を傾げていたら「ああ、なんとなくわかった」とのこと。まだよく分からない。
返して、と言われたので返したら次は小鳥のデザインのイヤリングを手渡された。これも白っぽい。思わず可愛いと言ったら「そっちか」て。ナゾナゾは得意じゃないよ!
と言うことでユリユア様に助けを求めたら、珍しそうな顔で私の手元を見ていましたとさ。わかんないよ……聞いてみたら、今さっき渡された白っぽい欠片とイヤリングは桃色で出来ているんだって。しかも、滅多にお目にかかれない天然のピンクの石。それを加工したピンクのイヤリング。ついでにピンクは女の子の人気ナンバーワン!で、ピンクを見れば女の子ははしゃぐのが当たり前なんだって。もちろん好みもあるけど……しかし、貴族の女の子はこぞってピンクを集めるんだとか。ピンクの石は貴重だから普通なら手に入れたいと、色を見たらまず食いつくと思ったんだって。知らないよっ。てかその判断でいいのか!?
――そんなわけで疑いも晴れたし、右側の人も協力者になったし、治る事を祈るしかない!!解剖は怖いけどね。てか解剖か……せめて手術って言ってくれれば怖くないのに……そうすればレーバレス様の前で即決はしなかったよ。右側の人が白衣を着ていなくてよかった。気持ち的にね!
とりあえずまず第一歩を踏み出したと思いたい。よし――次の一歩も、お願いします!




