緩やかな午後
修正いたしました。28.12.11
ほほほ。ふふふ。まあ。へぇー!うわあ。……にへら。
だいたいこんな感じでお茶会が出来てしまうのだからすごいよね。ティーカップを片手に激甘クッキーをたまに……私は極、たま~に摘まんで笑って受け流す。私は笑うだけでいいと思うんだ。
アマンツェ子爵家について、クリミアとクリミアに似たおっとりした女性が出迎えてくれた。色の配色も濃淡がまったく同じなので、クリミアは隣に立つ女性――母親似なんだと思う。モスグリーンの髪とスカイブルーの瞳!だったらいいな~。色がほしい……
ゆったりと伸ばされた長い髪はみつ編みで肩にそっと乗せられている。仕草もどことなくゆっくりでお母さん!て感じがする。クリミアのお母さんのおかげでジジルもエリーも少しだけ緊張がほぐれたみたい。たどたどしさは残っていたけど、しっかりと挨拶をしていた。てかエリーはなんだか慣れていたんだけど?商家の娘ってどこまで教養を教えられるんだろうか。
軽く自己紹介を済ませて――秋だけどまだ暖かい天候なので、今日はアマンツェ子爵家のちょっと自慢であるお庭でお茶会。みんなそれとなく秋のドレスなので少しぐらい寒くても大丈夫と言うことで外。私的には首を出しているエリーが心配だけど……今のところは大丈夫みたい。なんとなくお茶を飲む回数が多いけどね。まあ、肌寒くはないから大丈夫、なはず。そんな私も丸首なんだけどね。鎖骨は見えないし、両脇から出ている髪のおかげで寒くはない。
庭は残念ながらベラーナではなかった。変わりに秋の代表キウ(キキョウ)の花が辺り一面に咲いています!星のようにぱっ!と花びらを広げて、小さいがキウが一面を覆うほど植えられていると花畑のできあがりだ。そんな錯覚をしてしまうほど、半円を描いたキウは満開に私たちを楽しませる。グレーがいっぱい。うん。誰か筆を!紫系の筆を私にっ!今なら1万本でも10万本でも塗るよ!グレーの一面にどんな面白味があるって言うんだっ!!
やっぱりお願いしようかな……いや、駄目。ここは相談だよ。お父様に相談。自分で選べって言われたらその人に話だけでも掛け合えばいい。よし。やっぱりお父様に相談だね!
因みにキウはサーフェン魔法師が好きな花なんだって。知ってますか、奥さん……桔梗の花言葉って『永遠の愛』だよ。待ち続けた娘の花だよ!奥さん、愛されているね!!
キウのお話しから始まりある程度の話をすると今度はみんなのドレスのお話しになる。クリミアもクリミアのお母さん、マリミア様も襟元を詰めた秋らしいドレス。マリミア様が細いリボンをあしらって、クリミアが太めのリボンで飾り立てているそれはとっても似合っていると思う。
一面のキウも、クリミアのドレスも素敵である。招待してくれたマリミア様も素敵だけど……やっぱり白と黒だと残念にしか思えなくてね。中途半端な喜びになってしまったのは内緒だ。大丈夫。笑顔は崩していない。ただ気になったのは色を言わなかったってこと。私への配慮かな?みんなが『綺麗な色』って言って明確な色にしないから逆に気になるんだけどね。
クリミアたちに平民との隔たりがないおかげでジジルとエリーは楽しそうにお茶会に参加できているからいいかな。笑顔だと私の文句はちっさいわー。
とくにジジルは普通の平民と言うくくりだからこう言ったおほほ、うふふ、なお茶会に緊張していたし。何度も私やお母様に平民でも大丈夫なのかを聞いていたくらいにね。でも、実際に参加してみればお母様とマリミア様の子どもの扱いが上手すぎてジジルが懐柔されていると言う、図が。反応がいいからねー、ジジル。目をキラキラさせてお話しを聞いたり緊張が解ければ率先して気になることを聞いてみたり。うん。楽しそうならいいんだ。
エリーもお嬢様みたいな振る舞いはするけど頻繁に素が出ているんだよね。馬車の中で淑女のように~とか言っていたけどお茶の美味しさに一瞬で崩壊していたんだよ。早かったなあ。
私たち子どもの中ではエリーがお姉さんだけど、にこー!となるとやっぱりお嬢さんだね。私も7歳なんだからこんな感じで笑えばいいのかな……今さらだ。本当に今さらだ。転生の最初からやり直ししたいなぁ。
「そう言えば、クロムフィーアちゃんは動物を飼ったとお聞きしました。どのような動物なのですか?」
こうやって誰も欠かさないように話しかけるって、大変だよね。でもクリミア、それってどこからの情報なの?
「私もそれ、聞いたよ!騎士に兄弟を持っている人たちが噂をしてたんだ~」
「クフィーってけっこうな噂になっているからね。『野獣の調教師』からずっと話題に上がってるんだよ?」
「え。そうなのですか?知りませんでした……」
「まあ。クロムフィーア嬢にはもう二つ名があるのですか?」
「わたくしも驚きましたの。かなり誇張されていますけど、聞くとあながち間違いではないと思えてくるのだから不思議なのです」
「クフィーちゃんのお母さんは知ってるんですか!?私、『狂犬』や『鉄壁』とか『野獣』しか聞いていないのですけど意味がわからなくて……」
いや、わからなくていいよ。と言うか、その呼びなを理解しないで。ちょっと不本意だから。
しかし、面白そうに笑うお母様はマリミア様と共にころころと笑うだけ。その内わかるわ、なんて交わしている。なんで言わないのかなー?とか思ってふと気づいた。脳裏に出るわ出るわ『野獣』と『鉄壁』に『狂犬』が。
ジジルとエリー、それに首をかしげて分からないと言うクリミアに話してもわかんないよね。その呼び名が人であり、騎士の人たちだなんて。有名どころだけどピンと来ないはず。その騎士がなんでそう呼ばれたのかが疑問に思ってくると言うものだよね。
私にはこんな交わし方はできないかな。なんか色々と説明しちゃいそうだし。そしてみんなの頭の上にはクエスチョンが浮かぶに違いない。あ、でもアビグーア中隊長なら分かるか。ジジルとエリーは怖がるかな?泣いてたもんね。2人がせがんできたけど――やっぱり説明はしないでおこうっと。
だから私はそれとなーくノルアの話題にすり替えていく。ほら、ノルアも……なんだったかな。なんだっけ?あれ。忘れてしまった!?『暴れ馬』しか覚えていないよっ!?まあ、まあいいか……ハハハハハハハハ。むしろなかった事にしよう。ノルアは可愛いのだ!
てかなんで『野獣の調教師』がさらっと出てきたの?ジジルって侮れないかもっ。
「そうでした。どんな動物を飼われたんですか?」
「リッスンです」
し ー ん ………………
あれ。なんでこんなに静かになっちゃったんだろう。チラリとみんなを見渡せばクリミアの隣でそっと佇んでいたベルルクでさえも固まっている。ずっと動いていなかったけど……おかしいな。ここで私がノルアの可愛さを大々的に語るところだと思うんだけど。
こう言うときは助け船を出してもらうべく、お母様に視線を送ってみる。お母様は――ああ、うん。優雅にお茶を飲んで微笑んでいました。私が切り抜け、と言う事でしょうかっ。リディお姉様っていつもどうやって切り抜けているんだろう。そんなこともないような会話をしているのかな?……しているか。
「みなさん?どうしました?」
「えーと……エリー!リッスンって、どんな動物だったっけ?」
「どんなって――普通にまず、飼えない動物!すぐに怒ったりするから家で飼うなんて出来ないよ!!壊れちゃうから!」
「そ、そうですよね!あ、もしかしてクロムフィーアちゃんの冗談だったのでしょうか?」
「まあ――そう、なの?」
「……普通に飼っています。そうですよね、お母様」
「そうね。とっても可愛いのよ?」
2人もいれば怖くなーい。一緒に笑って今度こそ私のノルアの可愛さをアピール!どこを持っても、もふもふな体っ!無防備な寝相に揺れるふわふわなしっぽ!膨らませた頬はぽよんとしていて弾力が!ぎゅーっと握ってご飯を催促するちっちゃい手と円らな瞳!お腹と額を撫でたらたまらず細目でぐりぐりとねだる仕草も可愛いんだよ!
て言ってみたらみなさんがちょっと……はっきり言ってどういう表情を作ればいいのかわかりません、みたいな顔になった。目を少しだけ開いて口は一文字。どこに焦点を合わせようか悩んでいる視線はなぜだろうか。ノルアは可愛いのに……
目元をくしくしする姿とか、ちっちゃい手に丸い物を持たせるとつるっ、と滑らせてずっと手がつるつるさせて追いかけるとか。驚かせたら瞬時に頬を膨らませて、私だとわかるとしっぽで軽く叩いてくるとか。とたたたたー!と走る姿なんかも可愛いし、よじよじする姿なんかしっぽをふりふりさせるから、これまた可愛い。こんなに可愛さ満点なのに……なんで信じられないって顔をするんだろう。
「あ、そう言えば最近はトールお兄様の頭に乗るのがお気に入りみたいです。そこでゆったりするのが好きみたいですよ」
てっぺんでへちょーんと大の字。トールお兄様はどうすることも出来なくて最初はしばらくそのまま固まっていたねー。今じゃそのままにして自分のやるべき事をやっていますよ。
「え?乗るの?ゆったり?え?」
「ジジル、落ち着いて。普通のリッスンはそんなことはしないから」
「そうね。エリーちゃんの言う通りだわ。わたくしの夫も珍しくひきつった顔をするほどですから」
「まあ!グレストフ一進魔法師様がそんなお顔を!?でしたら、きっとその子が特殊なのですね?」
「そうですわね。わたくしの知識と違いますから、少し特殊なのですわ」
「そんなリッスンを見てみたいです。駄目でしょうか……?」
「クリミアお嬢様」
え、いいじゃんベルルク。クリミアをたしなめなくても私は親がいいよ、と言ってくれれば連れてくる気満々だから。それよりアーガスト家に招待した方がいいのかもしれない。お母様、招待は別にいいよね?
「そうね。アーガスト家へ皆様を招待いたしましょう。マリミア夫人、少しあちらでお話しをよろしいかしら」
「まあ。クレラリア様、落ち着きになって。すぐに準備をさせますわ」
「嫌だわ。嬉しいことがあると急いてしまうのはわたくしの悪い癖ね」
ほほほ。とか言って立ち去るお母様とマリミア様……子どもたちはその後ろ姿をただ見つめて見送るだけである。そして後ろ姿が見えなくなって静寂が。ベルルクさえも、お茶を取り替えようと固まってしまったようだ。
とりあえずみんなに再起動の呼び掛けでもしようか。私だけ一人でお茶を飲んでいるとか虚しすぎるしっ!
まあ主催者だからクリミアとベルルクを再起動させて、エリーとジジルもすぐに戻ってきてくれたからそんな大事でもなかったね。
いやー。まさか子どもたちを放ってぱぱ!と向こうで話し合いましょう、てなるとは思わなかったよ。誰もそんなことは考えていなかったからそのまま見送っちゃったんだけどさ。
すごかったね、てジジルに言われてしまった。きっとお母様も嬉しくなっちゃったんだろうね。お城に閉じ籠っていたから家族の近況とか私には分からないけど、嬉しかったんだな、てことぐらいは分かる。
よく考えたらアーガスト家に招いたのって例外だけどエモール先生ぐらいしか私はみていないんだし、招待するならアーガスト家の魅力となるものを披露するんだから………………アーガスト家は普通のお茶会だよね?お金を使って高級な物は出てこないよね?金銭がおかしくなるのは家族に対してだけだよね?見栄とか家にはない、よね?
「でもお茶会をするとしたら来年ではないでしょうか?これから冬になりますし……秋までですとすぐに開かなくてはいけませんね」
「そっかー。あ、となると私とジジルは城に若魔法師としているから手続きもあるしそんなに出られないかな。平民だし」
「今回はぜーんぶクフィーちゃんのお父さんがやってくれたもんね。また、って怒られるかな?」
「そこは聞いてみないことには私もわかりませんね。お母様も知っていると思うので……やはりクリミアが言った来年になるかもしれませんね」
私もまあ、多少は考えて言ってみる。準備は当然ながら必要だし。ジジルとエリーの手続きとか移動手段も考えて……たぶんドレスもお母様が喜んで選ぶから色々と考えなきゃいけないね。みんなのスケジュールもあるだろうし。
それに冬は雪が降らない代わりの風邪が大流行する季節だからね!この世界。私はまあ……数回だよ。成長したおかげで酷い風邪を引いたのは3歳ぐらいだったかな……あの時、もう風邪で寝込まないとかなり決意を固めたよ。お陰様で元気です。たまに鼻水が酷いけどね。だから冬は駄目。なぜか菌が繁殖する季節なのですから。
そんな事を考えていたらクリミアがしょぼーんとリッスンが見たかったと言ってくる。隣から私も!とジジルが言うが、さすがにノルアは気分屋なので簡単に持ち運べない。ショーケースとかないし。ノルアに初めては危険だ。準備万端で警戒している姿しか思い浮かばないよ。
まあ、とりあえず……まずはお母様たちが決めちゃうみたいだから任せてしまいましょうよ。親を抑えるなんて私たちには出来ないんだから……
なんて言ったらクリミアに神妙な顔で頷かれてしまった。これはきっと父親のサーフェン魔法師の事を考えているに違いない。
そしてしばらく私たちだけでお喋りをしていれば笑顔で戻ってくるお母様。続いてこちらもやはり満面な笑みでやって来るマリミア様。着席すれば日取りが決まっていないらしい。じゃあどうしてそんな笑顔なのでしょう。
聞けば……サーフェン魔法師が絡んできました。このお茶会って内緒でやっていたんだって。だから、今度はサーフェン魔法師も伝えて段取りを完璧にしたいそうです。そしてお父様も絡んでくると言うね。お茶会が社交に変わる予感……と言うかお父様は無理でしょうよ。そしてその間に親同士で手紙を続けるそうです。
私たちはと言うと、最初はお手紙にしようとして……よくよく考えたら魔法院で逢うじゃないか、と気づいたからお昼を一緒に食べる約束にした。残念ながらクリミアは教場が違うのでお昼だけの約束。お昼休憩に三時間もあるからじゅうぶんだと思う!
うん。決まった。誰も文句なく決まった。
今度はいつかしらねぇ。なんて囁きながらまたお喋り。意外と話題がつきないこのメンバーに感嘆しながら実にゆっくりと過ごした。




