容赦はしません
ご指摘を含む修正をいたしました。28.12.11
『寝てる……な――――――――そう――――――?』
『――――………………――れる――――?』
……うるさいでござるぅ………………
『起きた――?』
『まったく。お婆――――かいが――――い』
うーん。これは起きた方がいいのだろうか。ウーウって本当に気持ちいいから寄りかかるとすぐに眠くなちゃうんだよね。
ウーウを一撫でしてからゆっくりと瞼を持ち上げる。飛び込んできたのはグレー色のウーウの毛皮。一瞬、何がなんだかわからなかったけどそう言えばお腹が暖かいな、と。よく見たらそこにウーウの顔があった。驚かなくてよかった。気持ち良さそうに私の膝――と言うか腰?を顎置きに寝ている。
因みに私の後ろにもウーウがいたりする。この部屋には5匹もいたからね。なぜか密集してきたんだ。
私の背中に頭を擦り付けるように眠ったのが牛みたいに黒を主体の白い斑の毛皮だったはず。いや、すぐに寝ちゃったんで曖昧だよ。
因みにあと2匹は私の足元に顔を寄せて寝ています。私から見て黒っぽいのと白っぽいの。顔を起こして見れば寄り添うように寝ていてとても可愛い。可愛いよ!!
「起きたか?」
「起きたな?」
どっかで聞いたことのある声。はて、誰でしょうか?腰のウーウがちょいと邪魔で上半身しか起き上がらない。なんとかぐるりと見渡せば……仁王立ちの、同じ顔で同じ背丈。左右に片腕を腰に当てて呆れている双子ちゃん王子がそこにいました。
なんで?ああ、ここはお城の中だもんね。でも王妃様たちとお話ししていたと思うんだけど?私はさっきまでお昼寝をしていたけどさ。
まだ寝ぼけているのかと目を擦ってみる。実際にまだうまく起きたと言えなかったし。本当は擦っちゃ駄目なんだよね。目が押し込まれるんだっけ?う~ん……
改めて仁王立ちの2人を見てみよう。ちょっとはスッキリした視界で見えるのはやはり双子ちゃん王子。ため息の付き方まで一緒とはさすが双子だね。シンクロ率が高すぎだよ。で、なんでここにいるのかな?
「お久しぶりです。アーグラム王子様、ローグラム王子様」
「他人行儀は好きではない。普通に接してくれ」
「アーグ、彼女と私たちとの関係は終わっただろう?」
「ローグ、それではつまらないだろう?」
「本音は?」
「……寂しい」
はあ。アーグラム王子は右ね。で、ローグラム王子が左ですか。そして私は置いてきぼりである。ウーウがいるから別にいいけど。
何やら2人がぶつぶつと喋って微妙な喧嘩が始まったようです。アーグラム王子の主張は友達だからいいじゃないか。ローグラム王子の主張は立場を考えて自重しろ。
目の前で文句を言い合っているけどさ、私もだんだんと覚醒してきたから色々と考えられるわけですよ。だから聞きたいことがあるんです。双子ちゃん王子よ、君たちはいつからそこにいたのだろうか。
言ってしまえばいつとかは関係ないのだけどね。私が言いたいのは堂々と昼寝をした私もだけど、寝ている娘の寝顔を見るとは何事かっ。しかもここはとある一室である。ペダニア様に連行されて連れられた場所は客室の、寝室。繋ぎ部屋である。そこにウーウを入れて準備してくれたんだよ?ほら、私から見て右手の奥にダブル?ぐらいのベッドがある。
私はウーウをお布団に寝ちゃったから、実はと言うと扉の目の前ぐらいで眠りこけていたりするのです。開けたら驚きだけどここは寝室である。本当は駄目だけどここへ放り込んだ3人とずっと傍にいたメイドさんは承知しているはず。――まさか、あえて入れたの?
確かこの繋ぎ部屋と繋がっている客間でお茶をしていると言っていた………………はて。これは誰の差し金だろうか。とりあえず――
「あの」
「「ん?」」
「出ていってください」
今なら少し経ったけど寝起きなので半眼だ。睨んでいるように見えると思う。そして私が出せる低い声で訴えた。まだ幼いから低くはならないのだけどね。気持ちの問題です。出来るだけ冷たく言ったのでその辺を汲んでくれると嬉しいな。
そして狼狽える双子ちゃん王子。アーグラム王子はなんとなくわかるけど、なんでローグラム王子までも狼狽えるんだか。どうしてと言われたって普通は寝室に入りません。子どもだからと寝顔を見ません。許されるのは家族のみである。
私はうっかりであっても公衆の場で寝こけたわけではありませんから。いくら双子ちゃん王子の家(城)だからと言ってなんの縁がない娘の寝顔を、寝室で見るのは駄目でしょうよ。ここは寝室だ!
まだ狼狽えるようなので言います。だから早く
「出ていってください」
「なぜだ!?なぜそんな冷たく言う!?」
「え、なんで怒っているんだ?」
「分からないのですか?いいから出ていって下さい。あちらにいる方々にでも聞いてください」
なんと無神経な。私の怒りが分からないとはっ!今思うと2人がごそごそと話しているから私が気づいたんだよね?てことは私って安眠妨害をされたんじゃないかな?ん?腹が立ってきたよ……
なんだかイライラする。私のうっかりで王族とちょっと絡んでしまったけどそれはウィル様とお父様とで綺麗になくなったはず。ならばこの双子ちゃん王子がとる行動は成人もしたのだから女性関係に気を付けなければならない。世間から見て私は幼いから変なことにはならないけど、私の評価はぐっと下がる。私だけが下がるのだ。よく考えてほしいね。結婚をするつもりはないけどね。
で、なぜか私の怒りがウーウに伝わったらしい。伝わったんだよね?ウーウが単独で怒っているんじゃ、ないよね?私がお布団にしていたウーウが――ペシーン……ペシーン……え、耳ってそんな鞭みたいに打てるの?
これには双子ちゃん王子も驚いて身構えている。私に危ないから離れるようにと言うが、明らかに私側の耳は動いていない。私を枕にしていたウーウでさえも起き上がり耳を鞭のように打っているのに……あれ。低い「う~」って声が聞こえる。おっさんのような濁った音かも。どこかで聞いたことがあるような気がする。
そしてそれは以心伝心。他のウーウも耳を使ってペシーン!ペシーン!それ、鞭なの?しなるの?これは……私は当たっていないのなら守られている感じかな?
5匹も唸り声をあげて、しかも揃えてペシーン!!ペシーン!!とやるとなかなかビビるね。でも、私も怒っているので気にしません。双子ちゃん王子に寝顔を見られたのは癪に触るっ!!許せん!!涎が垂れていたらどーすんのっ!!
「うわっ!?ちょ、クロムフィーア!落ち着け!!」
「うわっ!?あの噂って本当だったのか!?」
しらんがなああああああああ!!
行けぃい!と――どこぞの悪者のようにウーウを使ってみる。いや、ちょっと2人を見ていたらなんだか余計に腹がたってね?こう……やっぱり寝起きはもう少し清々しく起きたいじゃない。
合図とともに鞭のようにしなる。まず私の前にいた2匹が長い耳をヒュッ!とか言って打ち込んでいます。足を狙うとかこの子、怖いわ。避けた双子ちゃん王子は慌てて扉の向こうへ逃げていきましたよ。だらしないなー。
そして代わりに登場したのが……メルダ様。申し訳なさそうに扉の前に立っているよ。メルダ様が相手なら攻撃はできないや。えーと、どうやって止めればいいかな。5匹も相手とか大変だね。
とりあえず1匹ずつ頭を撫でてやって……耳のマッサージも付けてあげよう。ん?まだ足りないの?じゃあこの顎のラインから耳にかけてはどうだい?
抱きついて手をもふもふ。本当にいいお布団だなぁ~。よしよし。低い音がなくなってきたねー。次はお前さんだよー。………………順番に撫で回したら落ち着いてくれました!顎のラインが一番の効果があるみたい。眉毛カーテンで表情が読み取れなかったけど、耳はペシーンってしなくなったよ!
「すごいわ~。『野獣の調教師』は伊達じゃないのね!」
……噂ってそれかっ!
「ただ撫でているだけですよ?あ、よく見たらこの子はパーニャですね。気づきませんでした」
「クフィーちゃんはすぐにパーニャに寄りかかったから気づいていたと思ったわ。リボンを付けているのはパーニャだけですもの」
そうそう。実はパーニャの左手には薄いグレーのリボンが。はむはむするのが大好きなパーニャは左手のリボンがお気に入り。端っこはいつもボロボロ。むしろリボンを外したいから噛んでいるのではないかと思ったけどそうではない。ボロボロになったリボンを交換しようとしたら追いかけるんだよね。軽めに耳をぺしぺししながら。
その耳があんなのペシーン!となるんだから怖いよね。そう言えばなんで双子ちゃん王子がこっちにいたんでしょうか、メルダ様?
「ええと……私は所詮……十進魔法師だから………………」
「……王妃様ですか?」
「王妃様はアーグラム王子とローグラム王子に選択肢を与えられたの。ちゃんと『淑女の寝室に入る』ことを強調していたのだけど……選んだのは入室することだったわ。私は王族を諭す立場ではないから……」
「つまり――怒っていいですよね?」
「王子だから、無理じゃないかしら?」
いや?王妃様から許可を取れれば問題なんてないよね?私にはまだ勝機がある。
と、言うわけでメルダ様にメイドさんを呼んでもらって私の身なりをちょっと整えてもらう。ウーウの毛が髪の毛にたまーにくっついているからね。私ではいまいち判断ができないので見てもらうのだ!
そして寝ていたから髪がちょっと、ね。編み込んだから短い髪からぴょんぴょんと跳ねちゃうんだよね。それも直してもらって……よし。まだ収まらない怒りをどうぶつけてくれようか。
……まさか寝顔を見られて怒りが湧いてくる日が来ようとは…………
戻ったら王妃様が扇を広げてにこやかに笑っておいでです。そしてその後ろには立ったまま項垂れてしょんぼりな双子ちゃん王子だよ。さーて。どうやって攻めよーかなー。
「王妃様、せっかくのお茶会に居眠りをして申し訳ありませんでした」
「いいのよ。まだ7歳でしょう?お昼寝も大事よ」
「お気遣い、ありがとうございました。ですが……」
「あら、どうしたのかしら?」
「実は……先ほど使わせてもらった寝室で起きたら殿方がいましたっ。とても怖かったです」
怖かったアピールで下を向く。ここで震える腕を押さえるように胸元でぎゅっと。
「まさか、お城の中で、お父様が働いているこの城で、お父様がいない時に、王妃様がこちらにいらっしゃるのに、怖い思いをするとは思いませんでした」
さて、どうでるかな。王妃様が私に賛同してくれたら私の仲間。とぼけたり否定をしたら王族だから適切な態度、と判断してこの話はばっさり終わらせてなんとか帰ろう。
「まあ。大変だわ!この城に、私たちが隣にいるのに、クロムフィーアがそちらで寝ているのに、そんな怖い思いをさせてしまっただなんて……どんな怖い思いをしたのか、もう一度聞いてもいいかしら?無理なら聞かないわ」
おお。乗っかってきたよ。ここはもう一度言って、後ろの双子ちゃん王子にわからせるんですね?王妃様も人が悪いや。
「あのっ……よく似た顔の殿方が二人もっ、いたのです!!ウーウたちがいなかったら私っ」
「嫌だわ。淑女の寝室に無断で入る男なんて失礼な人たちね。何様と思っているのかしら。大丈夫だったかしら?なにもされておりませんね?何かあったら言うのですよ?」
王妃様、意外とノリがいいですね。わざとらしく泣き真似なんかしてみたら駆け寄ってくださったよ!?そして慰めてくださるとか――あれ、私は何をやっているのだろうか……
しかも、畳み掛けるように王妃様の口から饒舌に怖い殿方を攻めまくる。寝室と淑女と立場とか。どんな男なのかその人の神経がとか頭がどうとか態度とか……王妃様って実は双子ちゃん王子に恨みって言うかお怒り?もうなんか鬱憤でも張らすように喋りだしちゃったよ。
そしてメルダ様の手を借りてソファーに座らされ、私がすごい可哀想な子になった。そして一緒に泣き初めて双子ちゃん王子はこんな男ではないから安心してと否定している。本人たちは複雑だろうね。
そして堪えられず謝る双子ちゃん王子。泣いてもいない私たちはすっと顔をあげて――私がすっとぼけてみようか。
「王妃様。私、変な幻聴が聞こえてしまいました。誰かが謝ったのです」
「まあ、誰かしら謝っても仕方がないと言うのに」
「「泣いていない……」」
「質が悪い」
「ペダニア様、私にはもう何がなんだか……」
ペダニア様から苦笑いをいただきました。メルダ様も苦笑いをしていますよ。因みに王妃様は扇の裏で満面の笑顔。王妃様が一番の質が悪いお人だと思います。祖母が孫を虐めて楽しんでいるよ。
そしてお遊びはまだまだ続く。双子ちゃん王子が話しかけるが、幻聴として片付けて取り繕わない。私は私でそんな王妃様に合わせて怖がってみたり。ほら、王子と王妃様なら王妃様の方が立場が上だもんね。この双子ちゃん王子が王太子だったら考えものだけど。
しかし、このままだとずっと続いて私の立場が危うくなる。王子を蔑ろにしているからね。軽く不敬罪かな。私、よく生きているね。
ということで何事もなかったかと言うように双子ちゃん王子を紹介してもらい、一緒にお茶会をすることにした。すっごいホッとしているけど、表情は晴れません。よほど堪えたんだね。そうか。一途って怖いね。
そして今度はメルダ様に標的を変える。ほら、7歳児は知りたがり屋なのですよ。忘れないうちに、思い出したら聞かなきゃね!今どこに寝床を構えているんですか?貴族だから城下には下りられないよね?どこなんですか?
聞いたら顔が薄いグレーに!おやあ?これは何かあったのだよね?ね?無邪気に聞いてみることにしようかな!あ、もしや!ウィル様の家だったり?
「なっ!そ、な、く!?」
「ウィル様に聞いてみますね!」
「だ、駄目よ!子どもは聞いてはなりません!!」
「なぜですかぁ?メルダ様が、今どこにお住まいかを、聞いているだけじゃないでか」
「ほほほ。嫌だわメルダ。場所だけなら教えてもいいじゃない。それとも――ウィルと何かあるのかしら?」
「なっ、ち!ちちちち違いますよ!まだ何もありませんから!!」
「まだ?」
「まだなのね?」
「あぁあああ!?あのっ、そうではなくて!!」
「メルダ、頑張れ」
ふふふ。メルダ様はいつウィル様と結婚するのかなー。今日、一番の楽しみができた瞬間だよ!これに免じて双子ちゃん王子は許してあげようじゃないか。
さらに王妃様と共にメルダ様へ畳み掛ければグレーに変わって……わかりやすいなぁ。ここはお父様と一緒に今度はウィル様の聞き込みをせねば。楽しみだね!
そんな感じでひとしきり遊んだ私は王妃様と「ほほほ」とか言いながら笑い合っていましたよ。お迎えが来るまで。
なんだか微妙な顔のお父様とお疲れ無表情のレーバレンス様がやけに遠くを見ていたような気がするのは気のせいにしておこうかな。




