私の伯母
ご指摘を含む修正をいたしました。28.12.11
「まあ、私も『帝王』を屋敷で管理しなければならないからな。後で顔合わせしなくてはならないんだ」
そう言って優雅にティーカップを傾けるユリユア様。優雅に足を組んで王妃様のお隣でくつろいでいらっしゃいます。騎士棟に行くわけでもないのに軍服のような衣装。なぜ。私、もうユリユア様のドレス姿が思い出せないんだけど……
そして気づいたユリユア様が説明してくださる。なんで分かったんだろうか。
理由はとっても簡単でした。お隣に座っている王妃様が「久しぶりに着てみて?」とおねだりされたので着たそうです。この服は王妃近衛隊の正装着らしい。
そう言えばよく見ると男性のようにピシッとしている軍服にちょっと似ているかも。参考はアビグーア中隊長だけどね。でも女性版はちょっと違う。――男性のように装飾が少なくてゴテゴテとしていない。ズボンがピッタリじゃなくて少しだけ空気を入れたように厚みがあるみたい。膝下のブーツのおかげでその厚みがこんもりしているよ。カボチャじゃなくてよかった。この世界にカボチャのズボンってあるのかな?
よく見たら髪の毛もポニーテール。いつも下ろしているのに気づきませんでした。通りで顔の輪郭がよくわかったよ。
教えてくれたのはメルダ様。メルダ様がユリユア様の髪も結ったんだって。私、たまに不思議に思うんだよね。ユリユア様の高い位置に結い上げられたポニーテールの髪は私から見て薄いグレーの布?リボンかな。で、結い上げられている。ここにはヘアゴムとかはないので、リボンであの高さを固定しなければならない。
動いたら簡単にほどけると思うのに、なんで取れないのだろうか。
ポメアもメルダ様も、私の髪をハーフアップにするためにリボンしか使っていません。きゅっ、と縛っただけなのになんで取れないのかな?私のなんか後頭部だよ?直角だよ?ストーンていっちゃうと思うんだけどね。いつでもこれは不思議だよ。
「そう言えば……ユリユア様はなぜ王妃近衛隊を辞められたんですか?」
ピシッ。
どこからかそんな音が聞こえました。どこだろうと首をかしげるけどそれは1回しか鳴っていないので場所が突き止められない。まあいいかと私はユリユア様を見て教えてください~と念を飛ばしてみる。つまりは見つめています。
質問を投げ掛けられたユリユア様はどう答えようか悩んでいるのか――「ふむ」。そのたった一言を言って腕も組むように左手が顎を支える。ついでとばかりに首をこてん、と傾げられた。何をやってもユリユア様は絵になるので王妃様と並んでいるともうこの人が王子でもいいや、て思える錯覚が。普通に見目麗しいです。髪が長いのに格好いい!!
でもそのユリユア様と対照的な人が私の隣に。メルダ様です。慌てたように小声でそれを聞いちゃ駄目!て言ってる。うーん?並みならぬ事情だったの?え、裏でごちゃごちゃと色んな者が絡んで辞めさせられたとか黒い感じ?それでユリユア様は私にどう説明するか悩んでいたり?
私も悩む。別になんとなくだったし、私がお茶をしてそのままボーっと聞いていても絶対に誰かが声を掛けてくれるので会話の孤立はない。お母様からもなるべくみんながわかる話題をふってハブらないようにと習ったから――とりあえずそれぞれの無難な身の上話なら問題ないかな、と思ったんだけど。
王妃様を外さない話題なんて、私に分かるわけがない。王妃様を孤立させるわけにはいかないから、本人もいることなんだし王妃様に近かったユリユア様の話題を持ちかけただけ。
よく見てみよう。話題をふられた本人であるユリユア様はまだうーん、と悩んでいる。私を見ながら。それには探るような目でもない。睨んでもいないし何か私に対して怪訝なものでもないね。
王妃様を見てみよう。王妃様をそんなじっくりと見るわけにはいかないのだけど……というかやっぱりまとっているキラキラでいまいち見づらいよっ。どこも変わらずにこにこ。まったりとほうれい線を描かせながら「あら、あら」と頬に手を当てて笑っているだけ。私では読めません。
次にペダニア様。私の隣なのでメルダ様と同じく顔が一番、近くで見れるので判断はしやすい。まあ、こっちも王妃様に負けず劣らずの笑顔でお茶会に参加しているんだけどね。「ん?」と首を傾げられてしまった。むしろ興味がありませんね?そう言えばみんなはいつから城に勤務しているのかな?
メルダ様はわたわたしっぱなし。ユリユア様の様子を伺いつつ、私にそう言う個人の話を聞くさいは人がいない時にやりましょうと教えてくれる。
教えたくもない話もあるし、私たち(ユリユア様、メルダ様、ペダニア様)は城で支える魔法師と騎士。それも王妃様のお側を任されているのだから王妃様の前ではどんな時でも隠し事は許されない。だから王妃様がいる前で隠し事は絶対に駄目だと教えられた。
それを聞いた私……にやっ、としたのは内緒です。隠し事ができないんだって。ならば色々と聞きたいことは聞いた方がいいじゃないか……ふっ、ふっ、ふっ。
「私は別に構わないぞ?クフィーは気になるのだろう?」
「はい!」
「え、ですがっ、ユリユア様が辞めた理由は他言無用。絶対に外に情報を洩らしてはいけないと教えられましたが……?」
「そんな大袈裟ではないだろう?ティルリエ様」
「他言無用にはしていましたよ。当時は大事だったのに、忘れてしまったの?今はわだかまりが緩くなりましたから、そう思えるのでしょうね」
「え?え?」
「メルダ様はどのような事を教えられたのですか?お二方ともお聞きしたいです。駄目ですか?」
「私は構わないのでいいと思う。ただ、中々に恥ずかしいからな。深くは聞かないでくれ」
「は、恥ずかしい……?」
メルダ様が迷宮に足を踏み込んでしまった模様。大丈夫かな?
「まずはメルダから聞きましょうか。何か誤解がありそうだわ」
王妃様が主導権を握りました。当然だけどね。王妃様にそんな事を言われたら答えなくてはなりません。これって私も入るのかな?相手は王妃となると私も当然?うーん……その時に考えよう。
で、メルダ様が聞いている話では『陛下の愛人だったがいづらくなって辞職した』と聞いているらしい。
あ、嘘だ。
そう思っていましたら王妃様から「ふふふふふふ」。ユリユア様から「ははははははは」と笑い声が。因みに誰でもわかるように――目が、笑っていません。怖いっ。
「誰から聞いたの?メルダ。正直に……答えなさい?」
「私からも聞きたいな。誰が、誰の愛人だと?」
やばい。対面しているから全面的にこっちに2人の冷気がっ!秋だから寒い!!ものすっっっごく寒いっ!!思わず両手を抱えたのはしかたがないと思われます!!
笑みを崩さずに冷たい微笑み。美丈夫で上乗せされた冷笑……目を合わせないようにすることが、私のできる事ですっ。見捨てたんじゃないよ、メルダ様。これは私が関係していない故の処置です。抱っこちゃんは許すから早くこの見えない吹雪を止めてくださいませ!!
ぎゅ~と私を抱き、震えながら答えるメルダ様は素直に同じことを答えた。そしてペダニア様を見捨てたよ。メルダ様にあらぬ事を吹き込んだ犯人はペダニア様でした!本人は?笑顔だけどちょっと口の端なんかがひきつっています。逃げられないよ?
ペダニア様とわかった瞬間、目の前の2人は揃って同じ向きに視線を送り、笑みを絶やさずに名前を呼ぶ。すっごく優しい声のはずなのに、すっごく刺がある声だよっ!?もうこの2人が怖すぎてお茶会を解散したいですっ。
そしてあえなく項垂れるペダニア様。なんでそんな嘘を付こうとしたんだろうか。あのピンクオーラを放っているだろう空間が存在するのに……後で王妃様と相談するんだそうです。なんの相談かは深く考えないでおこう。
ここで気持ちを切り替えるようにユリユア様がメイドさんにお茶を入れ換えさせて……咳払いを1つ。うん。気持ちを入れ替えましょうか!
「あのな、陛下のお心は王妃であるティルリエ様にしか向いていない。私も私で一人の男にしか心を向けていない。もちろん陛下ではないぞ?どうしてそれを信じられた。当初からお二方は観劇の題材になるほど愛し合って有名だぞ」
「相手はペダニア様でしたし……私はまだ若輩者でペダニア様とグレストフ様ぐらいしか外を知れなかったので……その、鵜呑みにしました」
「………………そう、だったな。情報が少なかったか。では、この後はペダニア殿に受けてもらおうか」
「――お手柔らかに。控えめを望む」
ほほほ。ふはは。2人が肯定も否定もしないでにやりと笑っておいでです。ここは空気を変えねばっ。後味が悪いよ!!てか私が気になっているのだよ!!7歳児は空気を読まない!!これは常識だ!!
「ユリユア様のお心を捧げたお相手は何方なんですか?」
「ん?クフィーはもう逢っているぞ?ずっと近くにいただろう」
「え?近くにですか?」
「ああ。ものすごく近くいたぞ」
はて?近くに。近く、に?私の近くといえばお父様は論外として――レーバレンス様とか?でもずっと近くではないや。あれ。魔法師って少ない。となると、騎士?あ!
「アビグーア中隊長様!」
「外れよ」
王妃様は知っているの!?て、そうだよね。辞職したんだから理由を聞かないとこんなゆったりと隣に座っていられないよね。
えー。誰だっ!誰だっ!!誰だっー!?……歌っている場合ではない。考えねば。いや、もしかして……ユリユア様の近くなら、
「ウォガー、大隊長……?」
「正解だ」
そう言って距離があるはずなのに私の頭を撫でるユリユア様。腕を伸ばすと届くんですね?すごいな――じゃなくて!!ウォガー大隊長なの!?あの獣人の!?狼の顔の!?たぶん黒色の!?いや、これは関係がないよっ。
驚いて声がでない。間違いなく目は見開いているので、私の反応は伝わっているよね。ちょっとはにかみながら頷いているユリユア様がいる。
そう言えばユリユア様を心配しているウォガー大隊長がいた。じゃれ合っている2人を見た。あと気が合うよね。気心が知れている、というヤツなのでしょう。
え?じゃあ2人は夫婦?夫婦なの?でもユリユア様ってお母様の姉だから公爵だよね?今思うと王族関係じゃない?こっちの侯爵だったっけ?あれ。家のことが分からなくなった。せっかく教えてもらったのになあ。話したく無さそうだったし、いっか。
あれ?でも待てよ?今になってようやく大事なことに気づいた。ユリユア様の夫ってことは私から見たら伯父だよね?つまりは従姉妹で身内だよね?身内に近いよね?てことは……
「ウォガー大隊長は姪のお願いを聞いてくださるでしょうか!?」
「姪のお願いなら、私が叶えさせよう」
「こ、こここ今度!あのしっぽを触れるかお願いしてもいいですか!?」
「――ぷっはははははは!!」
笑い事ではないのだよユリユア様!伯父に当たるなら可愛い(笑)姪の頼みを1つや2つ聞いてくれるよね!んねっ!?
ずずいっとユリユア様に聞いてみたら笑いが収まらないみたいです。ちょっとお腹まで抱えて笑っている。王妃様も「まあ。姪なら叶えなきゃ伯父の名が泣くわねぇ」とかなんとか。味方がここにいる!
ちょっと考えたらそうだよね!ユリユア様ったらなんで教えてくれなかったのっ!あれだけ警戒されて据え膳だったけど、この理由ならユリユア様も味方につくと思うし行ける!!今度は行ける!!待っててウォガー大隊長!
興奮してか体がうずうずしていたらしい。メルダ様の抱っこちゃんとなっていた私を支えるようにきゅっと絞められた。もう顔がにやけてしまっている私は笑顔全開。誰にも私を止められないよ!!んふふー!
「あー、笑った。しかし、まさかクフィーがウォガーのしっぽを狙っていたとは」
当たり前じゃないか!あのもふもふ。ふさふさ。どっちだろう……いや、ウーウのようにすべてが備わっているかもしれない。ぜひとも、触ってみなくては。これはこの世界にきた私の使命である!
「狼狽えるウォガーが見れそうだ。段取りを決めようか、クフィー」
「いいのですか!!」
「ただし、ウォガーが本当に渋ったら諦めるんだ。出来るな?」
「うっ……私が直接お願いしてもいいですか?」
「さらに条件を付ける」
あれ。空気が、変わった?
「なんでしょう」
「私は王族のかなり薄まった血縁者で公爵だ。価値はとうにない。もちろん、言わずともアーガスト家も離縁しているので口にしても利用価値は立証されない。まあ、それはいい。意味のない話だ。私が言いたいのは、複雑なことにウォガーの家名を名乗れずに公爵のままなんだ。ウォガーとは夫婦ではあるが話は凍結したまま進まず、本当の意味では夫婦ではない。故にウォガーとは縁が結ばれていない状態だ。この事を知っているのは今ここにいる私たちと、本人、陛下、グレストフ、クレラリア、ヴィグマン、ベルック宰相のみ。つまり、私が言いたいのは今の話を知らない状態で頼むこと。これまで通りに接するんだ。――できるか?」
「……なぜ、お話を?」
「私は姪のお願いに弱い。言っていなかったが、辞職した理由はウォガーの子を授かったからだ。ティルリエ様もその話をして頷いてくれた……結局、生めなかったが、な。だから身内の子どもにはどうも弱い。重ねているのだろう。自分でもわかっているが、姪や甥の願いは叶えてやりたいと思う」
しんみりしたな、と切り上げてユリユア様は笑う。気にすることはない。と言われたけど――気にするレベルですが!?
最後に誰にも言うな、とみんなに釘を指して冷めた紅茶を口にする。メルダ様がちょっとしゅんとして下を向いていた。ペダニア様は知っていたんだと思う。苦笑いだ。
私は大きく頷いて姪を封印でウォガー大隊長のしっぽを触ってみせると宣言する。代わりにさっきの話を忘れるように、ウォガー大隊長のお願いするときの弱点などを聞いてみたりと空気を変えていく。
ふむふむ。先手を取って喋らせないことがあるから、こっちで話の手綱を握るのが鍵なんですね?王妃様がころころと楽しそうに笑っています。因みに見つめるのも効果があるそうです。たぶん、それはユリユア様だけだろうね。私の熱い眼差しはいつもそっと避けられていましたから……あ、なんか泣ける。
それから魔法剣のお話しやペットのお話しなんかで盛り上がってユリユア様が呼ばれて出ていかれました。『帝王』を連れて帰るんだって。特徴とか聞いてきたから色々と言っておきました!おっさんだよ、て!
そしてなぜかそのままお昼を食べてお昼寝をさせられましたよ。どうしてそうなったかって?私が聞きたい。
メルダ様のパーニャをお布団にして寝ると気持ちいいと言ったのが悪かったのかも?語ったらどこからか運ばれたウーウが5匹いる部屋に連れられて大人3人に寝かされました。本当に意味がわからない。そして横になったら眠くなると言う、ね。そしてそのまま寝ちゃう私もどうなのだろうか……いいか。ウーウのお布団は最高だよ!




