実は………
ご指摘も含めて修正いたしました。28.11.27
お父様のことを聞いて……怒らせてはいけないんだ、とは思ったけど怒らないよなー。とかなんとか。むしろ私たちが怒らせるのは難しいような気がした。
もしかしたらトールお兄様が不良にでもなってしまったら……愛の鞭的な激怒が炸裂するのでは……?てか、あれを聞いてもしお母様がお父様に愛想が尽きて離婚とかになったら魔力暴走が目に見えるんですが?絶対にそうなるよね?悲しみにくれて周辺が窒息して屍類類……
でもお父様って【火】と【水】2色だよね?魔力暴走をしたらどうなるんだろう?離婚と言われて――不安、になるよね?なぜだ。どうしてー、て。じゃあ【水】の魔力暴走で……その後はどうして離婚なんて、とか考えて激昂?ヤンデレ経由でお父様の理性も暴走して【火】の魔力暴走、とか。魔力暴走に第一と第二がある予感。2人を切り離してはいけないね!
まあ、あの2人に限って離婚はないよ。なったら大変だ。きっと息子と娘の親権争いでどちらにするんだとか揉めるに違いない。愛が深いからこそどちらも引かないんだよ。でも決まらなかったらユリユア様が間に入って子どもたちは一時預かりになりそう。
そもそも、喧嘩をしていたところを見たことがないからどれも現実味がなくて最後に『ないな』で終わっちゃうんだよね。もうあれだ。変な事を考えてしまったのでお昼寝タイムにしよう。そうしよう。休憩に入りまーす。
パーニャのところに戻ればまだお昼寝をしていたからそこに私も混ざる。ノルアも私の膝の上でうつ伏せからの大の字。今日のお布団はさっきまで陽に当たっていたおかげでぽかぽか……お休み~。
「あら。クフィーちゃんは寝てしまいました」
「寝る子は育つ」
確かにそうですけど。あのままだと日で焼けてしまうではありませんか。
ペダニア様にお断りをいれて日除け傘を移動してもらうべく、廊下に立つ騎士に声をかける。外にいたのはあのアビグーア上級騎士。彼は背が高くて私でも上を仰いでしまう。まだ顔は馴れていません。でも、クフィーちゃんのおかげで少しは馴れてきたと思っているわ。
手短くクフィーちゃんが寝てしまったことと、傘をずらしてほしいことを述べてお願いする。声は聞こえなかったけど顎がくん、と早く引いたので了承を得られたことに安堵するわ。
日除け傘のありかを伝えて――パーニャはきっとまだ陽に当たっていたいでしょうから、できるだけパーニャの……せめて頭の部分には陽に当たるようにしてもらってクフィーちゃんには影に入るように作ってもらった。
ざくっと軽々と刺さる日除け傘は一度でちょうどいい角度。アビグーア上級騎士にお願いすると、たいていは一度で完成してしまうから楽でもあるのよね。クフィーちゃんの頭を撫でて去っていく姿はもう見慣れたもの。この時だけは顔が暗殺者のように鋭すぎる眼光も、緩んでいるような錯覚になるのよね。どこを見ても強面なのに………………お礼を言ってまた護衛についてもらう。
季節の変わり目ですから――ノルアが埋もれないように、まだ薄手の毛布をクフィーちゃんに巻けば完成ね。
「アビグーア上級騎士のあの顔、初めて見る」
「私もです。最初は目を疑いました。クフィーちゃんにだけですよ?彼が表情を崩すのは」
「すごい」
「もっとすごいのがこれから見られますよ」
「なにがある」
「見ていればわかります」
これは本人がまったく知らないと思われる事なのですよ。私が傍にいると何も起こらないのにクフィーちゃんを一人あの場に寝かせておくと来るのです。
少し待ち――まだ来ないみたいですね。では来るまで少しお話しを。ペダニア様は真剣にクフィーちゃんを見ていますがこちらが何もしなければちゃんと来ますから……
「ペダニア様。お食事を運んでくださり、ありがとうございました。でも、それだけではありませんよね?」
「グレストフに言いつけられたのは本当」
「何を言いつけられたのでしょうか?」
「娘に色々と話をしてやれ」
「……つまり、話し相手ですか?」
「エルフの私を見たとき、ずいぶんと珍しそうだった」
ああ、つまり物を与えたい衝動が別の形で動いたんですね?珍しそうにみていたエルフに、お話しの機会を与えたわけですか。
グレストフ一進魔法師様ならやりますね。いつも笑顔のペダニア様も、笑顔が少しだけ困ったような苦笑いになっています。
でも問題はないでしょう。ペダニア様だって元々は私や王妃様の話し相手を基盤に行動をしていらっしゃいましたし。クフィーちゃんが加わっただけですから問題もなにもありません。クフィーちゃん、可愛いし賢いですから。
こうやって他愛ない話をしているだけでいいと思いますよ?私も知っていることしか話しませんし。分からなければ分からないと言えば素直に話を切り替えますし。いま思えばできた娘さんだわ。
「あ――来ました」
「ん」
きっと度肝を抜かれると思います。私も、最初は驚きすぎて一歩も動けませんでしたから。まだ夏でしたし、部屋から暑いだろうと日除け傘を準備していたら――来ていたんですもの。
あの方が大事に育てている、非常に珍しい鳥。魔素ではなく魔力を食べるのですが躾ればちゃんと飼い主の魔力しか食べない賢い鳥。少食ですから飼うには大丈夫でしょう。顔一つ分の大きさであるその鳥は滑らかな羽を持ち頭から長い尾羽にかけて艶やかで陽に当たれば当たるほど翡翠の色が輝くクジャジャ。求愛するときはその長い尾羽を扇のように広げて魅せるわ。
あまり飛行はしないのに――どこから見ているのか聞きたくなる絶妙な頃合いでクジャジャのアルティーはやって来るのよね。それも、クフィーちゃんが一人の時に限り、狙ったかのように羽ばたいてやって来る。
今日はクフィーちゃんの肩に止まったようね。クジャジャは顔一つ分の割には軽いのでクフィーちゃんは起きない。ペダニア様はこれを見て……また珍しく笑顔を消して驚愕しているわ。目が点で少しだけ口が開いています。右手は指を差すように動こうにも、処理が追い付いていないようで小刻みに揺らして動くだけで動作は端から見たら――言っては悪いのですが、変です。でもきっとこれは最初の頃の私です。心の内にしまっておきますね。
あら。アルティーったらそんな事をしたら怒られるでしょうに……クフィーちゃんの魔力をほんの少しだけ食べたようだわ。うっとりとクフィーちゃんの髪に顔を擦り付けている。食べるときは嘴をぱくぱくするから可愛いのですけど……後で王妃様に言っておかなければ。
「なぜ、アルティー、が」
「たぶん、クフィーちゃんの魔力に惹かれたのかと。あの満足そうに頬擦りするアルティーを見てください。王妃様以外にも嬉しそうな顔をするんですよ」
「……クジャジャは飼い主の者以外の魔力を食べない。人目を気にする特性は出しているのに勝手に食べている。飼われているのだからこれはお咎めしなければ主従が変わる。通りで最近のアルティーが王妃様に擦り寄りながら魔力を貪ろうと……」
「アルティーはそんな事をしていたのですか?」
「擦り寄ると言うことは欲が出ている証拠。魔力を食べ尽くされたら主従が逆転してしまう。まあ、王妃様の方が上手だ」
言い終われば指笛を即座に吹いてアルティーを遠ざけようとする。クジャジャはエルフの森から連れてきた子で、元の飼い主はペダニア様。クジャジャの好物の属性は【光】。【闇】のペダニア様より王妃様の方が好いたのは当然のことだったと聞いています。【光】>【闇】なんだそうです。他の四つはその人の魔力量によるとも。
指笛が届いた瞬間アルティーは驚いたようですぐにどこかに飛んでいってしまいました。ペダニア様がすごくホッとしたような顔でクフィーちゃんの傍によります。
クフィーちゃんの顔を覗きこんで……笑顔のまま短く息を吐いたかと思えば私の方に向きました。早足でこちらに向かってきます。
「エジーラ。私はこの事を王妃様に伝えてくる。ごめん」
「構いません――が、実はもう二匹ほど面白いのが訪れてくるのです……そちらもお願いできますか?」
「……どこから。誰の。何がくる」
「驚いてください。天からとある方の蝶が来るのです。とある方の魔力結び蝶が。ご丁寧に光輝くものと、赤と青の二色が」
「………………………………………………親か。私にお願いするのなら光輝く蝶は王族かヴィグマン………………」
「どなたの散策かは知りませんが、グレストフ一進魔法師様に許可を得ているのならいいです。ですが、クフィーちゃんに何をしているのですか、と。後は任せます。グレストフ一進魔法師様には何も言わなくていいです。家族絡みに首を突っ込む気はございません」
「どれだけ心配している……」
「クフィーちゃん、なぜか巻き込まれる体質だそうですよ。誘拐も何度かあったみたいです。ウィルに聞いたぐらいですが色々な事柄にクフィーちゃんがいるそうです」
「伝えておく。また来る」
「お願いします」
本当はもう少しお話ししたいのですが仕方がありません。早々と報告書を書き上げたペダニア様はすぐご自分の影へ入っていかれました。急に静かになった気がしますね。
ふっと見てみると二色の蝶が。ひらひらと舞ってクフィーちゃんの頭に止まり――そして散る。今日も確認していらっしゃるみたいね。
魔力結び蝶は追跡の魔法。相手の名前と属性を魔法文字に書き込み、魔素を伝って追いかける魔法。中級の魔法で距離が伸びるにつれ魔力を奪われる、加減がしにくい魔法。遠ければ遠いほど魔力が奪われますからね。使い勝手がいいような悪いような、その魔法師にもよります。私はやったことがないのですけど……
グレストフ一進魔法師様なら城から遠ざかることはありませんからね。きっとクフィーちゃんの居場所をそれとなく把握して本当にそこにいるのか確認しているのでしょう。あれは行ったとき、近ければ近いほどどこにいるか大体がわかりますからね。
しばらくしたらひらひらとまた光輝く方の蝶が飛んでくる。クフィーちゃんは色々な人に心配されているわ。本人はまったく気づいていないようですけど。これ……知ってしまったらどうなるのかしら。クフィーちゃんって虫の形をしているものは全部、駄目みたいなのよね。
この前は花の蜜を取りに来た密吸いはすごかったわね。黄色と黒のちょっと羽音がよく聞こえる虫なのだけど……ノルアを掲げて狙っていたのよね。ちゃんと当ててしまうノルアもすごいけど、見てもいないのに的確な方向を向けるクフィーちゃんもすごいのよ。あっちにいる!とか言って……
私から言わせてもらえば、密吸いはお尻に毒針があるから攻撃をせずに身を屈めて何もせずにただひたすら待ってくれていた方が嬉しかったのだけど……怪我がないからよしとしておきましょう。
でも危ないから注意はさせてもらったわ。全力でノルアに任せる、と言い切っていたけど大丈夫でしょう――たぶんね。
そう言えばミーミも駄目だったわね。足がたくさんある奴が駄目と言っていたけど軟体のものも駄目みたいね。気持ち悪いと叫んでやっぱりノルアに助けてもらっていたし。
クフィーちゃん、ノルアでよかったわね。仮にグレストフ一進魔法師様が鳥のものを持ってきていたら餌は絶対にあげられないと思う。ノルアが雑食でよかったわね、クフィーちゃん。
またクフィーちゃんのどこかに触れた魔力結び蝶は散る。本当、誰かしら。私はここからあまりでないから誰、と確定できないのよね。ウィルにも聞いてみようかしら?
「うーん……」
「起こすべきか。そのままにしておくべきか」
と言うかノルア。あなたまで一緒に寝てどうするの。鼻提灯まで作って……庭をいじろうと思っていたけど、やっぱり読書にしましょう。傍でみていないと不安になるわ。
クフィーちゃんが来てから楽しいけど、たまにすごく不安になる。頼っているようで頼らない小さな少女。頭を撫でてあげればふわりと笑顔でまだ夢の中。
「将来はどんな子になるのかしら……」
私のぼやきは、風に飛ばされてしまったので持ってきた本に集中しましょうか。




