お父様はどんな人?
昨日に間に合いませんでしたっ。
修正いたしました。28.11.6
異色の覇者――その名はどうして付いたのでしょう?
え?知らないの?って言われてもね?どこかで聞いたような……聞いていないような?その時にどうでもいいや~なんて思っていたものって忘れちゃうんですよ。改めて教えてくださいな。
あ、あと十進魔法師、王宮筆頭魔法師の時のお父様とか。これはツケが回ってきたような気がするけどね。身内を知らないのはまずいわ。私の親不孝ものっ。
「『異色の覇者』は二つの属性を巧みに扱って征したとかじゃなかったかしら?」
「かしら?」
「ごめんね、クフィーちゃん。私がここにいるのはもう十年ぐらいは経っているの」
え?――いや、そんな申し訳ないような顔は止めてくだされっ!私だってなんか申し訳なくなっちゃうよ!?て、なに驚いているんですか?
「――ふふふ。大丈夫よ。ほとんど軟禁のような扱いだけど、あの時の私を見ればこれが一番、安全だったの」
「え、あのっ、でも」
「私ね、クフィーちゃんの父君――グレストフ一進魔法師様に助けられたの。あの時の王宮筆頭魔法師っぷりは格好よかったわよ?」
またふふんって笑っていますがね、あの、重たい話ですか?いやいやいやいや……でもお父様、なんでまたエジーラ様を救出したのかな?やっぱり気になるから聞こう。
でもエジーラ様の口ぶりは軽やかにすぱーんと軽めでした。エジーラ様も振りきっているからか、実はこうでこうなってその時にお父様に助けて貰っちゃった!みたいな。……本人がそれでいいなら、いいか。
なんでもエジーラ様はもともとは平民だそうです。それで――すぱーんと言う要領で話してしまうと、若魔法師を卒業する時に開花→魔法院の花壇を私物化→変な貴族に目を付けられた→監禁されて一ヶ月後には王宮筆頭魔法師が助けに来た→トラウマになったから陛下から恩情をもらい今の生活。その時に陛下に誠心誠意と誓うことを誓い、十進魔法師になって爵位をもらったらしい。
その時はけっこうな人見知りでお父様以外は怖かったわ、なんて笑っている。無理もなく自然に笑っている、と言うことは乗り越えている証拠ですね。笑い話に出来るならそれでいいか。
で、その時にお父様はすでに王宮筆頭魔法師、なんですね?十年以上は経つね。あれ、お父様って今……40は過ぎたよね?30――ぐらいで王宮筆頭魔法師?なんか若いような……?
「父君はとても立派な方よ。家族愛がすごいけど……見ていないところでは本当に凛々しいのよ」
「あのお父様がっ……!?」
「そんなに衝撃なの?そりゃあ家族に甘いようだけど……あ、でも敵とみなしたものには容赦しないわよ。切り替えが激しいのよ」
「私の知っているお父様とは違うのでしょうか?」
「少なくとも、私を助けてくれた時の父君は凛々しかったわ。抵抗した貴族に四方八方の水球と手には真っ赤な炎で制圧。私の監禁されていた結界なんて氷の刃で壊れてしまうし、繋がれていた鎖は手のひらに【火】の身体強化で熱を集め、握って溶かしていたわね。怯えていた私にはローブを被せて気遣ってくださったわ。すぐに女性の魔法師を呼んで対処も完璧に」
誰だ、それ。てか水球を四方八方って私も似たような事をやった記憶がっ。あと、結界って壊れるんだ……それに【火】の身体強化で鎖って解かせれるんだ……あんるぇえ?お父様ってなんだかすごい人な感じがっ。
いや実際にすごい人なんだろうけどさっ。いつもがあれだからこう、ね?派手な魔法を見ていないからと言うかすごさがいまいちわかっていないと言うか。でも強さだけで決まるわけじゃないし?お父様ってなんでもできそうな匂いがしてきたな……
他には?と聞いてみると仕事はきっちりこなすし言うことないみたいな言い方をされてしまった。待って。お父様の人物像がぐちゃぐちゃになりそうだわ。でも、しっかりお父様って認識はできるんだよね。んんー?
……食べてからにしよう。
頭のエネルギーが足りないからわからないんだ。きっとそうに違いない。だから私はお昼を食べることにする!
と、言ってももうしばらく待たなきゃ駄目なんだけどねー。ここに完備されたキッチンはありません。お茶用のためのシンクのような洗い場はあるけど……調理器具はないのです。本当に、茶器をゆすぐための場所と水が出せる魔石だけ。シンプルなんだよね。
だからお昼は誰かが運んでくれるまでお預け………………お腹の虫は大人しいからまだ大丈夫だよ!気持ちは先走って空腹を訴えているけどねっ。こう言う時は何も考えずに会話をしていればいいのですよ。うん。なに話そうかなー。
「ここは窮屈ではありませんか?ご飯も作れません」
「よっぽどお腹が空いているのね。クフィーちゃんはここが窮屈に見えるでしょうけど、私は元が平民だから逆に広く感じてしまうわ。ふかふかのベッドはあるし、料理は運ばれてくるし――花は最初から好きだったから好きなように好きなだけ愛でられて何も文句はないわ。人に逢う機会も、その時には必要がないくらいだったから……今はウィルがいてくれるし」
「エジーラ様はウィル様のことが本当に好きですね。お父様とお母様みたいです」
「ほ、本当っ!?そ、そそそそれだったら……いい……」
え。ショートしそうなぐらい顔がグレーの一色……つまりは真っ赤なリンゴ状態ですよね?私のお父様とお母様みたい、はそんなに嬉しい言葉だったのかっ。知らなかったよ……
嬉し恥ずかしまで影響を及ぼす我が親はどれぐらいすごいのか……余計にわからなくなった瞬間である。
でもよくよく考えたら家族愛を日頃から爆発させているんだし、周りからみたら実は、いい……?そりゃあお父様は男爵から伯爵になって公爵令嬢のお母様をかっさらって息子、娘への愛もすさまじい。
実は鴛鴦夫婦の鑑とか象徴されている?そこまでではないよね?そんな拡大はしていないよね?ああ、でも今日の朝にキスしていたな。私もほっぺと言うか耳あたりが両親にサンドされたわ……親の愛は尽きていません。なぜか疲れが出てきたんだけど?深入りはしない方が身のためかもしれない。
エジーラ様もソファーに埋もれるように照れて会話が続行できません。なにやらウィル様と並んでいる姿を想像しているらしい。口元がかなり緩みきって笑っておいでです。これは気づかないふりでもして放っておきましょう。
逃げるように……何に逃げるんだか。気分転換にでも庭に出てパーニャに癒してもらおうっと。もちろんノルアも癒されるけど、マイブームお布団も癒しなのです。気持ちいいのだよ!
庭の隅っこで日向ぼっこをしているパーニャ。ありゃ、寝ちゃってるや。食い気の方が勝っているから頭でも撫でてよう。ふわふわなんだよねー。そう言えばパーニャを洗ったら眉毛カーテンが解放されちゃうのかな?このお布団がへちょーん、てなるのは想像できるけど……水を含んだ眉毛カーテンはさすがに邪魔だよね?どうするのかな?
ノルアは毛深くないから洗うの簡単そうだよね。あ、でも気分屋だから逃げるのかな?なんか温泉に浸かるようにリラックスしてそうな気がするんだけどなあ。どうなんだろう?動物臭と言う独特な匂いはしないんだよね。パーニャもしないんだよね。洗わないのかな?
「ご飯」
「っ!?」
ぎゃあ!?と叫びそうになりましたよ!誰ですかっ、後ろをとったの!?髪を振り乱すようにぐるん!と振り返って……あれ?ペダニアさんだ。にこー、としながら頭を撫でられました。今日は絶対に頭を撫でるdayなのかもしれない。
私が驚いたせいかノルアも驚いちゃって頬を膨らませて警戒体勢。むしろ発砲の準備は万端。私の膝の上で両手を広げて仁王立ち。可愛いとしか思えないよ。
ペダニアさんは降参するように両手をあげてまた「ご飯」と言う言葉だけを残して撤退。ご飯が食べられるんだったらぜひとも行きたい。パーニャはまだ寝ているからノルアを抱えてそのまま中に。ちょっと落ち着きのないエジーラ様は見えないことにして、真っ正面に座った。うん。パンとスープにサラダ。いつものお食事……が一食分、多い?
「ペダニア様もご一緒されるんですか?」
「久しぶりに。グレストフに言いつけられた」
「怒られていましたからね。そろそろ書き留めておく物を持ち歩いたらいかがですか?」
「邪魔だ。書いても見ることはしない」
それじゃあ意味がないよ!
「そうでした。聞きたいことがあるんです」
「なんだ」
「なにかしら?」
「お父様が激怒すればどんな感じなのですか?」
忘れてた。今しがただったのにすっかり忘れていました!そうだよ。お父様が本気で激怒となるほどの怒りを爆発させたらどんな感じなのだろうかと思って聞こうとしていたのを忘れていました!だから激怒したこと前提でお話しを期待します。
ほら、私の――と言うか家族の場合だとたしなめる程度ですんじゃうから。咎める時も静かに諭してくれるし。だから、激怒したらどうなるのでしょうか、てね。
目の前に並ぶ二人を見て首を傾げてみる。これがまた面白いことになっているんだよね。エジーラ様は照れた顔を消してちょっとだけ眉を寄せて悩んでいて、逆にペダニアさんは笑顔――なんだけど、固まっている。うん。張り付けたとかそんなのではない。手まで完全に、固まっています。
私がペダニアさんを見ていたらエジーラ様も気づいたみたい。どうしましたか?と聞いていても応答はなし。どこか別の世界と交信をし始めてしまったようです。お父様が激怒したら機能停止するほどすごいのかな?どんな風にすごいのかなんて想像もできないんだけどね。
「ペダニア様?」
「どうしたのかしら?」
顔の前で手を振ってみても……微動もしない。すごいね。それだけ衝撃的な言葉だったのかな?お父様の激怒が?わけわかんないよ。
このまま構っていてもしょうがないから私とエジーラ様はペダニアさんを気にしつつ、お昼ご飯。だってノルアが食べていい?と催促してきたんだから食べなきゃ私たちのが冷めてしまう。
湯気がなんとなく見えるスープは野菜の味。塩?うーん……微妙。食堂とかスパゲッティがあるくせに王宮のって高級感がないよね。陛下たちと食べた事があるけど、なんか塩とかだったし。たまに当たりと外れがあるメニューを止めてくれないかな?飽きるだろうけどミートソースだけでもいいから食べていたいね。絶対に飽きるけど。
パンはどこも変わらず固いような柔らかくはない、普通。美味しくもないし不味くもないから普通としか答えられない。と言うか個性が強いんだよ!美味しいけど豆パンはやっぱり真ん中に押し込んであるとか止めてほしい。何か違うって思えて拒否反応がでちゃう。
サラダは普通。ほぼ、生。私はドレッシングとかをかけない人なのでかなり問題がない。なにかわからないけどシャクシャクしている白っぽい白菜?みたいな芯の葉っぱはしょっぱくてこれが味になる。やっぱり問題ない。
「はっ――!?私はいったい……」
きっと異世界に飛び立とうとしていたと思われます。こんな概念、ないかもしれないけどね。てか私たちはもう食べ終わっちゃったんだけどな。
「大丈夫ですか?ペダニア様」
「――問題ない。少しだけ過去を思い出していた。グレストフが激怒していた過去だ」
「激怒、したんですか?」
「あのグレストフ一進魔法師様がですか?やはり、家族絡みなのでしょうか?」
「ああ。あるところに愚かな魔法師がいた」
絵本のような滑り出しで話が始まってしまった……いや、いいんだけどね。なんだか本当に絵本……と言うか本を読んでもらっている感覚だし。
えーと、あるところに愚かな魔法師がいた。その魔法師は王宮筆頭魔法師に王手をかけていた人。人望もほどほどにあり、経験も色々と積んでいた50歳。本来なら陛下に認めてもらえれば王宮筆頭魔法師になれた人。しかし、そこで横からひょーいと飛び出してきたお父様が王宮筆頭魔法師の座を奪っちゃったらしい。戦争の成果が主で、陛下もかなり期待して王宮筆頭魔法師に任命したらしいよ。
それを聞いた次期王宮筆頭魔法師だったその魔法師。彼は侯爵の人で、お父様が横から奪ったのが許せなかった。いきなり出てきて奪われたんだもんね。そりゃあ怒るよ。
で、腹がたったその魔法師はお父様を蹴落としたくてお母様を拐ったらしい。その時にはすでにお父様と夫婦になっていたそうです。で、ようやく夫婦になれたのに奪われたお父様が激怒したんですって。その時にお父様を止めるために派遣されたのがペダニアさん。
「あれは二度と怒らせてはならない」
「どう、なったのですか?」
「グレストフは二つの属性を持っているだろう?魔力暴走とまでいかずに魔力で制圧していた。器用な奴で――クレラリアを助けいてる段階でその愚かな魔法師の屋敷半分は消し炭になり、残りの半分は凍結した」
うわ……
「そして最悪なことにクレラリアが怪我を負っていた。縛られていたらしく、手首が赤くなったぐらいなんだが……まあ、抑えが利かなくなってその魔法師の敷地を分厚い氷で囲み、巨大な火球を撃ち込んで消滅させた。不思議な事にその氷は溶けることもなく、壊れることもなく、数日はそのままで処理するのが大変だった。因みにまだ怒りが静まらなかったらしく、魔法師には【威圧】でほぼ精神崩壊の瀬戸際まで追いやって屈服させていた。鎮めたのは妻のクレラリアただ一人だ。私は手も足もでなかった。ついでに言えばその土地は今、土魔法師が数年もかけて元の平地に戻し、一応は住める環境を整えた。未だに空き地だが」
「お父様を怒らせてはいけない、と言うことがよくわかりました。間違いなく本人が暴走しているんですね。理性も残しながらやってのけそうで質が悪そうです」
「ええ?それで締め括る内容だった!?なにか凄すぎて私にはついていけないのですが!?氷が溶けないし砕けないってなんですか!?火球には温度調節ができました!?普通はもう爆発していますよっ!土魔法師が数年かけて直すほどはどれくらいの被害なんです!?」
そこは……あえて、聞いちゃ駄目なんだよ、エジーラ様。敷地って言っていたからきっと広大な敷地なんだって。個人的には魔力がよく持つな、と思うのです。お父様ができるって事は私にもできるよね。
そかて分かることはただ一つ。帝国に乗り込んだら8割の損害の意味がわかったよ。そうだね、【水】か【火】のどちらかを絞れば単騎でいけるような気がする。なんだかお父様の偉人説がちょっとわかったような気がした。




