相談事?ゆるやかでした
修正いたしました。28.11.6
沈黙を破ったのはグラムディア殿下。唸りに唸りまくって――考えていたものが口から飛び出た感じです。
「普通はグレストフ一進魔法師殿の娘も気になるところ。しかも魔力が多いのだからそれを見逃さないはず。それなのに知らない。現帝国は困窮の末、戦争を捨てて民を助けようとしている。してるよな?……そのためには『緑の姫』と称したエジーラの力が必要で――あちらは本当かどうかわからないから『帝王』を使って確かめさせた………………帝国はなぜエジーラの事も知らないんだ?我々も帝国と同じ事をしているからだ。摘まねばエジーラは漏洩されて我が国は危ぶまれる。いや、しかしこれを鵜呑みにして戦争が始まる可能性も……その前に名前を調べ上げて――ああ、でも王冠を返さなければ厄介な火種が飛び交うのか。でもそのためには使者を送らなければならないし、かといって無闇に帝国へ誰か送るのも………………しかし王冠は邪魔であって返さないことにはあちらもなにか仕掛けてくるだろう――いや、でも困窮しているのだから戦争が出来そうにないのか?では我々が攻めいれば勝てると?その先手に和平をたしなめた?……それを今さら――」
グラムディア殿下はさらに迷宮入りした。
そんなフレーズがぴこん!と音付でよぎる。なんだか私は引っ掻き回しに来てしまったみたい?ごめんね、グラムディア殿下。そんなに悩むとは思わなかったよ。
でもなんでそんなに悩むのだろうか。私はお気楽な考えしかできないから『どうしてだろう』としか思わないのかもしれないけど。ちょっくら和平の下調べに誰かを派遣して様子を見てから色々と考えればいいんじゃない?まあ、帝国はどの国にも犬猿の仲らしいけど。
軍事力の強い帝国を手引きするデメリットが強いのかな?確かに寝返りされたらたまったもんじゃない、か。でも困窮するほどなぜ帝国って黙っていたんだろう?帝国でもどこか同盟国はある……かは知らないけど、助けを求められるよね?はいお父様、説明を。
「ん?」
「帝国はなぜ我が国に和平を求めたのですか?エジーラ様だけを必要としているのでしょうか?」
「うーん……こればかりは難しいな。まず、帝国にどんな変化があったのかが予想できない。だからこちらも対応できないんだ。現に、聞くだけならどちらの国も情報と言うものが欠落している」
うん。確かに両国の情報が面白いぐらいにない。
「帝国の回りにも他の国がありますよね?なぜ我が国なのでしょうか?」
「帝国は完璧な独立国なんだ。そのため他国との干渉は一切ないんだよ。正規の契約者のみ入国が可能な独立国。うちを選んだのはエジーラの情報を耳にしたのと――因果関係、だろう」
「因果、関係……ですか?」
と、聞き返すとノルアが飛び上がってしまった。突然でうっかりと手を離してしまってかなり焦っています!ちょっ、お父様!ノルアが机の上に飛び上がっちゃったんだけど!?止めようよ!!
しかし、誰も止めるわけでなく――唯一で動いたのはグラムディア殿下を守るための騎士様だった。カチャ――と金属が鳴る。けど、ノルアはまるで気にしない素振りでたたたたー!とグラムディア殿下の前まで駆けちゃった!?ど、どうしよう……?
なんだか所在なさげに私の腕が宙で止まっちゃったんたけど……え、ノルア?帰っておいで。もう少しいい子にしててください!お願いだから口から発砲はしないでね!?まだきちんと見ていないからどんな威力とかも知らないんだけどさっ。
グラムディア殿下の前までたどり着いたノルア。じぃー……とグラムディア殿下を凝視していますね!そんなノルアをグラムディア殿下も見つめて………………躊躇いながら頭を撫でていた。あ、素直に撫でられてる。
え、ノルア……?もしかして私の事が嫌いになっちゃった?グラムディア殿下は普通に格好いいからそっちになびいちゃったの!?君、雄だよねえ!?
ノルアー!!!!!!
「そう言えば……この子はなぜここに?」
今さらだなあ!?
「先程からいましたよ……殿下がなにも言わないのでそのままにしていたのですが?」
「……気づかなかったな」
目の前にいたのに!?
「まさか施術の後遺症がっ!?」
「殿下っ!?」
「いや、それはない。グレストフ一進魔法師、ヴィグマン十進魔法師、座ってくれ」
おっどろいたー。お父様が急に立ち上がるから目を見開いたわ。抱えられててよかった。ただ乗せているだけだったら確実に転げているよ!てかヴィグマンお爺ちゃんのでも驚いた。息、合っていますね!エジーラ様も私みたいに驚いているよ!
かなり力を抜いた感じで座り直して……本当に気づかなかったらしい。今はノルアに指で頬とか顎の下とか額?頭を撫でたりとか。ノルア……和んでいるね。別にいいけどっ。癒しはみんなで共有しようじゃないかっ。
そんなグラムディア殿下はちょっと夢中になってノルアを構いつつ……ポツリ、ポツリと話し出した。なんか、しんみりしてきましたね。
聞くところによると、悩んでいるそうです。何を悩んでいるのかと言うと帝国の和平に賛同するか、しないか。――なんでそんな重要っぽそうな話を始めちゃったのかわからないけど……グラムディア殿下もお疲れのようです。愚痴のように喋り始めた。
なんでも、グラムディア殿下はあの爛れた顔になってしまった時、かなり帝国を憎んでいたらしい。ざっくり言っちゃうとグラムディア殿下があの傷を負った経緯には帝国の手引きがあり、戦争の最中に味方の騎士に裏切られたんだとか。その時にお父様たちがなんとか追い返して現在は睨み合っているとも。
で、治らないと思っていた顔も治っちゃったし。魔法剣の需要が薄れてしまった代わりにその事件に関わっていた不穏分子もおかげで一掃なんかできちゃったし。なんと言うか、そこまで恨むものでもないかなー、て。
ちょっとどうでも良さそうに、しかも他人事のように話し出しちゃうグラムディア殿下に私は唖然。抱っこされているためにお父様の表情は見れないのだけど、隣のヴィグマンお爺ちゃんとエジーラ様は呆然とそれを聞いている様子。ウィル様は表情に出さなかった代わりに眼鏡を数回にわたって直していた。
私が思うに、そこまでいいかなー?で留めちゃうんだったらざっくりさせちゃえばいいんじゃない?と、思う。吹っ切れてるんでしょう?なんでわざわざ改めて聞き出したりしてるの?て、あー……帝国の状況がわからないから、か。
「殿下――もう、踏ん切りがついたのでは?」
あれ。お父様はなにかに気づいてたの?なんだかちょっと意外かも。
「そうだな……あわよくば帝国の内城を、と思っただけだ――もう少し調べて交流でもしてみるか。見た方が早い。と言うわけでグレストフ一進魔法師殿、帝国へ」
「私は陛下のお側からから離れられませんので」
「……本音は?」
「家族と離れたくありません」
ブレませんね。グラムディア殿下も軽くため息を吐いちゃったよ。
「しかたない。別の者に頼むとしよう。十進魔法師たちに伝えておいてくれ。目覚めたらレーバレンス魔術師にも……陛下に取り次ぎ、色々と下調べが先だが、ゆくゆくは帝国と手を組むかもしれない。覚えておいてくれ」
「心得ました」
「ウィルとヴィグマン十進魔法師は私と一緒に陛下の下へ。グレストフ一進魔法師はエジーラを送ってやってほしい。――助かった。礼を言う」
「勿体なきお言葉でございます」
「クロムフィーア嬢も、付き合わせて悪かった。ゆっくり羽を伸ばしてくれ」
そう言って――私の頭を一撫でしてからグラムディア殿下は早々に立ち去った。お供を5人引き連れて。徒歩で行くらしい。実はあった扉から順番に出ていった。
それを見送ってから私たちも戻りましょうか。と言ったのはエジーラ様。なんだか吹っ切れたような顔で私の頭を撫でてくれる。みんな、今日はよく撫でるね?
そう言えば……私はこれからどこを拠点にすればいいのだろうか?またエジーラ様のところ?それとも前のように戻ると思っておいていいのかな?お父様、どんな感じ?
「本当は元通りにして屋敷に戻りたいんだがな……エジーラの所だ。毎っ日!お父様は会いに行くからな?」
「魔法院には行けますか?ジジルやエリーに逢いたいです」
「もちろんだ」
おおー。ちょっとは改善されたよ!本当ですか?と訪ねれば満面な笑みで本当だ、と返してくださいました!よし!言質はとったよ!
じゃあ帰ろうかー、てことでノルアを私の腕の中に回収。たたたたー!と駆けてジャンプですっぽり。突進のようであるけど痛くないのが不思議なんだよね。なにかしてるのかな?まあいいけど。
でも……思うのですよ。さあ行こうかー、てエジーラ様と共にお父様も立ち上がって扉へ足を踏み出して――止まる。両者とも、一歩も動かなくなりましたとも。で、そのまま固まって……2人して椅子へ逆戻りである。何してんの?
「忘れていました。自分の立場を」
「忘れていたな。人目と言うものを」
「………………つまり、どう言うことですか?」
「ペダニアが来ないと帰れない」
…………………………………………………………ちーん。
そんな音が鳴ったのは私だけでしょうか?そう言えばエジーラ様って王宮の機密だったね。加えて私がそこに隠れるように滞在していたんだっけ。て、ことは誰かに見られちゃ駄目なわけだ。行きでお願いしたペダニアさんの意味がない。
「どうするんですか?」
思わず本音がっ。
「ペダニアが来ない限り移動はできないわ。王宮内部ですから……いくらグレストフ一進魔法師様でも、さすがにクフィーちゃんに教えられないもの」
「そうだな。内部を知ってクフィーにもしもの事があれば困る………………待つしかないだろう」
「ちゃんと来てくださいますよね」
――あれ、返事がない。なんで?下からお父様を覗きこむけど、娘と目を合わせてくれないとかどういう事ですかね!?え、エジーラ様もなんでちょっと遠くを見るような目をしているの?どこを見ていますか?そっちはたぶんでもなく何もない壁なんですが?何が見えると言うんですかね!?
ちょっと気になったので聞いて見ることにしました。ごめん、ちょっとじゃなくてかなり気になるから聞き出そうと思いました。もう色々と聞いてやれ!
ペダニア・マルツイノム――エルフ。年齢は年上だよ、としか教えてもらえません。属性は【闇】。影渡りを見たんで分かりますよ。性格……そう、それを聞きたいです。あの笑顔は忘れません。きっといつもにこにこしているに違いない!
「どこのエルフと変わらないと思うわよ?甘味が好きな長寿で魔力が高くて――あ。ペダニアのように終始ずーっと笑顔でいられるのは彼女ぐらいじゃないかしら。私が聞いた話ではエルフは仏頂面が多いと言うわ」
「そうだな。彼女はかなり珍しいだろう。あと、これは本人に言ってはいけないんだが、あれでもかなりの年齢でね。老いて衰えてきたのか最近では物忘れが酷くなったんだ」
「そんなにお年を召されているのですか?全然、そう言う風には見えません」
「エルフだから、としか言えないな……あと数十年もすれば外見も変わってくると本人は言っていたかな?」
「そうなんですか……エルフはどれだけ長生きなのでしょう?」
「千年、かしら」
と、言うことは……あと数十年で衰えるなら500歳は軽くいっていて……外見が変わるとなるともう少し後半にいくよね。もしかして700歳ぐらいはいっていたりして?
うーん?と考えていたらお父様から本人に年齢だけは駄目だからね、と諭されました。追撃にエジーラ様が女性には、と加えてきます。さすがに私も分かるよ?相手は女性だからね。そこまで言うぐらいなのだから軽く流してくれる寛大なお方ではないんでしょ?大変な目に合うような事はしません。
あれ?そう言えばさっきの短い会話の中ですごく気にしなきゃいけない言葉が混じっていたと思うんだけど……なんだったかな。ペダニアさんの年齢が気になってしかたがないや。それと甘味が好き、とか。あれ?何が気になったんだったかな?
「それにしてもノルアくんは大人しいですね、グレストフ一進魔法師様。殿下の前に出てきた時はひやりとしました」
「だが、殿下もノルアを気づかなかったと言っていたからな……よほど視界が狭まっていたのだろう。わざわざクフィーにまで意見を聞こうとしたぐらいだ」
「そう言えば私って意味があったのですか?結局は同じことを伝えただけですよね?」
「いや、後半は有力な情報になっただろうな。クフィーは何気なく言ったつもりだろうが、殿下にとってこれから知らない事は罪になる。小さな事でも聞き入れて見極め、過去に囚われず踏ん切りも付けたかったのだろう」
そう、なんだ。やっぱり大変だね、グラムディア殿下は。
それから気分屋のはずのノルアはなぜこんなにもなつくのか議論して、ノルアで遊びつつお喋りを。人に慣れたのか頬を膨らますことなくみんなに弄られていた。でもノルアから見て映るように前からやらないと警戒するみたい。お父様が上から撫でようとしたらしっぽで叩いてきた。しっぽも武器らしい。殺傷能力は備わっていないのが救いかもしれない。これでしっぽまで凶器ならノルアをどう抱っこすればいいのか悩むわ。
で、肝心のペダニアさんなんだけど……すっかり忘れていたみたいだね。私のお腹が空いた、なー?と言う率直な音が鳴り響いて、さすがにお父様の仕事が差し支えるから呼び出していたよ!どうやってかって?この王宮の部屋にはメイドを呼ぶベルがどの部屋にも常備されているらしいよ!今回は邪魔だったからエジーラ様が空席だった椅子に退かしてて忘れていたらしい。苦笑いを浮かべつつ鳴らせばあら不思議。メイドさんが登場するではありませんか。
そのメイドさんにペダニアさんへ言伝てをして――少し待って笑顔でやって来るペダニアさん。忘れていたんだって。それを聞いて、ああそうだ。さっき『物忘れが酷い』て聞いたんだった、と。
3人の視線に笑顔で対応するペダニアさんは普通に交わしていたけどね。まあ、ようやく戻れたのでよしとしよう。ただ――お父様を陛下の元へ帰すのも忘れていたらしく、一人でさっさと帰ろうとしていた時はさすがにお父様が怒ってた。
今思うと、お父様が激怒したところを見たことがないなー、なんて。騒ぎまくったお父様とペダニアさんをやっと見送ってそんな事を考えていた。……よし。エジーラ様に聞いてみよう。仕事をしている時の王宮筆頭魔法師、十進魔法師を。




