悩ましい
修正いたしました。28.11.6
起きたら――みんながいつもより心配してきます。昨日はそのまま帰っちゃったからアビグーア中隊長に逢っていないので、今日は逢いに行くよ!
「元気になったかい?」
「はい。お父様」
「目は大丈夫ね。クフィー、よかったわ」
「ご心配をお掛けしました。お母様」
「私たちの寿命を減らすな、クフィー。もう危ないことをしてはいけないぞ」
「気を付けます。トールお兄様」
「心配事はもうこりごりですわ。今度、わたくしからクフィーへ慎みを教えてあげてもよくってよ?」
「その時はお願いします。リディお姉様」
みんなから熱い抱擁と頭をなでなでしてもらって朝食。今回はお母様が離れないので、私は両親の間に入って食べる。時々――あーん、てされるんだけど、これは回避……が、出来なくて躊躇いながらも食べさせてもらった。なんだか複雑である。
因みに、ノルアも我が家におります。そのまま持って帰っちゃった!大人しいから大丈夫だよ。初めて見るお母様たちに警戒してか頬を膨らませていたけど……言い聞かせると止めるんだよね。賢すぎるわー。
それより……過保護っぷりが増しましたね。みんな離れない離れない。そりゃエジーラ様を庇って誘拐とかされちゃったら怒るよね。『帝王』の事もあってどうして逃げなかった!とも怒られました。うん……カルテットパンチは痛い………………当然だけどね。
そのまま夜までみんなでくっついてお話ししていたけど、最終的に私がいつの間にか寝ちゃってお開き。眠いなー、と思った矢先で寝ていたみたい。
で、朝。起きたら川の字でビビりました!私は真ん中。あれは本当にビビったよ!?なんじゃこりゃあ!!て叫びそうになったもんね!叫ばなかった私、えらい!!叫ばない代わりに動いたら両親2人が起きたけどね!2人にサンドされて朝の目覚めは一瞬で覚醒しましたっ。
そしてジェルエさんに呆れられながらも準備をして食堂へ、ですよ!お母様、あーん。はもういいと思います。お父様、いちいち褒めなくても大丈夫。私はもう7歳なので自分で食べられますから。
そんな事もありながらトールお兄様とお父様、3人でお城へレッツゴー。あ、ノルアもね。因みに私はお父様の腕の上が今日の定位置だと思われます。絶対に離さないんだけど?ポメアはお留守番。闇の日だから魔法院はあるはずなのに……?
城についたらちょっと名残惜しそうに頭を撫でてくるトールお兄様と別れて中央を歩く。中央の、ちょっとそれた両脇はそれぞれの医務室なんだって。魔法師と騎士の医務室。
なぜ別けてあるのかを聞いてみると、昔は魔法師と騎士の仲がすごく悪かったから。怪我人同士で一緒にまとめると、見舞いに来た人とかが動けない奴にわざわざちょっかいを出していた馬鹿とか、患者同士でどうでもいい口論がいつの間にか始まったり、ね。そんな事が多々あったらしいから別けてあるんだとか。ストレスが溜まるし、患者にあんまりよくないことから今も別々にしてあるらしい。
今は仲良しではないのか、と聞くと魔法剣の事もあるからもしかして改善はしていくのではないか、とのこと。
昔はそうであったけどお父様が生まれた頃は仲がよくなってきていたらしい。しかし、数十年前にグラムディア様が魔法剣で傷を負った、と言う理由でより二つは馴れ合わずにまた決別したんだとか。騎士の剣が悪いのか。それとも剣に施した魔法が悪いのか――両者にまた亀裂が入ったんだって。まあそれはただグラムディア様を労る人が多く、そこまで深く仲違いしたわけではないらしいけど。
それに昨日の儀式でグラムディア様が顔を元に戻し、謝罪と熱意と決意で魔法剣を集う部隊を立ち上げたから新たに2つの関係は見直していくのではないか、とのこと。
でも工事費用、材料、人員や時期などの問題で今から新しく医務室を作るのも変えるのも面倒だからそのままだろうなー、と言うお父様。たぶんそれが一番の理由だと思うよ!
まあそれより――今回、私たちが用事として訪れたのは、レーバレンス様のお見舞い。倒れたままだからね。一気に帝国からここまで飛んだらしいから倒れちゃってまだ起きないんだとか。私を連れ戻すためにかなり無茶をしたみたい。まだ魔力が戻らなくて眠り続けているらしい。本当にありがとうございますっ。
ノルアの入室もなぜかOKを貰って中の様子を伺う。管とかは付いていないけど、寝かされいてるレーバレンス様は静かすぎる寝息で安静。お父様が様子を聞くに、魔力を回復させるために寝ているだけなので大丈夫だそうです。あと二日ほど眠れば起きるってさ。
安堵を胸に退出。眠っている人に何かできるわけじゃないもんね。見舞いの花を持ってきたわけじゃないし、まず私は抱っこされているからできないし。迂闊にノルアを離したら大変だからね。初めからお父様に様子を見るだけ、と言われているから……次はグラムディア様のところへ向かう。アビグーア中隊長は部屋で待っているんだって。挨拶ができないのかと思って焦ったよっ。
まだ朝には早い。実は朝の9の鐘は鳴っていないのにこちらに来ました。6の鐘が鳴ったてしばらくしてから出たよ!よくて今は8時くらいではなかろうか。まあ、おかげで人が少ないんだけどねー。だからこうして堂々と魔法棟から通れるんだよ。久しぶりだなー……
魔法棟から入った景色は変わらずキラキラがいっぱい。右を見てぎっしりの本棚。左は訓練所。低く囲んだ壁の中には人数が少ないけど何かやっている人たち。うん。変わらないね。
そのままお父様の私室に向かうらしい。人目はやはり気にせずに突き進んではい、お部屋へ到着。そこにはヴィグマンお爺ちゃんがいた。アビグーア中隊長も!
「おはようございます」
「おはよう。娘っ子は元気になったか?」
「見ての通りですよ。私が傍にいますからね!」
「ご心配をお掛けしました。もう大丈夫です。アビグーア中隊長も……遅くなりましたが、ありがとうございました」
「いい、無事で……よかった」
扉を守るようにいたから近かった。そのため私の頭を簡単に撫でて笑ってくれたよ!?驚きはしなかったけど、笑った顔を間近で見たからちょっと凝視してしまった。ここまで笑顔が凶悪になるとは……歯を出したら悪どくなるなんて、なんて不憫なっ。
笑い返したらぽんぽん。うん。いつも通りだ。
ちょっと和やかなムードでしばらく談笑していたらノックが。お父様が誰だ、と聞けば「ペダニアです」と返ってきました!女の人だ!
さらにどうぞ、と返せば暫くしてゆっくりと扉が開く。顔だけを覗かせた人はやっぱり女の人!しかも笑顔だ!さらっと流れ落ちた髪は肩を少し過ぎるくらいかな。なぜか真っ白に見える……白?瞳は――濃いグレーだね。うーん。落ち着いた雰囲気はやっぱり寒色系になっちゃうんだよねー。セリアンブルーとかがいいなー。
「お揃い?」
「ああ。頼む」
「……わあ」
と、思わず声を出したのは仕方がないんだよ!だって今さら気づいたんだけど、このペダニアさんはエルフだ!
髪とか目の方を気にしていたから気づかなかったけど、身を乗り出してまっすぐ立ってもらったらさらさらな髪の間から突き出る長く尖った耳!ピン、と伸びていて私の目はそこに釘付けである!
私の声に反応したのは目の前にいるペダニアさん。逆にじぃっと見返されて……なぜか私の両耳を掴まれました。なぜ。
訳がわからず見つめていたのですが……上から咳払いが聞こえます。でも無視するのがペダニアさん。無言のまま目と目を合わせあっているのだけど……何があるんだろうか。
「この子、凄い。ほしい」
「駄目だ」
「……エルフでもこんな魔力が高い子、いない」
「私の娘だ。養子にも出さんぞ」
「ちっ」
えー。舌打ちが目の前でっ。なんだか一瞬で印象が変わったんだけど……笑顔の舌打ちって攻撃力が高いんだね。印象が滅多打ちだわ。
仕方がない、と言って離れてくれたけど、なんだか目だけは離れない不思議。もうこの人がどういう人なのか想像が着きません。
と、言うかね。よく見たらこの人……十進魔法師様でした!すごいな私!もうあと一人に遭えば10人、全員と出逢っちゃった事になるよ!
でも、なんでこの人がここにいるのでしょうか?わからない時はお父様を見上げてみましょう。娘が大好きなお父様はお話しがしたいのか、喋ってくださるんです。ほら。
「レーバレンスが倒れたからな。急遽、彼女が私たちを運んでくれる事になったんだ」
「そうなんですか?よろしくお願いします」
「頼まれた。ペダニアが私の名前」
「クロムフィーア・フォン・アーガストです」
「可愛い……」
「こら。ペダニア、そろそろ移動してくれ」
「……………………………………わかった」
すっごい渋々。でもすぐさま笑顔に戻る。なんだろう?笑顔がデフォルトだけど言葉がなんか断定的な……まあいいや。お父様の同類に近しい人物だって事はだいたいわかったから。
なぜか私の手を繋いでヴィグマンお爺ちゃんとアビグーア中隊長を呼び集めた。それぞれ肩に手を置いて繋がる感じ。真っ直ぐに並んだら滑り出せそうだね!スケートかっ。
それを確認したらノルアに息を止めてもらって、いざ出発!一瞬だけどね!てかノルアが優秀すぎる件について話したいな……頬袋を膨らませてちっちゃな両手で口を押さえるのは可愛いんだけどね?ちゃんと息も止まってるみたいだし、いいんだけどね……賢すぎるよ、ノルア。
さらさら~とペダニアさんが書き出して魔素を集めて影渡り。エルフのイメージに闇属性があるなんてちょっと驚きだけど、やはり上級者。もう移動しました。
「何かあったのか?」
「いいえ。遅れて申し訳ありません」
遅れたんだ……今、何時ですか?
視界に映るのは……グラムディア様。それにウィル様とエジーラ様。近衛?の騎士3人がグラムディア様を守るように立っていますね。
「私はこれで失礼する」
ペダニアさんはここで退場、と。お父様は私を抱えたままグラムディア様の目の前の椅子に。ウィル様の左隣。逆はエジーラ様だね。お父様の後ろにアビグーア中隊長。お父様の左隣はヴィグマンお爺ちゃん。グラムディア様の両脇は空席。誰か来るのかな?
「では、始めようか。まずクロムフィーア嬢にはその小さな体でエジーラを守ったこと、その勇姿を称えたい。よくやった。――しかし、クロムフィーア嬢はまだ小さいのにも関わらず省みない所業に私たちは胸を痛めた。我が国は子どもを盾にするほど、愚かではない。このような事は二度とせぬように」
「――はい、」
しか言えない……グラムディア様がなんだか威厳に満ち溢れていて怖いです。でも心配そうに私を見る。居たたまれなさが襲ってくるんだけど!?これいかに!?でもあの、今さらだけどノルアはこのままでいいの?見えてるはずなんだけどな……いいのか?
えっと、うん。お話しに集中しよう。
「今後の話について――帝国だが、陛下へ書状が届いていた。和平を結ぶための、書状だ。その中に現在の帝国はどのような事になっているか書かれていた。そこでクロムフィーア嬢。先に君から帝国の話をもう一度、聞きたい」
「帝国の、話ですか?どのような事でしょう」
「私たちは帝国を探れない。諜報員として何人か渡っているが、すべて消されている。残りは外交としての人材しか残っていないが……規制があるため深くは探れていない。城の、皇帝と顔を合わせたクロムフィーア嬢に見てきたもの、聞いてきたものをもう一度聞きたいのだ」
……つまり、私が嘘をついているのか疑ってる、と。でもこれは私が疑っているだけかも?もしかしたらお復習の気持ちかもしれないし……黙っていてもしょうがないのでまた説明するけどさ。
同じことを2回も言うのって変な感じ。ちょっと言葉の使い方とかは変わるかもしれないけど、内容な一緒。帝国は兵を出兵できないほど困窮していて、『緑の姫』に助けを求めている。でも確かかあちらではわからなかったから、それを『帝王』に確認させた。しかし、『帝王』が持っていた情報では『緑の姫』情報が一致せず私とエジーラ様とで悩んだ結果、私が持ち運びやすい事から連れ去った。これを私は『帝王の出来心』って言ったんだよね。まあ間違っていないと思う。
で、それを聞いた――私を持って帰ってみせた『帝王』に皇帝が求めていた結果と違い、怒って乗せていた王冠を『帝王』に投げつけた。当たる前にそれはあっさり受け止め、私は帽子スタンドとして被せられてごちゃごちゃと向こうが喋っていたら私の強行奪還で戻ってきた、と。
「皇帝の表情や……体格などどんな感じだろうか?他の人間は?外の景色は見ただろうか?」
「皇帝は『帝王』の所業に疲れたおじさんとしか……謁見の間へ行く通路で目覚めたのですが、辺りは暗かったとしか覚えておりません。窓はありませんでした。『帝王』に運ばれていましたが、みなが痩せているような感覚はありません。外の景色はさすがに覗く暇もありませんでした」
「……殿下、昨日と内容は変わりませんし、そこから推測できる要素はないかと」
「そうか………………他に、気になることはあるのか?」
「あの、気になることが……2つほど」
「聞こう」
グラムディア様、ずいぶんとお変わりに……殿下、って付けなきゃ間違えそう。気を付けなきゃ。
「帝国そのものを私は知らないのですが、皇帝は代替わりをしているのでしょうか?私はエジーラ様から意識を反らすために不躾ながら『アーグラム王子の婚約者』と名乗りました。連れていったのは持ち運びが楽だった、と言うことでしょうが『帝王』はそれを聞いていい駒だと思って連れていったような事を言っていました。しかし、皇帝はそれを否定し『戦禍の帝国時代は終わり帝国は生まれ変わった』と言っていたのです」
「皇帝、が?」
「はい。一応は『帝王』も和平を認めていましたが納得がいかない素振りを少々と愚痴を溢していました。数十年前から変わってきているみたいなのです」
「数十年前………………陛下に後で名を聞いておこう。もう一つは?」
「その、私情で皇帝が不憫に思えまして……なんだか嘘が申し訳なくなり、そこで私の素性を正直にお話ししたのです」
「クフィー……それは危険だ。嘘の申し開きは悪手でしかない」
「すみません」
「……それで?」
「はい、あの……その人たち、私がお父様の娘だとわからなかったようなのです。加えて私のような幼い子どもがいるとも知らなかったようでした。城でお父様は私を幾度も連れ回っています。魔法場でも騎士棟でも私は顔を見せているので少なからずお父様の娘としては知れ渡っていると思うのです」
「あら?変ではありませんか?グレストフ一進魔法師様はどの国にも警戒対象のはずです。私が教えてもらった諜報員の話は十年前ぐらいから潜伏していたと聞きました。報告は季節の変わり目にやっていた、とも。知らない事はないと思われます」
「それだけグレストフ魔法師殿の娘はどうでもよかった、か?」
「ですが、他国から見ればグレストフ一進魔法師殿は脅威です。警戒しておくのは当然でしょう」
え、お父様ってそんな風に見られているの?ビックリだわー。
なんとなく気になりだしたから言ってみたんだけど……逆にわからなくなった感じに仕上げてしまいました。ごめんなさい。
ウィル様の指摘にグラムディア様――殿下が考え込んでしまいましたよ。よくよく考えれば確かに要注意人物だったら少しでも情報を確認したいよね。脅威なんだし。変な事をされたら困る。でも、私の時は驚いていたんだよね、帝国の方々。
ついでに、その事を知った皇帝がまるで関わりたくないとでも言うように返してこいと叫んでいた事を教えておく。おかげでますます帝国がわからなくなったとウィル様とグラムディア殿下が言うけど……気になったんだもん。しかたないじゃない。
「帝国は……帝国のあり方が根本的に変わったのか?……なぜ?」
深い悩みの種になってしまった模様。当たり前だけど。しばらく誰も喋らなくなってしまいました。これから――どうなるのかな?




