心に、決めて
改訂いたしました。27.11.15
もうすぐ秋です。夏がそろそろ終わりですが、上層部はばたばたしていてまだ夏のように汗を流している人がいるんだとか。私は調整の魔法具を着けているから別に問題ないんだけどね。
どったんばったんと回りが慌てているところ、私のところはゆったりで過ごせています。うん。変わんないねー。
でも薬草の見分けはあんまり解決してないかなー。エジーラ様を先生に頑張ってみたけど、見比べて違いと言うものがないんだよね、キズナオ草とドクデス草。最近は成果が見えないから最後に「魔力感知で見分けよう」てことに落ち着いちゃったし。
植えてある状態の奴も見たんだけどね。なんと言うかやっぱり一緒だった。ただ、採取はもしかしたら楽かも知れないと思ったよ!だってドクデス草は日陰でキズナオ草は陽当たり抜群に分けてあるからね!さすがに分かりやすすぎたよ!!
他にも石の奴とか、何かの欠片とか、液体とか………魔力感知でやるしかなかったけど………やっぱり液体がねー。みんな透明じゃん。たまに色のついた液体があるけどグレーだし。教本とかエジーラ様が言うにはこれを何倍に薄めるとかでしょ?私のお先がだんだんと真っ暗だよ。
臭いでいちいち区別なんてできないし。硫酸みたいに溶け出すものがあるから無闇に小瓶を開けられない。その前に触っちゃ駄目って言われたよ。鉱物なんて銀の鉱物と白金の鉱物がほぼ一緒。もう、苦しい。必死に区別をつけようと思うけど難関が多すぎる。全部を魔力感知しても多い少ないは感覚だからあんまり期待できない。
私、魔学医なんて無理なんじゃない?
そんな言葉がよぎる。むしろその言葉が重くのし掛かってくる。ちょっと落ち込むよっ。うわーん!!
「パーニャ、ノルア………私を慰めてっ………」
「あらー。まあ、そうよね。ちょっと行き詰まるものね、ゆっくり休みなさい」
そうやって慰められたら泣いちゃうよ。みんなで寄り添うように2人と2匹。エジーラ様は読書でみんなお昼寝タイムにはいる予定です。
エジーラ様が布を敷いた場所を軸に、パーニャが顔を擦り寄せて頭を撫でてもらいながら寝付き、私がその横腹から背中にかけて横向きに寝転がって転た寝して、私の膝の上でノルアがうつ伏せで大の字になって寝る構図。
遠くからみたらなんと微笑ましいのでしょう。てかノルアくんや。普通の動物って丸まって寝るのではなかろうか?なんでうつ伏せで大の字なの?私には疑問しか残らないよ。
―――聞こ………………ます………………
今日も魔力感知を練習したから?最近、なんとなくだけど回りの空気が違う感じがする。何て言うのかな?こう、振動しているって言うか。なんかもわもわしている。うーん………まあいいか。
それと魔力操作もなかなか上達してきたよ~。やっぱりエジーラ様も驚いていたけど仰け反るほどではないらしい。じゃあエジーラ様もなかなかの魔力保持者なんでしょうね。意外と付き合ってくれたよ。終わった後はちょっとだけ疲れた顔はしているけど。出来ないことはないと言う。なんだか申し訳ないね。
―――聞こえ、ます………………………………あ………
それはそうと、私も少しは考えなきゃ。自分で治すぞー!とか言っておきながら。難所がありすぎて挫折しかかっているのはいただけない。これじゃあ魔学医になって治すぞ計画が崩れてしまう―――
て、そうか。魔力感知があるんだから魔塊を利用して魔力感知を………いやいや、どうやって。てかまとまってない。えーとまず、魔塊は私の属性魔力の固まりである。うん。精霊がわざわざ別々にしてくれたんだよね。それでその魔塊を消すことは難しいとヴィグマンお爺ちゃんから言われました。魔力がまた混ざって、あの魔病が発症しちゃうからだね。
消す方向は無くても私の眼を治す方法………むしろその魔塊を再利用する方法を考えた方がいいのではないかと考えます。だって、魔塊って自分の魔力が溜まっちゃったんでしょ?なら魔石と変わらない。魔力をうまく通せばなにか使えるのでは?もう少し考えた方がいいね。
『これぐらいですか?聞こえますか、幼き娘』
はい、聞こえます。あ、ついでに相談に乗ってくれませんか?………………………ん?
「え」
「どうしたの?」
『私です。まぐとりです。そのままでお願いします』
「―――変な夢をみて驚きました………」
「そう。まだ寝たばかりだから、もう少し眠りなさい」
「はい」
あー、驚いた。うっかり声をあげたからエジーラ様に不思議そうな顔で見られてしまったよっ。変じゃなかったかな?なんかそこだけが一番気になっちゃうかな。
のろのろとパーニャのいいポジションを探して………よし。ここだ!ええと、そう。念話みたいのできたよね。ああ、ちょっと憂鬱かも………
『お久しぶりです。お昼寝のところを利用して声をかけてさせてもらいました』
『お久しぶりです。あの、アトラナの事………ですよね?………その、私ではどうにもできなくて』
『その事についてですが―――貴方をとやかく言うつもりはありませんよ。そう言う、約束です』
『っ―――…』
『見てましたから。そして、聞きましたから。あの子たちはちゃんと貴方に伝えて、止めてくれた。だから二人で生きようね、と』
アトラナ―――あの後も、2人で生きようと頑張っていたんだ………どうしようも無くても、支えあえる同じものがあったから。
『あの、まぐとりはすべてを、見ましたか?教会で爆破が起こったのですが………それは、アトラナ―――なんですよね………?』
あ、あれ?早急すぎた?直球すぎた?アトラナのことを聞いたら返事が返ってこない。そうだよね。急ぎすぎたっ。クッションなしに突っ込みすぎな訪ね方にもう落ち込むしかない。落ち込むことしかしてないね、私。
あんなに精霊………アトラナを気にしていたまぐとりが知らないわけないと思うし、お父様がアトラナの魔力暴走で間違いないって言っていたじゃん。教会だから共鳴破棄だって分かるだろうし、精霊を見たいのは当たり前だよね。結果がわかっているのに、無粋すぎだ。
『ごめんなさい―――』
ああ、どうしよう。本当に何も言わなくなっちゃった。野暮すぎるっ、馬鹿だな私ぃぃいいい!!
まぐとりが何も言わないのなら私も言わない。何度も謝ったって念話しか通じていない相手では私の誠意が伝わるのかが微妙だ。見ているのなら土下座かなんかしている。けど、それをやると私は変な人になるね。エジーラ様に。
どうしようと悩んでいてもしかたありません、よ。だからたまにごめんなさいといい続ける。心で話しているので涙声にはならないよね?ああ、どうしようっ!?どうやったら伝わるんだろうっ。
「怖くないよ。ここにはパーニャとノルアも、私もいるでしょう?大丈夫、安心してお休み」
優しい声はエジーラ様。撫でてくれる手はとても暖かくて鼻がつんとした。きっとすでに泣いていたんだと思う。目頭の間を撫でられたよ。もしかしたら私が魔力暴走をしかけたのかな………そうしたらパーニャが、動くか。
なんにせよ、とっても優しい声と手が私を落ち着かせてくれる。平和ボケしていたから、きっとこんな失態をしてしまったんだね。本当、ごめんなさい。
『ごめんなさい』
『―――いいえ………私も、まだ気持ちが切り替わらないのです。精霊はあの子だけではありません。そして―――あの子だけが悲惨にあっているわけでもありません。他にも生まれてすぐに人と触れた精霊は魔法の糧として命を奪われる事があります。生まれた精霊はどうしても、最初は無知なのです』
『それでも、ごめんなさい。アトラナも精霊も私の手ではどうにも出来ませんでした。子どもの私ではうまく立ち回れません』
『そうでしょう。幼子では動けません。あの子たちだってそうでした―――だから、あの結果が生まれたのです』
だから?だからって、どういう意味ですか?なんだか嫌な予感がしてまた無粋にも聞いてしまった。気づいて最後には聞いていいか聞く形にしたけど………ああ、駄目だ。私は何をやりたいのか、私はなんなのか分からなくなってきた。
それでもゆっくりお話ししてくれるまぐとりは大人だ。いや、長く生きているのだから大人は当に越えすぎているかな。
教えてくれた内容は………やっぱり、って感じだね。大人が子どもに無理強いさせるやつ。アトラナ、親に負けちゃった………
精霊がアトラナの体にいるとわかったセチェフ子爵は教会の信者。どうやって情報を仕入れたのかはまぐとりも細かく分かっていないが、精霊を知ったセチェフ子爵は急いで回収しに来たらしい。元からアトラナの暴れっぷりに城側も手を焼いていて、その2つの関係は仲良くはなかったようだ。
親が城に押し付け、城が管理していた。それだけ。だから城の方も当家が回収してきたのだから何も言えずに帰したんだそう。でもそのままアトラナは子爵家ではなく、教会の方へ引き渡された。お金、たんまりもらったらしいよ。アトラナが見たって。子どもの前で何やっているんだか。
しばらくは何人かの子どもたちと遊んでいたけど、やっぱり魔力暴走が起きてしまい結局は隔離されたって。それでも頑張っていたけど………数週間前に精霊の解放を仕組んだらしい。親に誘導させ、無理矢理に解放、したんだって。
まぐとりが言うには教会にいる一人の仕業ではないかと言っている。あの教会で一人だけ、眼を会わせたくない、近づきたくもない歪んだ魔力を持った人。精霊を食い殺している人―――それが教会にいたらしい。
なんだか怖い説明が入ったからさすがに割り込んで聞いた。精霊を食い殺しているって、なにかな?物騒すぎて黙って聞けないよ。そう言えばアトラナも魔法師を見て『人殺しの眼』て言ってたよね―――どういう意味なの?
それは魔法具です、とのこと。魔法具とはいっぱいあるので私にはわからない。どんな物でしょうか、と聞くと魔素を取り込むものと返ってきた。魔素=精霊、を取り込む。だから『人殺し』………精霊も、考え方が意外とすごいね。
話を戻して―――その歪んだ人を中心に動いたと思ったらアトラナが教会のどこかに親に連れ出されて―――爆発したと言っている。最後にまぐとりへ、泣きながら『助けて』。そして―――『クフィーちゃん』と呼んでいた、て………
もう我慢できなくて泣きまくった。後は大人に任せればいいや、とか。私は子どもだから出来ないって。なんでわんこ様に別の方法を聞かなかったんだろうとか、もうぐちゃぐちゃだ。
すぐ近くからエジーラ様の声が心配そうに聞こえる。
ねぇ、なんでかな。なんで私は関係ないと思ったんだろう。なんでもっと探ろうとしなかったんだろう。見捨てといて、私はなんで今、後悔しているんだろう―――……
『また、来ます』
それだけ言い残して、たぶん消えた。ううん、離れたんだと思う。私も泣きたかったから「また」とだけ呟いて泣き出した。
どうすればよかったんだろう。
どうしてこうなったのかな。
私、何をやっていた?
もう、何を自分に問えばいいのか、わかんない。
パーニャの毛皮はきっとぐちょぐちょ。放っておいたらカピカピになるかも。エジーラ様のローブも大変な事になるね。でも、泣き止めないの。
アトラナとは数えられるだけしか逢っていない。破天荒な会話をすると思ったら最後は大人びて、大人の事情で消えちゃう。ずるいよ、アトラナ。なんで私の友達なのに勝手にいなくなるの?友達って、言ったじゃん―――…
「魔力が乱れているわ………落ち着いて」
「っ………」
恨みそうになった………………教会の人。歪んだ、人。恨みそうになったじゃない。恨んだ。これは私が勝手に恨んだ。そして同時に―――何かおかしいと思った。
私は教会について詳しくは知らない。だってそんなのって無縁だったから。教会は精霊を崇めている。それは分かる。
アトラナに精霊が存在する事は分かっていて、解放しようと共鳴破棄をしたんだよね?でも結局は魔力暴走で大爆発。【火】の魔素を多く集めて共鳴破棄をしようとし、無理矢理やったからアトラナが魔力暴して魔素に引火。引火と言うか巻き込んで爆発となったって考えれば結果は分かる。
でもさ、精霊を崇めているんでしょう?その精霊がアトラナの中にあるって知っているんでしょう?なんで今?なんで無理矢理?精霊を崇めるぐらいならアトラナの体は労るんじゃないの?器にすぎなかったって事?わざわざ共鳴破棄で丁寧に取り除こうとしているのに………?それしか方法がなかったらあれだけど。
共鳴破棄なんて、眠っているときにもできるよね?アトラナが共鳴破棄を事前に知っていたから最後に暴れて魔力暴走でしょ?なんで穏便にできなかったの?教会って―――なに?なんの集団?
「落ち着いた?」
「………はい。あの、エジーラ様」
「その前に鼻をかもうね」
ぶえ―――ああ、鼻がスッキリした。じゃなくて、ええと、教会だ。そう、教会。
「教会って………なんの集団ですか」
「教会?なんの集団かと言われれば………精霊の関してかなり力を入れている組織と聞いているわ」
「精霊が手に入るとわかれば眼の色を変えるほどですか?」
「そこまではわからないわね。でも、手に入るなら自分のものにしたい、や一目見たいとか、そう動かされるんじゃないかしら。クフィーちゃんは急にどうしたの?」
「いいえ、エジーラ様は教会の爆破事件をお聞きになりましたか?」
「…………起こった事だけね。そのせいで貴方がここに隠れているのを知っているわ。ウィルなんだけど、内緒ね。怒られちゃうから」
「大丈夫ですよ。私もエジーラ様の好奇心から偶然でお話しを聞いてしまいましたから」
「まさか知られてるとは思っていなかったわ。本当にどうやって知ったのかしら?」
「少し、怖いですね」
「大丈夫よ」
うん。ぎゅっと抱き締めてもらえるなら安心だね。一部分が冷たいのは私の涙のせいだけど。こうやって人の温もりに触れるのっていいよね。心音を聞くと、酷く安心してしまう。
泣いて疲れたせいかな。それともエジーラ様の心音をのせいかな。そのせいだとは思わないけど、一定のリズムでなる音が心地よくなってそのまま眠ってしまったよ。
起きたらお父様にもう少し詳しく聞こう。少しは関わっていたんだし。うまくおねだりすれば教えてくれるはず。お父様には悪いけど、起きたら聞きにいくからね。どんな理由であれ、今の私にはもう教会なんて
滅 べ ば い い
て。思っちゃったから―――…
アトラナのこと、許さない。これは私の、エゴ。そしてうやむやにしてしまった懺悔だ。




