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かくれんぼしましょう

改訂いたしました。27.8.13

 にやにやとしながら登場した男は長いローブを多少ははためかせながら現れ、よ!とでも言うように片手で挨拶を済ませたら私と、エリー、ジジルに「ほいさー!いっくぜー!!」とかそんな大袈裟な掛け声と共に風をまとわりつかせて運ばれた。もちろん、私たちはなにがなんだかわからず大絶叫。必死にスカートを押さえていた事は覚えているよ。


 足が離れていく浮遊感にそれ以外の怖いものはない。魔法使いと言えば箒に乗って大空を飛びたいね、とか思っていたけどなんの脈絡なしにこんな事をされるともうそんな事はどうでもいいよっ!驚くしかないんだからさっ!!


 そんな私たちはきっと奇妙な光景だろう………風魔法で運ばれる3人の少女と高笑いしながら去っていく魔法師―――しかも、十進魔法師。目立ちすぎだよ、ンゼットォラ様………


 で、ついたところは何処ですかね?なんとなく城を通り越したちょっと離れた棟に連れてこられたような気がする。開け放たれた大きめの窓を目指してテラスから押し込められた私たち。もう騒ぐ気力はない。


 適当にベッドにぽーいとされたらもう疲れきった私たちは倒れたまま呆然としていた。こんな拐われ方、嫌だっ。


「おい、ンゼットォラ。お前もう少し目立たずて・い・ね・い・に!出来ないのか!?」


「無理に決まってんだろう?それはお前がよく知っているじゃないかグレストフ。知っているか?俺が大雑把だと言うことを。それはもはや俺の気分で決められていてそのさじ加減はまさに適当!俺は【土】と【風】しか使えないんだからこの嬢ちゃんたちを運ぶとしたら【風】しかないだろう?だからこうして堂々と昼飯を食いにやって来るだろう嬢ちゃんたちを捕まえてやってきたんじゃねーか。大丈夫だったろ?まだシェムピスは来てないようだし来る前に俺が魔法を使いとっととこっちに運んできたんだから万事解決だ!」


「ああ、そうだって。お前はそういう奴だった。これなら他の奴に頼んだ方がマシだったな」


「レーバレンスに頼めばよかったじゃねーか。いや、でも今は太陽が真上だから影が小せーよな。そうしたら影渡りできないのか。しょうがない奴だよなー。俺なら浮遊でどんなところでも行けるのに制限あるとかやるせねーわ。ところで俺はアトラナの監視を任せていたのにどうして俺は怒られなきゃなんなかったんだ?直立ってけっこう疲れるんだぜ?それなのにいきなり叩きやがっ―――わかった。俺は黙ろう」


「ああ、是非ともそうしてくれ。お前は黙っていろ」


 なんだかわかりませんが、とりあえずお父様がいて珍しくちょっと威厳があったね。そして相変わらすンゼットォラ様は喋りだすと止まらない。お父様はどうやって止めさせたのだろうか。自分から止まるようになるなんて凄いんじゃない?


 落ち着いてきたので上体を―――ふんぬぅ!!―――起こして確認。エリーとジジルはすでに起き出していて、私の手を片方ずつ掴んでいた。起きにくいと思ったらそういうことね。腹筋が鍛えられた瞬間だよっ。一瞬だけどね!


「お父様………これはどういう事ですか………?」


「すまないクフィー。私が間違っていた。ンゼットォラに頼み事はもうしないと誓おう」


「それはありがたいですけど………なぜ私たちがここに?運ばれ………連れ出され………拐われ………いえ、呼ばれたのでしょうか?」


「え?説明を―――」


 ンゼットォラ様の肩を捕まえているお父様。あれ?あの手がなんかローブに埋もれるように掴んでいるように見える不思議。そこからミチミチと変な擬音が聞こえるのは気のせいかな?気のせいだよね?ンゼットォラ様の顔が明らかに真っ白になっている気がする。


 ンゼットォラ様の顔を覗きこんだお父様はそりゃあいい笑顔で「話したよな?」と声をかけていた。そしてンゼットォラ様と言えば口をぱくぱくしながら肩を掴まれている手を外したいが無理矢理に外せないのか手前で悶絶しながら上を見上げていた。声は聞こえません。


「君たち。あれは放っておいていいから昼食にしよう。話はそれからだ」


「ウィル様………」


「ウィル様だっ」


「ウィル様だよ~!」


 なんだかウィル様が救世主に見えて仕方がない!だってお父様は「んー?」とか「へー?」とか言いながら今度はンゼットォラ様の首にヘッドロック。悲鳴が聞こえないのが唯一の救いだと思いたい。お父様にしては珍しい光景だが、それをずっと見ていたいとは思わなかった。だから、意識を別の方向に向けてくれたウィル様がまさに救世主。しかもご飯が用意されているとか、ね!早くあっちに行こうっ。


 エリーとジジルはじゃっかん涙目で駆け出していく。でもね、君たち………駆け出すんだったら私の手を離してくれても、いいんだよ?そのまま突っ込んでいってしまっては真ん中の私は受け身(取れるか不明)を取らなきゃ激突だかさあ!?人は急に止まれません!!


「うわっ!?」


「うぶ!!」


 ぅ、ウッ、ウィル様………なかなか引き締まったお腹でございます、ね!腰に巻き付いたエリーとジジルを他所に私は当然のように止まれるわけがなく、頭からそのまま突進した。ウィル様は驚くだけで踏み止まれるのだからただの魔法師ではないよっ。私がお腹に頭突きをしてもビクリともしないのだから。すごいな。


 ねぇ、鼻がいたひっ………


 ウィル様に慰めながらようやく気づいてくれたエリーとジジル。君たち、怖かったのはわかる。わかるけど私の事もちょっとは考慮してほしかったな!!鼻血が出てないのが幸いか………いや、後ろでお父様が絶叫しているから幸いもなにも面倒と言うか………


 まあ、全体が落ち着いてきたところで、お昼です。食べます。いただきます。メンバーは?私、エリー、ジジル、お父様、ンゼットォラ様、ウィル様。さて、これはどんな繋がりがあるのかな?食べながら他愛ない会話を楽しみ、時々ンゼットォラ様の会話にしんと静まり返ったり………なかなか騒がしいお昼だったと思います。


 それでさ、私たちはどうしてここに呼ばれたんですかね?食べ終わったところで説明は………お父様。ちょっと意外。


「まず、突然こっちに連れてきた事を詫びる。すまん」


 これはきっとお父様の偽物かもしれない。なんだかお父様じゃないお父様を見ている気がする。


「クフィーの視線がなんだか痛い気がするが………まあ、いいか。それでな、三人に来てもらったのは君たちがアトラナに関わったから一応、集まってもらったんだ。私はンゼットォラに説明してから目立たずに来いと言ったんだが………人選を間違えた。いっそ徒歩で迎えにいけばよかったと後悔している」


「だから言っただろー?俺に任せると………すまん、進めてくれ」


 お父様、ンゼットォラ様の肩って止めるスイッチなの?肩に触れたら止まるとか慣れているね。


 それにしてもアトラナ、か。いったい何があったんだろう。それはエリーたちも思ったみたい。首を傾げてお父様を見ていた。


「まず、アトラナが隔離されていることは知っているな?」


「はい」


「アトラナは魔力暴走を平気で行うことが出来るために隔離している。親から魔法院は預かる(・・・)形になっていたのだが、実際は育児放棄だ。アトラナは捨てられたと思ってもいい」


 精霊は隠すんだね?表向きはそんな事になってるんだ。でも、なんで親の事情を教えてきたんだろう?


「アトラナの魔力暴走を避けるためにクフィーと一緒に会っただろう?念のために君たちは今だけ姿を隠させてもらったんだよ」


「アトラナの事に関係していて、隠す必要があるのですよね?何があったのですか?」


「え?でも私やジジルは一回だけだよ?あっ、です!なんでですか?」


「無理に言葉を直さなくていいよ。本当はこんな匿うような事をしなくてもよかったんだが、面倒な事になってね………実は、アトラナの両親は教会の信者なんだ。こっちに押し付けておきながら、今になって教会に預けるって話になったんだ」


「ええと………私たちには関係が、あるの?………ですか」


「ある。クフィーは分かるね」


 そんなパスを受けるのは難しいんだけど………なんとなく、わかる。つまり、教会と関わりたくないんだな、てこと。アトラナの中に精霊がいる事がバレたのであれば教会は欲しいと思うよね。アトラナの両親は教会に属しているのなら、自分の娘が精霊を宿しているとわかったら手中に納めたいはず。そういうことかね?


「アトラナの特殊が教会、または親に知られたのですか?」


「ああ。特殊だからね。教会が抱えたいらしい。それだけならよかったんだけど、厄介な事に迎えに来るのは存在が怪しかったシェムピス司教様なんだ。君たちはシェムピス司教を知っているかい?」


「私、知ってます。盲目の女神なんて言われていて、精霊に一番近い人って囁かれてるんですよ。盲目の変わりに人の魔力を見ることが出来て、魔力が高い子どもは教会側から勧誘したりして魔法とかの教育を教会で提供してるんだよ。でも、誰も顔は見たことないから名前だけの人だろうって言ってたかな」


「あ、それなら私も知ってるよ。でも私が聞いたのは教会は精霊を崇めていて、精霊に逢うために魔力を集めてるって聞いたことがあるよ」


「それは初耳だな。まあそれは置いておいて、アトラナも魔力が高い。そこでわざわざシェムピス司教が迎えにいくのだから、魔法院の子どもに目をつけられても困る。特にクフィーは―――私が言うと自慢になるが、魔力が高い。加えてジジルニアくんも高い。エリエリーチェくんも城からのお墨付き商家の娘だからね。教会に目をつけられたらたまったもんじゃない」


「それで、お父様も私も………そのシェムピス司教に逢わせたくないためにこうして連れてこられたのですか?」


「ンゼットォラを使ったのは本当に間違いだったと思っているよ。これでも【風】を使わせると国一番と言ってもいいぐらい器用な奴だからね………………ただ、扱いが面倒なんだよ、本当に。切実に、な」


「私は二人のお目付け役です。とりあえず、シェムピス司教が帰るまであなた方はもしも、のためにこの部屋から出ないでいただきたいんですよ」


 ため息とともにずれた眼鏡を直さないでくださいな。ため息が重く感じられますからっ。でも、そっか。そういう理由だったんだ………どうりでお父様がいるわけだ。逢いたくなんてないもんね?


 でも、アトラナを教会に引き渡しちゃっていいのかね?私の存在はアトラナが知っている。アトラナは私に触りまくっていたから魔力量はなんとなく知っているだろうし、もしかしたら右目に魔塊があることも知っているかもしれない。


 うっかりポロンとアトラナが喋っちゃったら隠れる意味がないような気がするんだけど………?あっちが興味なんか持ったらそれこそ面倒だよ?その事をお父様に聞いたら、ロノウィスくんとドトイルが言い含めたんだって。前と打って変わって聞き分けがよかったらしく、かなり驚いていたらしい。色々と私と生死をかけて厳重に約束をさせたから大丈夫だ、て言うけど………見てないからわからないんだよね。今までの素振りとか考えて大丈夫なのかもわかんないよ。


 まあ、しばらくこの部屋から出られないことは分かったんだから、何をしましょうかね?意外とエリーもジジルも対応力があるのか、そんなに驚かなくなって部屋を模索してる。あれ、ここって………1回ほど来たことある場所じゃないかな?ほら、あの目だけが光っている弓を構えている像とか。


「あの、ここってもしかして離れの棟ですか?」


「そこは気にしては駄目なんだよクフィー。大変な事になるからね」


「大変と言えば………ポメアがいないのですが、あっちで騒ぎになっていませんか?」


 そういえばアビグーア中隊長もいなかったな。護衛って言ってたけど、行動範囲とかってどうなっているんだろう?


「…………………………………………………………あの子だって成人している。いちいち騒ぎだすような子どもじゃないよ。そうでなくてはアーガスト家にはいさせられない」


「そうですか。それにしても、お父様はお疲れのようですね。大丈夫ですか?(いつもなら叫んでいるよね………)」


「グレストフ一進魔法師は、シェムピス司教が本当に苦手なんですよ。しまいに湿疹が出るほどに」


「頼む。自分で名前を出したがなんだか気分が滅入ってしかたないんだ。もう記憶から抹消したい。早くクレラリアを抱き締めたい。頼むからあいつの存在を消してくれ」


「初めてお父様の弱々しい一面を見た気がします」


「ああ、グレストフのここ最近に珍しく毎日手紙が届いてよー。それがかのシェムピスなんだよ。なんでも未だに諦めていなかったみたいで、息子がいたなんて知らないとか娘がいたなんてとか初めての馴れ初めから始まって色々と分厚すぎる、むしろ本じゃね?てくらいの手紙を送りつけてしまいには伝書鳥に読んだか確認させて読まなかったらその伝書鳥が密集して取り囲むんだよ。そんなのが回りにいたら陛下の邪魔だと言われて読んだけど大半はグレストフへの求愛が綴ってあってグレストフの精神が削られまくり。返事もなかったら手紙の量が増えて見張りみたいな伝書鳥も増えてかなり滅入ってんだぜ?それに魔法師関連の書類整理をこなしているからもうこいつ死ぬわ」


 ストーカーですか?なにそれ怖いっ!?


 ンゼットォラ様のノンストップ説明で思い出したのか、お父様は頭を抱えて唸り出していた。これほどまでに追い込むシェムピスって人はすごいね。天敵を通り越している気がする。強敵ならぬ狂敵………なんの捻りもない。


 おかげでここだけ空気がおかしくて、物珍しいものに声をあげて笑っているジジルとエリーがなんだか眩しく見えたよ。


 そろそろ限界でしょうか?なんてウィル様は言ってるけど………なにかの臨界突破はしてると思うけどね。ぶつぶつ何か言い始めちゃったよ。そっか、だから私がこの前の手紙で励ましたら爆発しちゃったんだね?嫌な手紙の中に心配する娘の手紙………お母様はこれを見越してプレゼントを用意しようとしているのでしょうか?さすがお母様………


 そうなると、トールお兄様にも声をかけてみんなで準備した方がいいかな………?でもお父様がはっちゃけるとレーバレンス様とかヴィグマンお爺ちゃんたちの怒りの矛先が私にくるんだよね………過剰ではないプレゼントってなんですか。誰か教えてください。


「あ、あの!もしよかったら私の魔力操作を見てもらってもいいですか!?」


「わ、私もお願いします!!」


「そうですね。どうせ暇なんですからここで魔法の勉強をしましょう。個人授業になりますから、みなさん内緒ですよ?」


「わ!あ、ありがとうございます!!」


「ありがとうございますっ!」


 エリーとジジルがウィル様にキラキラとした顔でお礼を言っているよ。魔力を放出しているのかな?なぜか全体的にキラキラして見えるよ。


 そうなればここに本もないし………私もお父様を少しは元気にさせるために親子共同作業でもしようかな?まあ、多少くらいならお父様もそんな弾けないと思うし………大丈夫だよね?まあ、なにかあったらシェムピスと言う名前を出せばコントロール出来るでしょう。たぶん。使いどころを間違わなければ………


 おかしいな。不安しかないや。でもこのまま沈んでるお父様を見るのは悲しいので………怒られるときは一緒に起こられてもらおっと!





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