急!障害物捕獲競馬 中編
改訂いたしました。27.8.12
アビグーア中隊長の規格外、それかウママンの規格外に圧倒されながらなんなく?ウーウにたどり着いた私と子馬ちゃん。中に入ってから下りるように言われたのでそのまま中に。アビグーア中隊長は下りたら敗けだって。
で、今さらながらとんだ失敗に気づきました。下りられない………実は台を使って乗ったんだよね。なかなか乗るのが難しいのだよ。しかし、ここで助言をするのがアビグーア中隊長である。
子馬ちゃん用の鐙にしっかり足を突っ込んでいる事を確認してから馬に添うように体を倒してゆっくりと順番に下ろしていけ、とのこと。引っ付きながらずり落ちるようにするのがいいらしい。
私はひょーいと華麗に着地することを想像して気づく。慣れていない私がやればそのまま頭から落ちそうだよね、とじょじょに体をあげていけばいいか~などと考えながら片足が無事の着地!よしっ!それから鐙にかけていた足を下ろせばアビグーア中隊長からも「よし」と大きく頷いてくれた。
それからたまらず私もウーウの群れの中に参戦。誰だっけ?えーと………『紅蓮の剣』の膝下まである丸い物体を凝視して思わず声をあげた。
「わあ!」
「姪が可愛すぎる。このまま持ち帰りたい」
「え!?姪なんですか!?持ち帰るんですか!?どっちから突っ込めばいいでしょうかっ!?」
「お前はそれよりクフィーの可愛さを語るがいい」
「愛称で気づけばよかった!!」
気づかなかったんだ………自分は私の事をクロムフィーア選手とか言ってユリユア様は再三もクフィーって言っていたのに。てかそれは驚くべき事なんだろうか?私にはさっぱりわからないねぇ。
まあそんな事より………目の前のまたまた可愛くて丸くてふわふの物体に私は釘付けだ!なにこれウーウってやっぱりウサギじゃーん!!可愛いー!!なにか食べているのかもきゅもきゅしてるー!!ひゃっふー!!確かにこれは私が丸まったぐらいのサイズだよ!!
私から見て腰ぐらいのウサギ―――ウーウは前足で目元をくしくししながらたまにどっすんどっすんと前進しながら自由に過ごしていた。長い耳は地面を引きずっていて、後ろに引っ張ればきっとお尻にまで届く長さ。因みに仲間に踏まれてもなんのその。痛くないのかな?それともウーウの体重はそれほどでもない?
加えて目は眉毛みたいな毛が柳のように垂れて見えないね。くしくししているウーウを見ていればなんと隠れていて瞳のサイズはわかりそうにない。つまり、小さいのだろう。てかその仕草が可愛いっ。
「アビグーア中隊長、アビグーア中隊長!触ってもいいですか!?」
「いいぞ。尻。駄目」
「背中はいいですか!?」
「尻。以外。問題ない」
ふへへへへ。ん、んんっ。触り心地が最高ー!!お尻の方は触らないようにまずは頭をなでなで……………………それから背中も滑るように撫でて、手も撫でる。その触り心地はもうっ最高っ!ですっ。
ふわふわのさらさら。そしてもふもふ感もあり、櫛で整えられていたのか同じ向きに流れる毛はそれはそれはもうつやつや。しゃがみこんで抱きつくように顔を埋めたらもう至福すぎて顔がしまりきらない!ぴくぴく動く鼻がまた可愛いよー!!
1匹に堪能していたらもう1匹も匂いを嗅ぐために近づいてきた。鼻がやっぱぴくぴくしていて、つい触ったらビクッ!として離れてしまった。しかし縮こまるだけにそれは止まり、警戒するように私を見ている。ちょっと動いたら長い耳がぺしぺしと動くんだよ?これがまたたまらんです!!可愛い可愛いー!!
「なあクロビー、競技はやめてクフィーを愛でる時間にしないか?」
「私もそれでいい気がしましたけどね。和むし微笑ましいですし。しかしそれだと騎士たちが憐れすぎてしまうので………進行はしたいです」
「そうか?キャロラリンに飛ばされたのが悪いと私は思うのだけどな。だからこうして逃げ出さないように互いに肩を組ませ壁を作り、ウママンの突進に耐えているのだろう?今後、キャロラリンが逃げ出さないとも限らないし、耐えるのは必要だ。これはウォガーも了承しているぞ。むしろウォガー含めた隊長各が自らウママンに跨がり執行している」
「まあ………ああやって堪えられれば次のキャロラリンの脱走に太刀打ちできそうな気がしますが―――絵面か酷いんですよ、本当に」
「あいにく、暑苦しい壁が馬の蹴りに耐えながら観戦していようが、私にはクフィーしか見えない」
「ユリユア様、しっかり見てます。しっかりと見てらっしゃいますからね!?」
なんか、不穏な説明が聞こえる………このバリケード観戦騎士の裏ではそんな事が起こっているのですか?なにそれ新手の拷問?どおりで微かに「うっぁ………」とか聞こえたわけだ。ちょっとウーウに埋もれながら耳をすませたのが悪かったのか、えらい事を聞いてしまったようだね。
これでようやく、訓練もせずにバリケード観戦なんてできるなぁ、と思ったよ。堪えてるならしかたないか。………仕方ないのかな?あれ?そうしたらなんとかしてあげた方がいい?でもなあ………
とりあえず抱き締めていたウーウの眉毛らしき毛のカーテンを持ち上げてみて瞳を見つける。案の定と言うかなんと言いますか。真っ白い毛皮の中に見つけたグレーの色は何色かなんて判断つかない。だから眉毛カーテンを元に戻して毛皮を撫でたんだけど………
色がね。わからないんだよね。だからこうして毛皮を撫でて現実逃避………いや、なんだかウーウの毛皮に埋もれていたら眠くなっちゃっただけなんだ。こう、いい温度なんだよね、毛皮。なんだか眠いよ………ウーウ。
あ、子馬ちゃんも眉毛カーテンを持ち上げようとして―――てかウーウの顔を食べようとしているよ。でも背けられて逃げられてる。代わりに私のように足を折ってウーウに首を預けちゃった。ウーウもだけど子馬ちゃんも可愛いね。なんだか私の真似っこする仕草がメイみたい。可愛いなー………
ぼーと眺めていたら眩しさはなぜかシャットアウトされた。そんでもって寄りかかっていたら―――うつらうつら、と。ついでと言わんばかりに毛布がかけられてそのまま微睡みに溶け込むことにした。今、一番幸せ………
「寝てしまったか………騎士たちよ―――その醜い声でクフィーを起こしてみろ。後の事など、知らんぞ?」
「レジフォン様も起こさないでくださいよ。探してもいいですが起こしたらユリユア様を止められませんので知りませんよ」
ユリユア殿とクロビー殿がそんな事を言う。それを聞き取ったレジフォン殿は神妙な顔つきで頷いてひたすら青い瞳のウーウを探していた。それでも続けようとする勝負魂とは怖いものだ。この子に勝って何がいいのだろうか。
ウーウに埋もれて寝入ってしまった子どもは気持ち良さそうに丸まって熟睡に入っている。つられるように子馬も子どもに習うようにウーウに首を預けて寝入っていた。
俺は子どもをここまで触れあったことがないのでわからないが、乗馬は意外と体力を使うので疲れたのだろう。日に当たらないように少し離れて影を作るが………もう一匹のウーウが子どもに寄り添うようにくっつていてきた。あれは暑くないのだろうか?
二匹に挟まれるように寝てしまって子どもは埋もれていて外野からは見えないだろう。埋もれてしまった子どもに「しょうがないよな」と小声で囁く者。「だから子どもってやつは」と舌打ちする者。それぞれ違う反応を見せる。
囁くように小声で言い合うのはユリユア殿の脅しが聞いている証拠か。あの人は王妃近衛隊長として名を馳せていて、なおかつ最近の訓練に参加していた者ならば誰も逆らうことはできないのだろう。それでも、この小声から聞こえる中に「部外者が」と口にするものがいた。
俺が視線を向ければすぐに目を反らすくせに、誰も聞いていない、見ていないとわかれば自分がまるで一番と言うよう鼻が高くなる奴。俺たちから見ればそれはまるで惨めな自分を鼓舞しているようにしか見えないのだが、本人は気づかないのだろう。
きっと自分では知らない、わからないとでも言うような癖なのだろうな。そんな奴をみると滑稽に思うし、嘲笑う自分をみると省みる俺がいる。
そんな中でこのクロムフィーアと言う少女は不思議だ。俺の顔を見れば泣き叫ぶ子ども、はたまた大人まで逃げ出すと言うこの顔を、初対面でも少しだけ驚いて見せて後は笑うのだ。この子の目は大丈夫かと、少し心配にもなる。
その後に教えてくれた目の症状に、さらに心配になったのは誰もわからないだろう。色が見えない世界はどのように映るのだろうか?白と黒しかない世界は何が面白いのだろうか?
この少女は色がわからないと言うのに、ウーウを見て喜んだ。駄目なところはまず最初に聞くから本当にまだ子どもなのかと疑いたくなる。あのレジフォン殿にも恐れをなさない子ども………そう言えば『紅蓮の剣』はそこまで知れ渡っていないのだろうか?なかなかに有名だと思うのだがな。
あの深紅の瞳に囚われたものは………そうか。色がわからないから判断もできないのか。『紅蓮の剣』は魔法剣から出る炎とレジフォン殿の瞳からきている。わかるはずもないか。
そんなレジフォン殿は先ほどからずっとウーウの瞳を探っている。見たやつと見ていないやつをわけようと動かしたりしているが、目を離すとすでにわからなくなったのか同じやつをもう一度確認したりしていたりと繰り返しだ。しまいには本当に青い瞳のウーウはいるのかと疑念を抱いている。
実は言うとウーウの瞳は魔力を持っている。と、言っても極僅か魔力なのだが………その瞳が示す色はそれぞれの属性だ。そしてその色と属性は惹かれ合う。故に、たぶんだがこの子どもに寄り添うように集まったウーウは青い瞳だろう。
現にレジフォン殿の回りに赤い瞳が近寄っているらしい。同じものを見ているせいもあるが「赤しかおらんぞっ」と呟いている。ウーウの捕獲はレジフォン殿には部が悪いだろう。一般的にはあまり知られていないのだからあの調子でいるならレジフォン殿は知らないはずだ。たまには俺も適当に詰め込んだ知識も無駄にならずに済んでよかったと思う。
さて、このままでどうしたものか。手持ちぶさたのせいで何をしていればいいのかがわからない。本当ならば魔法剣をしたくてしかたがない。俺も多少ならできるのだが、この子どものようにすごい魔法剣は放てないのだ。せめて赤くうっすらと炎がまとう程度。あんなものを見せられては俺も頑張りたいと思ってしまうではないか。………怪我をさせてしまったら失格ではなかったろうか?まあいい。
しかし―――剣は取り上げられてしまったな。俺が攻撃をしないためにだろうが、剣がないと言うのもまた変な感じがして落ち着かないもの。この時間を使って魔法剣を確認したいのだが出来ぬ歯がゆさ。これが終われば後でやり方などを参考にするため、聞いてみようと思う。
強くなれるならばどんな奴にだって教えを乞う。それに魔法剣に関してはこの子どもに聞いた方が一番いいだろう。一振りで最上位の魔法剣。しかも武器は食堂で使うナイフ。他の魔法師よりいい実りがありそうだ。
「アビグーア。クフィーは起きそうか?」
起き出す気配は―――ない。とりあえず首を横に振っておく。
「ふむ………時間も限られているからな。クフィーには悪いが、起こしてくれ」
ああ、クロビー殿とユリユア殿が顔を付き合わせて真剣に考えていると思えば時間を気にしていたのか。太陽は傾いて半分―――夏場は陽が沈みにくい故に気を付けねばならない。これは時間内に終わらないかもしれないな。
可哀想だが子どもを起こすことにする。しかし、これは助けにならないだろうか?あの二人に促されたのだから断れないのだからしかたないが。………………怯えられる覚悟で触るか。
実はウーウは食用の肉として高値で求められる。とくに尻の肉は一番に美味い。それはこのウーウが温厚で肉が固くならず、移動の際に飛ぶのだが短い足と尻を同時に着地するためいい弾力が生まれ、美味しくなるのだとか。
その肉欲しさに捕らえようとする狩人は、まず姿を見せないよう、遠くからウーウを狙う。ウーウは集団行動を主に動くその可愛らしさとは裏腹に、襲われると互いの尻を擦りあわせて逆襲してくる。認識されると温厚な時には見れない高い飛躍をみせ、尻で押し潰そうとするのでなかなかに厄介だ。尻だけを聞いていればちょっとした笑い話だが、先ほども言ったようにウーウは集団行動を主に動く。上ばかり気にしていれば下からこの長い耳を鞭のように攻撃もするし、隠れて見えないが実は固い牙も持っているので噛みつくこともする。怒らせると質が悪い動物だ。
魔物と認定されないのは、この愛くるしさがあるからだろう。尻と迂闊に攻撃さえしなければ温厚なのだか正直に言うと微妙なところだろうが………そう言えばこいつの鳴き声は怒り出すとうるさいな。
さて―――起こすか………………
ウママンでウーウの尻を撫でる。むしろ蹴った気がする。一度で起き出したウーウは地の底から唸るような低い声を大きく響かせ、ウママンの足を睨み付けた。子どもには―――気づいていないようだな。ついでに起きてくれたようだ。両目をこする姿がウーウに似ているような気がする。これであとは引き付けていればユリユア殿がなんとかしてくれるだろう。
「あ」
「うーん………」
子どもが唸りをあげているウーウに寄りかかってしまった………………………………………両者とも動かなくなったのだが、これはどうすればいいのだろうか?………………………………………攻撃しにこないな。とりあえず、声をかけることにしよう。




