急!障害物捕獲競馬 前編
改訂いたしました。27.8.12
「それでは始めようか。審判は公平を喫するため、この私ユリユアと六番隊副隊長のクロビーが行おう」
「よろしく頼む。さっそく説明に入る。まず、出場者は『紅蓮の剣』レジフォン選手。対戦相手は『野獣の調教師』クロムフィーア選手と護衛、アビグーア中隊長殿だ。今回は魔法、剣の使用はウォガー大隊長の許可が下りているため使用してもかまわない、が!怪我をさせるのは駄目だ。怪我をさせた時点で即刻失格となるので使い方を間違えないように。どちらかの足が地面に着いた時点で敗けだ。春まで騎士棟の出入りを禁止と、ウーウ貸し出しの支払いを担ってもらう。なお、アビグーア中隊長殿は無手の攻撃なし。ただしクロムフィーア選手の護衛と言うことで、クロムフィーア選手の馬上が今回で二回目と言うことを含め触れなければ少しの手助けを可能にする。例えば代わりに手綱を握って誘導したり、落ちそうになったのを助けたりしなければほぼ大丈夫だ」
本当に始まってしまいました、障害物捕獲競馬。そのまんまなんですね。私はその部分の驚きよりも、ポメアがきちんと私の乗馬用のズボンを持参していたことの方が驚きなんだよね。ポメア、なんで持っていたのかな?もしかして見越してた?そんなわけないよね?
でもお昼を食べたらユリユア様が使っているらしい部屋につれられてぱぱ!と着替えさせられました。以前、家族で旅行したときに使っていたズボンだと思われます。なんとなく色が違うような気もするけど。魔法院でも騎士棟でも使っていなかったのに、なぜポメアは準備ができるのか不思議だね。まさかこんな事が起こりうるかも、って先読みして大抵の物を持参していたり………しないよね?カバンが見当たらないのは侍女の特技ですか?微笑みだけ返されたんだけど………
それで、ルールの説明は大雑把にあのレジフォンとか言う人がいった通り。数々の障害物を乗り越えて、青い瞳のウーウを審査員に渡して、ドーベル包囲網を潜って、似たような馬と一緒にゴールしてね!と言う感じ。競技名が安直すぎて何も言えない。かと言って他の案もない………どうしようもないね!
まあお昼の合間に私も色々と―――アビグーア中隊長とトールお兄様に相談したりして対策は練ってきた。ぶっちゃけ負けていいんだからウーウと遊んでなさい、と言うトールお兄様のお言葉です。雑だった。でもそれでいいかな、と思う。色なんてわかんないんだし。
後は私の乗馬訓練だと思いなさい、とたしなめられたのでそう思っておくことにする。アビグーア中隊長に見守られながらウーウを堪能してこいと言う。もう勝負は忘れろとアビグーア中隊長に言われる。ぶっちゃけあの人の事も忘れろと二人に諭された。どうしたのですか、二人とも。
でも防御は考えた方がいいよね、て話になって、魔法も使っていいなら結界を張りながら移動します。て言ったら即採用された。でも若魔法師が一人で使うのは認められていないのですが、と言えばアビグーア中隊長が許可を取りに行ってしまった………偶然にも居合わせた魔法師は怯えて必死に首が取れるんじゃないか疑いたくなるほど縦に振っていました、よ―――南無。これで私の魔法も即効オッケー。さくさく決まるね。
あと、トールお兄様にも相談してナイフを3本ほど食堂から貸してもらった。トールお兄様が言うに、たぶん初っぱなからこっちに来ると思うよ、とのこと。トールお兄様、知っているんだね。じと目で見つめたらそ知らぬ顔でお願いしに行こう、と誘導されました。そして貸してくれる料理人たち………いいの?
あっちは【火】で私は【水】だったから魔法の文字を書く時間を短縮するために魔法剣で牽制すればいいよ、とのことです。これは料理人さんたちからの提案。魔法剣の形になって、あとは振れば魔法が出るだけだし頑張れよとか応援されたんだけど………使わないことを祈ろうかな。
そんなわけで………私が乗るにちょうどいいウパカラマの子どもに乗った私はぽこぽことウママンに乗ったアビグーア中隊長についていく。因みに競技範囲は騎士団が体を張ってバリケードを作っているので間違うことはない。バリケードには観戦も含まれているので………なにかあればそれは各自の責任らしい。流れ弾に当たったらそれって各自の責任なのかな………?まあ、けっこう広いから大丈夫、かな?
「ふん。逃げずに来たか」
「………ええと、はい。よろしくお願いします?」
そして鼻で笑う、と。この人は本当に面倒だ。マジで放っておこう。えーと、パッと見えるのはハードルらしきものがいくつか続いて………なんか平均台が見える。ついでにシーソーのような物も見えるね。それで網か………あとなんか変な物ぶら下がっているね。床にも散らばってるよ。もしかして餌?
「それでは始めるとしよう!!各自、心して行け!!―――始めっ!!」
―――うわー。本当にあの人こっちに来た。速攻で邪魔しようとしに来たよ。せこいよあんた。そう言えば馬の全速力で私は魔法剣が間に合うのだろうか?相手との距離は目測で50メートクター。馬の時速は存じませぬ。アビグーア中隊長が私の前に立ってくれるけど………馬の走らせ方を知らないので魔法剣の攻撃に入ろうと思います。
ここは魔法院じゃないもん。自重を捨ててもいいじゃないか。
「えい」
あ。
「なにっ!?」
うーん。魔力を込めすぎたらこうなるのか………ごめんね、バリケードの騎士。防具がないから見習いとみた。
アビグーア中隊長に少しだけ退いてもらって、その隙間から魔法剣で剣を振ってみたんだけど………個人的な想像は、水がどばしゃー、と出るかな~と思っていたのだけどね………まあ、怪我はないから大丈夫だよ!ちょうどいい壁じゃないかっ!今の季節にちょうどいいよ!
「お。これは凄いな。魔法剣に魔力を大きく上乗せすることでその属性の上位が現れると聞いていたが―――あれは水属性の最上位魔法だな」
「さすかクフィーだ。一度であの規模の氷の壁ができるならレジフォンも無理にちょっかいは出せまい」
「えーと、あれは見習いだな。すみません、一応診てもらえるか?」
「うわ、すっげー!」
「おいおいあのちび助あんな事ができるのかよ」
などなど聞こえるのは【風】の魔法師が魔法で審判の人たちの声やバリケード観戦騎士の声を、この騎士棟だけに広げているからだ。ほとんどバリケード観戦している騎士にかき消されているけど、すごい冷静な判断で解説してくれました。これ、盛り上がらないんじゃない?誰かうるさいくらいの実況中継してくれる人を呼ぼうよ。
魔法剣で出ちゃった氷の壁。アビグーア中隊長に退いてもらったけど、えいって振ったら私の目の前でどばっ!と氷が出来たと思ったら私の直線上に氷は細い線を書いて伸びていきました。針山に見えなくもない。直線上にいたバリケード観戦見習いは、残念なことに足が凍っちゃった。おかげでナイフが壊れちゃったので布にしまっておく。
自重しないと言った矢先がこれとなると―――まあいいや。ここは騎士棟。私は魔法剣ぐらいしか関わることがないから放っても大丈夫。私を鍛えようったって女だから手出しできないもんね。
横幅は10メートクター。高さは私が覗き込めるから1メートクターはないと思う。これで『紅蓮の剣』は回り込まなきゃいけない。回り込むんだった進んだ方が無難だろうね。ほら、真っ直ぐ進んでいった。うわ。私のに比べたらハードルの高さとか普通に高いのにウママンは軽々と飛び越えているよ!
「行く。一つずつ。ゆっくり」
「はい」
回りが声をあげるせいで辛うじて聞こえるアビグーア中隊長に促せるまま、私も進んでいく。まずはハードル。はて、これはどうやって飛び越えればいいのかな?教えてくだされ、アビグーア中隊長!
「手綱。引く。軽く。前足………浮かせる仕草」
「馬は利口だ。その馬に飛ぶよう指示して合図を送れば飛んでくれるぞ、クフィー」
「ユリユア様、助言はいいのですか?」
「いいとも悪いとも言われていない。乗馬は一度きりと聞いているし、レジフォンは餌で時間を取られているがそんなに支障はなかろう。別にいいのではないか?」
「そうですね。むしろ、レジフォン隊長が大人げなくて泣けそうです」
「クロビーも大変なのだな」
本当、あんな人が上司だと大変だろうね。ユリユア様、ありがとうございます。いつの間にやらバリケード観戦騎士たちが声援を送ってくれるのでまあ、頑張るよ。とりあえずこの子馬に話しかけて………あ、飛んでくれた。
アビグーア中隊長に向かって報告したら口角がすごく上がってた。うん。怖いっ………誉めるともっとお利口になるよ、と言うので首を撫でて誉める。そうすると小さくいなないて返事を返してくれてよ!なにこれ可愛い!でもよく乗せてくれたよね。親しくないと緊張して動かないんじゃなかったっけ?
うなじを撫でてあげればぽこぽこと動いてくれる。なんだかなあ。メイ、どうしているかな?ちょっとだけだったけど、初めて乗せてくれた子馬のメイを思い出すなぁ。あよいしょー。うん。一回立ち止まっちゃうけど、ジャンプうまいよー。可愛いよー!!
「俺の娘もあんな感じだった………」
「子どもって可愛いんだな」
「なんかどっちも進んでねーけどこれ終わるのか?」
「なあお前どっち勝つと思う?」
「レジフォン様もよくやるよなー」
………様々な声が聞こえるけど、気にしない。私は私で行こう。ハードル?が終われば小さめの小山を越えて平均台。幅はこの子と一緒ぐらい。立ち止まっちゃったから元気つけさせようと声をかける。アビグーア中隊長はそれを見て、立ち止まらせては駄目だと注意をもらった。馬にも勢いは大事らしい。
なんだかここ最近でアビグーア中隊長の言っていることが分かるような気がしてきた!
とりあえず、まだ走れないから足を止めないようにするため助走を少しつけてそのまま歩かせようって言われたのでぐるりとその場でちょっと一周。半円を描いたらそのまま真っ直ぐ向かわせて頑張れって応援。でも立ち止まっちゃう。なんだかしょぼーんとして顔を下げちゃったから項を撫でながら声をかけてもう一回。この子にも頑張ってもらわなきゃね。そうしないとウーウに逢えないのだよ。
「ふむ。こういう場合は足元を向かせるのではなく、前を向かせるようにした方がいいぞ、クフィー。その子馬は下ばかりを気にしているようだ。大人の馬、アビグーアの後ろについて目の前の馬を気にさせればいい」
「ユリユア様、それはほとんど贔屓していますよ。ああ、レジフォン様の馬は餌は食べ終わったようです。次はウーウですか」
「ウーウの瞳はとても小さいからな。青い瞳は特殊な上に探し出すのは大変だろう。それに動くからな。今回は同じ毛並みの奴を揃えていたと聞いているので探し出すのは大変だろう」
へー。もうウーウのところに行ったんだ。そう言えばウーウって耳の長い動物って言うけどウサギかな?確かに向こうに真っ白い塊があるんだけどさ………まあ、じっくり行こう。
ユリユア様の助言通りにアビグーア中隊長の後ろに繋がって子馬ちゃんを歩かせたら―――むしろこれは目の前に揺れる馬のしっぽが気がかりで誘導させられている感じがっ。
しかも耳がピコピコ動いて可愛いっ………やばい、私―――悶え死にそうっ!
そして見事に渡りきました!なぜか大きな拍手が送られているのだが次はシーソー………これもアビグーア中隊長か先に進んで実践して見せた。音でちょっとビックリしてたけど、この子は賢いのか、および腰で真ん中に一度立ち止まってからゆっくり倒していたよ!可愛い………
次は網。なんだか縄が太い。潜るのかな、とか思ったけど誰も持ち上げてくれないし、馬上しているのに下に潜れと言うのは酷な気がするのでそのまま歩いた。なかなか大きめの網で子馬も楽々に進めたよ!これ、なんの障害物だったんだろうか?―――あとでトールお兄様に聞いたら普通の馬だとそのまま駆けたらあの太い網目に足が引っ掛かる確率がぐんと上がるんだって。そんなことも知らずに網はゆっくり………途中で子馬ちゃんが食べようとしたけど、通過して次は餌である。
餌は………ニンジン?色はまあ、濃いグレーだよ。ぶつ切りにしてあるからわからないけど。ニンジンと言えばニンジンかもしれない。あ。アビグーア中隊長のウママンがぶら下がっているやつを引きちぎって食べちゃった。ワイルドだねっ。それを真似して子馬ちゃんも………むしろ届かないから足元の―――
「ぺっ!」
「あ。嫌いだったのかな?」
「いや。固い。無理。子馬」
「あ、まだそんな固いものが食べられないんですね?」
「ああ。次。行く」
え、でもアビグーア中隊長のウママンはお食事中ってわあ!子馬ちゃんは我が道を進んじゃうんだね!?待って待って!勝手に進んじゃ駄目だってばっ!あれ、どうやって止まるんだっけ!?
「あれ、子どもが進んでいくぞ?」
「あっちって落とし穴がなかったか?」
「あー、じゃあこれで終わりか?」
なんぞ!?そんなものがあるの!?そりゃあ見えてたら駄目だよね!ってそれは駄目だよ子馬ちゃん!!泥だらけは嫌ですっ!落っこちて痛いのも嫌ですよ!!待て待て待てぇえええ!!
「あ、嬢ちゃん。止まってほしかったらぐっと手綱を引くんだ。飛んでもらう時よりもう少し力をいれるんだぞ」
あんた誰!?ふんぬぅ!!
「結局はクロビーも助言をしているではないか。これで共犯だ」
「いや、なんだか嬢ちゃん見ていたら落ち着けなくてな………見守ろうかと思う」
「因みにレジフォン殿はまだウーウと格闘中だ。クフィーが追い付いてきたな」
そんな事言っている間に………なぜかその場でぴょん。子馬ちゃんはどうしたの?と言わんばかりの振り向いてきます。私もなんでジャンプしのか聞きたい。あれ?力が足りなかったとつ言うやつ?これ以上に力は出ないよ。おかげでバリケード観戦騎士が微笑ましいような顔でこっち見てくる………………訓練は、いいのかね。
「下がれ」
はーい。お食事が終わったらしいウママンとアビグーア中隊長に言われましたので私は下がります。ぽこぽこしながら下がって―――ドゴン!と聞こえたので思いっきり後ろを振り返ったよ!何事!?
そして見てみれば空をかけるウママン………下はぽっかり穴が開いています。あれ、ウママンって飛べたっけ?そして向こう側?奥?に華麗な着地でこちらを見ます。
「アビグーア中隊長様が自ら罠を解除ですか。豪快ですね」
「豪快だが………これは子馬に対して無理だろう?誰だ、作った奴」
「ユリユア様!落ち着いてください!犯人は自主した方が身のためですよ!!」
えー、まあ、うん。『紅蓮の剣』の陰謀?驚いて振り返ったら大きな穴がありました。深さ………私はすっぽり入ってしまうほどだろう。広さはウママンぐらい?それにしてもよく穴に突っ込んでそっちに飛べたね。これはアビグーア中隊長の技術かすごいのかウママンの脚力がすごいのか聞きたい。
でも、私はどうすればいいでしょうね?さすがに子馬ちゃんは飛べないなあ。あれ、私ってなんでこんなところにいるんだっけ。なんだかもう面倒だし現実逃避したいな。
と思っていてもさせてくれないのが意外にもアビグーア中隊長だ。待ってろ―――ただ一言残してウママンを巧みに操る。何をするのか見ていたら………旋回して走り出してきた。そしてジャンプ!?こっちに来んの!?
またもや華麗に着地したと思えばそのまま向こうに走っていって………シーソーの側まで来たらそれをウママンが蹴りあげました………なんだか怖かったのでバリケード観戦騎士に近づいて身を守る―――守れる?まあ、こっちに飛んでくるんじゃないかと思った次第でありますよ!!板がブォン!ていってるしっ怖いじゃん!
で、あの穴の手前で突き刺さると言う、ね。そして近づいたらウママンの前足で軽くとん、と押せばぱたりと倒れて梯子の出来上がり。まあ、あの板の太さなら壊れないし私たちが乗っても行けるとは思うけどね。………規格外ってどっちなんだろう。いま、その問いがループして駆け巡る。答えは………出ないけど。
悶々としながら梯子板を渡って子馬ちゃんとウママンがすりすり。私はアビグーア中隊長にグリグリ………静まり返った会場?が一気に沸いた瞬間だった。




