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勝負っ!

改訂いたしました。27.8.12

 突然だが、私は『紅蓮の剣』と名高いレジフォン・ラーマ・カーメンと言う。はっきり言おう。私は勝負ができればなんでもいい!!頼むっ!その子と勝負をさせてくれ!!


 元を辿ればこのアビグーア中隊長の肩に乗っている少女の父親、グレストフ殿に頼まれたことから私が参上した。口から出た言葉はまったく他意はない。しかし、こうする事で相手は私の挑発に軽く乗っかって来るので意外と重宝しているのだ。


 今回グレストフ殿に頼まれた事はその娘、クロムフィーア嬢を楽しませること。過去、グレストフ殿にはちょっとした貸しがあるので私は迷わず二つ返事で返したのだ。もしかしたらクロムフィーア嬢から魔法剣を見せてもらえるかもしれないと言われたら是非と返事をしたものだ!別に後悔はしていない。後悔と言えばこんな小さな少女に高慢な態度で挑発してしまっている事だろう。この性格をなんとかできないだろうか?ちょっと驚かれて控えめに訪ねられてしまって凄く心が痛い………


 二度目だが、私は勝負事が好きである。初見の相手には絶対に挑む。強者、弱者は関係なく挑む事で新たな見解が得られるゆえに素晴らしいからだ!!それが私の信条だ。挑戦・勝負は大好きである。どんな場面でも勝負をしたい。そのおかげで積み重ねた勝負は開花し、今では六番隊隊長、上級騎士。ついでに私は魔法剣も扱えることから、それと瞳が深紅で属性が【火】と言うこともあって『紅蓮の剣』と呼ばれている。


 もっと詳しく二つ名の由来を語るならば―――熱意に燃え上がる瞳に射止められる者は紅蓮の焔により赤く染まることから名付けられた、と………私としてはこの深紅の瞳は目立つもので、なかなか有名になっていると思っていたのだが………


 どちら様ですか、か―――本当に恥ずかしい。威張っている私が恥ずかしいっ!どうしてこんな少女に威張れるんだろうかっ。どうせ私の知名度などその程度だろうにっ。


 しかし、ここで引くわけにはいかない。グレストフ殿に頼まれて私はクロムフィーア嬢を楽しませなければならないのだ。誠、難しい依頼だと思われる。勝負してもいいと言うので存分に甘えるが―――前準備にけっこう時間がかかってしまった。


 そもそも………初見の相手に勝負を挑みたい私と、見知らぬ私に喧嘩を売られる少女にどうやって遊べと言うか。初っぱなから私が悪いと言うことは分かりきっている。挑発するためにわざと貴族のように見下して言ったのだから。乗って来ないのも私としてもう勝負が付いているような気がしてならない。しかし、引けないのが騎士だ!………その前にどうやって誘えばいいのかさっぱりわからんのが理由だがなっ。普通の誘い方はなんだ?グレストフ殿は娘しか自慢しなかったから私には他にわからんぞ!!


 ―――今後、私はクロムフィーア嬢と仲良くなれる場面はあるのだろうか?いや、ないな………勝っても負けても立ち直れないような気がする。その前に遊びはなにをすればいいのか教えてほしい。そのためのウォガー大隊長殿とユリユア様なのだが………沈黙が痛い。やめてくれ。大人げないと自分でもわかっている!視線も痛いぞっ。


「暇そうな君に私が相手をしてやろう。なに、暇な君には断る理由がなかろう?」


「………少し待っていただけますか?」


「いいだろう」


 なんて律儀な子なのだろうか。普通、こんな上からものを言われたら嫌な顔一つでも浮かべるものだろうに。しかし、ちょっと首を傾げて待ったをかけるクロムフィーア嬢はすぐにユリユア様とウォガー大隊長、それにアビグーア中隊長にもどうすればいいか聞いていた。小さいのに大人に意見を求めるとは………やるな。


 あのわかっている三人が了承を出せば今度は本日の予定の確認だった。この三人には前準備としてしっかり話をしているからこの話が通るのだ。普通なら私はとっくの昔に少女の前から姿を消している。そこのウォガー大隊長殿は私より凄いのだぞ、クロムフィーア嬢よ。もちろん、そのウォガー大隊長殿と渡り合えるユリユア様もすごいのだ。


 だから三人は問題ない事を告げる。よし、不自然ではないぞ。ちょっとしょんぼりした顔で向き直っているが私はめげぬ。


「アビグーア中隊長様は私の護衛と着任されております。先にご了承くださいませ」


「ふん。アビグーア中隊長など、私の障害にもならぬ(え?嘘だろ?四六時中ずっと傍にいると言うことか!? )」


「そうですか」


 どうしよう。こんな淡々とした子どもとどうやって遊べばいいんだろう。了承は取ったが勝負の内容は伝えていない。むしろ勝負と考えている時点で遊びじゃないだろう。いや、しかし、勝負と言うなの遊びだ!!け、怪我はしないようにとその辺はしっかりと見積もっている。大丈夫だと思うのだが………自分の性格が怨めしいっ。


 そこで、キャロラリンの手綱を引きつつ、私の後ろに控えいた見習いに合図を送る。あれを、と言えば困惑したような顔で取りに行ってきてくれた。すまない。こんな一代かぎりの準男爵に付き合わせてしまって。みなは私の性格を知っているから苦笑いだ。一緒に世話をしている中級と下級の騎士からため息か聞こえる。止めてくれっ。あの子が不思議そうに見ているから!!


 わかっているんだから止めてくれっ。私だってなんで初見の相手に喧嘩を売りたいのか、未だにわからないんだ。それも子ども相手でもやってのける私がすでにもうわかってない。でも勝負はできるし後悔は最初しかない。頼むから放って置いてくれ。


「失礼ですが………カーメン様は私になんのご用でしょうか?」


「ふん。先急ぐな。少しすれば話してやるのだ。待て」


 誰か私を殴ってくれ。冷静に対応されると後が情けない。こうして私の印象は最悪な形で彼女に植え付けられるんだ………どうせ今後に逢うこともないのだから余計に悲しい。私の普段はこんな感じではないぞ!勝負に燃えたときにこのような事になるのだっ―――頼むから最後に弁護をさせてくれよ?


「連れてきました」


「ご苦労」


 見習いにふんぞり返って礼を言えば、つれて来てもらった者と一緒に前に出てもらう。これはウェルター上流騎士に頼んだ子馬だ。名前はたしか………メイ、だったろうか。子どもが乗れる大きさで頼んだのでクロムフィーア嬢にちょうどいいだろう。


「私と、障害物捕獲競馬で勝負だ!」


 え、なんどろう。そのきょとん、とした顔。そして小さくため息をつく素振り。私が馬鹿みたいじゃないか。すまん。君に勝負を挑んでいるあたり馬鹿だ。


「申し訳ありませんが、私はまだ馬術を学んでおりません。乗馬も一度しかしておりませんので勝負にならないでしょう。カーメン様も、初めから競技できぬ小娘に勝ってもお立場に影響が出てしまわれます」


「………やるな」


 まさか、こんな小さい少女にたしなめるとは………居たたまれない。本当に私は何をやっているのだろうかと本気で思う。グレストフ殿………私はすでに失態しているので少女を楽しませることが出来そうにない………すまんっ。


「しかし、君にはアビグーア中隊長かいる。別の馬で同乗して勝負をしてもかまわない」


「………競技の内容を聞いてからでもよろしいですか?それと、賭け事はご遠慮ください」


「勝負の勝ち負けがあれば私は何もいらぬよ」


 すまん。本当にすまん!!これではどちらが大人なのかわからないではないかっ。見ろ!あの知っているものの顔ぶれが醸し出す表情をっ―――『お前、またかよ』『小さい子に何してるんだよ』とっ!




 頼まれたが他の誘い方を知らんのだ!!!!




 …………………………………………こうなったら私は悪者になろう。貴族の名は雑菌のように小汚なくなってもいい。勝負事がしたい。楽しみたい。己の強味と弱味を研究したい!!私はこの戦いでなにかを得られる気がするんだ!!とくに魔法剣の事で強くなれる気がするんだ!!グレストフ殿っ、感謝します!楽しんできますよ!!


























 えー、まあ、なんだろう。勝負を挑まれました。しかも、とっても大人げないと上流騎士様に。―――もういいや、と思ってこちらも挑発してみたんだ。大の大人が子どもに勝負してその地位は大丈夫?って。そうしたらなんとこの大人は気にしない様子。


 とりあえず、ユリユア様やウォガー大隊長にアビグーア中隊長の目の前で賭け事はご遠慮してもらって返事をしてくれたのだから良しにしておこうか?なんかこの人、扱いにくいな………それにしてもなんで3人は了承したんだろう?


 勝負の内容は、まず選手(二人だけだよ………)が馬から落ちないこと。怪我をしない程度の妨害あり。なので魔法も剣もありなんだそうな。うっかり殺されそうなフラグが立ったんだけど、私は生きてゴールを出来るのかな?断れ―――ないよね………


 せっかくなので私も乗馬。隣にアビグーア中隊長も(これで三人!)含めて私の守り。よし。ただし、アビグーア中隊長が牽制に入るのはいいが、この『紅蓮の剣』に手出しは出来ない。代わりに『紅蓮の剣』もアビグーア中隊長に手出し出来ない。ようは、私はアビグーア中隊長の背中に隠れていれば問題ないんだね!


「広さはこの訓練所が見える範囲の半分だ。まず、馬に乗ってから始める。そこらか数種類の障害物を乗り越え、ウーウを捕獲。五十の中からウーウの青い瞳をしている奴を審判にしてもらう者に渡して合格がもらえたら次だ。因みにこのときの妨害は許さない。ウーウが怯えてしまうからな。次に馬上し、移動したらドーベルの攻撃を潜り抜ける。攻撃は駄目だ。その包囲網を抜け出せば次に同じ大きさの馬を捕まえること。ウパカラマの子どもは大人しいので、アビグーア中隊長も捕まえるように。その馬を引き連れて最終地点にたどりつけた者が勝者だ。道のりはわかるようにこちらで作っておこう。私はキャロラリンの世話があるので午後から開始する。ではな。精々、子どもだからと言い訳でも考えていればいい」


 すっごい喋ったね。喋ったら早々にあの人はどっかに行っちゃった。唖然とその姿を見送ったら―――なんだかね。負けてもいいじゃん、て思う。


 よく考えたら私に痛手があるとは思えない。だって、ね?私自身に傷がついたらそりゃあ結婚が遅れるとかなんとかになるけど、それは魔病とかですでにアウトだし。痛いのは嫌だけどさ。あと別に私は名声を掲げたわけでじゃないからね。お父様の娘と言う肩書きがあるだけで今回の勝負で肩書きに傷がつくとは思えない。魔法は関係ないし。うん。私に痛手があるなんて考えられないね。


 と言うか、認定式を終えた幼女に勝負を挑む大人でしかも隊長で二つ名持ちの方が部が悪い。間違いなく悪いだろう。黙らせられるのなら問題ないから―――そっちの方に自信があるのかな?それにしても保護者みたいに一緒にいてくれる三人が割り込んでこないのが気になるかも。謎だぁ。


「ユリユア様、ウーウとはどんな動物ですか?」


「耳が長く丸い動物だ。これぐらいの大きさでなかなか可愛らしいぞ」


 これくらいって………私の目はおかしいのだろうか。両手で円を描いてくれたサイズがユリユア様の細い肩幅を越えたように見えましたが?もう一度、教えてください。できたら比較物があると大変嬉しいのですが………


「そうだな………クフィーが丸まったぐらいか?」


「ユリユア、お前な―――せめてさっき見たウパカラマの子どもくらいと教えてあげろ」


「そういうがウォガー、そのウパカラマは連れ出されたぞ。想像がしにくい」


 いや、まあ………分かりやすかったからなんでもいいよ。そうか、私ぐらいの動物か………それを渡す?あれ?私は持てるのかな?私ぐらいの大きさならきっと大きいはず。そして重いはずだよね?引き渡してもいいよね?その前に私は青色なんてわからないのですが?


 その事を教えたらウォガー大隊長の耳がピン!と立ちました!なにこれ可愛いっ!!そして頭を掻く姿がまたなんともっ!しかも首を傾げて掻くからなんだか後ろ足で頭を掻くわんこの姿が私の脳裏に浮かんできてウハウハだよ!格好いいじゃなくて可愛いっ!!そして何気に揺れるしっぽがたまらんっ。


「………俺は奴等の訓練に戻る。お前たちで午後の対策でも練っていてくれ」


「はははっ―――!そ、そうだな。ウォガーはここの教官でもあったな。ふふふ」


「ユリユア、何がおかしい?」


「いや?ウォガーが珍しく動揺したからな。その癖は直っていなくて安心した」


「―――かなわんな」


 な、ななななななんと!動揺したの?!動揺したら耳がピン!と立つの!?それとも頭を掻いちゃう仕草の方かな!?どっちだろう。もう勝負よりそっちの方が気になってしかたないんだけどっ。勝負の対策よりウォガー大隊長を観察したい!!


 アビグーア中隊長、ありがとう。貴方のおかげで上からとてもいい構図を眺めることができました。もう、眼福です。ごちそうさまです。そして逃げるように一瞬で飛び退いちゃうウォガー大隊長、しっぽがキュートにしか見えない。


「それでは私たちは対策を練ろうか?と言っても、別に負けてもいいだろうが………こう言うのは楽しめた方が勝ちだな。楽しもうか、クフィー」


「ああ。楽しめ。守る」


「―――はい。楽しみますね。とくにウーウは初めて見ます」


「なかなか愛くるしいぞ。クフィーには大きいかもしれんがあの毛皮の滑らかさは尋常ではない。それに大人しい奴らだからな。叩いたりしなければ襲われないよ」


 そうだね。楽しむことにするよ。でもちょっと待ってね?大人しいとか言っておきながら怒らせたら怖くなるタイプなの?襲われるってなにかな?それって大丈夫?


 ちょっと不安がよぎったけど仕方がない。流れ的にやる事になったのだからやるけど………まあ、まだ時間があるのでゆっくりと考えようかーと訓練所に視線を向ける。


 屍を踏み越えるウママンに声なき悲鳴をあげる騎士たち………踏むたびに体が跳ねるのだから、きっと生きているさ。どこからか出てきた集団が取り囲んで何かしているのはきっと魔法師。ローブを着ているからね。たぶん、死なないよ。死なない………よね?キャロラリンの戦闘を知っているので骨が砕けているんじゃないかと心配になる。


 と、とりあえず………馬の数でも数えよう、かな。うん。少しだけ色々と整理させてください。なんでこんなにスムーズに話が進んじゃったのか、とか………ああ、今日も空は薄いグレーが広がっているね。うん。響き渡る阿鼻叫喚さえ気にしなければ―――長閑だなあ。




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