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彼女たちの意思を汲もう

改訂いたしました。27.8.11

「こんにちわ」


「あっ!クフィーちゃんだ!よかった~」


 そうやって抱きついてくるのはアトラナ。もちろん、私は勢いに負けて尻餅をつき、強打したお尻が痛くて泣きたくなるのを堪えている。そしてやっぱり………右側に寄り添った抱きつきだな、と理解した。


 今回は、私一人で来ることになりました!いや、上にはちゃんとロノウィスくんとドトイルがいるけど。なぜ私が一人なのかと言うと簡単に言えばアトラナを刺激しないため。詳しく言えば私がいない状態で乗り込んだら魔力暴走の一歩手前までに仲違いしてしまったため、私が一人でここに来くる事になったのです。


 聞くところによると―――ドトイルは意外とアトラナの受けがよかったらしい。あんな怖そうな顔をしているのに………言わないけど。言えないけど。なぜかアトラナはロノウィスくんより評価は高かった。しかし態度はそのままで対話したために、アトラナがむくれてしまったのがこの結果だ。ドトイルは子ども相手でもあのちょっとでかい態度を取っていたとなると、ね。そりゃあ逢いにくい。


 で、ロノウィスくんと言えば嫌われたんだって。なぜかは知らないけど。入った瞬間に睨まれて部屋すら入れなかったそうな。ドトイルだけ残すのもなんだったので2人で扉の押し問答の結果が魔力暴走の一歩手前。アトラナから威嚇もされているので、入れない、てね。


 ポメアも行きたがっていたけど、お父様にお使いを頼まれたら仕方がない。代わりになぜかアビグーア中隊長が私の護衛についている。本当、なぜかさっぱりわかりません。


 しかし、アビグーア中隊長の顔は怖い。お昼を食べてロノウィスくんたちを時間ギリギリまで一緒に待っていたエリーとジジルと私。色々と話に花を咲かせていたが、アビグーア中隊長を含むロノウィスくんたちの登場に私の友達はギャー!!と叫びしゃがみこみんで頭を抱えて怯えてしまったのだ。おまけに通りすがりの同じローブ丈の若魔法師も短い悲鳴をあげて一目散に逃げていった。


 エリーとジジルを置いていくのは心苦しかったけど………なんだか被害が拡大しそうだったから慌ててロノウィスくんとドトイルを引っ張ってその場から離れたよっ。ビックリした!


 だからアビグーア中隊長をアトラナと逢わせるのはさすがに無理だろうと言う結果、アトラナの部屋まで一緒に行くが、アトラナと逢うのは私だけ、となった。私が部屋に入ったら扉の前で護衛をしてくれるそうなのでアビグーア中隊長がいらない人ではない。それにもし何かあれば中にいるンゼットォラ様がなんとかしてくれるんだって。まだいたんだね。


 そんな訳でアトラナの洗礼を受けた私は促されるまま中に入る。前に見た時と同じで、散らばって服が床にベッドに。変わっているのはンゼットォラ様のポーズぐらいで、今日はマッスルポーズだ。筋肉が見えないのが幸いである。


 側面から筋肉を見せつけるポーズ………だっけ?右向きの体を上半身は少しだけ前に捻り、左の力瘤を見せつけるために、右手で左手首を握って固定。足も左太ももを見せつけるように少しだけ折り曲げて強調し、右足ですべての体重を支えている。ぶっちゃけなぜそのポーズをしているのか、問いたい。しっかりローブはより体格を見えるように背中に追いやってさ………………そしてなぜ貴方が真ん中にいるのかも、問いただしたい。中に入ったら絶対に見てしまうっ。


「あのね、その像は動くんだよー!前は角にいたのに、いつの間にかここに来たの!形もね、毎日違うから面白いの!!」


「………………へぇ………そう、ぺすか」


 マッスルポーズの像にガン見されている気がする。自惚れ?いや、恐怖からそう思ってしまうのかもしれない。体が横向きなんだから、わざわざ顔を正面に持ってこなくていいよ?もう言葉もでない。


「あれ………面白くない?」


「え、いえ、違います。ちょっと………そえよい、ほかいどんなかたつぃが?」


「クフィーちゃんなんかしゃべり方が変。なにかあったの?」


「前歯が」


「あー!わかった!取れちゃったんでしょ!?私もこの前取れたよ!あれは驚くよね!」


 にーっ!て歯を見せてくれるけど………でも今のアトラナにはしっかりと可愛らしい前歯が揃っている。なんか悔しいと思ってしまったのは気のせいだと思いたいっ!


 なんとか最初の掴みはとれたので、そのままなし崩しにンゼットォラ様のポージングお披露目の会、となってしまった。もちろんやるのはアトラナである。椅子―――と言うかベンチ?木箱?に座ってみてて、と言われたのでそのまま見るんだけどね………わー!すごい!とかちょっと笑ってみたりとかして、内心は複雑だった。


 ねぇ、ンゼットォラ様………なんでポーズにまともなものがないの?


 最初に見せてくれたのが引き続きマッスルポーズ。腕を強調としたポーズや、背中の筋肉を見せつけるポーズ。前から見た少し全身をそらせて胸を張るポーズ。アトラナが言うには、最近はこのポーズをしていたらしい。なんとなくンゼットォラ様に半眼で見たのは当然だと思ってほしい。


 そして次に見せてくれたのはバレリーナのようなポーズ。アトラナは体が柔らかいようで、それを難なく見せてくれた。Y字立ちや、胸元に右手を水平に組んで片足を内側に織り込んでもう片足で爪先立ち。片足を後ろから持ち上げ、上半身も後ろに倒し丸を作るポーズもやってのけた。あと水平立ちも。


 さらにはセクシーポーズまでアトラナはやり始め、モデル立ちから妖艶なポーズに少し怒りが芽生えたのは当然だ。卑猥的はなかったと言い切れないのがまた怒りが芽生えた。幼女のアトラナがやるのだからお遊びですんでいるが、お尻を突き出されたり座り込んで開脚したところでンゼットォラ様に殺意が沸く。スカートが長かったから酷いことにはならなかったが、元を辿ればンゼットォラ様がこんなポーズをするものだから覚えてしまったのだ。これは許せぬっ!


 当の本人はにこにこと新体操をしている感じで楽しそうなのが私にとって救いだと思われるね。これを意図的にアトラナが選んで私に見せていたらアトラナを勝算するよ、色んな意味で。


 それから騎士の物真似や、様々な武人の特徴をポーズしていくアトラナ。いつの間にかクイズ形式になっていて、得物が表現されないものだから一番困った。槍なんか右の肘を曲げて、隣の空間をコップでも握るようにして仁王立ち。分かるわけがない!てか、槍のポーズがそれだけだから一番雑だよっ!


 ンゼットォラ様も槍のポーズは思い付かなかった?せめて突くポーズでもやってくれれば少しはわかると思うのに………肘だけ曲げて立たれたらわかんないよ!まったく………


「面白かったね!」


「そううぇすね………(絶対にロノウィスくんに伝えよう。これはアトラナの教育に悪い)」


「今度はクフィーちゃんかなにかして?」


 なんつー無茶ぶりなのっ!?芸なんかやったこともないよ!!


「あのね、あのね!魔法が見たい!」


 いや、駄目だから。


 見たい!見たい!と迫ってくるけど、これは駄目だ。アトラナの属性と正反対だし、なんと言っても若魔法師であるからには決まり事を破る事はやりたくはない。そのためにこのセーラー服の襟ぐらいしかないローブを身に付けているのだ。さすがにこれは断らせてもらった。


 しかし、食いつくのがアトラナだよっ。何度も説明して納得してはくれたけど―――その顔は頬を膨らませたハムスターのよう。苦笑いしつつ私は謝るしかない。


 で、だ。今日はアトラナに色々と聞かなければならない。そのために来たのだよ。いつまでもここにいたらロノウィスくんたちが心配してしまうので、出来るだけ早くした方がいい、かな………出来るのかね、私。


 とりあえず頬を突っついてみたらぷー、と空気が抜けていく。また頬を膨らますから―――それをまた突っついて空気を抜く。それがなんだか楽しくなるのだから仕方がない。アトラナと笑いながら気がすむまで頬の空気抜きに勤しんだ。うん。楽しいっ。


「もうだめ!」


「残念」


「これからは大人のお話し、しよ?」


 いやー、わざわざ上目使いいただきました。こりゃあ怖い。夏も終わっていないのにアトラナの上目使いの威力が上がったように見える―――と、言うのは冗談で。


 まさかアトラナからこんなキリッとした話が持ち上がるとは思わなかった私は心底ビックリしております。だから反応ができなくて………思わずじっくりとその顔を見た。


 相変わらず色の判断できない白と黒の世界。その世界の中でアトラナは真っ直ぐに私を射ぬく。どうして急にこんな切り出しをしたのだろうか?わからないが、返事をしていないことに気づいて何も言わず頷き返した。でも、アトラナは真剣な顔で私の顔を見るばかり。なぜだろう?探られている………?


「『お母さん』にあったんでしょう?」


 なにか、感じ取った―――と言うことかな。


「はい」


「あのね、私はまだ産まれたばかりだから………わかんない。でもね、『私』も、アトラナも生きたいの。余計な事はしないで」


「―――方法を、知っぺいた………の?」


「昨日ね、『お母さん』が教えてくれたの。だからね、無理矢理に私たちを切り離すんだったら、何もやんないで。死にたくない。放って置いて」


 ぎゅっとスカートの裾を握る手はぷるぷると震えていた。真っ直ぐ貫く瞳は強い。まさかここまで強く否定されるなんて、思わなかったな………おかげで私の選択肢が消えたと同時にまた一つ増えて、お父様に言わなきゃならないことが出来てしまった。


 本人にここまで強く言われてしまえば私はあと人間のアトラナの方の意思を一応でも聞いておく事にする。ちょっとどんな反応で返ってくるのかわからなかったけど、こんなに真剣な場を作ったのだから精霊が出ていった後の話をしておいた。まだ明確な方法を知らないことも伝えて、今の現状も詳しく伝えて聞いた。


 そうすればアトラナも話してくれる。今、意思疏通はできるけど交代はできないらしい。なので、せめて情報交換だけはしているらしい。精霊の方が習ったことを動いたり発音したりして教えているのだとか。だから、退化してもすぐに追い付いてみせるのと豪語していた。頼もしいね。


 だいたい話が終わったあとはすぐにその部屋から出た。なんでも、【火】の魔素を集めたから私に影響が出るかもしれない、とアトラナからの配慮だった。なんで―――と口にしようとしたけどンゼットォラ様がいるからか、私の扇を奪って口を軽く叩かれた。そして囁くのである。お母さんが、と。


 なんだか急に大人びたような気がして驚きが隠れないよ………ンゼットォラ様に聞こえないように囁く配慮とか。いくら抑制魔法具を着けているからと私の魔病を心配したりとか………最初に出会って障害者かも、なんて疑った私が恥ずかしいっ。


 部屋に出て速攻、ンゼットォラ様の事を話しておいたよ!ロノウィスくんが私の心配して駆けつけてくれたけどっ!ンゼットォラ様のポーズは駄目だからっ!あんなのアトラナの教育に悪いっ!!唖然としているけど、なんとか聞き取ってくれたドトイルの方が頭を痛そうに抱えて唸ってくれた。それからアトラナの意思を書き込んでこの件は“ 保留 ”と言う形を作ってもらうことにした。


 報告書にも念入りに、とくにンゼットォラ様の痴態(私にはそう見える!)を書きなぐるように書きまくってロノウィスくんに提出した。ちょっとスッキリしたけどまだムカムカする!もうっ。


 そんな私をアビグーア中隊長が撫でて落ち着かせようとしている。大きな手のひらは固いけど、手つきは優しくて―――だんだんムカムカも収まってくるから不思議だ。そう言えばなんで今日はアビグーア中隊長がここにいるんだろう?


「護衛」


「………ん?」


「アビグーア中隊長殿はクフィーちゃんの護衛に着任したんだよ。ほら、昨日のキャロラリン幼女誘拐事件でグレストフ様とウォガー大隊長、それに近衛隊隊長が話し合ってね。クフィーちゃんに正式な護衛をつける事になったんだ」


 キャロラリン幼女誘拐事件―――そのまますぎるっ。


「え?な、なぜ………べぇ、で、すか?」


「そりゃあ………レーバレンス様とヴィグマン様からクフィーちゃんがなぜか色々な事件に関わっているから、て。見張りでもつけとけって話に―――あ」


 そこですかさずドトイルがバシン!とな。ロノウィスくんの頭を思いきり叩いて黙らせた。そうだね、ドトイル。私も今ね、ん?と思える事を聞いたから叩きたい。護衛って言っておきながら見張りですかっ!?わざわざ畏まった単語にしておいて見張りが本当の理由!!


 私が火種―――が、多少あったような気がすることもないが護衛とか言っておいて見張りとかっ―――うがー!!!!なんか納得いかない!!お父様は心配症なんだから~で終わらせれないこの実態に腹が立つ!!髪の毛をかきむしりたいほど暴れたいっ。


 しかし、ここでアビグーア中隊長がじっ、とこちらを見ているのに気がついた………なにか訴えている目は私を見ています。顔をずっと見ていますが、鋭いヤクザ的な眼力に、どこの死闘を乗り越えたのか聞きたい頬の切り傷。今は一文字に閉じている口は少し口角をあげるだけで全体の怖さをアップさせる。視界の邪魔にならないように短く切ったツンツンの髪は輪郭をはっきり見せることで凶悪な顔は浮き彫りになり、みなが揃って怖がるんだけど………


 瞳を見ていたらなぜか、捨て犬のようなちょっと潤んでいるように見える私は重症でしょうか。あ、ごめん。もとから頭の一部が重症か。とかなんとか締め括って―――最終的にはアビグーア中隊長に、なにもなかったかのように挨拶を交わしておいた。もう、なるようになーあれ。


「城の間。俺。よろしく」


 小さい私の手と、大きなアビグーア中隊長の手。すっぽり収まってなんだか握手になっていない気が………いいんだけどね!!


 そのまま夜の6の鐘まで魔法のお勉強をドトイルから習った。ロノウィスくんは雑学をすると言った瞬間に「報告に行ってくるよ!」とかなんとかで早々に走り去ってしまったからいません。なんだか慌てたような感じでしたが気にしないよ。


 お勉強が終わったあとは魔法院の出口でトールお兄様を待ってアビグーア中隊長の存在に驚いてもらう。なんだか躊躇いながらよそよそしく近づいてくるトールお兄様が面白かったのは内緒にしておこうっと。そして門までお見送りされて私は帰りましたとさ。因みに門までアビグーア中隊長を引っ張っていったらウェルターさんが驚いた声を出していた。


 それからダリスさんにお父様とお話ししたい有無を伝えて帰りを待っていたんだけど………どうやら忙しいみたい。次の朝に呼び出されてまず最初にンゼットォラ様のお話し。ポーズは直立にさせたって。さすがにあの報告書を読んで黙っていられず、十進魔法師と王宮魔法師の権限を持ってそうさせたらしい。他の人も怒ってンゼットォラ様に一発は入れたらしい。やっぱりあの何もないところで像は目立つし、セクシーポーズの像なんて悪影響だよね!!


 確認はご飯を持っていくメイドさんにさせるから、とすごい真剣な顔でされた。うん。そこはメイドさんに任せた!じゃあ―――次は面倒なお話ししましょう、お父様。





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