うだうだ
改定いたしました。27.8.2
『汝は、命を救いたいか』
もう一度言われましても………その質問は答えるものではないと思うんだ。なぜかって?救いたいと言えば誰が救ってくれる?私が救える力を手にいれたら今後の私はどうなるんだろう。救いたくないと言えば私はなんと薄情か。私の人情が問われる。誰も見ていないから、で片付かないよ。私は無駄に悩み続けるんだから。
どっちに転んでも、代償はある。どんな代償かはわからない。見えるもの、見えないもの。感じるもの、感じさせないもの。気づかないものの代償はあると思う。
命がそんな―――はい、いいえで選べるものじゃないでしょ。そんな風に出来るなら『どうして人を殺してはいけないの?』っていうどの答えも属さない、永遠の謎が、人の心理の謎が明かされてしまうから。
この質問、私には軽はずみの答えは言えない。
だから私は黙りとするんだけど………まぐとりと同じように耳に聞こえる声はきっと私の心で会話をしている。だから、思ったことが筒抜けなんだろうね。まあ、いいか。薄情だろうと言われても、私がその手段を得たなら人は変わってしまうから。
『面白いな、汝。人はすがる。救える手段があるなら、差し伸べられる手に自ずと手が伸びるもの』
『救いたいか、と言われれば救いたい。アトラナは知らない子じゃないし、知り合いが死ぬなら助けてあげたいとは思う。でも、人にはお節介というものがある。そのお節介は相手の捉え方によって善し悪しが変わります。それに………ただ、どうだ?と問われたたけで判断するのは怖い。その後にどんな付属が付くのか検討もつきません』
『慎重だな。異世界でも、これは珍しい』
『この声は私の目の前にいるわんこ様でいいんでしょうか?』
『わんこ様………我は幻狼だ。まぐとりより若いが、精霊よりは遥かにしのぐ精霊獣。まあ、目の前におる我が不躾か』
『げんろう………元老?まあ、聞いただけでも凄いな、と表現するしかありませんよね』
『幻の狼だ。まあ、汝が思う元老でも間違ってはいないが。さて汝―――我と契約せぬか?』
話、ぶっとんでますがな。
『精霊獣も精霊と一緒だ。我の姿もまた、普通で止まる人には見えぬ。正直、気に食わん』
『と、言いつつ実は寂しかったり』
『精霊の類いは気まぐれだからな。そして、求められる事により祝福となす。我はこうして歴史を見るのはもう飽きた』
かまってちゃんか。
『………我と契約すれば、アトラナと精霊を助けてやれるぞ』
『そっちが切羽詰まっているようにしか聞こえない不思議』
『幻狼も私と一緒で世界の均衡を作る管理者ですから………今ではこうして精霊以外と話すのは本当にないのですよ。久しぶりで少し嬉しくなっているのでしょう』
『我は精霊獣。ただの気まぐれだ。それにこの異世界の魂は面妖である。損はないだろう』
損得はどこにあったか、それも謎だ。そしてちょっとふて腐れたようにわんこ様は私の隣に腰を下ろした。しかも、ちょっと私にくっつく感じだ。もしこの温度を快適にしてくれる魔法具がなければ暑すぎて倒れていたかもしれない。汗が止まらないよ、絶対。
そして絵面はどこかおかしいと思うんだ。まとわりつくようにわんこ様が背後と脇を固め、空いた脇と私の膝は未だキャロラリンが占領してる。2匹………わんこ様は匹?いいか。に囲まれてこんな窮屈なのはいかがなものか。私、埋もれているよ。この場面を見た人はどんなに目が大きい人でも点になるよ。
『そういえば、私に話しかけてきた精霊もそうですけど、まぐとりやわんこ様もなぜ私が異世界の魂だと分かるのですか?』
『ふふふ………どれだけ生きていると思っているのですか。さすがに違いはわかります。貴方は数少ないイレギュラーですよ』
『イレギュラーが分かるのですか?』
『わかりますよ。古き歴史に、恐らく貴方と同じ異世界から次元を越えてやってくる子がいるのです。体ごと来るのはあるのですけど、魂だけ来るのは滅多にありません 。その中でくる者たちはなかなかに個性的な発言が多く私も少し、覚えました』
『我も少し覚えておる。汝らから見てこちらの世界は異世界のファンタジーらしいな。意味は知らん』
『幻想ですよ。私の世界では魔法なんてありませんから』
『そう、言っていましたね………』
そんなしみじみするほど………そっか。歴史を見てきたんだもんね。もう過去の話だ。途方もない、遥かな物語り………気まぐれも起こしたくなるよね。
『わんこ様、どうやって助け出してくれるのか、教えてくださってからではいけませんか?』
『この世界で精霊はすでに過去のものだ。おいそれと方法を明かせぬ』
『共鳴………するのですか?幻狼はどの属性でもありますが、幻狼は人には大きいでしょう。そしてそれは貴方に大きく影響を及ぼします』
『はっきり言って、共鳴―――契約は確かな理由がない限りやりたくありません。精霊は気まぐれなのですよね?気まぐれで私は遊ばれたくありません』
『む………頑固者め』
『私はこの世界でまだ子どもですから。勝手に決められません。だからまぐとりの申し出も素直に頷けない。私にはまだ世知辛いのです』
ぬおっ!?なんか出てきた!―――よく見るとわんこ様のしっぽでございました………もふもふ…………………はっ!?拐かされないよっ!!でも、触るだけならあ、あぁああいかないでぇっ!!
『触りたければ』
『ふっ。ここに立派な毛皮があるのでしっぽじゃなくてもいいですよ!』
純白はしっぽもたまんないけど、すぐ傍にある純白の毛皮もいいっ。ぽふんと体を預けたら埋まる体………やばい。眠たくなってきた!!しかし、ここで寝たら帰れなくなると言うフラグがっ。
『………………汝に問う。先ほどの精霊とまぐとりでは汝はどちらを選ぶのだ?』
『―――貴方は精霊です。まぐとりが言っていた事が正しいなら、貴方たちは価値観が違うのだから人の生死に疑問は持たないと考えられる。なぜ幻狼は一人の人間にそれを問いますか?』
『長く生きれば我らも精霊が消えていく姿、生まれてこない現状を嘆く。長くなればなるほど人に近づき、人を羨む。答えが欲しいのは確かだ。決めつけてしまえば我らもまたそれを受け入れるだけの心が作られる』
だからって、性急すぎる答えは別の苦しみを背負うだけだよ。何も言わないのは経験があるのかな。黙りこんでしまった2匹………まぐとりはどう数えるんだろう?黙ってしまって幸いと私はまた濁して逃げているのだと気づく。
何に逃げているのかと問えば―――未来かな。描く未来があやふやになるととても怖いんだもの。あっちを選んでああなったらどうしよう。こっちを選んでああなったらどうしよう。不安は常に付きまとう。成功ならそれでいい。でも失敗したら?きっと私は未来から逃げて過去に囚われるんだ。
ずっと足踏みもどうかと思うんだけどね。一人で悩んでたら仕方ないんだって。これは一人で決めなきゃいけない問いじゃないもんね。足掻くけど、今の私ではどうにも出来ないんだって!ぐるぐる回させないでよ、もう………
『つまらん』
「ぶふぅ!?」
毛がっ!?もふもふがっ!?
『故に、面白い。やはり汝は我と共鳴するがいい。名を与えよ』
『貴方も大変ね。もういっそ天下を目指した方がいいのではないかしら。子どもだからって枠からはみ出てもいいと思いますよ。幻狼のことは黙っていればいいのですから。どうせ誰も見えません』
『我は契約すれば姿を見せれるぞ』
『なに、この押し売り。シリアスが出たり入ったりしてぐちゃぐちゃなんですけど』
『アトラナを無事に助けられ、幼い精霊も助けられる。貴方が頷けば丸く納まりますね』
『よし。まぐとりはこちらの傘下になった。汝が優勢になることはない』
『名を与えなければ私がずっと優勢ですよ』
『………………我は、飽きたのだ!』
いや、だからって私の顔を舐めてもね?わんこがご主人に愛想振り撒いてるようにしか見えない………いや、わんこ様の体は規格外に大きいから私は食べられてる絵面しか思い浮かばないんだけどね。
最初のちょっと封印が解き放たれる!的な雰囲気はどこへやら………ぬぬぬ、とか唸ってなんだか考え込んじゃったよ。まぐとりなんか笑ってるし。
―――今更ながらあっちってどうなってるんだろう?
その頃の―――城内は荒れていた。主に、グレストフ一進魔法師が。
「クフィィィィイイイイイイイイイイ!!!!どこだぁあああああああああああ!!!!」
「なぜ窓から叫んでいるんですか!?止めてください!みっともない!!」
もうどうしたらいいんですか、この人。さっきからずっとこうだ。あのクロムフィーア若魔法師がグラムディア殿下の愛馬、キャロラリンに連れ去られて行方がわからなくなってから叫んでうるさい。呼んで現れたら貴方の娘さんはこちらにいい迷惑ですよ。
クロムフィーア若魔法師に関わってしまったおかげで私はこの人のお目付け役を任されたと言ってもいい。誰ですか。眼鏡をかけているならグレストフ一進魔法師も止められると言った人。眼鏡はまったく関係ないじゃないですかっ。
「ウィル!クフィーの声は聞こえるか!?気配は辿れるか!?クフィーは大丈夫かっ!?」
「どれも私では何も出来ない芸当です。少しは落ち着いたらどうですか。連れ去ったのはキャロラリンです。少し強引な遠出です。時期に戻ってきますからとりあえず殿下のところにいってキャロラリンの事を詳しく聞きましょう」
「クフィーと遠出するのは私たち家族の特権だっ!!キャロラリンめっ!」
もう嫌です。なぜ私はこの人をつれ歩かなければならないのですか?うるさいのでクロムフィーア若魔法師で釣ったら少しだけ治まりましたけど………これで戻ってこなかったら自分から探しに行きそうだな………なんて事をしてくれたんだ、キャロラリン………
「殿下っ!!なぜキャロラリンは私の可愛いクフィーを連れていってしまわれたのですか!!クフィーにもしもの事があれば私はあっ!!!!」
「ええと、キャロラリンも馬鹿ではない。子どもが好きだけど、意味のないことはしない。グレストフ一進魔法師も少しは落ち着いてほしい」
殿下、申し訳ありません。もう私では止められそうにないのです。たどり着いた矢先に、高速で挨拶をしたと思ったら殿下に泣きつかんばかりにぎりぎりの線で訴えるグレストフ一進魔法師にはもう、手がつけられません。ここに奥方を呼べば地獄絵図。あと息子と娘さんがいらっしゃるようですが、誰もこの人は止められないと思われます。
護衛騎士が踏み留まらせるぎりぎりな場所で訴えるものですから押さえつけられません。陛下も頭を痛めて追い出されたのですから、もうこのグレストフ一進魔法師を押さえる術は残されていないようなもの。レーバレンス魔術師殿を呼びたくてもあちらでは影渡りも繋がらなくて機嫌が悪い。他の十進魔法師も見ないふりで最終的に私が処理を………
どうすればいいのでしょうか。動けば少しずれる眼鏡を直しても考えが浮かびません。分かるのは眼鏡の修理をした方がいいと思うことぐらいでしょうか。クロムフィーア若魔法師が魔力を少し大袈裟に放ってくれさえしてくれれば、ヴォグマン十進魔法師が察知して見つけられると言うのに………
「グレストフ。もう落ち着いただろう。君が今すぐにやらなければならない事は、なんだろうか」
「っ―――捜索手配はすでに整っております。キャロラリンの追跡はドーベルを使い、風魔法師とヴォグマン十進魔法師殿が魔力等で探っています」
………そんなすぐに切り替えられるならやっていただきたいものだ。グラムディア殿下が少し強めに声をかけただけで、嘘のように静かになった。もう本当にこの人は疲れる。
「キャロラリンはどこかお気に入りのような場所はありますか?」
「森や魔素が濃いところを好むようだ。それと、小さいものだね………―――私も捜索に加わる。姿を隠しつつ出きる限りのことはやるつもりだ。グレストフは私に付くように。―――これ以上は騒ぐな」
「取り乱して申し訳ございませんでした。グラムディア殿下に付き従います」
「殿下。私は少しレーバレンス魔術師殿に影渡りなどの様子や風の魔法師たちに状況を聞いて参ります。出向かわれるならウォガー大隊長殿とご同行を。彼なら鼻が聞くでしょう」
本人に言ったら確実に睨まれるでしょうが。そういえばユリユア殿も最近は騎士棟に姿を見せているようなことを言っていましたね。あちらは大丈夫でしょうか………
「みすみす子どもがキャロラリンに連れ去られた。騎士棟の訓練を少し厳しく、今後に備えるように色々と考慮しよう。ウィル八進魔法師―――すまないが総指揮官のロデアスに伝えておいてくれ」
「御意」




