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二つ目の選択肢

改定いたしました。27.8.2

 えー。『まぐとり』さん、ですか。なんでそんなものが出てくるのか………キャロラリン、君は何をしたんだい?いや、責任を押し付けようとは………ちょっとは思うけど、どうせうやむやに終わるか私が悪いかになってしまうんでしょう?少しぐらい言わせてください。


 なんて思っちゃうわけで………あまり深く考えないようにしよう。うん。その方が懸命だよね、て身に染みてる。まあ、多少は考えなきゃいけないんだけど。穴に嵌まるのは自分自身なので止めとく。


『そうですよ。人間は考えることが出来るゆえに面倒なんです。言いますけど、貴方と話がしたかったのは本当ですよ』


 ………………………………………………………………………ん?いや微妙に会話が繋がったような?でも相づち打たれちゃったんだけど………?前にもこんな事があったな~………あれ。これは深く考えたら駄目なパターンじゃない?試合を放棄していいですか。


『試合はしていませんが………まず、私は貴方の心の声は聞こえます』


『―――わーわーわー!』


『わー、を三回も言いましたね。何かあるのですか?』


 いや意味なんてないです。おかげで本当なんだな、て事がわかりました。いや~、前歯が抜けちゃったからさ、話しづらいなーとは思っていたからね。あとは現実逃避なんだけど、それも今となってはどうでもいいや。


『かのまぐとりが私になんのお話しがあるのでしょう………私はちゃんと帰れますよね?』


『キャロラリン頼みになってしまいますが、帰れます。ここは城の裏手にある森ですから………迎えに来たとしても半日以上はかかるでしょう』


『私とキャロラリンの、命の保証はありますか?森は(私にとって)危険です。死にたくありません』


『貴方が懸念している危険はないと言い切れません。ここには魔獣がいます。その魔獣に危害を加えるなら、それ相応の報いがあるのは当然です』


『何もしなければ何も起こらないと?』


『約束しましょう』


 それはどんな約束だろうか。あえて口にしないが、そんな事を思ったのは仕方ないと思いたい。まあ、相手には聞こえているんだろうけどさ。やりにくいね。まあ、死なないと断言されたのだからここは素直に頷くしかない。だって、何もできないし。本当、子どもが怨めしい。


 キャロラリンが座り込んじゃったから私も座ろう。汚れ?そんなのキャロラリンの涎ですでに汚いさっ。話を聞くだけだし………たぶん。何もしなければいいんだよ。でもお祈りはしておこう。―――死にませんようにっ。


『アトラナという幼女は知っていますね?』


『知っています。今、その子を助けようと色々と模索しています』


『方法とかは聞いていますか?あの子とたまに話をしているのですけど………日に日に不安定で心配です』


『………アトラナが言う、『お母さん』は貴方ですか?』


『あの子にはそう、呼ばれています』


『じゃあ、精霊は本当なのですね。―――精霊に聞きました。魔素を集めるように言われ、共鳴破棄の詠唱を唱えれば解放されると、伺っています』


『―――やはり、ですか。お願いです。共鳴破棄の詠唱は止めてください』


 え。ここで意見が別れるの?止めてよ………今、共鳴破棄の詠唱を探すのにどれだけの時間がかかっていると………ああ、聞こえるんだった。


『なぜ、ですか?』


『それは精霊しか助からないからです』


『………詳しく、お願いします』


『詳しくですか………伝える加減が難しいですね―――…』


 そう言って聞こえてくる声はちょっと待ってくださいと黙りこんでしまった。いいけどね。私も何に対して驚けばいいのかもうわかんないや。共鳴破棄の詠唱が精霊しか助からない、か………つまり、肉体は助からないってことだよね。精霊がアトラナの中身になるんだろうし。


 まぐとりって確かもう絶滅しているんだよ、て話をしていなかったかな?いや、なんか小さいのいたけど。何年も生きていると思っていいのかな?それと精霊を私はどう捉えればいいんだろう。まあ、精霊もまぐとりと似たり寄ったりな年齢と言うか………まあ、長く生きているよね。なんでここで意見が別れちゃうんだろう。


 2択は嫌だな。それでアトラナの生死が絡んでくるんだからなおさら。こういうのは私が決めるものじゃないと思う。


 キャロラリンはやりきった顔で寝ちゃったよ。私の膝枕ってどうなの?キャロラリンって名前からして雌だよね?てか雌って聞いてるんだけど。ユリユア様みたいだな………そして遠くからわんこ様が歩いて来るんですが?危害を加えちゃいけない、と言われましてもそのわんこ様の大きさはキャロラリンと同格………大きすぎるよっ。なぜか私?キャロラリン?を見てこちらにやって来ると言う、ね。食べられたら呪ってやる。


 その毛並みは真っ白です。純白………いいですね。そして純白に浮き上がる瞳はグレーです。大きいです。大きいから赤だと怖いので………無難な青だと思い込もう。てかよく考えてみよう。ここ、城の裏手にある森。はい、なんでこんな大きなわんこ様がいらっしゃるんですかね?謎が増えただけだわっ!!


『ああ、それはたまにこうやって水を飲みに来るんですよ。この大樹にある泉はどこよりも美味しいらしいですから』


『そうなんだ………触っていいですか!?』


『………いいそうですよ』


『よっしゃぁぁああああ!』


 と言うの私の心の声。むしろ魂の叫びは相手に伝わったのかもしれない。ピクンと爪先が動いたと思ったら止まってしまった。なんか警戒されているような気がする。そして遠回りに………え、なんで私と対面しているの?泉があるから触れたいんだけど?あれ、ねえ、ちょっと………?キャロラリンで動けないっ!?


『説明してもいいですか?』


『お触り厳禁ならほのめかさないでっ―――説明をお願いしますっ………』


『………………ええと、精霊は知っていますね?』


『魔素が自我をもって自立した個体と思っていいですか?』


『それでいいですよ。まぐとりである私と精霊はほぼ一緒の立場です。まぐとりもまた、魔素の塊で精霊のように自由ではありませんが、意思を持つ個体です。上を見上げてもらえれば分かります』


 上を見上げれば………ああ、なんか一つだけ雲がキラキラとしているね………あれがまぐとりかな。と思っていればすぐに『そうです』と返ってくる返事。光る雲………さすがファンタジーと思っておこう。―――あれ?でも前に【風】の授業の時に雲も【水】と【風】との魔素の塊だって聞いたようね気がするんだけど―――なんでキラキラして見えないんだろう?


 と、言う私の疑問もすぐに解決。私と雲の距離が遠すぎるんだそうです。でも、あんなに集まっていたらさすがに………と、言えば常に動いてますから、と返ってきた。今、私の回りに魔素が見えないのは高速に魔素か動き回っていて、見えていない(・・・・・・)からキラキラと光らないらしい。


 それで、アトラナの話に戻るとして精霊しか助からないのはなぜですか?わざわざ魔素を集めて詠唱を唱えたら、って教えてくれたのにさ。まさか、アトラナの名前をいいことに精霊に置き換えてる?これはみんなの捉え方が間違っているの?


『そもそも、精霊は人間ではありません。精霊は魔素としか言えませんが、魔力を持つ人間と魔素である精霊とでは価値観が違います。精霊が魔法の手助けをしていたのは知っていますか?』


『精霊が魔素を。人間は魔力を。お互いが出しあって魔法が放てます』


『正解です。昔はそうでしたね。では、問題です。今は魔素と魔力が合わさったことを共鳴と呼んでいますが、昔の精霊との“ 共鳴 ”―――これは何を意味しているかわかりますか?』


『意味?………相性だとしか私は知りませんよ』


『相性、ですか………あながち間違ってはいませんが、それに“ 運命共同 ”と付け加えてください』


 運命、共同………?それって、運命が同じになってしまうと、考えていい、のかな?『そうです』と返ってきました。あ、そっか………え、つまり―――アトラナ(肉体)が殺されたら共鳴している精霊(中身)も死ぬし、精霊である魔素(中身)がなくなっても魔力の枯渇としてアトラナ(肉体)が死ぬ?


『共鳴という契約をすれば、どちらもなくてはならない存在で二つが一つとなる意味を持つのです。この一つになったものを元の別々な存在に戻すことは不可能でしょう。しかし、精霊は人間と違い、魔素があればその意思はなくなれど、精霊としては生まれ変われる事はできるのです。こちらからしてみれば生まれ変わる(・・・・・・)だけですから、何の障害もないのです。もう、お分かりですね?』


『―――つまり、精霊は生死をそんなに重く見ていない、と』


『人間は多くを考えます。精霊も考えますが、それは個人のみです。回りには基本、無関心なのです。ですから誰が消えようと、自分でなければ問題ありません。魔素が還元されるだけですから』


『では、なぜ私には三人の精霊が助けを求めに来たのでしょうか?一人としかお話ししていませんが、その精霊は私に精霊の助けを求めました。なぜですか?』


『………精霊は気まぐれです。アトラナの精霊は産まれてすぐ人間と共鳴をしてしまったので、同情でしょう。人間は少なくても六十年。長くて八十、九十と生きます。自由に飛び回れる精霊にとって、それは窮屈なのです』


『でも、昔は共鳴したじゃないですか。それは運命共同というぐらいですから、縛られていますよね?何が違うのですか?』


『確かに縛りはありましょう。しかし、それはちゃんと人間と共鳴するにあたり決められるのです。魔力と魔素の精霊が釣り合わなければ共鳴なんで出来ませんし、縛るといっても行動をそこまで制限するほどではありません。それこそ、相性で決まりますからそれほど窮屈ではないのです。ですがアトラナの精霊は体内。それに魔力が釣り合っていないために出られないのです。その術がありません』


 ………共鳴がそこまで面倒なものなんだって知らなかった。てか厄介な事になってる。どっちを信じるか。どっこいどっこい。


 いきなり共鳴をやめてくれと言われても、後は共鳴破棄の詠唱を唱えるだけの段階まで進んでいる。共鳴がそんな危険なものになっているのになんで破棄が存在するの?


『それは、精霊が教えた、としか言えません。存在はするみたいです』


『共鳴を知っているのに、なぜ破棄はぼかしますか。伝えてしまえば私が使ってしまうからと按じているのですか?』


『ごめんなさい。アトラナは生きているから………どちらも生きていてほしいのです』


『どちらも………?私にこうやって話しているんです。別の方法があると言うことですよね?』


『………不本意にも、共鳴してしまった。これはもう、仕方がないと思っているのです。ですから、アトラナの魔力と精霊を釣り合わせなければなりません。そうすれば二人はまだ生きていられます』


『世間から見れば二重人格とでも言えばいいですか?喧嘩しません?』


『二人が生きるには、これしかありません。なってしまったものを、人の手でどうにかなるとも思えません』


『精霊ではないアトラナは生きているから二人と言うのですよね?………貴方がこの話を薦めると言うなら、私たちのやって来たことは無駄ではありませんか。どうしてもっと早く伝えてくださらなかったのですか?』


『私も精霊と似たような存在です。私たちを捉えることの出来ない人間に、こうして話しかけられるのも限りがあります。魔力が多い、貴方だから話ができるのです。お願いします―――共鳴破棄は止めてください』


 そんな事を言われても………言ってしまえばそれはまぐとりの自己満足じゃないの?アトラナと精霊はそれを望んでいるの?それに………私がそれを判断する事は出来ないと思う。精霊の話をしてアトラナの助ける手段を伝えたのは私。その私が今度はなかった事にするのは大人を振り回しすぎている。


 お父様なら多少ぐらいわかってもらえるかもしれない。でも、多少で、わかるだけ。検討の価値は?絶滅してしまっているだろうまぐとりから教えてもらいました。なんてお父様ぐらいしか信じない。それなら存在しているだろう精霊の方が信憑性が増す。しかも魔法の手助けまでしているんだからなおさらだよ。


 大人はなにを信じる?誰を信じる?なんでこんなに面倒な事ばかりになっているんだろう………私の悩みも、まぐとりに届いているはずだ。私はどれが正しいのかわからない。どの選択肢がいいのかわからない。言ってしまえば、なぜ私がここまで巻き込まれているんだろうか………このシナリオ、おかしすぎない?


『助けられないかもしれない。助けられるかもしれない。私一人ではどうにも出来ない』


『わかっています』


『一応、この事は親に告げます。ですが、これは混乱を招くだけでしょう。伝えたからと言って期待しないで。怨まないで。嘆かないで。私たちを卑下しないで。私たちを過小評価しないで』


『わかっています。無理をさせて、ごめんなさい』


 謝るのは卑怯だ、と思ってしまう私はどうすればいい?私にしか伝えられないからと、まだこの世界で7年としか生きていない私に何をさせたいの?ああ、考えるな………これ以上考えたら魔力暴走しそう。


 だから、こうやってぼうっとするのも、いいじゃない。こんなところに連れられて混乱もして―――まぐとりにお願いされて………キャパオーバー。あともう少しだと思ったものが危ないんだって………精霊って、なんだろう。


 私の事が詳しかった。と言うか真綿を知っていた。異世界の魂とまで言って………なんで知っているんだろ。魔素を集めて共鳴破棄をしたら精霊が自然に引き寄せられて―――アトラナ、アトラナって言ってたけど、それは中身か、肉体か。どちらを意味していたのかな?共鳴破棄をしたらどうなるのか聞いてないね。なんだか考えていたら私が撒いた種に見えてくる。どうしよう。抱え込みすぎだ。


 そんな私を見かねたのか、大きな体のわんこ様がよってきて顔をベロンベロンと舐めてきた。ライオンの舌じゃなくてよかった!ポツポツはしているけど痛くないっ!ライオンの舌だったらもう私の顔面は血だらけだよっ。そして鼻を擦ってくるという、ね。なんだろう。可愛い。


 舐められて湿っているのか、もともと鼻が湿っているのか知らないけど、ぷにぷにの鼻先は柔らかい。癒される………だから私もそっと顔に触れてみる。鼻筋までしか届かない腕を伸ばして撫でるのはちょっと一苦労だ。でも、これまた毛並みがもふもふしているようで癒されますっ。気持ち的にほんの少し軽くなった気がする。


『汝、命を助けたいか』


 ………………誰だかわかりませんが、軽くなった気持ちを返せっ!癒しを堪能させろ!!今は考えさせるな!!子どもに重い役割を押し付けるな!!うがーっ!!………私の冷静、戻っておいでっ。





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