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誘拐されました。馬に………

改定いたしました。27.8.2

 レーバレンス様にアトラナに逢うって言う伝言を伝え忘れていたな、と思い返してうっかり病を発動させた私はあえなくポメアにお願いである。いや、新しくできた抑制魔法具がね。てかパンがね。いや、それより魔法剣がさ………


 なんだかんだ、ちょっといいわけを考えつつ反省しています、はい。まさかのうっかりにもう情けなく思う。あれはあれでインパクトが凄すぎてですね、うむ。3日ほど忘れていました。そして騎士棟に行き、アビグーア中隊長が来るまで待っている時のこと。ふと、思い出すんだよね。ふ―――と。


 ただね、そんな事より今、事件で頭の中がギャーギャーと騒いでいますよ。大混乱です。思考停止している私はさぞ変な子どもだろう。なぜかって?そりゃあ待っていたらいきなりカツン……カッカッカカカ………とね。まるで床に石ころでも落としたような音が響くんだよ。しかも、それがなんだか2回も聞こえてね?2回目でその音となる物を追ったら―――分かるわけがない。とりあえず白いちょっと四角いようなでも一部尖っている粒なんだもの。


 さすがに受付のおじさんも気になったらしくてね?覗きこんで首をかしげていた。私は、というと―――ポメアがいないのでこっそり、素早く自分でそれを拾う。小さめの布、もといハンカチをかぶせて摘まんで………近くで見てもよくわかんなかった。もう一つも摘まんで見たけど似たような感じである。


 これをじっくりと見て―――大混乱さっ!よく見たらこれ歯だよ!確認したら私の前歯がないんですけどぉぉぉおおおお!?とっさに口元を押さえて舌で前歯をさぐったら案の定、ない。なぜ、ない!?でも固いっ!?あんれえ!?


「お前さん、遅かったんだな。よかったじゃねぇか。生え変わって」


「はっ!?―――…」


 たぶん、この受付のおじさんが言ってくれなければずっとどうしたー!?てなっていたと思う。これだけあたふたしていたらね?受付のおじさんはちょっと笑いを堪えるように肩がぷるぷるしているしっ。げせぬっ!笑うなー!!


 まあ、受付のおじさんのおかげでようやく理解したんだけどね。この白い粒は私の乳歯である。て。ビックリした………あー、ビックリした。まさか口からポロン、と出ていくとは思わないじゃん。もう焦って焦ってビビったよっ。そうだよね、子どもなんだから歯の生え代わりがあるに決まっているじゃんか。でも、遅いような………?と考えてああ、て納得です。


 そう言えば今まで食べてきたものは前歯をあまり使わなかったな、と。ほら、口をそんなに大きく開けてはいけませんよ?て、お母様の指導があったからね。前歯とフォークがかすった音を出してはいけないし口元にも意識して~あとうんたらかんたら………舌を使うようにして食べさせられていたから前歯の負担はあまりなかったな、とね。うん。遅くない、はず。


 てか私、前歯がポロンと行っちゃって気づかないとかどうなの?それもおかしいけどそれって、私は口を開けて呆けていた、って事だよね?やばい。お母様にバレたら教育指導が見直されるっ。それだけは避けなければ!!そして私に扇を!!お母様がそろそろって言った意味がよくわかった!抜けた前歯をちらつかせれば貴族令嬢の見映えが悪いですね!!


「お前さん、今日は帰るか?俺も一応は貴族の端くれだから言うが、子女でも口許を隠す扇が必要だろ?」


「でも、勝手いいおう………い、ど、う、するわけにひぃは………むぅ………」


「もう少し喋っていれば普段通りに喋れるだろうな。どうする?貴族の娘だろ?今日ぐらいはいいんじゃないか?」


「せめて、びぃぞが来てから……びぃ、ひぃ………」


「侍女な。そうだよな。お前さんを一人で歩かせた方が俺の首が飛びそうだ」


 あれ、こんなに喋りにくかったっけ………?なんか母音が『い』に属するやつらが言いにくい。なにこれ。『い』が『ひ』になるってどういうこと。昔を引っ張り出すにもそこまで覚えていない私にはもうこれが正しいと腹をくくるしかない。だって実際に喋ってみれば言葉が、ね………ここにきてそうなるのかと考えるとちょっと泣けてくる。そして来てくれないアビグーア中隊長。なにかあるのかな?


 と言うことでポメアが来るか、アビグーア中隊長がくるか。このどちらかが来るまでこの髪が貧しく瞳は群青色と予想をたてて俺も貴族の端くれなんだぜ?というメザックさんに話し相手になってもらった。最初こそ愛想は悪かったけど、今では通いなれて顔パスでま行けるんじゃないかと思わせるほどこの人と会っている。


 きっかけはアビグーア中隊長が今みたいに少し遅れてくるこの合間の時に。私がちょいと話しかけたのだ。ここにはどんな人が来るんですか?て。好奇心でって言うか、ずっとこの受付の窓口で立ちんぼうしているのも気が引けたから声をかけたのですよ。ポメアは侍女を全うしようと、話しかけても「なりません」で取り合ってくれないんだもん。ようは暇でした!


 まあ、知らんぷりされたら今後は社交辞令で終わっていただろうね。でも、意外にもこのメザックさんは気だるそうにではあったが、ちゃんと返事をしてくれたのです!そして話していくうちにこう、仲良く?なったのだ。面倒見いいよね。おじさんだけはある。


 もちろん、私が話を繋げたからなんだけど。だって出てくる家名が表面だけだけど知っているところはかりだったんだもん。だからその家の主と奥方、あとは息子娘は何人ぐらいですね、みたいな話をしたら食いつく食いつく。と言ってもそこまでしか知らないので後はメザックさんが「この家はよー」で繋げてくれる。騎士で貴族となると下級騎士から関わることが多いんだって。だから多少なら知っている、と言うことでボロボロと出てきて話が繋がってね………


 メザックさんは中級騎士だったけど、右足と右肩を痛めてこの受付に腰を下ろしたらしい。雑務はちょっと多いけど、やってると楽しくなってきたって言って笑っていたからなにも言わないさ。給料も中級騎士分をいただいているから、仲間の騎士から言われる中傷さえ無視していれば受付は天国らしい。本人がいいならいいんではなかろうか。


「それにしてもお前さん、小さいよな。幾つなんだ?」


「7べ………で、す。メザックさんは?」


「若いな………それよりおっさんの年齢を普通は聞くか?こんな髪の毛散らしてたら分かるだろう」


「んー………50?」


「まあ、そんなもんだ。10で入れられて………20で下級騎士になって………33でようやく中級騎士。残念なのが戦場で負った傷ではなく、夜営訓練で崖から落ちて怪我したことか?まあ、おかげで俺はこうして受付管理させてもらってるけどな。もう20年以上か?長いな」


「生きてこそ得られたんべすから、いいびゃないですか」


「………いい言葉なんだが、締まらねーな」


 私も、そう思う。どうも濁点もなかなか言いにくいようで、せっかくの言葉が締まらない。まったくもって不愉快ですね!ちょっと顔が熱くなってくる感じがしたから頬に手をあててですね………あー、やっぱりちょっと熱いかな。


 またそんな私を見て笑いだすメザックさんは知らないよ、まったく。私は前歯がなくなってこんなにも喋りにくかったのか、ってすごい悩んでいるんだからさっ!普通に喋られるのは2日―――いや、遅くて3日後かな?待ち遠しいな………


「それより、遅くないべすか?」


「そう言えばそうだな。いつもなら待たせたとしてもそろそろ来る頃のはずなのにな………なにかあったか?」


 ちょっと待ってろ、と言って覗かせていた顔を引っ込めたメザックさんはちょっと引きずる音を立てながら出ていった。私は、と言うと―――背丈が足りないので音だけを聞いて見送るだけである。バタン、て聞こえたから出ていったんだろうね。その向こうは訓練所に繋がっているのかな?わかんないけど。で、一人になってしまったんだか………一人で帰すのは~とかいいながら置き去りはいいのか、メザックさん。いや、いいか。


 おかげですっかり手持ち無沙汰だよっ!


 話し相手がいなくなったので何をすればいいのか検討もつかない………ポメアも遅すぎるしっ………2人とも、何かあったのかな?ちょっと心細いけどしかたがない。だから、こうやって蹲るのもしかたがない。だって、一人では何もすることがないのだから、しかたがない。ここ、椅子を用意してくれないかな?


 とかなんとか考えていたらちょっと地鳴り―――地響き?がしてくるというね、私はどこに逃げろと言う!?しかも、だんだんと大きくなる―――ううん。近づいてくるとか怖くてたまんないよっ!?逃げようにも私の足の遅さは知っている。見たみなさんのお墨付きなのだ。運動もしていない私が突発的に早くなるわけがない。せ、せめて何か固いものの下に隠れようかな………


 でも、残念なことに通路なんだよね。廊下なんだよね。隠れるところなんて何もないんだよね!かといって移動するにも私にはこの廊下という通路は長い。100メートクターはあるよ。今から駆け出しても遅すぎるのは分かっているっ。だって音が聞こえてくるんだもの。その音はある一つの音にほぼかき消されている、たくさんの音。


 ドドドドド、の中に「待てーっ」「頼むからーっ」「ひぃーっ」「いくなあああああああ」とか、ね。そして見えてくる白いもの。後ろのモヤモヤは土煙かな………どんな登場をしているのかね、キャロラリン。そして―――なんでこっちに来るの!?


 キャロラリンに勝てるわけがない!そしてここは受付である!!ちょっと広いフロアと窓口。キャロラリンがいる通路と出入り口の通路の一方通行………轢かれる!!こんな時にどこに逃げればいいわけ!?まったくわかんない私はとりあえず壁に張り付いたっ。壁って安全かな!?角の方が安全かな!?


 本日2度目の混乱はキャロラリン………そし私はまもなく到着するキャロラリンに………ほ、本日もお日柄よく―――なんて挨拶をするわけもなくキキィとでも擬音をつけたくなるような滑り込みでブレーキをかけ、私の首根っこを噛まれたと思ったらIN篭!!わけわかんないよぉぉおおおお!?しかもキャロラリンがそれをくわえまた走り出したー!?用意周到だなあぉおおい!?


「ぃいやああああああああああああ!!!!」


「やべえ!誰か犠牲がでたぞっ!!」


「馬はまだか!!回り込んでキャロラリンの道を塞げっ!!」


 遠くからそんな声が聞こえました、はい………残念なことに篭から顔を出す勇気はない。なぜなら私はその辺りから記憶がぷつりと消えてしまったのだから………今日、厄日だ。いや、むしろ7歳になってからごたごたしすぎ。厄年なんじゃない?む、無念………………


























「………………くっさ」


 起きました。おはようございます。手のひらを見てああ、子どもの手のひらだな、と理解して自分と名前を唱えて意識を現実に向けたら臭くてげんなりです。しかも!頭だけ………元を辿るとキャロラリンの涎だとわかるからもう、ね。元気ではない。私の活力はすべてどっかにいったさ………


 とりあえず、下ろされたのは森の中だね。そしてこれは泉かな?小さい水溜まりは樹の根っこの部分に直径は私ぐらいだから1メートクターと30センクター?まあだいたいそれぐらい。深さはわかりません。だって奥が黒い。あ、深いのか。まあ白いものか反射かな。グレーは風が吹くときに起こる水面の揺れかな。そんなことより洗おう。洗わせてくださいっ。


 篭からよいしょと出て………跨いだのはしかたがない。今日はこればっかり言っているね。それからばしゃばしゃと洗って髪もすすいで………なんとなく、臭いっ。まあしかたないよね。篭をくわえていたんだから、隙間から涎が流れちゃうよねっ。そんなキャロラリンはこの泉に顔をつっこんで水を飲んでいた。舌を使って飲んでるっぽい。さすが馬だ。濃ゆいが。余談だけど顔を拭こうとして取り出したハンカチに歯を入れていたのを忘れて泉に落としちゃったのは―――まあ、いいか。きっと大丈夫だよ。もうなんの心配してるんだかっ。


「森?だよね………どこ?」


 改めて見渡しても森です。囲まれている森です。森、好きではありません。なぜかって?虫がいるからだよっ。幸い、ここには虫がいないみたいだけどさっ!いたら叫ぶっ。絶対に叫ぶ。


 それにしても………朝でよかった。私が見える世界はこの大きな木に泉があり、今いる場所を中心に空けている場所。それとなく草が生えていて、広さは庭付きの屋敷が建つくらいかな。けっこう広い。そんな広さで朝でよかったと思うのは………森は私の弱点であると、教えられたからだ。中に入ったら私はきっと、生きていけない。


 なぜか―――それは私の目が色盲だからだ。白と黒しか色がない私。現在進行形で、向こうの木々の隙間は黒となっている。所々に見えるのグレーは光のおかげで木が見えるだけ。しかし、影が入れば入るほどグレーも濃くなって………黒になる。表面だけでも濃いグレーは黒より。葉が覆い繁れば繁るほど色が濃くなり黒となる。つまり………陽がなければほぼ、黒だ。多少ではグレーすぎて危ない。どうやらこの森の緑は濃いらしいね。ほとんどが濃い色だもん。


 見上げたこの大樹も………高いし、奥を覗けば覗くほど黒い。むやみやたらと森の中に入るのは危険だね、やっぱり。一人じゃ駄目だよ。迷子確定だ。足元も見えるかわかんない。見える範囲で木々が隙間なく並んでいるから足元だって危ない。暗闇を手探りて行くようなもんだよ。一度入ったら出られないと思う。てかこれって誘拐だよね?馬に誘拐されたんだけど………当のキャロラリンは澄ました顔で大樹を見上げている。なにその余裕。


「キャロライン。どうしてここい連れてきたの?」


 分かってるけど、聞きたくなるのが人間です。そして前歯がなくて悔やまれる。キャロラリンがキャロラインになってしまったよ!でも話さずにはいられない。つまりは私、寂しくて心細いのです。さっきは涎をよくもっ、とか思ったけど森は怖いってわかったからね。知っている生き物がいるだけで安堵する。


 でもキャロラリンは私の顔をぐりぐりするだけで何も言ってくれない。当然だとわかっているけど、動物の言葉がわかるはずのない私には踏ん張るためにキャロラリンを顔を抱えながら足に力を入れることしか出来なかった。どうしよう………


「キャロライン、家に帰してくらさい」


『その前に、私とお話をしてください。キャロラリンには無理を言ってお願いしたのです。ごめんなさい』


「っ―――…………………っあ、れ………?」


『まぐとり………そう、呼ばれています』




 

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