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アトラナと『私』

改訂いたしました。27.7.26

 ずっと誰だろうって考えていた。




 ずっとなんだろうって考えていた。




 でも、答えはわからなかった。


 わからなかったのは最初に目覚めたとき、回りが真っ赤だったから。閉じ込められた真っ赤なお家。なんでだろうって思ったけど、目覚めてゆっくりとお家の中を動き回っていたらそれが当たり前になっていたの。


 目覚めた時にわかるのは自分が産み出されたこと。『お母さん』によって産まれてからこのお家を出られる日を待った。でも、すぐに聞こえる声によって真っ赤なお家は薄暗いお家になる。


 聞こえる声は「素晴らしい」「これなら」「保管しなくては」そんな声が届く。よくわからなかったけど、薄暗いお家にすごく嫌な感じがした。だって、中は自由に動けるけどつまんない。どうしてこうなったんだろう。誰か、助けて。


 次に真っ赤なお家になったのはいつだろうね。わからないけど、ようやく明るくなったお家に喜んだ。だって、薄暗いより真っ赤な色の方が嬉しいから。でも、変な感じがした。ぶつぶつ変な音が聞こえてお家が動いていく。またよくわからなかったけど、一つだけ分かったことがある。


 この日に『私』は『アトラナ』と呼ばれた。初めて名前が付いた。


 視界に映るのは真っ赤なお家じゃなかった。後から分かったのは、色。他にも人。物。もっと細かく言えば司祭様、ママ、パパ、イーツェ。初めて見るものに私は驚かされるばかり。その時もとても嬉しくて、声に出して笑えば人の気配が暖かいものになっていたの。


 でも、おかしな事が発覚した。お家の中はいつも真っ赤だったのに、アトラナになってから色んな色で明るかったのに途中から黒くなって怖くて泣いた。もっと怖いのは頭の中に声が聞こえること。「だあれ?」って言われたから「あとらな」って教える。それから不思議な体験の始まり。


 まず『私』は人間らしい。驚いた。お母さんは人間じゃないのに『私』は人間だ。変なのって騒いだらママにパパが何か言っていた。知っているよ。怒られていたんだ。『私』もよく怒られる。でも、その理由がわかんない。イーツェっていう侍女はいつも怒るだけなんだもん。


「いい加減にして!」


 て。


 それはそうとこの体は成長するんだよ。凄いね。ちっちゃかった手や足、体もおっきくなった。頭の中の声も喜んでいたよ。でも、ママとイーツェは笑ってくれない。知っているよ。嬉しくないときは笑わないの。だからママとイーツェは嬉しくないんだよね。なんでだか、それは『私』にはわからなかった。


 ちょっと暖かくなったり、暑くなったり、だんたん寒くなって、すっごく寒くなったり。ゆっくり変化する季節ってやつがちょっと嫌い。『私』はいつも暖かい方が好きなのに、ゆっくりと変化する季節は暑い時も長いけど寒いときも長い。体が冷たくなってよく暴れていた。そしてイーツェに怒られる。なんで駄目なのか、よくわからない。


 そして『私』は月日を覚えた。物もたくさん覚えたし、感情も覚えた。礼儀作法はそこそこしか覚えていない。だってイーツェが恐いもん。あの手に持っている何かがわかんない。でも、何かを間違うたびにその何かが足を叩く。凄く痛くて声と一緒にいっぱい泣いた。


 それからパパが教会ってところに連れてきてくれた。精霊がいるって信じる人が集う場所なんだって。どうして連れてきてくれたのかは知らないけど、ここはすごく懐かしく感じて、そしてとても暖かくて幸せの場所だった。


 それからパパが許すかぎり教会に行かせてもらうようにお願いした。最初はよかったけど、一つの季節がすぎた頃には行ってくれなくなったから泣いて暴れた。だって、あの場所は不思議と懐かしいの。でも、連れていってくれないから泣いた。暴れて物も投げた。当たらないようにしたけど、投げて飛んだらどこにいくか分かんないから知らない。当たったってしらない。連れていってくれないから当たるんだよ。


 そうしたらお願いが通った。嬉しい。あと、嬉しいことは回りが真っ赤になって私を包んでくれたこと。なんだかわからないけど、『同じ』だって思った。『私』と『同じ』。あれはなんだろう?見たくてよく泣いたよ。だって、『同じ』なんだもん。だから聞くの。


「『わたし』、なんでここにいるの?」


 真っ赤な何かは何も答えてくれなかった。


 また教会に行ったり来たりしていたらママが怒った。貴族の淑女たるもの!て怒るから私は泣いた。そうしたらもともと聞こえていた声とは別に、声が聞こえたの。とっても優しい声で、すぐに『お母さん』ってわかったよ。


 でも『お母さん』はなんだか悲しそうな声で『私』に謝ってくる。なんでか聞いたら『私』の本来の姿は違うのよ、人間じゃないのよ、精霊なのよ、って。その日から『お母さん』に色々と教えてもらった。頭の中の声は最近、聞こえなくなってきた気もする。


 そして、私は理不尽だと思った。本当は自由に飛び回れて、『同じ』である魔素や精霊と遊んだり出来るのに、私は人間の体に閉じ込められたから遊べたり出来なくて自由に出来ないんだって。意味がわからなくて泣いて暴れて赤い魔素を集めた。話しかけても何も聞こえなくて、ただ『同じ』なんだって理解できるだけで苦しくなった。


 ママもそう。私が大きくなれば大きくなるほど恐くなる。でも、他の人の前では『お母さん』のように優しくなる。それがまた怖かった。なんで私はここにいるのか、まったくわかんないの。『お母さん』に言われて、我慢して泣かないようにして、それからママに従うようにした。


「自由になれるのは、いつなの?」


 ―――そんな時に出逢ったのがクフィーちゃん。とっても不思議な感覚な人間だった。どんな人よりもいっぱい魔力を持っていて、落ち着いた雰囲気の子。なんだか水の精霊みたいだなって、見たこともないのにそんな風に思えた不思議な子。


 最初は当たり障りないようにお話ししていたけど、パパが呼んでいたからしかたなくクフィーちゃんと別れた。その後、ママからずっと聞いている注意を何度も聞かされる。うんざりする。でも『お母さん』がお願いって言ってたから我慢するの。『私』は自由になれるって教えてくれたから。


 でもね、耐えられないときもあるんだよ?イーツェが『私』のことを馬鹿にしたの。許せなかった。だから怒ってやったら魔素がいっぱい弾けたの。それを見ると『同じ』仲間が私を守ってくれるようで少しだけ安心する。


 そんなある日、ママが今日から離れるように言われた。なんでって聞いたら魔法師のお話しだった。知っているよ。精霊と仲良くなった人間の話。だから二つ返事で「うん」て言ったの。これがお別れなんて知らなかったけどね。不思議と『私』は悲しくないんだ。


 それからまたクフィーちゃんにあえて本当に嬉しかった。だって、クフィーちゃんの不思議な感じ、私は好き。とくに右側。なんだか『同じ』気がする。でもクフィーちゃんは駄目って言う。なんで?って聞いたらちゃんとわかる理由が返ってきた。だから素直に聞くの。この感覚は初めてかもしれないね。いつもは怒るだけだもんね。


 でもね、また怒ったらクフィーちゃんがいなくなっちゃった。それが嫌でまた怒ったら怖い衝撃で眠らされた。変な感覚。でも、似てるなって思った。あれが魔力なのかな?


 それから私の前には誰かがいっぱい来た。長いローブを着た魔法師たちがいっぱい。入れ替わり立ち替わりに来た。怖かったよ。最初は質問されたから素直に答えたの。でもね、途中で誰かが言ったの。


「こいつ、危険だ。魔力が前より多い」


「は?そんな事があるわけがないだろう」


「―――いや、絶対に増えてる」


 なんだか怖かった。だって『私』は『お母さん』に言われているの。精霊だよって言っちゃ駄目って。魔素を取り込むことなんて容易いの。だからこの魔法師の言葉がとても怖くなって、来る人をひたすら拒んだ。おかげで魔力暴走が起きちゃって、また魔素を取り込んでしまったの。魔力暴走は一気に体の外へ出す代わりに、一気に魔素が入るの。そして呼吸をしていたらさらに魔素を補える。だから体の中にいれると魔力になっちゃうから増えちゃうの。気を付けてるけど―――我慢は、出来ないよ。


 あとね、その魔法師を見ているとね、とても怖くなる。とくに目から伝わってくる魔力がいや。あいつらは人殺しだってすぐにわかった。『お母さん』がそう教えてくれる。魔素を食い殺す奴ら。腕につけている魔法具が、『私』と『同じ』仲間を食い殺すの。だからそいつらは人殺し。魔素を食べる奴らは人殺し。だから、来ないでっ。


 泣きたくなったから泣く。怒りたいから怒る。そんな毎日にすごく、クフィーちゃんに逢いたかった。だってクフィーちゃんは私の悪いところを教えてくれる。理解できなくてもイーツェみたいに怒らない。クフィーちゃんは初めての存在で、初めて似ている存在。逢いたいよ………


『クフィーちゃんに教えてもいい?』


『いけません。あなたはの存在は今、この世界には知れていないのです』


『クフィーちゃんだけでも?クフィーちゃんなら、助けてくれる気がする。クフィーちゃんね、すごく『私』と似ているの』


『なりません。人間はもう、精霊を助けてはくれません。時間がないのです。だからあなたは『同じ』魔素を集めなさい。できるかぎり、多く。出来ますね?』


『………うん』


 でもね、クフィーちゃんには逢いたいよ。だからいっぱいお願いした。怒ったり泣いたりして、いっぱいお願いした。そうしたら願いが叶ってようやく会えた。


 嬉しくて抱きついたらクフィーちゃん、倒れちゃった。お爺ちゃんがなにか言ってたけど、いまいち理解できない。なんでなんだろう。まあいいや。クフィーちゃんの右側はやっぱり暖かい。離れたくないよ。でも時間がくる。他にも二人の女の子がいたけど、やっぱりクフィーちゃんが一番『私』に似ていた。


 次の日に魔力を量りたいって言われたときは本当にどうしようかと思ったんだよ。あの人殺しと同じように言うんだもん。だから『お母さん』に聞いてきた。別にいいよ、って言ってくれたからまた喜んで次の日を待った。でもその日はなんだか嫌な人が来た。その人が来るだけで、魔素が乱れるの。幸い、その人は【火】じゃなかったから奪われずにすんだけど、あれは嫌い。せっかく集めた魔素がなくなっちゃう。


 だから追い返したんだけど………クフィーちゃんも、大変な事になってた。ようやくわかったんだけどね、クフィーちゃんの右側。そこにある右目に『私』と似た『同じ』ものがあることがわかった。きっとクフィーちゃんは気づいていない。似たそれはクフィーちゃんの右目から大きく膨らんで額に集まってた。だから帰したの。きっと、あのままじゃ倒れちゃう。だってクフィーちゃん、似てるけど『同じ』じゃないんだもん。


 その話を『お母さん』にしたら珍しいわ、て返ってきた。何が珍しいの、って聞けば、クフィーちゃんに精霊が干渉しているって。『私』と『同じ』なの?と聞けば違うって。何が違うの?


『あなたは精霊で、そこから出られなくなった子。あの子は人間で、精霊が出入りできる子』


『なにが違うの?『私』も精霊だよ?』


『魔力が違うのです。あの子は一人で精霊が見えるほどの魔力を持っています。けど、あなたはの体はその量を持っていない。だからあなたは出られません』


『どうして?『同じ』仲間は出入りができるのに『私』は出来ないの?魔力がないと出られないって、なんで?』


『共鳴しているからです。精霊は釣り合う人間に力を貸していました。しかし、あなたは産まれたばかりで共鳴してしまい、その体に取り込まれてしまったのです。もう少し待ちなさい。あの子が精霊と接触しているなら、きっとあなたは助かります。『同じ』仲間を集めて待っていなさい。大丈夫です』


『わかった。お母さんを信じる。そうすれば『私』は自由になれるんだもん』


 待ち遠しいけど、我慢する。でも『同じ』仲間はすぐに集まんない。だから魔力暴走を起こそうとするけどなかなかできなくて首を捻る。『お母さん』に聞いたらそれは駄目って言われた。自由になれなくなるって言われたら、理由なんてどうでもいい。『私』は自由になりたいから。


 呼吸とかで頑張るよ。だから助けて、クフィーちゃん。『お母さん』が頼ってもいいって言ってたから、助けて。待っているから。もう少しだけ待つから。『私』を自由にしてほしい。


 でも、寂しくなっちゃうからたまに会いに来てほしい。人殺しは来なくなったから、なんだかぼうっとしてつまんないの。でも、待っている。まだ待てる。だって、また頭の中に聞こえる声が話し相手になってくれるから。


『あとらな、わたしはだあれ?あとらなは、だあれ?』


『アトラナはアトラナ。『私』もアトラナであって、アトラナじゃない精霊だよ』


『あとらな………あとらな。わたしはあとらな。ねえ、あとらながでていっちゃったら、わたしはどうなるのかな?』


『わかんない。でも、アトラナはアトラナだよ?』


『そうなんだ。わたしも、あとらなだもんね。あとらなは、あとらなだもんね』


『うん』


 あのね、アトラナ。『私』が自由になったらいっぱいお話ししよう。たぶん、久しぶりにアトラナにあったから全部を話せないと思うの。だから、いっぱいお話ししよう。嫌な事もあったけど、クフィーちゃんのおかげで『私』は自由になれるから。そうしたらアトラナも自由になれるから。


 もう少しだけ、一緒にいよう。『お母さん』はまだ時間がかかるって言うけど、二人でお話しをしていたら時間なんてあっという間だから。いっぱい、いっぱい!お話ししよう。





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