魔塊と精霊と教会
改訂いたしました。27.7.18
ドン!と置かれた本の山。これはなんの本ですか?と聞くと「魔塊に関する本だ」と返された。本の数はちょうど人数分の7冊。これを回し読みして資料をまとめよう、とのことです。なんでこんなことをするのかと―――聞いてみたら課題、とだけ返された。つまり、お父様が宿題を出したんだね?それになぜ私たちまで巻き込んだろう………巻き込んだのレーバレンス様だった!
この2人はお父様の部下………弟子だっけ?忘れたけどお父様の下に働く魔法師だとは知っているので、きっと課題を出す犯人はお父様に違いないよね。でもなんで魔塊なんだろうか?ドトイルはとりあえず片っ端から読んでまとめてみろ、って言うけどさ………まあ、本の薄さは1センクターぐらいだから回し読みでまとめて書いたとして時間はあるだろうけど。この薄い本に魔塊がどれだけ詰まっているのかね?たぶん、全部が違う内容ってことはない。被っていると思うな。みんなで読む必要はある?
「とりあえず、読め。そして思ったことを書け」
「なんで俺まで………」
「レーバレンス様に言われたんだろう?黙ってやれ」
「俺に命令すんな」
「―――頼めばやるのか?」
「誰がやるかよ」
ハルディアスはご立腹である。でもドトイルは何のその。適当な相づちでやらせているのだから手慣れたものにも見える。結局はハルディアスだって本を1冊手に取っているし。押しに弱そうだね。
と、言うわけで早速と言う流れで本を読むことに。私に手渡されたのは魔塊の本であることは代わりない。さっそく開いて………なんじゃこりゃ。絵がどどん!と描いてあるよ、たぶん!たぶんなのは私の美術に関する能力が低下しているからだね!白黒でわかるかっ!!
見えるのはなんだか複雑な模様が描かれている『絵』。絵と思えるのは文字ではないからそうだろうと思えるだけで、大したことはない。まるで小学校の教科書だね。最初にそれっぽい絵をどどん!と載せて目次、てやつ。今はどうなっていたかな。小学校の教科書なんて資源回収行きだよ。
で、それはどっかやっとくとして―――『絵』なんだけど………これは白黒の絵ではないね。色が使ってあるみたいだね。どことなくグラデーションがかかっている感じで縁が濃い。この世界って印刷物に色なんてあったんだ。ヨーロッパ風?わからない。異世界は謎である。
うーん………なんだろう。勾玉?おたまじゃくし?中央は勾玉のように薄い白っぽいものと黒っぽいものが時計回りに渦を巻くような………おたまじゃくし?その勾玉の部分をまた囲うように4つの尾びれ?がひらひらしてるおたまじゃくしが時計回りに円を描いている。
このおたまじゃくしの尾びれには線が入っていてすっごい量の多い尾びれに見える。でもおたまじゃくしの顔の部分かな?尖っている気もしなくもない丸いもので、おたまじゃくしの顔の下は鰭?の部分もこう、線が入っていてね………えらかな?と言うかおたまじゃくしと言うより金魚?出目金見たいな鰭がひらひらしてるやつ。え、じゃあこれ先っちょが顔であっているのか!?いや、そう言われてみればなんか先端が顔のような気もしなくもない―――ような………?
「クフィーちゃん、もうみんな半分は読み終わっているんだけど………なに見てるの?」
「え」
うわ。よく見たら本当にみんな半分ぐらい進んでる………え、それって適当に開いたページじゃないの?いや、でもこんな薄い本をわざわざ真ん中を開くのも変……か?てか私、乗り遅れているよっ!
「ねえジジル、これはどんな………絵?ですか?どうなってます?」
「え?どうなってるって精霊様が集う絵でしょ?」
「あー、ジジル。それじゃあクフィーには分かんないよ」
「え、クフィーちゃん精霊の絵を見るのは初めてなの?てっきりグレストフ様が見せているんだと思ってた」
「ロノウィス。グレストフ様は教会が嫌いだからわざと見せなかったかもしれない」
「え?お父様は教会が嫌いなのですか?」
「あー、たぶんだけど儀式の事を言っているんじゃないかな?教会に所属している人はね、みんな生まれた子どもに精霊の加護とか言って魔法を使わせるんだ。本当だったらまだ魔力の定着もしていない赤ん坊にやらせちゃいけないんだよ。魔力の暴走に繋がるからね。でも教会は精霊を信じて崇めているから魔法を使わせて精霊との交信を願いつつ、その子にも教会との縁を結びつけるんだ」
へー。交信、ねえ………まあ崇めているぐらいなんだからやり方はどうあれ信じるよね。確かに魔力の定着もなっていないのに魔法なんてやらせたくはないかな。果たしてお父様がそれだけの理由で教会を嫌うかは分からないけど。
それでさ、この絵はどんな感じなのかな?その話だったはずなんだけど………元に戻してくれたのはエリー。これはジジルが言ったように『精霊の集い』の絵らしい。エリーの証言では、真ん中の勾玉みたいなのは闇と光の精霊で、回りの4つのおたまじゃくしは火、水、風、土の精霊。囲うように円を描いて集まっている絵だそうです。おたまじゃくしと言ってすみませんでした!人の形だって!!先が尖っているな、と思ったところ鼻先だった………ちょっと背中を反りつつ円を描いてる6人の精霊。精霊は人と数えるのかな?
あ、なんか言われるとそれっぽく見えてきたっ。このひらひらって服だったんだね!!ギリシャ神話の人たちが着ている服みたいだったんだね!長い服がおたまじゃくしの尾びれとばかりっ………この線はしわだったのかっ。ちょっと恥ずかしいなあこれ!
「普通に見れば分かると思うんだがな。クロムフィーア若魔法師の感受性や見方は斜め上に枠を越えているのだな」
「いえ、ただ単に色が滲んで見えて形が捉えられませんでした」
「でもこれけっこう新しい本だったと思うよ?僕か見た感じ滲んでないように見えるけど………?」
「あれ?言ってませんでしたか?私は色がわかりませんよ」
「………ん?」
「え?」
あれ?言ってなかったかな?いや、待てよ―――ロノウィスくんとドトイルが関わったのって私が5歳前後………だったっけ?。悪くて3歳から合ってないよね。ごめん、霞んでいつが最後だったか思い出せないけど………………最近にあったのってマルカリアの時かっ!しかもそれ以来は逢っていなかったよね。初めて白黒を言ったのは王族と関わっていたときだし………自分から言い始めたのは魔法院に入ってつい最近。しかも、私は騎士棟の方にばかりに顔を出してる。
伝わるわけないね。魔法院で私が含まれるあの部屋だからこそ自己紹介の時に大々的に言っちゃったから知っているのは当たり前。魔法師様たちとの接触は授業のみ。そのさいにわざわざ言うわけではないので、どちらかと言うと近場の人たちこそ知っている状態になっているのかな?
魔法棟までに距離があるし、誰かがわざわざその情報を伝えるのも、ね?私はそこまで注目するほどのものではない。良くも悪くもお父様の娘と言う認識だけかな。あ、もしかしたら魔力が光りとなって見えるって言う事実だけが先行してしまったのかな?まあ、色が見えないってわかってもそれがどうした、って思うよね。
そんな訳で改めて。ロノウィスくんとドトイルに私の目は色が白と黒しか見えないのですよ、と教えてあげる。この2人ならいろんな意味で大丈夫だとわかっているので、言っても問題ない。お父様の部下だし。大層、驚かれましたが。
目の病気を持っている人は大抵は失明しているか、視力が低い人と大まかに別れているんだって。また極端だね。それでもいいけど。この世界ではそれが普通なんでしょう。そういえば、でぶっこんでくるロノウィスくんはお構いなしに失明してもすごい人を紹介してくれた。私はロノウィスくんのそう言うところに驚くよ。
「教会に目が見えない人がいるんだけど、その人は魔力がその目の裏に映るんだって。濃度とか質量とか。教会にいることは知っているんだけど司祭が隠しているって噂でなかなかお目にかかれないんだけだ。すごい人、ではあるらしいよ」
え、それは何がすごいの?ヴィグマンお爺ちゃんと対して変わらないよ?触覚か視覚の違いでしょ?すごい、かな?
「それだけですか?」
「表向きわね。なんでも」
「馬鹿が。若魔法師に吹き込んで勝手な事をしでかすかも知れないだろうが。責任はすべてお前が持てるのか?あとクロムフィーア若魔法師は特に駄目だ。グレストフ様になんと言われるかっ」
「っ―――ご、ごめん。」
ありゃあ。教えてくれてもいいのに………でもドトイルからロノウィスくんはきっつ~い攻撃を食らったので止めておくよ。痛いよね、本の束ねている角。私も叩かれた事があるよ!涙目になるほど痛いもんねっ。
そんなわけで読書の再開である。と―――言っても、さくさく進んでしまってなんとも言えない。読んだけど私が知っている話ばっかり。体の中にある魔力の循環が悪くて長い月日を使って魔力が体の中で出来上がったものが魔塊。場所にもよるけど、魔塊を作ってしまった大抵の人は気分が悪くなる。とか、魔塊を育てすぎて血管が閉ざされて大変な事になるとか。重くなって動けなくなるとか。そんなものばっかり。
あとは魔塊は自分の魔力で出来ているものだから自ら作る魔石と似たような感じで、魔法の増幅として使えるんだとか。まあ、取り出さなきゃいけないけど。回復方法は調合した薬品。飲み薬で、それぞれの属性に合わせて作らなければならない。残念ながらこの薄い本じゃ薬品に必要な材料は書いていなかった。
で、まあ、読んだら時間が近づいているらしいんだけど………あと少しってどれくらいですか?でも報告書はかける時間はあるって分かんないよっ。別にいいけどっ!あ、そうそう。なぜか全部の本に精霊の絵みたいなのが描かれていたのが気になりました!と言うことで聞いてみた。
「なんでも魔塊と精霊は繋がりがあるんだって」
バシン。と一発ドトイル。ロノウィスくんの説明が気に入らないらしい。説明がドトイルに移りました。君たちはいつもこんな感じなの?
「昔、まだ精霊が人に見えていた時代だ。魔法はほぼ精霊にお願いして使っていたのだが、誰でも使えたわけではない。精霊は魔素そのものであるから精霊と釣り合わないと魔法は使えないのでそのために人間が用意していたものが己の魔力を増幅させる魔塊が用いられた。それがその頃にとっては必要なものであり、私たちが生まれるその前までは魔塊さえあれば精霊にあえると教会が騒ぎだしていたので魔塊と精霊は切っても切れない関係があるとされている。魔石でも含めてな」
「では、この本は教会から出された本なのですか?それともこれが常識でしょうか?」
「教会からだ。常識としてはどちらとも言えんな。崇拝者も含めた教会関係はこれを信じているし、私たち魔法師は精霊の存在は信じるが魔塊との関係性は重要視していない。言ってしまえば人それぞれだ。それに魔石の存在がある。それもあって教会以外はそれほど魔塊の認識は薄いだろう。むしろ魔病としての認識があるため結び付きか薄い」
「教会は精霊を崇めていますが、精霊はそれほど存在が目覚ましくあるのですか?」
「どうだろうな。私は精霊を見たこともない。その存在が遥か昔から語られるだけの存在ゆえに信憑性はない。教会は崇め、信じることで精霊の存在を無くさないようにしているだけかもしれないな。教会側は実際に精霊は存在すると強く掲げているし、目には見えないが精霊のおかげで魔素が集まりやすいと言っている」
「………………私は教会と仲良くなれそうにありませんね。精霊を否定するわけではありませんが、胡散臭いです」
「よくわかってんじゃねーか」
え、まさかのここでハルディアスが乱入ですか。やっぱり仏頂面で頬杖をついて私を見ていた。不機嫌なのは変わらず睨むように………なぜこちらを見るかね。本は適当にべしべし叩いてつまんなさそう。私は精霊の事をもう少し聞きたかったのでハルディアスの乱入はちょっと気に入らない。しかし、せっかく話してくれたのだから聞いておこうか?
「ハルディアスは何か知っているのですか?」
「俺は教会から追い出されたからな。孤児院ではなく、教会だ。あいつら、精霊は崇めてるけどほとんどは金のためだよ。嘘なんていっぱいあるぜ?」
「教会の印象が変わりそうな情報ですね」
「ハルディアスくん、それ言ってもいいの?なんだか悪いこと聞くみたい………」
「でも、ちょっと気になるかも!教会にも孤児院の施設があったなんて知らなかったし」
「話させると思うか?お前らとっとと報告書まとめろ」
「そうだよー。時間が本当になくなっちゃうからね。ハルディアスは僕と話そう」
「お前と話すんなら黙っといてやるよ」
「いや、教会に関して聞きたい」
おお。いつになくロノウィスくんが真剣な顔でハルディアスを連れていってしまったよ!私と離れてもいいのか!?私はいいけど!でもそれを追えるのは視線だけ………ドトイルと言う壁を抜けきることは無理である。すっごく気になるんだけどなあ。教会が黒いなんてよくありそうなパターン。裏では誰が黒幕になっているのかな。これはアトラナの件も長引きそう。
しかし、やっぱりと言うかなんと言うか、ね。ドトイルの監視の下、よそ見はするなと怒られた私たち三人は苦笑いを浮かべながら机に向かうしかないのです………エリーはちょっと落ち着きがなくなっているんだけどね。そわそわしている。逆にジジルは黙々と報告書を書いていた。書き方もしっかりとドトイルが教えて。
でも時間までに出来上がらない、と言うね!残念な結果に終わら―――ない!よくよく考えたらエリーとジジルは城の魔法院の寮生活。少し遅れたって問題はない。夕食は夜の鐘が9までなので、三時間もあれば食事が抜けることなんて滅多にないでしょう。私に関してはトールお兄様が迎えに来るのをこの2人は知っている。連絡さえいれておけば待っていてくれるだろうし、すぐに来るわけではないので時間はある。
と、言うわけで私たちは居残り………書けるまでね。しかし!やっぱりと言うかなんと言うか―――初めて報告書として書き上げる2人は苦戦してなかなか出来上がらない。私は何度かやっているし、だいたい書くのが大学のレポートみたいな感覚なのでまだやり易かったから早くできた。2人から涙の救援がでたが、報告書にちょっかいを出せるのはどう書くかぐらいなので………私は涙を飲んで見守るよっ!
「あ、暗くなる前に済ませるこの二人は僕に任せてクフィーちゃんは帰ろうか。トフトグルくんが待っていたよ」
ごめん2人ともっ!お迎え来ちゃった&強制退場ですっ………
「それと、これ………グレストフ様に渡しておいてくれるかな?大事な手紙だからクフィーちゃんが渡してくれる?中身を」
「………中身、を?わかりました」
つまり、見ていいんだね?私はそう解釈したよ!




