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私の存在って、なに

改訂いたしました。27.7.11

 笑顔が眩しくて。人に優しくて。大人なのにちょっと子どもっぽくて。無邪気に人を楽しませてくれて。助けてくれた時は真剣な顔で。全力で守ってくれて。泣き出したエリーに一生懸命に慰めようとしてくれて。相方のような人に急かされながらも心配してくれていて。エリーが落ち着くまでずっと手を握ってくれたあの人に感謝を伝えたい。


 エリーは乙女全開にそう、語った。少し薄めの金髪にくっきりとしたつり目に宿る黄緑が今でも忘れられないらしい。色はさすがに私ではわからないので首を傾げそうになったが、ここでわざわざ空気を変えてしまうことはしない。エリーがここまで語るのだからほぼ初恋の語らいに近いからね。両手を組んで祈るように。今語った人にこの想いが届くように。まだ濃い目のグレーの顔は本当に恋する女の子に見えた。私の目がどうしても恋愛に持ち込みたいらしいね!早く女子トークやりたいっ!!


「その人の名前は?」


 我慢しきれなかったジジルがちょっと興奮したようにエリーに聞く。私も知りたいが、2人で迫ったら言い出せなくなって保留になるのも困る。ここで聞き出せなかったらお父様に頼んで調査できないからね!そう言うの楽しいから是非ともこっそりやりたい!!


 まあ、それは置いておいて………エリーはどうも、本当に押しに弱いらしい。嫌よー、とか言いつつ目は少し揺れて言うか迷っているね。だからしつこく聞いたりすると根負けして言ってしまうんだけど。


「ロノウィス魔法師様、だよ!」


 言っちゃった!みたいにぎゅっと目を閉じて悶えている少女は可愛い。これに色がないのが本当に残念すぎるっ。そんなジジルも頬を当ててきゃ~とか可愛い声をあげて一緒に身悶えするからもう、ね。初恋の話でいいんじゃないかと思ってきた。おっさんに初恋だけど。いや、10歳だし………お礼がいいたいだけだと言っているし………それより、ロノウィスくんですか!?


 ぽわんと浮かんでくるのはあの無邪気に笑うちょっと猫目の彼だ。最近は大人びてキリッとしつつもドトイルとコントしている風にしか見えない魔法師。少なくても今でも気さくに声をかけてくれて親しみやすい人だね。その人に感謝したいエリー………案外、簡単にその願いを叶えられそうな気がした。てかロノウィスくん30歳ですか!?この世界の人たちって外見詐欺じゃない!?


「まだお礼が言えてなくてね、魔法師様が講師をしてくださるからいつか逢えるかな~―――て、思ってたんだけど逢えなくてね。ちょっとめげそうになってる」


「エリー………辛いんだねっ」


「ちょっと、辛いかな?私ね、商人の娘だったから人にふれあう機会がすごく多くて買ってくれた人とか感謝するけど、こんなに感謝したいほどその人に伝えたいって思ったのは初めてなんだ」


「それだけたエリーは助けられたんだね」


「うん。だって私、本当ならあそこで死んでいたから」


 話が自然と進んでいる。私の疎外感。なぜ。


 エリーが言うには、商人の娘だけに7歳ぐらいから少しずつ出来ることだけ前提にお店のお手伝いをしていたらしい。まだ小さいから大した事はできないが、交渉したい人が来たら親を呼びに行くとかお掃除や看板娘として笑顔を振り向くことぐらいだったけど、親のために出来ることがあると当時は嬉しかったらしい。


 そんなある日、お店を出そうと看板を出して表を掃除していたら、一人の男が突然エリーの首を死なない程度に鷲掴みにしながら宙吊りにし、店に入るなり金を要求してきた。ずいぶん強引な強盗だ。おかげで親は必死にエリーを助けるためにお金を用意するけど、手元が震えているし及び腰で準備にすごい手間をかけてしまったらしい。


 そのせいで強盗犯は苛立ちにだんだんとエリーの首を絞めて―――エリーはそこですでに意識を手放していた。後は聞いた話になるのだけど、と前ふりを聞いて続きを聞くと意識を手放して親が泣き叫んで収集がつかなくなった頃、ちょうど頼まれていた商品を取りに来たロノウィスくんが強盗犯の腕を焼いてエリーを救出し、取っ捕まえたんだって。すぐに見回りの騎士が駆けつけてその人は御用。火事もなく無事に家も人も守られたんだとか。


 その時のエリーは意識を飛ばしていたから聞いた話だけしかわからないのだけど、意識を手放していた間は息をしていなかったと親が言っていて一日中泣いて抱き締めてくれていたんだって。強盗がエリーを落としたその衝撃で息を吹き替えしたとも聞いているらしい。ロノウィスくんと分かったのは親が顔見知りで、風貌も全部聞いた話。さっき手を握っていたんじゃなかった?と思ったら泣きすぎて顔が分からなかったらしい。そりゃあ想像も膨らむね!実際に見た目は若いがっ。


 そんな訳でエリーはまだ見ぬロノウィスくんを想像してはしゃいでいるのだ。私はロノウィスくんの咄嗟の判断かは知らないけど強盗の腕を焼こうとする方に驚いている。まあその方が強盗もビックリで手は離すからいい手かも………?ロノウィスくんがえぐい。


 そんな話をして、聞いて。エリーとジジルのテンションと言うものは高い。もうロノウィスくんは彼女たちの中で英雄だよ。ヒーローだよ。逢えたらどうしよっか!て相談してもね、本当にあったその後ってエリーはどうするのさ。


 だってエリーは感謝の気持ちを伝えたいだけでここに来てる。魔法には興味があるようだけど、そこまで執着はしていないよね?苦手だから1年を見送ろうとしているし………私はどうすればいいんだらう?ここでジジルたちとはしゃぐべき?でも相手はロノウィスくんで、恋の話ではない。応援するよ!ぐらいしか言葉が思い浮かばないと言う残念な頭。もうすでに出遅れている。


 ロノウィスくんを伝える………としても、無駄に期待とか変な風によじれるのも嫌。ないと思うけど。2人ははしゃいでそのまま事件の話に逆戻って詳しく話を広げていっている。入り込めない勢いですね。あれ。私って空気じゃん………いや、入っていけばいいけど………


「ポメア」


「………はい、なんでしょう」


「ポメアは―――エリーとロノウィス魔法師様がもう一度………出会ったらエリーはどうなると思いますか?」


「それは、その場面でしょうか。それともその後でしょうか?」


 ちらりとエリーを見て………盛り上がっているねぇ。私とポメアのひそひそは気にならないようなのでこのまま見てポメアと喋っていよう。


「その後、ですね。エリーは感謝を伝えたくてここに入りました。伝えたその後はエリーの目標は達成します。魔法師を目指すと思いますか?」


「それはクロムフィーアお嬢様がお考えになることではありません。エリエリーチェ様には当人の人生がございます。クロムフィーアお嬢様とエリエリーチェ様とのご関係はご友人です。過度な手助けは時に相手の人生を振り回してしまいます」


「残ってほしいと思うのはエリーに辛いかしら………?」


「それを決めるのはエリエリーチェ様自身です。残ってほしいならそうお伝えしてみてはいかがでしょう。ただし、縛りつけてはなりません。クロムフィーアお嬢様は貴族です。下手に縛るような発言をしますと、お嬢様がエリエリーチェ様の面倒をみなくてはなりませんから」


「―――面倒?どうして?残ってほしいから誘うのでしょう?」


「友達といたいから魔法院に残って嫌な思いをされたら、クロムフィーアお嬢様はきっとご友人をお助けするでしょう。助けてもらったエリエリーチェ様は平民です。なにかあれば貴族であるクロムフィーアお嬢様にすがる人生も考えられない訳ではありません。巻き込まれる場合もあるのです」



 貴族と、平民―――まさかここで壁を作られるとは………ポメアが言いたい事は予想がつく。無駄に引き留めて、それが成功したり失敗しても私に頼ったりしてしまえば、エリーは私が作った人生のレールしか走れなくなるから。貴族が用意してくれたレールなら多少の急なカーブも蛇行している道も“ 貴族 ”だからと平民は乗っかる。きっとこんな方程式は自然とついているかな。ましてやエリーは商人の娘。価値のあるなしを見抜いて私に近づいてアーガスト家のお墨付きを………


 とまで考えて止めた。さすがにこれは深く考えすぎだと思う。でもポメアは懸念しているんだよね。さすがだなー。適当な事を言っていないで本人に任せればいいじゃん。と、言うことで―――ポメアに魔法師に取り次げるか聞いてみた。


「まず、若魔法師だけでは魔法廊や魔法場のところへは行けません。寮の受付の方に聞き込めばなにか情報が得られるかもしれませんね。聞いて参ります」


「私もいきます。エリー、ジジル。ちょっと席を外しますね」


「え?どこに行くの?」


「1階の受け付けです。ちょっと確認をと思いまして」


「あ、でも午後の授業も近いでしょう?一緒にいこう」


 近いの?私的にはまだ感覚がうっすらと―――かな~?て言う程度にしか分からないのだけど?みんなどうやって分かっているんだろう。実はポメアに頼りっぱなしだったりするんだよね。いや本当。雲を掴む感じでしまいにはお昼の腹時計とたまにくる眠気でしか感覚を察知できないって。


 でもそろそろだよね~とか言って立ち上がる二人は確信があるように出ていこうとする。鍵は魔石を用いたものなので、ノブの下に設置されている魔石を取ったり入れたりすれば鍵の役割になる。いったいどんな魔法陣が書かれているのやら。取ったら鍵が閉まって、入れたら開く仕組み。入れた後は反対側から回収できるように魔石が入れる所は回転するそうです。だから取られて閉じ込められる心配はないって。


 そして、これを受付の人に預かってもらう、と。だから受付のお姉さんがいるんだね。鍵(魔石)の管理をしているのもあるのか。最近、魔法より魔石や魔法具が便利に見えてきたよ!


「あら。もう行くの?」


「はい。また預かりお願いします」


「確かに」


 ああ、会話を終わらせないで!ポメアよろしく!!


「すみません。魔法師様にお逢いするにはどのように取り次げばいいでしょうか?」


「ここで理由を細かく聞き、私の判断で魔法師に取り次ぎます。私の判断でありますが、だからと言って私に避難しても覆ることはありません。貴族に罵られても権力を使われても、痛くも痒くもありませんので悪しからず。諦めてください」


 お姉さんか強く、怖い。貴族の権力に痛くも痒くもない地位ってなんですかね?受付嬢?どれだけ強い役職なんですか!?


「分かりました。もし受理された場合はどのようになるのでしょうか」


「私が魔法具を使って連絡をとり、取り次ぎの魔法師様と話して決めます。忙しい魔法師様から日時を決めてもらい、ようやくお逢いできるでしょう」


「ありがとうございました。クロムフィーアお嬢様、どうなさいますか?」


「止めておきます。それと魔法場にある本は借りれないのでしょうか?」


「―――入った事があるのですか?」


「父と一緒に」


 と、言えば………なぜか睨まれた。貴族が嫌いなのかな?まあ、態度がでかいかもしれないね。


「父と連絡を取ることはしませんよ。仕事の邪魔になりますし、大問題になりそうですから」


「それは懸命な判断ですわ」


「それで本は借りられるのですか?」


「若魔法師が扱える代物ではありません」


「魔法師様とご一緒に見ることも叶わないのでしょうか?」


「お答えすることはありません」


「貴方の判断ですか?」


「もちろんです」


 ふーん。美人のお姉さんに嫌われちゃった………じゃあ、いいもん。タイミングがよすぎるドトイルに聞くから。ついでだし、アトラナについて話ておこう。


 玄関からわざわざ歩いてきたドトイルに軽くお辞儀を返せば小走りで駆けてくれると言う、ね。ドトイルのイメージがだんだんと違うものに修正されていく………世間話から初めて私にちょーど、用事があるみたいだから付いてきてくれ、と言われたら行くしかない。私は若魔法師で相手は魔法師ですから?問題なーい。


 ちょっとエリーとジジルが所在なさげにおろおろしていたけど、ドトイルがささっと用事を言ってしまうからここで会話はぶちぎり。午後の雑学はまた欠席である。私の成績とかってどうなっているんですか?もう色々と現実を受け止める心構えをしておいた方がいいよね。いい加減に理解した方がいい。頻繁に魔法師と何かしてたら噂が立つのなんて当たり前だし。アトラナの件が終わったら個別授業を取れるか相談しよう。ジジルとエリーはたまに逢えたらいいな。


 ジジルとエリーと、一緒に楽しく学園生活を考えていたけど………私の立ち位置がおかしい事にようやく気づいたよ。受付のお姉さんが叫ぶようにドトイルに食って掛かる。こんな若魔法師に何用ですか!て。アトラナの件は公になっていないはずだから言えないよね。ドトイルも冷たい言葉で濁せばお姉さんは私に単体攻撃を仕掛けてくる。


 ほとんどの言葉は私が魔法師様をたぶらかしている言葉。魔法師様を私事で利用している私の存在が作られ、こうして呼びに来たドトイルは私の使者の扱い。こんなところでそんな馬鹿でかい声で叫べばたまに通る若魔法師が何事かと立ち止まるのは当たり前。これは私のせいだろうか疑いたくなるが、私の存在が絡んでいることは確か。その子が、って指をされたらそうなる。


 エリーも、ジジルも………お姉さんを呆然と見て立ち尽くしている。この人は知らないけど、普段との変貌っぷりに驚いているのかな?目立たないようにって思っていたのが馬鹿みたい。この姿があるだけで目立ったのだと、思い知らされたよ。


 大人って頭でっかちばかりだね。なんでいきなりお姉さんがキレたのか安易にしか想像できないけどわかる。貴族が大嫌いなんでしょう?ポメアの服装はメイド服だからすぐにわかるはず。それなりの対応をしていたけど、控えていた私が前に出れば冷たい態度。よくそれだけ作り話が浮かび上がるもんだね。私はドトイルを従者のように扱うことは一度もない。あーあ。しんどい。私の―――楽しかった気分を返して。


「ドトイル魔法師様、お時間は大丈夫でしょうか?」


「問題ない。私はここを修めるのでいつもの場所でロノウィスを待て」


「分かりました。失礼します」


 あーあー。騒いでるねー。チビが魔法師に取り入るなと言われても、その言葉は理解できないな。あの人は何をそんなに怒っているんだろう。貴族がそんなに嫌いなのかな。どうでもいいや。ポメアに目配らせしたら頷いて走っていったよ。それだけでわかるなんてさすが。しかも早い。これで他の魔法師が来てくれるかな。向こうの男子寮の受け付けまでどれくらいの距離があるんだろう。………ポメア、女の子だけど大丈夫だよね?うわ。馬鹿したかも。


 とりあえず言われた通りによく集合するあの場所に、と言うか玄関へ行く。後ろにはエリーとジジルがついてきた。なんとも言えない空気なので私はさっさと歩く。話しかける言葉は今は持ち合わせてないんだ。何を言えばいいのかわからないし。ぶっちゃけ私は悪かったなんて少しも思っていない。あのお姉さんが勝手に怒りだした。私が何か言うことは、ない。弁明なんていらないし、彼女たちを安心させるのも変。いきなり怒鳴られて身を竦めたのは彼女たちだけじゃない―――私だって、ショックが大きかった。それに


「ねえ、クフィー………ロノウィス魔法師様と、知り合いなの?」


 この質問になんだか、裏切られた気がした。私は異世界での友達理想像を高かったのかもしれないね。私の心配とかより、目の前のチャンスを掴もうとしたエリーと距離を感じてしまった………




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