悩みは夢を描いて導こう
改訂いたしました。27.7.5
寝ていなさいと言われてもねー………ベッドにころんと横になって。たまにヒッジメィの2匹をもふもふしてみたり。そんでもって疲れたらぎゅっと抱き締めてこのもこもこに埋もれてみたりね。しているけどこんなので一日がもつとは全然、まったく、考えられないわけでして………早々にお母様に音をあげた。暇です!
と、言うわけで本日は私の部屋にてリディお姉様の授業が始まりました。先生はもちろんお母様。私はベッドでその光景を眺める図です。今日はベッドから出ることは本当に駄目らしい。にっこりとした顔で言われたので私は素直に頷くしかありません。お母様、ごり押しのスキルはいつ覚えたのですか?
まあ、あわよくばこれで私を寝かそうとしたんだろうけど。なぜなら本日の授業は音楽でございます!リディお姉様がヴァイオリンを手に練習するそうです!!点検しながら構える姿がとても絵になっている。ドレスだからね。白黒で残念だけど金髪碧眼にキリッとした顔。真剣そのものの表情はヴァイオリンを弾きやすいように袖がきゅっとなっていて裾もあまり広がらないようになっているドレスだから余計に引き立てている。
因みに私は弾けん!!顎が疲れるし何よりサイズが合っていない!!因みにベッドからごろごろと行儀が悪いが、本日は免除されているのでこのまま私も授業に加わる。と言っても、お母様やリディお姉様がクイズを出してくるからそれに答えるだけ。適当に絡まれるだけで、今日のメインはリディお姉様です。音楽を聴いていたら眠たくなっていくと思うしいいかもしれないね。
「では、クフィー。リディか持っている楽器の名前は何でしょう」
「ヴァーリン(ヴァイオリン)です」
「外れよ、クフィー」
え。リディお姉様、今なんと?それに外れなんてあるの!?心底、驚いた顔をしていたのでしょうね。リディお姉様はもうっ!と腰に手をあてて呆れ、ころころとお母様は笑っている。そばに控えていたポメアだけはなぜがあたふたしていた。
「クロムフィーアお嬢様!す、すみません!!この前の情報は間違いでしたっ」
「え」
「あらあら。ポメア、間違えてしまったのね?ここで気づけてよかったわ」
あらあらと言いつつまだ笑っているよ、お母様?扇ですべて隠れるとは思わないでくださいな!肩が震えていますから!!
で、何が違うのかと言うと―――ヴァーリンは男性限定の楽器であるそうです。そんな区別、必要なの?いいけど………じゃあリディお姉様が持っているのはなんですか、と聞くとヴィーラと言う楽器で、男性用のヴァーリンより女性用に一回り小さいのだとか。だから音もなかなか高いらしい。
つまり………ヴィオラかな?確かヴィオラの方が小さかったよね。名前も似ているし間違いないと思う。たぶん。音楽の知識は弾けないのでそこそこしか詰め込んでおりませんぞっ!それにしてもヴァイオリンとヴィオラがあるなんて驚きだよね。形は多少なりと違うけど。なんと言うか、くびれがあまりない。瓢箪じゃなくて………そう、ウクレレだ!ウクレレのように丸くて真ん中に少しお情けでくびれている感じ!でもやり方はヴァイオリンのように玄が張ってあって弓で弾くような形はそのまま。混乱しそうっ。
因みにこの世界は弦楽器が主流のよう。他には何があるのか、と聞くと『ハーリンシャル』と『リュリュー』と言う楽器があるらしい。どちらも手で弾くように演奏するんだって。私はそこまで楽器に詳しくないんだけどなぁ………苦笑いを返したら摸写があるから見てみなさいと言われました。ポメアが取りに行くことに。
それからリディお姉様に一言二言ぐらい話したかと思うとゆったりと座り始めたお母様。目をつぶり少しリラックスしているようにみえる。ちょっとだけ待っていたらポメア―――とジェルエさんが来たので起きちゃったけど。そう言えばお母様には心配をかけていたから、きっと疲れているのは当たり前だよ。無理して呼んでしまったことに今更ながら後悔する。後悔、多いな………
で、ジェルエさんが見せてくれたのは『ハープ』を奏でている綺麗なお姉さんと、吟遊詩人と言いたくなる派手な格好をした………帽子が無駄に大きいので顔はわからないけど、男の人?かな。が、抱え込むように楽器を弾いている絵。『リュート』、かな?それか琵琶。線の数がよく見えないけど、この世界の名前は元を少しいじった名前のばかりだからね。たぶんリュートだと思う。
どちらも綺麗に描かれているのだけどね………………白と黒の世界ではここまで残念に思えるとは。感嘆の声も出せそうにない。それはお母様も読み取ったのか、すぐにしまわれてある程度の説明に話を変えてくれた。手で弾く楽器は平民での楽器なんだそうな。貴族は指も大切だからね。だから貴族は弓のある楽器が当たり前なんだって。もちろん、ヴァーリンとヴィーラの方がお値段が高い。すべて木で出来ているらしく、東の国が音楽に凄い力を入れているのだとか。
私への説明が終われば、次はリディお姉様である。リディお姉様がメインだもんね。名前を呼ばれてちょっと張り切っているのがよくわかるよ。返事もたしなめる程度には大きかったもんね。でも、やっぱり楽器を構えるとどこかの令嬢なんだよねー………音はまちまちだけど。
でもそれはお母様の指導のもと普通に聴けるようになる。何て言うのかな。人の事をまったく言える立場ではないけど、不馴れだね。大変、失礼だけどリディお姉様はあまり楽器に慣れていないらしい。眉を寄せてじゃっかん表情を歪めていた。人前は初めてなのかな?堂々としているリディお姉様のイメージだがら、なんだか不思議。ちょっと休憩を挟んではどこからか出したヴィーラで母様が手本を見せたり。それを聴いてリディお姉様が気合いを入れ直して意気込んだり。
そんな私は別世界でその様子を覗いているみたい。だって、ベッドから出られなくて眺めているだけだもん。リディお姉様のお勉強だから、私が声をかける場面でもない。精々「上手ですね」「聞き惚れました」とか。あとは自分を主張してみるとか?いや、そもそも寝ていなさいと言われていたのだからやらせてくれないだろうね。だからクイズを出す事になったんだし………
ぼー………と眺めてるけど―――本当にやること、ないや。窓から指す日差しも明るいけど白いだけ。飾るヌイグルミはどれも可愛いけど見るだけで白黒ではあまり楽しめない。確かに可愛いんだよ。でも色がないだけで少し寂しい。
そう言えば………治ると思っていたのに、夢を砕かれたなあ………
魔塊のせいだと思っていたのに。精霊にはっきりと否定されてしまった。お母様はストレスを抱えすぎたんだとわかる。自分のお腹からでる子どもが愛しいからこんなに構ってくれるんだし。お母様を責めたい訳でもないのに「なんで」ってよぎると悔しくなる。
目を治すために魔学医になるっていったけど………簡単に揺らいじゃったよ。もちろん、目指すものは変わらない。けどね、目標が別のところで傷を付けられてしまったから、やる気と言うものがなくなった。私って薄っぺらいね。
目に色を宿すことが目標。これに私が魔学医になるための第一歩だと言える。ただ問題は魔学医になるためになにも用意していないことかな。意欲が削がれちゃったから急がなくてもいいと思ってきた。でも、色はほしいんだよ。
そのためにする事は?私は最初になにをすればいいのかな。いや、はっきりして進めばいいんだけど―――なんでこんなにだらだらと考えちゃうんだろう。目標に向かって走ろうよ、私。私は私だ。チートとかそんなものはない。前世の記憶を持っても、それをうまく使えてもいない。何か物を甦らせて生活を満喫するわけでもない。異世界の小説で描かれている物語の主人公じゃないんだから、自分を見つければいいのに………まるで他人事の考え。ぐちゃぐちゃだ。
「クフィー?」
「クフィー!何かあるならわたくしに相談してもよろしくってよ!」
「わっ?!」
ビックリした。お母様は気づかなかったけどリディお姉様の声はよく耳に通るよっ。驚いたおかげで私のヒッジメィの黒い塊が弾むようにベッドの上から姿を消してしまった!残念ながらもこまこしているが弾む要素はまったく備えていない彼はちょっぴり跳ねたけどそのまま地面と熱いキッスをするはめになってしまったようだっ。ごめん!!
それを拾うのはもちろんポメア。汚れがないか真剣な目で査定して。少し払ったりして綺麗に整えてくれた。だいたいを見終わったら私にくれるけど………ポメアももこもこが好きみたいだね。手がなんだかわしわししていたよ。
「ありがとう、ポメア。―――呆けていたらリディお姉様の声で驚いてしまいました。何かありましたか?」
「クフィーは嘘がつけない性格ですのよ!」
ごめん。嘘は転生した時から普通についているよ。
「クフィーはわたくしに相談したくて黙っていたのですわ。今は休憩ですので、聴いてさしあげてもいいですわよ」
「………………では、リディお姉様は何になりたいですか?」
「ユリユア様のような素敵な凛とした淑女のようになりたいですわね。そういうクフィーは何になりたいんですの?」
「魔学医―――です」
ユリユア様みたいな凛とした淑女、かあ………キリッとしたしとやかな令嬢?それってどっちなんだろう。いや、でもユリユア様みたいだから凛とした立ち振舞いの中に見せるしとやかな仕草とかそんな感じ?なんだか疑問が尽きないわ。
そんな私も、魔学医と言ってみたのですが。なんだろうか―――パズルのピースが当てはまらない。しっくり来ない。魔学医になることは嫌じゃないし、諦めてもいない。なんでこんなにあやふやな感想になったんだろう?
そんな私の思議を読み取ったのか、それともお母様が独自で導きだした答えか。微笑みを浮かべて私達2人を交互に見ながら質問された。
「その先は何を夢みて描いているの?」
まあ、そうだよね。なりたいものを言ってなったからどうだと言う。リディお姉様は直球に「わたくしの理想に近づいたのですからそれを元に更なる淑女を作ってよりよい出会いを求めますわ!」と言った。ごめん、リディお姉様………合コンを頑張る独身女性にしか聞こえないっ。本当にごめんっ。
かく言うそんな私は………私、は
「目を、治したいです」
「もし治ったとして、その先は?」
「魔病で苦しむ人々を助けに行きます」
「―――ねぇクフィー。リディ。目標と夢は違うのよ。二人が言ったのは目標であって将来的に望む通過点ではないかしら。私が言った『その先は何を夢みて描いているか』とは未来を言っているの。夢って本人がいつでも描ける無限の可能性よ。続きがあってこそ夢になると思うわ」
………目標と、夢。目を治したい。夢?ううん。願望。魔学医は目を治すための第一歩って私が思っていた。確かにそこで終わってしまっては夢ではない。夢が終わってしまえば、それは夢ではなくなってしまう。お母様が言いたいのは………未来を描かせること?
「クフィーは先ほど『何になりたいですか』とリディに聞いたけど『なりたい』は目標だと私は思うの。そうなってしまったら、それから先は何もなくなってしまうでしょう?達成感や虚脱感に酔いしれればその人は次にどこへ行き、何をすればいいのか分からなくなるわ。例えば『王宮魔法師になりたい』。そのために魔法もその勉強も頑張ってなれるように努力する。その結果が実って王宮魔法師になれた後はどうするのかしら。その先を描いていなければ毎日毎日、城から出された仕事を永遠と繰り返していなければならないじゃない?王宮魔法師は魔法師にとって一番、名誉な事よ。その一番を手に入れてしまったら次は何を目指せばいいのか考えていないと、単調な生活になっていつの間にか楽しまずに年老いて死んでしまうわ。だから夢を、未来を想像しながら描き続けてほしいの」
………将来を考えて、か。夢ってこんな風に考えられるんだ………私はただ夢は淡い幻想を描くだけに留めていたから、お母様の考えはとても深くて圧倒された。とくに夢って、『~になりたい』が多いから。だからそれを目指してなりたいものになる。それが夢だと思っていたからね。
でもお母様は、未来を描き続けることを『夢』と言い、『なりたい』姿を目標に変えた。私では思い付かない夢の使い方だと思う。どうしても『なりたい』ものが夢だったからね。だから私は聞いてみるのです。素敵な旦那と廻り合い、結ばれ、子宝に恵まれて母となり、育てているお母様にこの後の夢は何を描いているか。『結婚すること』や『母になる』事も、私の中では女性が描く『夢』。それを『目標』と言い替えるお母様はこの先にどんな夢を描いているのか、多いに気になるのです!
「あら、それはもちろん―――貴方たちが目標を作り追いかけ、夢を描く手伝いをすることですよ。とくにまだ貴方たちは嫁に出ていませんし、トールもお嫁さんも貰っていませんからね。母として手伝ったりすることは私の夢よ。その先はやっぱり孫ね。出会いたいし抱きたいしお婆様とも呼ばれたいわ。それから孫とお出掛けして私のできる限りの教育もしたいものね。ユリユア様とも一緒に語りたいわ。女の子ならお茶や花を女の子ならではの事を一緒にやりたいものね。男の子ならトールはすぐに私達に遠慮してしまったからトールでは出来なかった事をたくさんしたいわ!楽しみね」
…………………………………………………………そりゃあ、おっかちゃんになったら孫を望むわな。いい話だったのにお母様の語りは孫の話で止まらなくなってしまった。少し残念な雰囲気だよっ。どうしようっ!?孫が成長してもう7歳まで夢が描かれている!?
まさかの展開にリディお姉様も唖然だよっ。まだ成人もしていないのに孫の話で、しかもその孫の語りは男の子バージョンの語りが繰り広げられてトールお兄様が騎士団長にまで登り詰めていた。それを追いかける息子が~とストーリーはすでに孫と息子が肩を並べて親子揃っての物語になっているんだけどっ!?
そこまで来たら今度は女の子バージョンに切り替わり、まず嫁の人物像を描いたと思えば姿は嫁に似ていて性格はトールお兄様となって一緒にお茶をする事から始まり、慣れてきたらマナーを教えるのだけど時には厳しく時には優しく教えて孫を支えてあげるのだとか。そして女の子バージョンはなぜか3つのルートが存在してまだまだお母様の語りは終わらない。
その3つのルートである女騎士、魔法師、貴族を語り終わればいつの間にか双子説が割り込んで孫が二人になってお母様がお父様とウハウハな状態でハッピーエンドしか向かわない夢を………まだ語る。
思うに、私はお母様の変なスイッチを押してしまったのだろう。それは分かる。それだけは分かる!相づちを打つ暇もなく聞くしかないのでどうしようもできない。
お昼になってまあ、仕方ないわね。と切り上げてくれたけどね………疲労があるのは何故だろうか。因みに最後の締めは
「あら、もうこんな時間?私の話を聞いて分かったと思うけど、こうやって未来を描いていたら私自身が頑張るでしょう?だから目標で区切っていくのではなく、夢を描き続けて自分を高め描いた未来になるようにしましょうね!と言うことよ。孫が楽しみだわ~。それよりトールはどんなお嫁さんを見つけるのかしら?来年はリディも成人だから楽しみが増えてお母様は嬉しいわ~」
です。さすがお母様だね。柔軟性がありすぎて比べる私はがっちがちに固いのだとよくわかるよっ。でもね………昼食が終わっても語り続くお母様の夢はもうお腹いっぱいなんだ。今度は細かい設定を語り出したんだけど………さすがにその『夢』は誇張しすぎだと思うんだ。トールお兄様が泣いちゃうよっ。やめてあげて!!




