精霊の願い
改訂いたしました。27.7.5
まず、精霊のお話し。精霊は世界の始まりの【闇】からすべてが産み出されてその存在が浮き彫りになったそうです。年数も数えられていなかった遥か昔、魔素は今よりももっとあり、自然と精霊が産み出され、自我を持っていたそう。【闇】と【光】が人として生まれたように。
しかし、その自我はもちろん魔素が多かったから存在していた。今現在は魔素が全体的に少ないんだと、この青さんは言う。どうしてか聞くと、人工が増えたから。魔素は魔力でもあり人間が取り込むことで大気に住まう自然の魔素が減ったんだとか。
その昔は自我を持つ精霊も人々に見えていて、魔力と精霊が対等である場合はこうして意思疏通ができたんだって。私が立体のマネキンとしか見えないのは、この場所が夢の現実世界だから。ここに魔素はなく、魔力に干渉して作ったものであって魔力量が多いクロムフィーアだからこその形であり、これが限界らしい。因みに現実だと魔素が少ないので絶対に見えないと言われた。あと釣り合いがとれなかったら話や下手したら姿は見えない。そこはまばらであっても双方に害はまったくなかったとの事。
教会は精霊と人間は助け合える事で精霊の力を尊重してくれた事から崇められたのだとか。精霊は個人であって誰々が偉いと言う上下関係はないらしい。たまに強い自我を持った精霊もいるけど、精霊王とかそう言うのは生まれなかったって。自我が強いのにどうして一番が出来上がらないのかが不思議。と言う疑問はすぐに返ってくる。精霊同士で争うことが出来ないからだそうです。どんちゃん騒ぎとか。もっぱら口論だそうな。もともと温厚であるが故に口論しても最終的にはなんの話だっけ?で終わるんだそうです。精霊って、平和だね。
じゃあ、なんで精霊の存在が消えてしまったのか。人工が増えたからと言っても、魔素と魔力は同じだよね?と質問したところ、違うそうです。単純に、魔素は自然のもので、魔力は人工的なもの。自然と人工では異なるので精霊は関与できず人工が増えるにつれ自然が少なくなったから消えた、と。まるでリアル社会だね。前世も自然が少なくなって高層ビルが増えてきたから二酸化炭素が増えて温暖化が進んでるし。そんな感じなんだろうな………
で、アトラナとはどういう関係で?
聞くところによると、四季折々で自我を持った精霊が生まれるんだそうです。どうやってと聞けば例の『まぐとり』でした。そうだよね。純魔石を産み出す魔獣だもんね。この世界で今では大きい精霊は作れないけど、その純魔石の一部が精霊の自我になるんだそうです。それで生まれたての精霊がうっかりアトラナに入り込んでしまったのだとか。
本来ならこれはありえない。あり得ないのだけど、ありえてしまった。それはなぜか。アトラナが純魔石と接触して、なおかつ魔法による共鳴をしてしまったから。運悪く属性も同じで精霊の方は生まれたばかりだからわけが分からず共鳴して取り込まれた、と言うこと。これがあり得てしまったのだ。よほどアトラナとその精霊の相性が良かったんだと思う。じゃなくて、両方生まれたてで意思が明確ではなかったからあり得るかも、だそうです。ややこしや………
でもそうなるとアトラナって、生まれて魔法を使ったことになるね。と言う私の疑問はすぐに看破されるのです。この青さん、容赦ない。
アトラナの家―――セチェフ子爵家は教会に投資している崇拝者なんだとか。教会関係者は生まれたばかりの赤ん坊に、大人が手伝って魔法を使わせるんですって!その理由は魔法を使わせる事によって精霊(魔素)と共鳴し、その姿を見ることが出来るのではないか。また、魔法を出すことでその子が精霊と共にあることを示している、と言うどこぞの誰かわからぬ本を真面目に信じて貫いているんだとか。詳しくは教会に行けと言われたので即答する。―――断る!
でもそんな赤ん坊が魔法を使うとか事できるの?とやっぱり思っていたらすぐに論破されました………魔法が苦手の人用に、魔力を通したら魔法が放てる魔法具があります、だって。属性もわからないのに―――はい、言い負かされました。
『教会にも属性を調べる魔法具を持っているに決まっているでしょう?どうやって平民が城に行かずに調べられるんですか。赤ん坊が執り行うときは教会の司祭長様だけです。だから認定式までにその家族たちは属性を知りません。属性さえわかれば投資支援のおかげで募った資金を使って買った魔法具を使えばいいんです。ああ、魔法は本当に小さいものなので破壊的なことはまったく起こりません。破壊したら教会はすでにありませんからね。その辺の規制はしっかり結んだそうです』
私、青さんに一生涯をもってしても口で勝てないような気がする。
でもどうやってその生まれたての純魔石と接触できたのですかね?純魔石って貴重でしょう?と言えばもう面倒になったのかため息をつかれました。青さん、頑張れ。
まあ簡単に言えばその司祭長様が純魔石も分からずにやったんじゃない?との事。もうなげやりである。たぶんの話で聞かされたのは、もともとのアトラナの魔力が弱すぎたのではないか?との青さんの見解。魔法を使うにあたって魔力が少ないアトラナの魔力を補うために魔石を使い、魔法具で魔法を放った。その魔石が生まれたての純魔石で、魔法の共鳴によりアトラナに取り込まれたのではないか。だから、青さんたちはアトラナを解放してくれ、とお願いしてるんだね………司祭長のおっちょこちょいに青筋がたちそう。
出来たら急いで、と言われたんですがその理由は魔力暴走で魔力が無理矢理に膨れ上がったせいで、元々の魔力を大幅に越えて体が堪えきれない故に体が爆ぜる。そして、生まれたばかりの精霊も散ってしまうんだそう。それと、精霊の自我の方が強いらしく表に出てきているのであの体に馴染んでしまわぬ内に解放しないと出られなくなるんだとか。
7年はもう馴染んでいるのでは………?自然と人工の異なる物質は第三者が無理矢理なにかをしないと混ざらない、と。ましてや魔素と魔力がなにかによって馴染んだとしたら精霊としてアトラナの体は人間ではなくなり、消えるそうです。大気の魔素が少ないから人の目には映らなくなるそう。
本当は魔力暴走さえしていなければ問題はなかったのだけど、表に出てきている精霊が人間の勝手がわからないゆえに頻繁に魔力暴走をしてしまったせいで非常に危険。しかも、自ら魔素をあの地下室で溜め込んでいるのでアトラナの魔力が爆ぜたら文字通り爆発する。本当にとても危険な状態らしい。精霊も魔法が使えるってさ!?魔力が解放されたら共鳴で魔法がドン!と発動するらしい。ビビりながら魔法文字は?と聞けば、精霊本人が集めた魔素なので共鳴関係にあり魔法文字はいらないんだとか………さすが精霊、にしておこう。
でも魔素って集めたら私だと見えるよね?と聞いたら上を見ましたか?気づかれないように天井に魔素を溜めているんですよ、と………上はさすがに見ていません。はい。
「ところで、君たちは精霊でしょ?なんでこんなところに入られるの?むしろ私が入っていった形?」
『私たちが干渉しているのでこちらがお邪魔しています。私たちはそれなりに年数を越えた精霊なので自由に入り込めるんですよ。とくにクロムフィーアと真綿は危ないですから』
「危ないの?私………?」
『属性が3つありますからね。どうしてそうなったかは異世界の魂ゆえか、または別か………よほどクロムフィーアか真綿が世界に好かれたか、ですね。魔力も世界の影響でしょう。ですからそのままでは危ないのは本当ですよ。どうしてそのようになったかは私でもわかりませんけど、混じってしまったのは厄介です。今は別々にしましたが』
「………危険度を10段階で表すと?」
『そうですね―――生まれたては8。抑制魔法具のおかげで6。私たちの干渉で3と言う感じでしょうか』
「それでも危険が回避できない謎っ」
『これでも魔塊を作る事によって属性魔力の均衡が保たれているのですよ?あ、その魔塊はとったりしてはいけません。すぐ死にます』
「怖っ!魔塊に助けられるってなんなの!?え、じゃあ私にじゃなくてあー、クロムフィーアに色が見えないのはこの魔塊のせいじゃないの!?」
『魔塊で色盲になるわけないじゃないですか。多少しか人体に影響はでませんよ。おおよそ、クロムフィーアがお腹にいた時になにかあったのでしょう。クロムフィーアは本当で言うと5、6人目の子どもですから。母体の心労が影響したのかもしれません。ああ、先に言いますけど魔力が光って見えるのは魔塊の影響です。生まれた時からすでに極小の魔塊はありましたよ。目を開けているときに魔塊でできた魔力の余波が流れてしまった結果がそう見えるのでしょう。魔力は光りますからそう見えるのです。目に魔力を流しても構いませんが、全体的に言えばクロムフィーアは【水】の属性なので右目の【火】の魔塊にはあまり触れないように。反発しあって目が焼けるでしょう。左目は【風】なので電気が走って痛いでしょうね。目に魔力を大量に通す事はおすすめしません。調節さえすれば―――新たな発見ができればいいですね、程度です。他に質問は?』
色々と混乱が………えー。私の見える世界って白黒しかないの?治ると思って頑張ってたのに………え、じゃあ薬とかで治る事もないの?ああ頷かれてしまった―――そうなんだ。この世界での医療はまず電気がないことから発達はしてないよね。魔法の【雷】とかあるくせにっ。私の希望がっ!希望がっ!!
―――あとなにか聞かなきゃいけない事。………クロムフィーアが本当なら5、6人目の子どもだったってことも驚きだよね。まあ、親の方で攻撃を食らってたみたいだから流れ、たんだろうね………そこは、致し方がない。私ではなにも出来ません。うーん。うーん。出てこないのならもうないのかな?あ。
「アトラナになんかなつかれていたけど、それってクロムフィーアの【火】の魔塊のせい?」
『たぶんそうでしょう。魔塊は魔石とほぼ一緒ですし。おまけに魔力も強いからよく感じ取れたと思います』
「それと肝心なものを聞いていない。アトラナの解放ってどうやればいい?まさか丸投げじゃないでしょ?」
『アトラナの周りに魔素を集めてほしいのです。ですから―――誰だったかしら?』
『ケヤンくんだよ~』
『そうそう。ケヤンと【火】の魔法師に魔素を集めさせてください。アトラナの魔力より多い魔素を。そうすれば自然の方に引かれますから後は共鳴破棄の詠唱してくだされば解放されます。もちろん、成功すれば魔素が精霊になり集めたものは消えます。ですが魔力暴走すれば【火】ですからね。想像は出来るでしょう』
「下手したら死んじゃう可能性があるってなんなの!?………………ねぇ、共鳴破棄の詠唱ってなに?」
『魔法を使うにあたってする共鳴を破棄すると言うことですよ。アトラナが魔法を使って魔素との共鳴をしているのですからその共鳴を破棄させないと。精霊との魔素提供が多い場合に破棄させることによって魔法に借りていた精霊の魔素を返すって意味で―――あ。詠唱なんて誰か覚えているのかしら?』
「おおおぉおいっ!?」
『貴方のお父様に聞いてみて下さい』
「ちょっ、そんな事したら目立つじゃん!それに聞いてくれるかも分かんないんだよ!?」
『え。目立つとかもう遅いでしょう?貴方の周りにどれだけすごい人が関わっていると思うのです。まず親が王宮筆頭魔法師、加えて十進魔法師とあることですでに目立つに決まってます。幸い親は娘に甘い見たいですから泣き落としたりしてはいかがです?』
そんな当たり前のようにお前なに言っちゃってんの?みたいな声で言われてもね………おかしい。顔がわからないはずなのに表情がわかるっ。絶対に冷めた目で呆れられてる!緑ちゃんのフォローはこんな時に入れてくれない寂しさっ。挫けそうですっ!
そうだよね。言われてみればお母様とか元を辿れば公爵令嬢。あのユリユア様の妹であり、唯一?グラムディア様の姫候補を突っぱねた人だろうし。そのユリユア様も元王妃近衛騎士隊長様。ヴィグマンお爺ちゃんは城に使える魔学医でしょ?忙しそうだからきっと偉いはず。レーバレンス様なんか王宮筆頭魔術師じゃん。王族関係はすっ飛ばしてエモール様もウィル様も十進魔法師。騎士棟も含めるならアビグーア中隊長にウォガー大隊長とも魔法剣で関わっているね。ウェルターさんなんかお父様の悪友で上流騎士。ええと後は忘れたけど、これだけでも―――…
…………………………みんな、地位がハイスペックじゃないか。
『もう少し考えて―――はどん底に嵌まるだろうから誰かと相談しなさいね。長い間ひき止めてごめんなさい。アトラナの件、お願いします』
『お願いね~?本当に危ないから、出来るだけ早くね~』
『では、終わるぞ。後は真綿が起きれば元通りだ』
『目安としては貴方の父君に魔力が届いたらアトラナの体は爆ぜるでしょう。あと数回です。本当に急いでください。馬車馬の如く』
「青さんの印象ががた落ちした瞬間だわ」
そしてそれはこの夢であり現実の世界で最後の言葉になった。なんとも言えない空気だと思う。本当、それしか思えなかった!青さんなんで最後にそんな事を言っちゃったの!?
まあいいよ別に!それよりアトラナの件を急がなきゃっ―――確か今日………今日だよね?やばい時間なんてわかんないよっ。とりあえず量ったときは一般の人が図れる測定魔法具だった。あれの一周はお父様の魔力量になる。量った時のメモリは一周するより手前だったけど、3/4より少し動いていた。時計で言うと長針が53分を指してたぐらい。1回にどれだけ増えるのか知らないけど、危険だと思う。これは本当に急がなきゃならないね。………なんでここまで信じられるんだろ。あの話が本当かわからないはずだけど………いいやっ!突っ走れ!!
目覚めたらお父様に直球で行こう。まずアトラナとの接触を減らして魔力暴走を回避させて説明大会。ああ、でも私って熱で倒れたんだっけ。無理にでも話を聞いてもらわなきゃ駄目かもっ。
あーあーあー!精霊様との説明大会が終わったのに………今度は現実で説明大会か………誰が信じるんだろう、こんな話。精霊のせいにしたいけど知らなかったら私は変な子………お父様、ちゃんと聞いてくれるよね?熱でクロムフィーアかおかしくなったって言わないよね?あれ!自信が………
「クフィー!」
「………お母様?」
ごめん。白黒だからいまいち判断が出来ませんでした。でもその顔はまさしくお母様のもので―――早々に泣かれました。手を握っていたらしくて、それを抱え込むように泣き崩れている。すっごく心配かけちゃった………ごめんね、お母様。
「どれくらい、寝ていましたか?」
「もう少し休んでいなさいっ………丸々一日は熱に魘されて寝ていたわ」
「お父様とお話しできますか?緊急です」
「クフィー………今は休みなさい。貴方は倒れて起きたばかりなの。休むことが先決です」
まさかの寝起き難問はお母様だった………さて、どうしよう。強気にいくか。素直に従うか。でも一日も寝てたんならやっぱり急いだ方がいいと思う。その一日で何が起こるかなんてわからない。
「緊急なのです。お母様―――お願いします」
「なりません。貴方はわたくしにこれ以上の心配をさせるのですか?わたくしからもお願いよ。今は休んでいなさい」
「………一人―――いいえ、二人の命がかかっております。お願いします。緊急でとても大切な事で、このままでは巻き込まれてさらに怪我をする人も出してしまいます」
「なぜ?クフィーは何を知っているの?」
「それを踏まえてお父様にお話しします。ですからお母様、お願いします。お父様とお話しがしたいのです」
お母様、お願いしますよ!ここで拒否するなら這いずってでもお父様のところに行くからねっ!人間爆発なんて見たくも考えたくない。いつの間にか引き受けているけど、実は助けてくれていた精霊に恩返しの一つや二つはやりたいもんだ。それが自己満足でもね。
しばらく見つめていて………折れたのはお母様。起き上がれるか、と聞かれたのでゆっくりと起き上がって見せた。ポメアに上着を掛けるように言いつけてお母様は待つように行って出ていく。起き上がった意味はあるのだろうか………
少ししてまた開いた扉はお母様。今度はジェルエさんも一緒。そのジェルエさんはなにか包みを大事そうにもって―――二人が目の前に立つ。これ、どういう事なんだろう………
「今、旦那様はとても忙しく、ここへお呼びするのは難しいの。ですから―――わたくしが託された魔法具を貸してあげます。これは同じものを持った相手と会話ができる魔法具です。魔力を通すだけなのでクフィーも加減さえすれば使えるでしょう。ただし、相手が気づかなければ会話など出来ません。だからクフィー、この魔法具を使ってもし旦那様が応答して下さらなかったら諦めなさい」
「―――わかりました。お母様、ありがとうございます」
お母様の譲歩は賭け―――さあ!私に幸運は訪れてくれるかなっ―――ここで指をくわえるだけは嫌だからねっ!




