想定外
改定いたしました。27.6.28
今日の目標は?と、聞かれたので
「魔力測定を終わらせること。『お母さん』は誰か、なんなのかを探ることです」
「それと新たな情報を手にいれること、ですね?アトラナに気に入られたら私も協力しましょう」
「頼む。私ではおおよそ無理だ」
「ドトイルって怒った顔が板についているよね。そりゃあ無理だ」
「貴様………その顔、変形させてやろうか?」
「おい、こいつらで大丈夫だろうな?」
「わ、私に聞かれましても………昨日はロノウィス魔法師様と行きましたから大丈夫です」
「雲行きが怪しそうですね」
私もそう思うけど、ドトイルはきっと中に入りませんから………首を絞めてる者と絞められてる者の二人をみて私たちはなんとも言えない状況に苦笑いを浮かべた。
会食を終わらせて次にアトラナの調査に乗り出す私と、ロノウィスくんと、魔術師のトセトナさん。顔からして本当に穏やかっぽそうな人で、何やらいい匂いがするのです。花の匂いかな?だから私のイメージはある花にまとまってしまって白黒のトセトナさんの色が紫になった。だって全体的に黒っぽくてグレーっぽいような………………濃いめのグレーのショートカットは文字通りラベンダーの色じゃない!?くっきりと見せる大きめの瞳は黒より。ラベンダーの濃紫!そして花の香りといえばほらっ、ラベンダーな人!!
私的には魔術師に女性がいたことの方がビックリなのですが、誰もなにも言わないので割合的には少ないのかな?と思います。まあ―――貴族だったら女性は嫁いじゃう方が献身的な見られ方だもんね。私はどうなるんだか………前世では結婚なんて当然、していない。まあ、運命とやらが現れたらコロッと変わるから今はよそう。7歳が考えてもどうも出来んさ。アーグラム王子のは焦ったけどね。もう負けません。王族反対っ!
駄目だ………なんかしっくりこないね。なんでだろう。それより、今日のアトラナの部屋へ直行するメンバーは揃ったからそろそろ行きませんかね?レーバレンス様が早く行けよ、的なオーラでドトイルとロノウィスくんの漫才を見ているからさ―――先に行こうか、トセトナさんや。
「では、レーバレンス魔術師様。魔法具をお借りします」
「壊すなよ。それをまた作る気はさらさらない」
「わかってます」
では、行こう。ロノウィスくんたちは放置の方が面白そうですからね。トセトナさんの後ろを歩いて出陣です!あ、ロノウィスくんか気づいてこっちきた。それに気づいたドトイルがバッタバタとこっちに来る………トセトナさんが苦笑いしているよ。そんな私はドタバタに慣れているのでおっそい足をせかせかと動かす。場所は知らないけど。
やっぱり真ん中らへんの部屋です。よく見たらこの扉は無地のような気がします!でも対面している扉も無地だがね!わかるかっ!!と、言うことで聞いてみた。なんかこう言う説明がうまそうなドトイルで。怒っているような面倒そうな顔で私を見たけど、いいじゃん。酷いかも知れないけどロノウィスくんだと心許ないので。ほら、昔は雑学がやばかったんでしょ?トセトナさんは魔法具を大切に持って歩いているので声をかけてがしゃん、だけはやりたくないのです。
その意図を読み取ってくれたのかは別として、説明してくれるドトイル。意外といい奴だよね。評価を変えなきゃいけないかな~。説明がざっくりだけど。なになに?部屋数を数えていたですって!?私はそんな回答を望んでいないのだが!?数え間違えたらどうするの!?
「各部屋に個性がある目印があるのだからそうそう数え間違いはない。間違えたとしたらそれは馬鹿のすることだ」
そうきたかっ!別にいいけどっ。その馬鹿に当てはまりそうなのが私だからなお怖い!!全然、他の扉の特徴とか見てなかったわ。ついてくるだけだったよ………不甲斐ない。
そんなこんなでアトラナとトセトナさんがご対面。開けたのはロノウィスくん。ドトイルはもちろん、上で待機である。で、ロノウィスくんの腹筋は一日そこらで鍛えたのかアトラナのタックルに耐えました!すごいっ―――でも呻き声がっ。辺りどころが悪かったんだね………一日で鍛えられるわけないのに………
そして私の方へ抱きつきに収まる。ロノウィスくんには無言で離れていきました。顔もきょとんとしているのでわかりません。そして私の首を絞めつつトセトナさんに視線を動かして………珍しくこちらも無言で反応はない。仕方ないから私が紹介したらさらに無言。なに、これ。
「私のお友達ですよ?」
「………ふーん。私、アトラナ―――貴方はあんまり近寄らないで。クフィーちゃんのお友達だから今日は我慢するけど早く出ていってね?その空気、嫌い」
「………嫌われちゃいましたね」
トセトナさんが苦笑いに!?せっかく私のっ、年上のお友達になれるかもと思っていたのにやりづらくなったよ!?だがここは我慢だっ。少しでもアトラナの機嫌が悪くなって魔力暴走に繋がるなら抑えなくては―――
て、頑張ったんだけどね?今日のアトラナはすごく大人しかった。なんと言うか、喋ろうとしない。トセトナさんを警戒している感じ。一定の距離を保ちながら魔力測定を行ったけど、それがスムーズに出来てしまう変な空気になった。魔法具もそのまま壊さずに終わってトセトナさんを追い返したぐらい。昨日と変わりすぎた雰囲気に私はついていけなくなりました。順応性がなくてすみませんねっ。
ただ―――アトラナの顔がなんだかよろしくない表情である。こう………拗ねた顔?不機嫌でもあって、それを抑えているような微妙な顔。なんだろう。相変わらず首は絞められてるんだけどなあ。聞けば話してくれるのだろうかね?
「アトラナ、どうしました?」
「………あの人みたいな人、もう連れてこないでね。魔素が乱れちゃう」
「乱れるんですか?あれ?アトラナは魔素が感じれるのですか!?すごいですね!」
「うん。感じれるよ。だからクフィーちゃんはもう帰って」
「………え?」
いや、普通にロノウィスくんと一緒に驚いている。まさかのお役御免を言い渡された。待って、なにやっちゃったかな私。今日は魔力測定をして今お話ししているだけであって………トセトナさんとあまりよくない雰囲気だっただけで―――これがまずかった?アトラナの基準がわからない。
私が狼狽えていたら首に抱きついていた腕が解放された。アトラナの顔は真剣な顔になって今度は私の右目を覆う。真剣なその緑を推奨した濃い色の瞳から目線が外せない。瞳から語るものは?私が目で相手の心を読み取ることなんて、出来るわけがない。すべてが私の勝手な推測。想像。妄想。アトラナの行動に意味するものは………?
「気づいていないんだね。そろそろ熱くなると思うよ。また、お話しして。待ってるね!」
「何を言って―――アトラナ?ちょっとアトラナ?」
暑くなるってなんだろう?わけがわからず立たされて背中を押されて追い出されようとされている。なんで?ロノウィスくんも止めようと手を出そうとすれば魔力暴走を盾に手出しが出来なくなって一緒に追い出された。この部屋には鍵はかかっていない。開けようと思えば開けられる。よく脱走しないんだね、て思ったけど。しかし、本当に魔力暴走なんてやられたらたまったもんじゃないのでこれ以上の詮索を飽きらめて扉から離れる事にした。何だったんだろう?
上に戻ればドトイルとトセトナさん。待っててくれたらしい。早い帰りに何があったのか早口で告げられても答えにくいだけなので、ロノウィスくんが宥めて一から説明した。本当に、唐突だから私にもわからない。ただ、今回は私が発端だろうという事はわかる。でも、私は特に変わったことなどをしていないので首を捻るだけ。強いていえば適温にしてくれる魔法具をつけているのになぜか寒いかな。
結局、話していても拉致がないところまでに至り、報告書を書いてアトラナに関わっている魔法師たちに助力を扇ぐことになった。
とりあえず今日の疑問は私自信が気づかないでアトラナには気づけたこと。魔素を感じられるらしく、トセトナさんは魔素になんらかの関わりがあって、アトラナから見て気に入らないこと。あとは………今更ながらこの世界に『ママ』が通じる事に驚いたね。これは後に聞こう。やっぱりお父様かな。ん?………考えていたら右目がじりじり暑くなるのを感じて………目が熱くなるのって、なに?
咄嗟に右目を押さえたらそのまま頭からじょじょに下へと熱がおりていく。こんなの味わったことがない体の変化になぜか呆然となって………意識を手放した。誰か私の名前を呼ぶ声がいっぱい聞こえたのは、なぜだろうか………
「―――どうだ?」
「………………………ただの発熱だけのようじゃ。ただ、右目の【火】の魔塊が呼応しておる」
「ロノウィス、ドトイル。説明はさっきので間違いないんだな?」
「はい。アトラナにはおおよそヴィグマン十進魔法師様のように魔素を読み取る力があり、クロムフィーア若魔法師の右目に触れ追い返されました。アトラナから帰った方がいいと促され、熱くなるからと………粘ったのですが魔力暴走を盾にされまして………それから報告書を書いている途中、突然立ち上がったと思えば右目を支え、意識を手放したようです。何度か名前を呼んだのですが、反応が見えず、じょじょに体温が上昇してる事からヴィグマン十進魔法師様、恐れながらレーバレンス魔術師様に協力をしていただき、今に至ります」
「その前にも少し不穏な言葉を発していたようです。今回、トセトナ魔術師を同行させたのですが魔力測定を終わらせたら早急に追い出されたそうです。空気が悪いと言っていたそうなのでトセトナ魔術師と外気の魔素に何らかの影響があったのではないかと思われます」
「トセトナ魔術師は“ 異常 ”の持ち主なのか?」
「いや。純粋な【風】の魔術師だ。魔法に関しても普通で魔素に左右されるような魔術師ではない」
「これまでアトラナと接触してきた魔法師との違いは?」
「申し訳ありません。アトラナはすぐ我々を追い返すので比較できるような事はございません」
と、なると………クフィーとトセトナが鍵を握っているのか。ベッドに横たわりながら頬を赤く染めて苦しそうに眠るクフィー。時おり右目に反応を見せるのは目の奥にある魔塊が反応しているのだろう。
陛下の傍にいてレーバレンス様が急用でエモール五進魔法師と来たのには驚いた。短い言葉で陛下に挨拶をしたかと思えばクフィーが倒れただと?速攻でエモール五進魔法師と変わってレーバレンスに連れてきてもらえばクフィーがぐったりとして横になっていた。今のところ滅多に風邪などを言わない我が家であっただけに、すごく狼狽えたものだ。
レーバレンスにヴィグマン様を頼んでもらい、その間にすぐ水を用意する。本当は氷がいいのだろうか、あいにくと【火】と【水】の異常である私では【水】の氷のできが悪い。攻撃に特化してる故に氷として維持するのは難しいのだ。攻撃なら打ち込んで消えるからね。部下が【火】で腹ただしいな。やれば出来るが魔力を馬鹿みたいに奮わなくてはできないから今はやる時ではない。
とりあえず布と水を用意したところでヴィグマン様を連れたレーバレンスが帰ってきたが………発熱はまあ、いい。最近に流行りの病は浮上していないし、病気も度々でそれほど気にかけるほどでもなかった。風邪の前兆と思われるんだが………右目に魔塊かあるなんて初耳なんですが、ヴィグマン様?忘れてたって………老害もほどほどにしてくださいよ。クフィーの前では騒げないではありませんか。………は?左目も?【風】の魔塊?
「なんでそれを今、この時に、言うのですか?クフィーの親である私に説明してくださいよ。なんですか二属性の魔塊とは」
「こればかりはすまん。実は調べたときに娘っ子は【水】の魔塊も自分で作りおってな。あまりの衝撃に抜け落ちたわい。それに―――娘っ子はあの魔病持ちじゃから治すに治せん。無理じゃ」
「それでも義務を忘れたのはヴィグマン様ですよ?後で詳しく教えてください。詳しく」
まったく―――アトラナだけでもクフィーの傍にやるのを躊躇していた私の身にもなってくださいよ!本当は自分が確かめてずっと片手に私の念を送り続けたいのにっ!今回はどうもゆっくりしていられない。あとでンゼットォラにその後の様子を聞かなくては………
ただでさえ魔塊と呼応しているって話を聞いて焦っているのにっ………魔塊は自分で込めた魔石と同じだぞ!熱と呼応している【火】がクフィーの意思と呼応すれば魔力暴走になりかねない。意思との呼応のしかたを知らないとは思うが、体内で作られた魔塊が魔力と触れないわけがない。魔塊はすでに【火】と呼応している。クフィーが癇癪を起こせば暴走に間違いはない。
クフィーはけっこう冷静だ。前世と言う記憶がそうさせているだろう。それによって不安定でもある。冷静の奴は大抵、人の意見を客観だけとして捉えない。それを主観に変換させ、より細かく物を見る。しかし、その冷静な分析は他人との価値観の違いが生まれ、本人が口に出すことが少なくなり答えを抱え込もうとするのだ。癇癪を起こさないと考えられるかもしれないが、熱は人を惑わす。【火】の魔力暴走を感じ、それを冷静な判断で分析して不安になれば【水】の魔力が暴走する恐れに繋がる。そうなると魔力が歪む可能性は否定できないはずだ。抑制魔法具は今も働いているが………どうするっ。クフィーから離れさせないように人を置いたとして誰を傍に置くか。魔法の知恵を持っていないと対処もできない。魔力暴走を想定すると十進魔法師の誰かが望ましい。クフィーだけではない。私の抱えている問題にアトラナの件もある。
「ンゼットォラの経過報告を聞いてからアトラナは決める。ロノウィスとドトイルは報告書をまとめて他、魔法師とアトラナの件を詰めといてくれ。ンゼットォラの報告でロノウィス単身で望むかもしれないからその事も踏まえ話せ。………………すまないが、私は一度クフィーを連れて屋敷に戻る。それまでレーバレンス、頼むぞ。ヴィグマン様は私と同行を」
それぞれの返事を聞いて私はレーバレンスに頼んで陛下の元へ飛んだ。陛下は私に休暇をくれるだろうか………無理だろうな、と淡い期待を胸に闇から陛下の顔を見て小さくため息が出てしまった。どうするっ。




