戸惑って紛糾した脳内
改定いたしました。27.6.28
はーい。今日は土の日………ユリユア様がいないので魔法院に出席できました!嬉しくて涙が出そうだったのは言うまでもないよね!午後からまたアトラナのところですがっ。
と、言うことで午前の授業が終わったのでお昼!早速食べに行こうか、といつもの4人で移動をしようとしたら―――レーバレンス様に誘拐されました。ここ、前に待つように言われた場所ですね。離れでしたっけ?また何も言わずに影渡りをされたのでてんてこ舞です。私の腕が。頭は鷲掴みにされてますからね!ポメアも驚きで固まっている。でも息を止める私たち。何も言うまい。そして次に連れてこられたのが………たぶん、陛下たちが集まっていた部屋?だと思う。またなんでこんなところに連れて来たのか………私はお腹が減ったのですけど?
「会食だ」
「まさかですけど………王族と、ですか?」
「ここに連れてきたのだからそうなる。今日はグラムディア様とセレリュナ様だ」
「え………」
セレリュナ、様?と言えば簡単にグラムディア様の奥さんだってわかるけど、え?なんで私に会う必要が?レーバレンス様が逃げないようにローブの端を握ってですね………すみません。逃げないならローブにしわを作りませんから!!ローブは私の命綱!!あ。ため息をっ………
なんだ、と言われたので素直に言ってみる。セレリュナ様と私が同じ会食の場にいてもいいのか。だってですね、セレリュナ様と言えばここでも思いだすのはマルカリアのママ友みたいな関係だったじゃん?いや、側室同士?の仲間的意識?わからないけど、私の中ではこの二人は同じであって、セレリュナ様にいい印象はない。ので、この会食はどういう意味が含まれているのかを聞きたいのです。
「グラムディア様から感謝の気持ちを込めてお前を呼びたいとしか聞いていない。セレリュナ様については………わからないとしか言えないな」
「でも、セレリュナ様ですよ?なぜ私のような幼い中級貴族を?グラムディア様も感謝でなぜ会食なのですかっ。感謝ならばお手紙だけでもじゅんぶんなのですよ?その前にもらえる方が畏れ多いですっ」
「私に言われても答えは出ん。本人に聞いてくれ。作法等は免除されている」
「レーバレンス魔術師様、同席はどなたですか?お父様もでしょうか?それたもヴィグマン十進魔法師様でしょうか!?」
考えがわからないならそれを横に置いておいて別の問題をチェック。ここまで連れてこられたのだからもう会食は逃れられない。直前に言われて逃げ道なんてないようなところでは切り替えるしかないっ!冷静でいられるってすごいね!!足が笑わない自分に度胸がありすぎて困るわ!それともこれはまだ大丈夫な方………?で、誰が私の保護者をしてくださるんですか!?
しかし、残念な事にレーバレンス様はちょっと考える素振りを見せて首を軽く、数回もふった。私はそれだけで視界が少し遠退く。え?どう言うこと?まさか私の同席してくれる人はいないって?………護衛を抜いたとしても、誰もいないのはおかしい。ちょっと待て、待って!?待ってください!!
「なぜ首をふるだけで答えてくださらないのですか?護衛を抜いたとして、どなたか傍におりますよね?まさか私の盛大な勘違いであれば私一人と次期国王陛下様ご夫婦と会食をと、誤った解釈をしますよ?………レ、レーバレンス魔術師様、この場で子どもを弄るのは止めてください」
「残念だがこの国の王族はまったくもって危機感がなく寛大の心が広い。近衛にはすべて知っているので護衛は倍で取り囲むが、今日の会食はお前と王太子夫婦の三人だ」
ばっ!―――かじゃない!?という言葉が喉から出かかって飲み込んだ。私が馬鹿になるところだってよ。いや、元から馬鹿ではあるが。中流貴族の娘と会食してどうする!?呼んでどうする!?
レーバレンス様は嘘を付くようには思えない。レーバレンス様の表情は今日も盛大にお疲れのようで無表情。これを利用して嘘をついているならもう何に騙されていてもおかしくない。私の人間不振は簡単に出来上がると思う。だって、ですね。私がうっかりレーバレンス様のローブを離したら、頭を撫でられた。無言だけど。レーバレンス様はこんな事をしない。ぐりぐりと撫でる感じだけど、撫で加減はばっちり優しい。
これで思うのは?憐れみが妥当ではなかろうか………………すっかり気落ちした私はポメアに渡されて着替えさせられたよ。君はいつの間に準備をしていたの?ここの王室のドレスなのか、肌触りがすごくよくて呆然とポメアと、いつの間にか増えていた侍女さんたちを見つめるしかできない。そしていつの間にか着替えが終わるんだね。現実逃避ってすごいなあ―――…
「腹をくくれ」
「骨は拾ってください………」
「なんで後ろ向きなんだ。とって食われるわけではないだろう。粗相がない程度に楽しんでこい」
「楽しめる分けないじゃないですか………」
私のテンションはだだ下がりだよ。この後はアトラナとお話しだよ?英会話よりは会話はできるかもしれないけど、あれはあれで疲れるんだって。着替えですでに疲れているのに引き続き会食とか駄目だって。なんでグラムディア様とセレリュナ様と3人なの………おかしいでしょ………
侍女3人が鏡をもって私の姿を映してくれる。なんだかパーティー用ドレスのような華やかな感じで、ふんわり。適温にしてくれる魔法具をつけているからか、長袖なのに暑くない。髪なんててっぺんに纏められてると思えば首から後れ毛が。装飾もちょいちょい飾ってあって金額なんて分かるわけがない。王室の装飾は低額いくらですか。なぜそんなもんを貸すっ。
そして隣の部屋にドナドナされて押し込まれた。護衛騎士がずらりと並んでいてもう気が遠くなりそう。席にはすでにグラムディア様とセレリュナ様。扉を開けた音から注目されていたのか知らないけど、こちらを注目するのでもう涙目だよっ。難易度が高いよ!!馬鹿野郎っ!!私に王族へ対しての教養があると思っているのか根畜生ーっ!!
「本日はこのような場にお呼びくださり、ありがとうございます。グラムディア様、セレリュナ様」
「もっと楽でいていいよ」
「そうね。楽しく会食したいわ」
さあ、席に座って、と言われましてもね?足が今さらになってガクガクである。あれ、私さっきまでの勢いどこに行ったんだろう………口先だけって奴ですね、わかります。もう思考は崩壊だっ。最近こんなのばっかり!!本当の私はどこに行ったの!?なんで気絶をしないんだよっ。
それでもなんとかテーブルにつけた私。頑張った。もう頑張ったから許してください。しかし、始まったばかりである。私の緊張はどこをどうやれば追い出せるのかな?本当に3人だけとかここの王族は大丈夫なの?せめて知っている人を傍につけてほしかったよっ。
「本当は、グレストフ魔法師も呼ぼうかと思ったのだけど―――彼は陛下の十進魔法師だからね。呼べなかった」
そこは無理にでも呼んでよ!
「無知な故に、粗相をしてしまうやも知れません。お許しください」
「無礼講、とまではいかないけどそんなに畏まらなくていいから。まだ7つと聞いた。親も呼ばずにこちらが非常識なんだ。許してくれ」
「本当にごめんなさいね。実は私がお願いしたの。貴方とお話しもしたかったから」
修羅場ですか!?もう私の脳内は末期なんですが。セレリュナ様は微笑んで白ワイン(この世界にあるのかな?)のような透明な液体が入ったグラスを持ち上げた。あ、でも水?いやいやいや、食前酒だって―――もうわからん!
自然な動作で同じ透明な液体の入ったクラスをグラムディア様も持ち上げる。たぶん、乾杯、だよね?私の傍にはなみなみと注がれた甘い匂いの、白?のジュース。牛乳はこんな甘い匂いはしないよ。なんだこれっ!?持ってみたらやっぱり白。私が持ったところで「乾杯」と言われた。とりあえず飲んでおこう………ああうん。ココナッツだわ。
「君には本当に感謝している。ここに来てくれてありがとう。顔も、体も戻れないと思っていた。嘘だとも思っていた。実際に戻ってまだ信じられないぐらいだ。クロムフィーア嬢に私から最高の感謝を」
「私からも感謝を。もう、戻らないと言われていたので………共に光を浴びることに怯えてしまいました。治ったことも嬉しいけど、なによりグラムディア様の笑顔が戻ってきたこと。こんなに嬉しいことはないわ。私からもクロムフィーア嬢に最高の感謝を」
そう言って―――なんで、こんな幼子に頭を下げちゃうかな。私、どうしたらいいのかわからないよ。二人して綺麗におっとりと私を見て微笑む。慈愛に満ちた嬉しいと顔で表現して寄り添いながら私に感謝を述べる。なんで私が考えた事を鵜呑みにしてしまうの?知っているよね?外見も見ての通り私は子ども。わざわざ直接お礼をしたくて呼ぶまでするなんて―――嬉しいんだよね。なぜ私は素直に受け取れないのかな。
だから、聞いてみた。料理が運ばれてくるけど、待てなかった。もう、いいよね。肩が張って疲れる。感謝を未だに素直に受け取れないのは私が初めて体験するからだ。人に感謝される事をするけどここまで心のこもった感謝なんて貰ったことがない。だって、心のこもった感謝なんて、普通に渡されないから。私も、渡したことはない………薄情なやつ。
―――なぜ、私を一人で呼んだんですか。なぜ、他の保護者を呼んでくださらなかったのですか。なぜ、手紙にしなかったのですか。なぜ、私のような小娘に頭を下げられるのですか。なぜ、そこまで私の存在を鵜呑みに出来るのですか………?答えて、ください。
「クロムフィーア嬢はまだ若い。確かに私たちは王族であり、民より上に立つ存在だ。だが、我々もそれだけで人の子であり、民となにもわからない。本当に感謝をしたいのなら手紙のような顔のわからないただの言葉より、真っ向から告げた方が嬉しいと私は思う。王族となるとね、無闇には頭は下げられないから人によっては偉ぶっているようにしか捉えられない。今回の会食はクロムフィーア嬢にしか贈れない例外なんだ。他に感謝したい人は多くいる。でも、個人への感謝は大人同士でやるとあまりに威力がある。腹の探り合いだ。そんな中で君に私たちの伝えたい感謝が伝わるとは思えない」
「これだけではおかしい事でしょう。例外だと言っても、このような密談で貴方は王族と関わり、謝意を告げられればどうなるか想像がつくわ。でも、クロムフィーア・フォン・アーガストは個人では何も出来ないと分かっているから、こうして逢えるの」
「何も、できない………?」
「クロムフィーア嬢はただのグレストフ魔法師の娘であり、魔力が高い。それだけの娘だ。天才と祭り上げても、君はまだ認定式を終えたばかりの少女。例え親がそれを楯に私たち王族に売り込んでも、なんの意味もない。どれほど厄介な貴族が押し掛けても、今の私はまだ城の隅で隠れているグラムディアだ。この事はまだどの貴族にも報せていない。すべては成人式の場をもって正式に執り行われる。だから、まだ立場もないに等しい者に売り込んでもしかたがない。懇意を寄せても、王が変われば回りの環境も変わる。例えどんな偉業を成し遂げても、それは君の結果に繋がらない事が多いだろう。どうしても君は、まだ親の手が必要な幼い子どもなんだ。もちろん、グレストフ魔法師の人柄を知っているから君一人を呼んでいる」
つまり―――ここで逢って、お礼を述べられてもそれは誰にも認められないし誰もが信じない事で、別にグラムディア様とセレリュナ様にお逢いできたからと言えても、回りからにしてみれば誰も痛くも痒くもない。と、言うわけだね。確かにお父様が娘を押し売りとかしないし。意外とぐっさり来たけど………考えていた私って、もうなんだろう。空回りしっぱなしだ。
「私は王族と一人で会食など、何かの悪ふざけだと思っていました………私の中ではたかだか貴族の娘が王族と会食は普通に出来ません。出来ない立場です。ですが、レーバレンス魔術師様がここまで連れて来て下さったので嘘ではないのです。あまりにも現実離れしていて、疑心暗鬼していました。それに………私はセレリュナ様と逢うのはよくないと思っておりました」
「ぎし………?マルカリアの事は気にしなくていいのよ。私もあの人と同じ立場と言うだけであって何もないわ。ただ、あの人は私より年上で宰相様の娘。私は公爵令嬢の肩書きだけの女。マルカリアを持ち上げていないと他の子たちのように酷い目に会うのよ」
「し、知らなかった………ごめん」
「今さらです。過ぎたことはもういいではありませんか。私はこうしてグラムディア様のお傍にいられるだけで幸せでございます」
セレリュナ様、けっこう強いな………穏やかなムードから一瞬にしてピンクに早変わりだよ。騎士の一人が大袈裟までに咳払いしてくれたからいいけどさ。私はビックリして肩が跳ねたけど。最後にセレリュナ様から「きっとクロムフィーア嬢は深く考えすぎてしまう娘ね」と実にあっけらかんと言われてしまった。あれ?セレリュナ様のイメージが………
せっかくの会食なのだから、楽しく食べましょう、なんて言われたら食べなくてはならないわけでして。緊張しながらも食べていたらグラムディア様もセレリュナ様もなぜか心配して声をかけてくださると言う始末に。娘ができたらこんな感じかしら?と頬に手を当てて言われましても―――娘ならもう少しうきうきしながら食べてると思うよっ!
それでもモタモタ、グタグタ、オロオロともう会食の中身なんて覚えていません。感謝されたのが印象的だった。なんだかしっくりこないと思ったらいつの間にか普通になっている感覚。たぶん、少しは会食と言うものを楽しんだ?のかもしれない。
会食が終われば最後に抱き締められたからね。きっともう会うこともないだろうから、と。疑似娘を体験したかったらしい。もうどんとこい。私は知らんぞ。これで私も王族との関係はなくなったはずだよね?騎士棟でも双子ちゃんがどれかわからないし、接触していないし。陛下と王妃様は論外。もう、大丈夫なはず。
お二人と別れたらドレスを元に戻して次はアトラナ。これがまた疲れるけど、これを解決しなきゃ私の自由がない………あれ?騎士棟に通っているだけですでに自由がない気がする。いったい私はどうなるんだろう。深く考えれば的外れだな、て。さっきの会食で思わされたからなんだか頭がミックスマーブル。混沌だよ………
思わずため息をはいたらレーバレンス様に無言で頭をグリグリされた。最近のレーバレンス様は優しいです。グリグリはちょっと痛いけど。研究室に戻ったら一人の魔術師を紹介されて、ロノウィスくんがきたら出発だって。………………………………………うん、早く気持ちを切り替えて、頑張らなきゃ。私はこの世界の子どもなんだから、頑張ら、なきゃ?あれ。なんで頑張らなきゃって自分を励まさなきゃならないんだろう。頑張るのは当たり前なのに………あれ?やっぱり、うまくまとまんない。




