濃い一日
改訂いたしました。27.6.21
アトラナを寝台に寝かせ、お暇を決行。それしか方法がないし地下に寝ている人の傍で雑談会議なんてできませんから!私とロノウィスくんと―――十進魔法師様。こと、ンゼットォラ・マリャル………さん。聞き間違いではない。私、今まで小説を読んでいて過去に頭文字が『ん』で始める人は初めてである。そして、初めての変人さんでも、ある。
ンゼットォラ様は平民でここの領地ではない隣の隣の隣の隣の………あ、嘘だよ!そこいらにいる珍しい家名持ちの平民だよ!とおちゃらけて砕けた感じで話ずらい。容姿は肩にかかるか、かからないかの前髪もそこまで長く濃いグレーのような薄くもない海松色のように判断がつかない。その髪を左右にわけて顔を出し、その色に対して綺麗で真っ直ぐ射る瞳はこれまた判断しずらい薄そうなグレー。渋そうな髪ならいっそ黄檗色のような黄色系でいいと思う。声も含めてなんか渋いイメージでいいと思う。顔は若そうだがな!しかし、40をすぎてもイケメンがいる。外見だけの判断は危ないよね!
背はお父様と同じぐらいでなぜか私とロノウィスくんの手を引いて魔法棟の与えられている個人の自室に招かれた。大雑把に自己紹介されたかと思うと次に話しかけた内容は私について。そのマシンガンは止まる事を知らないらしく、あれこれ喋って勝手に思考を始めては勝手にそれを話、勝手に話を作ったと思えばさらに勝手に話をすり替えて勝手に自己完結に持っていく。
ロノウィスくん共々、半眼で無表情であり、心ここにあらずで放心しています。口を挟めないのだから仕方がないじゃないか!!まずあの時!パラパラと顔から崩れている土くれは本当に怖かった。しかもよりによって目元から土がはがれて動く眼とご対面。距離があったとしても、目があってしまえばもう頭の機能はついていけなくて絶叫した!なんで顔だけ最後に崩れるんだよ!同時に壊れてよ!!
それからはっはっはっ!と笑って何事もなかったかのようにアトラナを寝かせて手を引かれてみなよ。説明もほどほどに連れ去られて今度はよくわからない会話が―――会話してないや。とりあえず私たちに隙を与えずベラベラ捲し立てて喋られたら気が遠くなっていくだけである!意外にも情報処理の時間を分け与えてくれたのならこの人の株は上がるのだけどね。ベラベラ喋る口は止まらない。私は左から右へ言葉が通りすぎていく技術をマスターした気がするっ。
因みになんとか頑張ろうとロノウィスくんがンゼットォラ様に声をかけるが、相手に聞く耳と言うものは装備されていないらしい。なになに~?と私からロノウィスくんに標的が変わるだけでマシンガンはずっと放ち続けている。ンゼットォラ様って、言いにくいね。トォラ様にしようかな………
「はー。喋った。なんだよお前ら相づちぐらい打ってくれてもいーじゃん。まあ俺もさせないように喋ったけどな!それよりアトラナの事なんだけどクロムフィーア若魔法師って凄いよなー。俺らは顔を出してちょーと話しただけで『嫌だ』の『帰って』だの聞く耳もちやしねーのにあんだけ会話してるだなんてやっぱりすごいよな!昨日も尻餅ついてたけどそのまま普通に会話に加われて大したもんだよ。貴族なんてあんな事されたらすーぐ頭に血が上って面倒になるんだよなー。そして昨日の今日でよく魔力測定を取り付けてくれたもんだ。あれには感服したぜ?」
ああ、気が遠くなりそう………
「あの、ンゼットォラ様はどうしてあのような所に?監視でしょうか………?」
「っ!?クフィーちゃん、それについては僕が知っているから今度教えてあげるよ!それよりドトイルが心配だからっ」
「なんだよロノウィス。今思えばクロムフィーア若魔法師の事しか話してないんだから俺の与太話の一つや二つ、聞いてくれてもいいだろう?あれはアトラナがやったんだよ。俺だってどうしようも出来ない魔法で、声をかけられたと思えばたちまちの内に体かだんだんと固くなって石化していくんだ。あらかじめ魔法を設置してあったんだろうな。もちろん、俺は助けを呼ぶために傍にいた魔法師に声をかけたさ。どもあいつらは裏切り者だったんだ。思えば部屋の外で待っている、と言われた時点で気づくべきだったのだろう。アトラナに触れれば土が這い上がってきてじょじょに石化となり俺は動けなくなる。そうして出来上がったのさ、俺は」
でたらめは遠慮したかったです。そしてあえて口にしないが、思うだけは思わせてほしい。アトラナに声をかけられたら石化するのか、触れたら石化するのか、どちらかにして。与太話すぎて泣ける。ついでにあのポーズもどうかと思うわ。顔はキリッとしてたよね?じょじょに石化してくとか絶望すると思うよ、普通。もう監視役でいいよ。わざわざ石像のふりしてアトラナの監視役。それでいいよね?
これでわかった事は、ンゼットォラ様とまっとうな会話は出来ないと言うこと。しかも、かなりのマイペース自己中心的な人だと私は理解した。もうこの人が喋りだすと止まんないよ。ロノウィスくんが必死に止めに入ってくる意味がよく分かる。噛み締めるほど、分かる。可哀想なほど分かるので私はもう、喋らないよ。ほら、喋ったら喋っただけ面倒なのです。ああ、そうだった教えなきゃ駄目なんだった………
誰かンゼットォラ様と正しい付き合い方を教えてください。
「それで?アトラナとはどう言った内緒話をしていたのかな?私が知る限りでは内緒話をしたのはクロムフィーア若魔法師だけなんだよなー。それにロノウィス魔法師もあそこに留まれた事もちょっとした奇跡に近く、ずっと見てきた私より滞在時間は長いし。夜中はそのまま朝までぐっすりだし、起き出しても作り出された窓の景色を見て何かを考えているのか呆然と見つめるだけなんだぜ。知ってたか?あの窓の向こうは外に見えるがあれは【光】の魔法。光で光景を産み出し、景色を彩る。上級魔法で具現化させているのだがヴィグマン様もよくやるよなー。アトラナのために試行錯誤したのだろう。まあ朝一番に見てくれているのだからやった甲斐はあっただろうな!」
この人、もはや口調もぐちゃくちゃだな………………1回しゃべるたびに長々と言いたいことをぶつけてくるのでもう疲れた。聞いているだけで疲れるだなんてすごいよね、ンゼットォラ様ってすごいわー………そっかー。あの窓にはそんな仕込みがあるんですね!て相づち打つ気力もない。もしかして喋りながら相手の生気でもぶんどってるんじゃないかな?
それでたぶん、最初の印象が悪いせいもあってもう早く帰りたいに尽きる。それはロノウィスくんにもアイコンタクトで伝わったらしい。私にそんな能力は備わってもいないし、伝わるとも思っていなかったんだけど………なんだか互いの能面をつき合わせたら自然と、ね。
―――帰ろう。
と伝わって伝わってきた気がした。だからロノウィスくんが代表で私のお父様を出汁に帰ることにしました。使えるもんは使おう。もうここに滞在するライフメーターはありません。そうだ―――私にも帰らなきゃならない理由がある。帰ることが帰る理由だ。まだじゅうぶんに夜の6の鐘には時間があるけど、まだ私たちにはやることがあるのだ。ここから無事に帰る、というやるべき事がっ!ロノウィスくん、お願いします!!
「申し訳ありませんが早急に今日のアトラナの事を報告しなければなりませんので、本日は下がらせてもらいます。ンゼットォラ様がお聞きしたかった事は書面にて、詳しくお伝えしますのでお許しください」
「えー。つまらん。つまらんぞ!せーかく堅っ苦しいあの石化までしててそれを解いちゃったんだからもう少し俺にも休みくれよー。なんだったら最高級の茶でも出すぞ?俺が入れたら最高にまずくなるけどな!なんたって淹れ方を知らないんだぜ。そんな奴が淹れてみろよ。茶葉が可哀想ってもんだろ?俺って優しくないか?でも淹れてくれる奴もいないからそろそろやばそうだけどな。だがしかーし、あげる奴なんていねぇから俺も困ってるんだ。むしろ持ってくか?それよりアトラナを見ているだけってけっこう大変で暇なんだぜ?頼むからもう少し付き合ってくれよー。なあ、頼むぜ!俺に少しの自由を!!限りない無制限の時間をっ!!」
時間が増えた!?
再び口調をはちゃめちゃにしながら今度は早々に立ち退こうとしているロノウィスくんにしがみつく形で退出!突っ込みはもはや私の心の内に留めておくよっ!そんな事より私を置いていかないでほしいからね!ロノウィスくんも私の手を握って早々に部屋を出た。助かります!!後ろから引き留める声が聞こえるが、追いかける事はしないみたいなので遠慮なく私たちは駆け出す。因みに駆け出したところで私の足の遅さを悟ったロノウィスくんは瞬時に抱き抱えられた。お父様に見つかったらうるさそうだね。いや、ご迷惑をおかけします………
そんな感じで抱えられながらも離脱、成功。むしろどこまで走るのかとぼへぇと考えていたらドトイルを発見。とある一室の前に腕を組んで後ろに般若を背負っています。私の目はいつの間に不思議なものが見えるようになったんでしょう。一度、目を擦ってみるけど般若だ。あのオーラは般若にしか見えない。私はそこからも逃げ出したいのだけどロノウィスくんはずんずんと進んでいっちゃうなら結局はドトイルの前まで来て―――
「おい。どこにいっていた?仕事はどうした。私を置いて貴様らは何をしていた!!」
「ごめんごめん。アトラナのところにあのンゼットォラ様がいて振り回されていたんだよ」
「………………………………そういえば言っていなかったな。ンゼットォラ様はアトラナの監視役だと。でもあちらは魔法棟だろう。なぜそちらにいる。それとさっさとクロムフィーア若魔法師を下ろせ。目に余る」
はい、着地ー。なんかドトイルの方が詳しそうなので立ち話もなんだからと、その一室を使うことに。なんでもアトラナがいる地下室の上の部屋だった。ああ、なんだかもう疲れたね。ドトイルの般若はかなり抑えているのにその姿が消えない。すごいよ。落ち着きながらも般若を背負う男。逆らわずにいたいと思いました。むしろすでに気負い負けしているので目立たないように小さくなるしかない。ドトイルって怖いねっ!そんなドトイルを気にせず普段通りっぽく話し出すロノウィスくんもすごすぎる!!
ロノウィスくんがちょいちょい怒られながら私はアトラナとの会話を説明。人殺しは言うのに躊躇ったけど隠さず言うことにした。抱え込む言葉でもないからね。当たり前だけど、すっごく驚かれた。それについてはなんとも言えないのでヴィグマンお爺ちゃんに聞いてみるそうです。
あとは魔力測定を明日にでも量れますよ、と言えば般若がようやく消えた。こっちの方がもっと驚いたらしい。ただ、紹介は私のお友達であることが条件になるので、やるなら温厚な人を選ぶことをお薦めした。むしろ懇願します!ついでにロノウィスくんもついて来てもらうようにお願いする。これは意外にもあっさり承諾してくれてなんだか唖然としてしまったよ。もともとロノウィスくんに押し付ける気満々だったらしいね。ドトイルって侮れない………報告に時間がかかってただけじゃないんだ………
「とりあえず明日だね。魔術師の手配はレーバレンス魔術師様にお願いするとして、謎はやっぱり『お母さん』と『人殺し』。本人が言うのもあれだけど、僕は人を殺したことはないよ」
「お前の過去などどうでもいい。ただ、今まであってきた魔法師が『人殺し』と判断された。アトラナは目を見てそう答えたのなら心眼を持っている事になる。アトラナの扱いを変えなくてはならないだろう」
「まあ見て見抜く力があれば重宝したいよね。ただそれは『お母さん』の力だったら今度はその『お母さん』が不安要素。まったくわからない。魔法具でなにかアトラナを操っていたりしてるのかな?貴族だからまあ手に入るかな。裏道を使ってるかもしれないし」
「両手を天に広げたらそのまま倒れた、だったか?そう言う素振りをしないと『お母さん』とやらに交信できないのか、単なるアトラナの奇行ゆえの行動―――考えがまとまらん」
「あの、『お母さん』と子爵夫人は別人だと思いますよ?」
「なぜ?だって『お母さん』て一人だけじゃない?」
「生みの親と育ての親で母は二人できますけど………そうではなくて、アトラナは子爵夫人を『お母さん』とお呼びしません。『ママ』と呼んでいました。幼い頃より呼んでいたのなら呼び名は定着するのでは?」
「うーん、どうだろう。僕は『お母さん』から『母さん』にかわってるよ?ドトイルは?」
「『母様』から『母上』だ。貴族はだいたいこの二つで決まるだろう。そうなると呼び名は変わっても不思議ではない」
「ですが、アトラナは貴族の素養がないような事をヴィグマン十進魔法師様よりお聞きしています。どれくらいかは存じませんが、あのアトラナでは呼び名を変える必要がないかと」
「一度、子爵夫人と顔合わせを進呈してみようか?」
そうだな、と。ドトイルが頷いて報告書をまとめる事に。なんだかつらつらと書き始めたんだが、なぜ私まで書かなくてはならないのか。若魔法師にどこまでやらせるんだよ。しかもご丁寧に書き方まで教えてくれるという優しさ。ロノウィスくんだけど。私がだんだんと突飛的な方向へ進んでいると言う気がしてならない。騎士棟へ行っているだけで自分、変だなとか思っているのにっ。
でもドトイルまで加わって教えられたら書くしかないよねっ!なんだよ二人がかりって!どうしても書かなきゃなんないの!?しかも時間があるからもう一枚の紙には私が疑問に思っていることを書けって………疑問に思った事は報告書に書き込んでほとんど言うことないよ!ないから認定式で聞いた協会に出向いていたのか。なんだか体温が他の人より暖かいとかもうよくわからない、何を言っているんだこいつ、みたいな事を書いておいた。抱きつく時は首でなぜか右側を陣取るとか………私は何を書いているのだろうか。そう言えば羽ペンだね………インクつけて書くけど―――折りそう。
それとついでに触れていて思った事。魔力の流れがまちまちである。正常かな?と思いきや乱れたり。でも正常のようなよくわからない流れ。それをなんとなーくだから書くか悩んでたけど………もうドトイルとロノウィスくんの視線に堪えられないので書いておく。なんなのこの二人!ここぞと言う時に息を合わせて『まだないのか?』みたいな視線を送らないでほしい。そんな色々と出てくるわけないでしょ!
その後はドトイルが真っ先に「報告に行ってくる」と書類をもってどこかへ。その入れ替わりにンゼットォラ様が入ってきてなぜか『石化魔法』を披露された。上級魔法で~とかなんとか。どうするのか見せられました。地下に逆戻りである。
披露させられた『石化魔法』は………なんと言うか、普通に地味だった。バラバラのした石を片付けなかったんだなーとか今更ながらに思ったんだけど、それを再利用して足下に転がっていた石がンゼットォラ様にくっつく。文字は丁寧に書く人だったらしく、魔力を集めた指先の動きはお母様と同じでゆっくりだった。魔素を集める詠唱も間延びしたゆっくりとした声。そしてなぜかチラチラとこちらを見る。十進魔法師の定義を教えてほしい。
またよくわからないポーズをとって石を全体的にくっつけて固まりましたよ、この人。因みに呼吸は鼻でするそうです。ロノウィスくんが教えてくれました。でもね、そんな情報はもはやいらないのです。体はやや横向き。また髪を後ろに流して前を向くように腰を捻るのか。あなたは何か?グラビアでも目指してる?魔力が通っているからキラキラしててなんとも言えないんだけど。しかも目が動くことを今さら知って流し目で見られた私の気持ちを汲んでください。ンゼットォラ様が気持ち悪いです。一昨日来やがれませ。もう理解できぬ。
朝に見たときとかなりポーズが変わっているのだがいいのかね。早々に退出した私はロノウィスくんに聞いてみて………「ンゼットォラ様だから」と言う魔法の言葉を残して魔法院の出入り口まで送ってもらった。夕日が綺麗だね…………………………………………………………今見ている夕日が心に残るより、今日の出来事の方が心に残る虚しさにトールお兄様が早く迎えに来てくれることを切に願った。早く理解者と話したいですっ。




