少女は無邪気に笑うだけ
改訂いたしました。27.6.21
「今日の目的はアトラナに魔力測定をさせる、またはすることを予定させる。そして、情報収集。これはどんな些細な事でもいいのでクフィーちゃんがあれっと思ったらそれを出来るだけ深く、広く聞いて」
「わかりました。あの、ロノウィス魔法師様もご一緒ですよね?アトラナの事をどのようにご存知ですか?」
「言うことを聞かない、とか。言動の意味がわからない、とかかな。今日が初めて逢うんだけど………みんな早々に追い返されるらしいね。気に入られなかったら魔力暴走って聞いたよ」
「でしたら不躾で申し訳ありませんが、何があってもまず、怒らないでください。そして、笑みを絶さず少し距離を置くようにしてください。たぶんこれで第一段階は成功します。後はアトラナの言葉で左右されますので何も言えませんが………」
「無駄な争いは避けたいからね。それでいくよ、ありがとう」
ぽん、と頭を撫で―――られた。私の中ではロノウィスくんはロノウィスくんなので成長しても青少年のままである!それゆえに頭を撫でられたら複雑な気分なんだけど!?外見は幼女でも中身アラサーだからね。ああ、痛い痛い。自滅してどうするんだか。
そんな私の心中など露知らず、ロノウィスくんはアトラナがいる部屋のノブに手をかける。そう言えばここって、魔法廊の一室の地下なんだよね。さすがに部屋がありすぎてまだ私では的確にこの部屋だと見分けられないんだけど。聞くところによると一室すべてが異なると思っていいらしい。特に個人部屋で扱っているところは改造が進んでいて、どこぞの貴族で上流魔法師は4階建てを作ったんだとか。何に使うんですか、と聞けば研究だと思いたいと返ってきた。そうだよね。分かんないし、関わりたくもないし、知るわけもない。
そんな魔法廊。の、一室の地下。地下は大抵の場合、保管庫のような真四角の形になっており、主に【地】の属性持ちが空間を開けて作っているんだって。【地】の上級魔法には選んだ範囲の土を弄れるんだよね、確か。石を作るのも上級魔法。この地下を掘るにも数人の地属性魔法師が作ったと言っています。
因みにどうやって作るのかを聞いたら、一人がまず魔力操作で地盤の固さを調べる。魔素が薄ければ薄いほど固い土。魔素が高ければ高いほど柔らかいのだとか。じゃあ、農園は………と思ったけどあれは人為的に柔らかくしている土がほとんどだから魔素は薄いのだとか。つまり固い。そうだよね!でも魔素は微量ながら含んでるって。だから食事で魔力の回復ができるのだろう。さらに言えば固い、柔らかいと言っても土の全体を見ているので人間が触る分には固いそうです。表面上じゃなくて、地層の話。間違えないようにと言われました。はい、すみません。
そしてその地盤の固さを調べたら、中級魔法で空間を作りたい場所に【土】の『壁結界』で地盤を固める。足元に空洞を作りたいなら範囲指定で空間にしたい回りに『壁結界』。これは回りの土を使っているから土の固さで結界の維持が異なるんだってさ。因みに作る場所は魔素が薄いところ限定です。魔素が多いと魔術師の共鳴に釣り合わないから途中で崩壊とかしちゃうらしい。ここも注意だって!
次に、もう一人がまた中級魔法で穴をごっそり開ける『穴隙』で空洞にさせ、そしてまたもう一人が魔法でさらに上級魔法の『石結界』を張って空間の固定をするんだとか。『石結界』で完璧な空間を固定するのが肝です。まあ、固い土より石の方が支えはばっちりだよね。あとは内装を綺麗に部屋にして出来上がり。
そんなに人数が必要なのか、一応そんな事を聞いてみたら一人部屋分にはある程度の魔法師なら問題ないけど、部屋の大きさが大きいほど魔力が使われるんだって。最後なんか上級魔法なので持っていかれる量も一部屋作るには一人だと苦しいんだとか。あと、最後に『石結界』を張っている時に魔力が尽きて地下で倒れたら助けが来ないかも知れないから複数でやる事が決まっているんだって。後は疲れるから数人で別けている、って言うのも大きな理由らしい。へー。
説明が終わったところでじゃあ、行くよ。と少しだけ気合いを入れて進むロノウィスくん。一度、私に少し下がるように言うその後ろ姿っ………なんだろう。ロノウィスくんも格好よく見える不思議。守られている感がちょっと嬉しい。でもね………
アトラナのタックルに負けちゃ駄目だよ。まさかこれを見越して下がるように言ったのかな?私も巻き添えにならなくてよかった。そして、私を見つけると同時に私にもタックルを仕掛けるアトラナ。私が受け止められるはずがない。結局は尻餅をつくことになる。ぐすんっ。
「アトラナ………痛いです………(腰とお尻が特にっ!)」
「だって、昨日はクフィーちゃん帰っちゃったでしょ?また来てくれるのか、すっごく心配だったんだもん!!」
そうか。私は首が絞まるのではないか心配だよ。
「心配でも、飛び込んできたら危ないでしょう?あちらの方も痛いと言っていますよ?」
まあ、一応ね。ロノウィスくんが空気になってもらったら一っ番困るの私なので。とりあえずアピールしてみた。反応は、と言うと驚いていますね。ロノウィスくんにいたってはちょっと砕けた感じで痛いよー、と泣きそうな笑顔である。笑顔をちゃんと守ろうとしてるらしいけど………痛いのと笑顔を作るその顔はどうなんだろう。器用すぎる顔芸に私も驚きだよっ。
でもそのおかげでアトラナから見てロノウィスくんは敵に見えなかったらしい。やっぱり私の首に腕を巻きながら、むしろ力をきゅっとこめながら謝っていた。これは珍しいんじゃないかな?ロノウィスくんも驚いてへらりと笑って許しているよ。うん。可愛い!!その笑顔こそがあの頃の無邪気な笑顔だよ!!
ロノウィスくんはちょっとコツを掴んだのか、私とアトラナに手を差しのべて立ち上がらせてくれる。その時に首に巻き付いているアトラナをやんわりと、外すように行ったらこれまた素直に従っちゃうって言うね!………………………………………………わたし、いらないじゃん。
ま、まあいいさ!ここまで来て帰るのもあれだし?みんなでいれば怖くないんだよ!!中に入りましょう、と言えば元気よく返事が返ってくるのだからそのまま中に入ってしまえ!!手を引っ張られているのだから問題ない!!
昨日と一緒で窓際のベンチに座ってお茶―――は、ない。そりゃあそうか。でもそうしたら生活面がどうなっているのか気になるわけで………さっそく聞いてみてですね………勝算はまったくない。とりあえず話をしなければならないのだと、もっぱら脳内はそれを確立させています。今思うと地下なのになんで外の景色が見えるんだろう?話が区切れたらそれとなく聞いてみよう。
ただ………何気なく辺りを見なければよかったと、後悔しています。あの角にある像の存在を忘れていたのに!!見たら思い出しちゃったじゃんか!!しかもなんか膝立ちだったと思ったのに片膝立ちになっているっ!?あれって動かせたり出来るの………?あいからわずどことなくキラキラしているよっ。だ、駄目だ。あれは気になって不審になるっ。そして私の質問はスルーだった!………気長に行こう。
「今日は、なんのお話ししよっか?クフィーちゃん」
「っ!?え、あの………昨日は何を話していたかしら?」
「僕ら魔力について聞きたいなー」
「おにーさんは、おじさんたちの仲間なの?」
「え?うん?」
げっ!?握ってた手が痛い痛いっ!そう言えばアトラナって力があるよね!あいたたたたたたっ。
「違いますよ、アトラナ。こちらの方はロノウィス魔法師様で、今までの人と仲間ではありませんよ」
「でも、魔法師なんでしょう?仲間じゃないの?」
「魔法師にもいっぱいいるんですよ。ロノウィス魔法師様はアトラナと仲良くなりたいお兄さんです。おじさんではありません」
「そうなの?」
「え………ああ、うん。そーだよー」
ロノウィスくんの笑顔が急に固くなった瞬間である。その前途多難な素振り、ぜひともやめてほしいっ。横にいるアトラナの顔をうかがえば、すっごい疑いの目でロノウィスくんを睨んでいて私にまたぎゅっと抱きつく。でも、なぜか位置を変えられた。私が奥にいたのだけど「違う」と言って反対の隣に移動。わけがわからず見ていたらまたぎゅーと。抱きつかれる。君は抱っこちゃんか。
それにしてもロノウィスくん駄目だから!歯切れが悪いと疑うのなんて当たり前!初っぱなから目的の話題をふるってどうなの!?そして何より相づちが嘘臭い。あれは私でもわかる。うっかり気の抜けたような「そーだよー」とか嘘っぽさ全開だよ。てかアトラナってこんなに暖かかったっけ?暑いんじゃなくて、暖かい。体温が高めなのかな?
しかし、このままでは拉致があかない事は明白なので、私が話題をふってみることに。お題はそうだね。………もういっそおじさんたちの事を聞いてみよう。自分の話ならすらすら言えるよね。首に巻き付く腕を軽くタップしながら聞いてみて………あ、やっぱり。自分の話は喋りたいらしい。あのね、から始まっていろいろなおじさんが出てきた。
基本はロノウィスくん見たいな長いローブを着た『魔法師』で、ロノウィスくんでざっと30人は会いに来たらしい。中にはヴィグマンお爺ちゃんと同じ十進魔法師が数人ここに着たんだとか。全員かはちょっと判断できる言葉の材料が少ないんだけど、ほとんどがアトラナの態度に怒ってくるらしい。その中でも優しい人はいたらしいが、次の日に単体でその人が来たらため息ばかり吐いて言い聞かせるように態度を豹変させる人ばかりなんだとか。そのたびにアトラナは魔力暴走をしてしまうらしい。
それを聞いたロノウィスくんは知らなかったんだよね。気に入られなかったら癇癪を起こして魔力暴走だもんね、聞かされたのは。個人的にこれは魔法師が悪いような気もするけど………いちいち癇癪を起こすアトラナもアトラナだね。言って聞いてくれるかな………やるしかないんだけど―――今日の目標まで頑張ろう。とりあえず、ロノウィスくんだけでも認識を他の人と変えてもらわなきゃね。あれ?そう言えばドトイルも一緒だったよね?途中から乱入してくるのはちょっと止めていただきたいんだけどな………絶対に追い出されると思うし。
「アトラナ、ロノウィス魔法師様は怖いですか?嫌いですか?」
「………わかんない」
「では、ロノウィス魔法師様はおじさんと同じですか?どこか似ていますか?」
「クフィーちゃん、それは僕の外見が問われてるよね?頷かれたら立ち直れないんだけど?」
え、でもロノウィスくんて若いよね?たぶん………おじさんって言われてショックを受けるくらいなら若いよね?でもさ、アトラナの基準をここでしっかり別けておけば私以外でここに来れる人が増えるよ?来てくれるかは別として。このままだと進みそうにないからロノウィスくんは黙っててくださいな。目標まで到達しないような気がしてくるんで。
人指し指をピンと口許の前に立ててやった。こいつなんだ、と思われてもしかたがない。でも言葉にしちゃうとアトラナがどこで反応するか分からないんだよね。だからアトラナには内緒で教えて、と伝えたら昨日の内緒話が浮かんだのか、喜んで私の耳にこしょこしょっと話してくれた。
「おじさんたちとは違うけど、目が似ているの。人殺しの目」
………………すごいの、聞いちゃったな。人殺しの目って見てわかるもの?私には分からないので、その言葉だけでも疑って驚くしかない。果たしてこれはアトラナの勘違いと言う妄想とかの類いか。本当になにかを感じ取って囁いた言葉なのか―――駄目、考えるよりもう少し詳しくっ!
「本当に?だって、優しい人ですよ?」
「ううん。あの人も人殺し。だって、教えてくれるもん」
「教えてくれるの?誰にですか?」
「私の、お母さん」
ん?ちょっと考え込んだのがいけなかった。疑問に思考停止をしていたらぱっ!と離れていったアトラナ。まるで悪戯っ子のようにちょっぴりにんまりと笑って私の表情をうかがっている。
私は謎が深まっただけで不完全燃焼。でもこのままだといけないので友達をプッシュで笑って誤魔化した。脳内では議会が繰り広げられているけどね。人殺しって怖いじゃん。7歳児がなんて物騒なもんぶら下げてくるかねっ。しかもアトラナと会った人がだいたいそれって魔法棟がおっそろしい!場所になるので遠慮したい。なんとか粘ってヴィグマンお爺ちゃんもそうなのか、と聞くと長いキャッチボールの末に「うん」て返ってきた。思うに、人選ミスである。人生経験が豊富であろう人を選んでどうするの、私。でも他の魔法師ってあんまり知らない………
「アトラナ、ずるいです」
「えへへ。でもクフィーちゃんもずるいよ。魔力が高いの、黙っていたでしょう?」
「アトラナが先に教えてくれると思っていたのです。そうでした!今度、魔力測定をするのですが一緒にやりませんか?」
「えー。でも、おじさんたちも一緒でしょ?やだ」
「おじさんたちは………私の友達なんですよ?私のお友達ではいけませんか?」
ごめん。苦しい。私が苦しいっ。脳裏に『この期を逃がすな!』と『アトラナの魔力測定』と『魔力測定一台、金貨数十枚~百枚』がよぎり『壊してはいけない』が勝って魔法具を管理しているレーバレンス様が脳内を占めた。そして甦るレーバレンス様、お怒りの機械無双。私の魔力をゴリゴリと怒りで表情をなくして使い続ける無慈悲。あんな事、二度もあってはいけない!!壊したら駄目だ!管理人は必要!
と。私は今一番すさまじく苦しんで知らないおじさんたちを友達にした。我ながら言ってて頭が痛い。それはもう殴られただけじゃすまない。トンの重りが私にのし掛かる。しかし、私にも救いの日射しが差し掛かった!ありがとうっ!!
「じゃあ、いいよ。クフィーちゃんの友達だもんね!」
「では明日、測定しましょうね!」
よしっ!よおっし!!もうみんな友達にしてしまえ!そうして仲良く色々と聞き出してしまええええ!!
「じゃあ、じゃあ!お母さんに教えなきゃ!」
「え?」
「………ん?」
バンザーイ。て………………………アトラナがしたら倒れました。そりゃあもう、立ち上がってそのまま後ろに。まるで棒の用に倒れていった。バタン、て。突然の事で処理しきれなくて、ロノウィスくんと共に動けない。えーと。なにが起こった?
「これは―――初めて見るじゃねぇか。グレストフの娘ってすげーな」
その声も処理しきれない。とりあえず、ロノウィスくんの声ではなかった。お酒で喉をやったのか、ちょっとガラっとした低い声。どこから聞こえてきたのか―――まったく機能しない体と頭で探れば、あの像になぜか眼が止まる。
そしてその像が動き出して―――パラパラと何かが落ちたと同時に人間が、出てきた、よ―――?土を払うよに手を払っているけど私はそれどころではない。ようやく何かを思い出したかのように起動した私はただ一つ。理解ができなくて発狂―――いや、絶叫した。




