プチ家族旅行11
改訂いたしました。27.6.14
「勝手に一人になったら駄目じゃないか!!しかも変なもの持って!ぽいしなさい!ぽいっ!!」
「貴方、お待ちになって。クフィーは私たちのために原因を遠ざたのです」
「わたくしも謝りますわ。見える範囲なら大丈夫だと思ってましたの」
「不甲斐なく、申し訳ありません」
「勝手な事をして、申し訳ありません………」
「ぐぅっ………無事でよかった!!」
この腕はどうやって4人も抱き締めているのだろう。まあ、サンドされてる私とリディお姉様は両脇から強制圧縮なんだろうけどね。まぐとりが『うぐぇっ』て変な声を出しているけど聞こえないよ。ただ、端でトールお兄様の顔がまだ気持ち悪さから抜けないのか、お父様の抱擁にしかめているのか分からないけどね。
なんとか剣で突き刺そうとしていたウェルターさんと、剣で叩き割ろうとしていたトールお兄様と、いっそ魔法をぶっ放そうとしているお父様を必死に説得して中に入った私とまぐとり。
入った瞬間に抱き締められて感動の対面!と思いきや怒られました。やっぱり怒られたじゃんっ!
どうして外に出ちゃったとか、謎の飛行物体が襲ってきたらどうするんだとか変なことはされていないのか?とか色々。思い付いたものを次から次へとけしかけて最終的にはお父様とウェルターさんの仁王立ちの前で体を縮こませておりました。ウェルターさん、剣はなぜ抜き身のままなんですかねっ!?
暴走するお父様の怒りが収まる頃には夜の3の鐘はとっくに過ぎている。あと3時間もすれば夕方だと言うのに私はまだ解放されないっ。そんなに危険だったのかな?私はまだわかりそうにありませんっ。てか、そろそろ苦しい!私の体は小さいのだよ!窒息するわ!
『ぼくのほうがつぶれちゃうよっ!』
「………なんだい、今の」
「あ、これです」
原因はすべてこれでございます。はい、とお父様の目の前に差し出したのは毛玉です。まぐとりです。外見はほぼ私から見ても白っぽい毛をゆらゆらさせた毛玉である。私が両手で握っているのだが、その両手ともすっぽりこの毛玉に覆われています。どんだけ毛深いのかな、これ。
それを見たお父様はなんとも言えない表情です。もう、なにこれ状態。ただいま、まぐとりの魔力となるものはすべて抑えているそうなので、本当の毛玉です。生命を感じさせません。ただの綿毛だね。そりゃあ首を捻りたくなる。
しかし、お母様は『まとり』として知っているので慌てて私にこの毛玉を離せと言う。『まとり』ってそんなに有名なの?てかお父様が知らない方がおかしいよね?お母様はなんだか必死にお父様を説得中。あ、なんだ。この毛玉が『まとり』って予想をつけているだけか。
『ぼく!そのなまえきらい!やめて!』
「………わたくし、変な声が聞こえるようになりましたわ」
「奇遇だな。私も聞こえる。クフィーが言っていた少年のような声だな」
「………これか?」
「これです」
ウェルターさんが指差すのは私の手元。さっきからそう言っているじゃないですか、とちょっと怒ってみたら微妙な顔をされてしまった………いや、なんで?すべての原因はこいつなんだよ?と言えばなんですかね。手元から『ごめんねー』と軽い調子で謝ってくる。なんだかしまらない空気だけど………いっそばばん!と説明した方が早いな、て事で矢継ぎ早にノンストップで説明した。隙が出来たら泣いてやるっ。
とりあえずこいつの種族?は魔獣(きっとこの漢字に違いない)で『まぐとり』であってどんな存在か。なにしに来たのか。ついでに『まとり』は人間の偏見で出来上がっちゃったものだよ、と教えてあげる。信じる信じないは別で『まぐとり』と一緒に害はないことを伝えた。あと話せるのはこいつが私の魔力を食べたからちょっとだけ“ 魔 ”を通して意思疏通してるらしい。
おかげで信じられないものでも見るような顔で私―――いや、まぐとりを見ている。みんなの顔がほとんど同じで笑ってしまったのは内緒だ。いや、笑っちゃったけど………みんなはそれどころではないらしい。
「………知らなかったわ。『まぐとり』なんてもう絶滅してるものだと聞いていましたもの。今では『まとり』で知れ渡って危険と聞いていましたし………………………でも、鳥なの?」
「本体は鳥の形ですよ。長い毛で覆われているみたいです。ぶよぶよしてます………触りますか?」
「―――やめておきましょう」
「無害ならいい。無害なら。俺はもうお前らに振り回されたくない」
「父上と関わっている時点で無理なんじゃないですか、ウェルターさん。クフィーも並みならぬ問題を拾ったり引き寄せたりしていますので、城にこの二人かいる限りウェルターさんの平和は訪れない気がします」
「トフトグル………お前、言うようになったな!だからって悟りを開くなっ」
「何を言っているんですか………私にも平和がないのです。クフィーが騎士棟に顔を出してからユリユア様が加わって訓練してくださるのですが―――無と風と土の日以外、朝から夕方までみっちり訓練が実施される事が決まりました。そしてなぜかウォガー教官に火がついて訓練が激化したんです。ユリユア様とはこれからなんですよ。自分が生き延びられるか、心配です」
「………………立派な被害者だな」
え、待ってそれじゃあ私は加害者!?違うよね!?トールお兄様ったらなんでそんな思い詰めたように語っているの!?しかも生きるか死ぬかの瀬戸際っ!?どうしてそうなっているのっ!!それは私が関係しているとも限らないよねえ!?
たっ、確かになんか、ごたごたした問題を引っ掻けて大事件に繋がっているような気がするけど私のせいでは………ないと言い切れなくなってきたっ。私か。私が関わっていたらそうなっちゃったのかっ!
なんだかウェルターさんとトールお兄様が影を背負い始めてしまった。そんな、ため息なんかつかないで下さいよ。すべてが私のせいではなくてですね、私がそこにちょうどいただけであってユリユア様の訓練は私に関係ないと思うのですがっ!誰も聞いてくれない悲しさで毛玉を握っちゃいそうっ。なんだかごめんなさい!
―――それで、なぜお父様とリディお姉様は黙ったまま考え込んでいるんですかね?あ、リディお姉様。さすがにこれを飼って純魔石を産み出させて懐をうはうはとか言わないでね?無理だから。これはきっと災いしか呼ばないと私は思うんだ!
と、言うことでリディお姉様にどうしたから聞いてみた。声をかければじっとこちらを見てきます。ごめん。私にはセナみたいに目だけで会話はできないよ?そんなスキルを持ち合わせていませんので。だが目を反らせないのもまた事実です。リディお姉様はお母様に似て美人である。お母様のキリッとしたバージョンがまた格好いいです!
でも………ぐっ、と拳を握ったかと思うと気合いを入れて抱きつかれました。どうした!?とりあえずまぐとりが潰れそうな声をあげているが私だって動けないんだよっ。大人しくしてて!でも痛いかなっ―――
「無事で、よかったですわ」
え?あ………
もしかしてリディお姉様は心配してくれていたのかな?まぐとりの騒ぐ声のせいであんまり聞こえないしすぐに離れてしまったけど。お父様が声をかけてきたから聞けなかった。お父様、空気を読んで!ここは姉妹の関係がぐっ!と上がるチャンスなんだからねっ。
「え、クフィーはなぜ私を睨んでいるのだい?え?」
「いいえ。―――なんですか?」
「お父様に隠し事はなしだよ!って!?」
「話、進めろ」
「なんか、ウェルターは怒りっぽくなってないかい?まあいいけど。ええとね、クフィー。とりあえずそのまぐとりに害がないことは分かったから、捨てなさい。ぽいってそこらにでも。間違えてヒッジメィが食べるかもしれないが」
『すてられるしたべられるの!?やだ!』
「そんなもの飼えないよ」
「飼う気なんてありませんよ?犯人を捕まえただけです」
『もう、ぜつぼうてきだよ!!ぼくのいしなんてないんだねっ』
「あのね、さっきもクレラリアが言っていたように『まぐとり』なんてもう絶滅してると思われているんだ。それなのに実は~、なんて広まったら確実に『まぐとり』は捕獲対象になるし、おまけに今は『まとり』とまた別の存在で広まっている。誤解しているのは私たちだが、それを正すのも正しいものを広めるにも時間や個人の意志がまばらすぎて、根付いていたものを覆すのは難しい。余計な混乱を生むだけだ。それにアーガスト家と言う貴族が見つけたとなればこれも余計な火種が飛ぶ。『純魔石』を産み出せるとか知られれば暗殺まででるだろうし、魔力が高いクフィーなんか呼び寄せる道具としてまぐとりの餌にしかならない。だからさっさと『まぐとり』はなかった事にしてこの事は他言無用、私たちの中で箝口令を引いて秘匿に、速やかに終わらせるんだ」
「捨てます」
『けつだんはやいね!でもまってまって!』
いや、もう手は離したからあとはまぐとりの君が遠ざかればすむ話だよ。ふよふよと私の回りを飛ばないで。なんだったらお母様に頼んで風で仰いで貰おうか?そうすれば早くどっか飛んでっちゃうんじゃないかな。
と、言うのがまぐとりに伝わったらしい。ふよふよしながら僕の“ 魔 ”に敵うわけないじゃん!と誇らしげに言い返された。まあ、私がやるわけではないので別にいいや。それでお父様、これどうしようか?もう私はお母様とトールお兄様の無事を見たし、もうこんな事が起こらないと思うし、動物と戯れたいのですがっ。
まだ見ていない他の動物に逢いたい!と懇願すれば明日だね~と笑ってポメアにお茶を頼んだ。いやー、今日も大変だったね。そう言えば初めてお母様とトールお兄様が魔力酔いするって知ったんだけど、あれって魔力が干渉してすごく乱れるから酔うんだよね?酔う人の特徴とかはあるの?
「ん?あー、そうだね。無意識に魔力を放出してる人、かな」
「無意識に放出ですか?」
「これと言って特徴はないけど、体に魔力を溜め込むのが苦手な人がね、無意識に本人が魔力を放出して体内の循環を保とうとしてるんだよ。ほんっっっの僅かだけを。それが勝手に癖がついてしまって、いつの間にか体内の魔力を減らしては減らした分を吸収しようとするんだ。だから本人は気づかずに、吸収している最中に強い魔力を取り込んでしまって耐えられず酔うんだ」
「なるほど。でも魔力操作や魔法具で解決しないのですか?」
「ほんっっっの僅かな魔力を操作する必要はないだろう?戻ってくるんだし。それに本人は無意識で気づかない。だから魔力で酔うなんて体験しないと分からないんだよ」
『ぼくのはわざとじゃないよ!』
「まだいたのか?」
『ほんとうにひどいね!』
酷いっていっても………狙われる的な事はしたくないし、そもそも君が人前に出ないように言われているのに私の魔力に勝手に惹かれて事件になっちゃったんだし。もうご飯もすんだから帰ればいいんじゃない?別にこっちは捕まえたいとか純魔石かほしいとか言ってるんじゃないんだし………
なんてものを思っていたらさっきと態度が違う!とか僕の扱いが雑すぎる!とか。そんな事を言われてもねー。興味は反れちゃったし、これと言って無害で私の物でもない奴を引き留めるのもおかしいし、もう毛玉は堪能しました!これが本音だよ!
『じゃあ!ぼくになまえをちょーだい!そうしたらいつでもあいにきてあげる!!』
そう言うのって契約になっちゃうパターンだから却下で。必要としていません。
『じゃあぼくがそばにいてあげる!ぼくのけなみをたんのうすればいいよ』
「お父様、まぐとりが寝返りました」
「換気をしよう。さっき暴れたから少し埃っぽいな。ウェルター、開けてもいいかい?」
「俺が開けてやろう。そうだ。風で空気の入れ換えもいいんじゃないか?」
「それはいいね。クレラリア、頼めるかい?」
「もう落ち着いているから大丈夫よ。あら、でも調節が難しいから吹き飛ばされないようにお願いするわ」
『きょうせいたいじょうってひどいとおもう!!』
いやー、大人たちが張り切るとすごいなー………ウェルターさんがテラスの扉を全開にしたら備え付けていた椅子とかさっさと中に入れちゃうし。お父様とトールお兄様もさっさと私とリディお姉様をお母様の後ろに隠しちゃうし。
それでお母様もとっとと魔法陣を完成させて、ウェルターさんが避難したところでちょっと強めの家が壊れない程度の強風で毛玉はタンポポの綿毛となって綺麗に飛んでいきました。白いからね、もう私の目には同化しただろう同じ白の雲と、薄いけど濃いめのグレーな青空が広がっております。まぐとりって“ 魔 ”を操るのが得意とかどうとか言ってたと思うんだけど………まあ、終わったんだからいいか。
しっかり椅子とか元に戻して窓もしっかり閉めて、何事もなかったかのようにみんなで談笑することになった。内容はこの牧場に関してとか、明日は何をしようか、とか。まぐとりの話題は一切出さずに和やかにまったりとポメアが淹れたお茶を飲んで、お夕飯もいっぱい食べて今日はさっさと寝ましたとさ。ちゃんちゃん。平和だねー。ただ
「今日の夕方近くにすっごい強風が吹いたでしょ?おかげで帽子が飛ばされて無くしちゃったの。これから日差しも強くなるし―――ねえウェルター、明日は少し買い物に出掛けてもいいかしら?」
お夕飯の時に、カリャルさんがそんな事を口にした時、お母様と私は即座に謝ったさ!まさかのカリャルさんが地味に被害を受けていたのを知らなかったよ!ごめんなさい!
でもカリャルさんから見ていきなり謝りだした友人とその娘にあたふたして混乱していた。その姿がまたウェルターさんのツボに入ったらしくニヤけていたら、すかさずお父様が突っついてこの話題はそれていったんだけどね………まあ、説明も大変になるから別にいいんだけどさ。子どもは寝る時間だよ!って言われたからあとは大人に任せるよ。おやすみ!明日は動物と戯れるぞー!おー!!




