プチ家族旅行9
改訂いたしました。27.6.13
お母様は―――とてもざっくりに説明してくれた。お母様がお父様に嫁いじゃったからお爺ちゃんが拗ねて連絡がくれない。もう一人のお爺ちゃんも遠慮しちゃって連絡が途絶えちゃった、てさ。ちょっと湿った雰囲気を返してほしい!
と言っても、元々がそんなに暗い話しでもなんでもないのよ、とお母様が。いや、ざっくりしすぎなんだけど。なにか違う。なにかが違うよ!さらに食いついてみたらようやく詳しく教えてくれることにっ。始めからそうして!微笑まなくてもいいからっ!
―――まず、お母様。お母様はとある公爵令嬢。家名はそんな大層なところでもないので覚えなくてもいいそうです。なにやら刺が含んでるようにしか聞こえないけど、ここはあえてスルーで。お母様が笑顔だからスルーでいこう。覚えません。聞きません。
それで、もちろん公爵令嬢としての教えを小さい頃から叩き込まれてまあ、わりとゆっくり過ごしていたそうな。ただ、ちょっと厄介な事が絡んでいたらしくそこから色々と崩壊したんだそうです。
なんとなんと、お母様の家は息子1人に娘が八人の末っ子らしく………上と下でだいたい1年違いなんだとか。か、数えやすいね。私で言うとお婆ちゃんはずいぶんと盛んげっふんげっふん!!その辺を聞いただけでなんだかお腹いっぱいな不思議。でもまだあるようで、そこでちょーど王子様の年とお母様の年がよかったんだそうです。
つまり、お母様は王子様のお妃候補。その頃と言うとグラムディア様しかいない………えぇええ!?以外なところに接点がっ。危ない!!下手したら王族に生まれるところだった!危ないよっ!!
まあ、現実はアーガスト家の伯爵ですが。よかった………それで、婚約の候補まで上がったけど王族に年の差なんてあんまり離れてなければいいじゃないか、と言うわけで上の三女あたりから末のお母様までお妃候補で王族に取り入っていたんだとか。その頃のその公爵は陛下にすごい貢献していたそうですよ。
お母様はもちろん後宮入りするために教育を受けたけど、陛下より年下だし興味はなかったらしい。普段通りに変化も何もなかったから特に気にすることもなく、たまに小言を聞くくらいで普段通りに暮らしいていたそうな。八女まで行くと扱いなんてそんなものよ?とお母様がね………私はどんな顔をしていたのかな?
お な か す い た ー !!―――…
ええい、だまらっしゃい。いま大事な話なので割り込みなしでお願いします。
ぶ ー !!―――…
それで、成人式の次の日には正式に後宮に入れられちゃうから、悩んだ末に後宮入りは断ったんだそうです。その時に一悶着があったけどユリユア様が助けてくれて家に残れたんだとか。ねえ、お母様。ユリユア様とはいくつ離れてるんですか?もしくは、ユリユア様は何番目の娘ですかー?
「駄目よクフィー。いくらなんでもそれは怒られてしまうわ」
軽く払われて話は戻されます。すみませんでした………
ユリユア様に助けてもらったけど、そこに待ち受けていたのが今度はお見合いの日々でまた大変だったみたい。そこでたまたま、アーガスト家の魔力が高いお父様が主賓の完全な見栄のお披露目パーティーがあり、面白そうだからと友人の伝を使ってお忍びで遊びにいったらお父様に出会ったって。眼と眼がぶつかった瞬間―――恋が始まったそうです。
その時の出会いが忘れられなかったお母様はこっそりお父様の事を調べまくったんだそうな。公爵令嬢のやることは凄いデスネ………それである夜会で運命を手繰り寄せてそこから固く結んだそうです。はい。さすがの私もリディお姉様が止めなかったらお母様のハート乱舞を全身で受け止めなきゃならなかったよ。ありがとうっ、リディお姉様!!
それで結婚~、と行きたいけど今度はお父様のターン。なんと、お父様の若い頃は男爵だった!?今は伯爵だよ!?とまた顔に出ていたらしい。十進魔法師にと王宮筆頭魔法師になったから伯爵の爵位を個人で賜ったんだって。お父様が何気に凄かったんだ………跡継ぎだと思っていたよ。
公爵の令嬢と男爵の次男じゃあ天と地の差がすごすぎて、当たり前に公爵様に願い下げされて苦闘したって。その苦闘は5年もしたらしく、アーガスト男爵家も荒れに荒れまくって両方の実家が凄まじかったらしい。しまいにはお母様の方は強引に結婚相手を見つけてごり押ししそうになったりお父様の方では見習い魔法師だから勉強漬けにさせられてそりゃあもう、大変だったそうな。全部を返り討ちにしたそうだけど、どうやったかは教えてくれないって。ちえ。
ぼ く の ご ー は ー ん ー !
お前、なに食べるの?そして5年ほど経った時に戦争が起きて、見習いまでを残して魔法師は全員が連れ去られて赴いたそうです。その時、お母様になっかなか逢えなかったお父様が荒れに荒れまくって敵軍をなぎ払って陛下の盾なって国のために尽くせばあれよあれよと魔法師の階級かっ飛ばして十進魔法師。勲章が送られ伯爵に。そして褒美を聞かれてお母様を欲したそうな。陛下を前にその願いを言えたのが凄い。そしてそれを叶えちゃったらしい陛下がまた怖い。
公爵は憤慨したそうですよ。でもお母様はあっさりとお父様の方へ行っちゃったので二人は結ばれちゃうし陛下からお褒めの言葉をもらうし、男爵から伯爵で貴族の底辺から成り上がったお父様が気に入らなくて、娘も陛下に言われてそっちに行っちゃえばカンカンな公爵は表向きは嫁送り(と言うなの勘当)で絶縁としたんだって。うん。さっきのざっくりの拗ねちゃったは絶対に違うよ。
じゃあ、お父様のお父様は?と聞いてみると、次男の息子が自分より爵位が高いために付き合いにくくなったそうです。リディお姉様とまでは何かと気にかけて付き合いはあったんだけど、お母様がトールお兄様とリディお姉様を恙無く生んだのが気に入らなくて、どうやら親同士で、とくに公爵側がいちゃもん付けて突っつきまくってたんだって。それから遠回しに男爵からお母様に攻撃。その頃はお父様も王宮でお仕事三昧だったためにお母様の全てを防げなかった。ついでにブタさんの嫌がらせも精神的ストレスで体調が崩れまくり。気丈に振る舞うにも長続きはせず、それが続いて7年の間が空いて私が生まれたらしい。
それでも家族に愛を注ぎまくってたんだね。もしかしたら二人とも、家族で不安を取っていたのかな?
ど う し た ら あ え る ?―――…
今回は空気を読んだんだね。そして私は空気を読んでいなかった。やばい。伝えるの忘れてた………聞き終わった、ようやく和やかなムードになってこれを言うの?しかも、実は2回ほど話の途中で声かけられてたんですよ、て?怒られる未来しか見えない………
ここは黙っていればいいかと勝手に締めくくってなかった事にしようとしたんだけどね。どうしてだろうか。扉に張り付いていたはずのトールお兄様がじっと私をみている。その目は明らかに私を射ぬいていて―――思わずにへら、と笑ったら声をかけられました。
「何を隠してるんだ、クフィー」
「そうね。お話か終わったら急に何かに気づいたようだったわよ?お母様に内緒は嫌だわ」
「クフィーはもう少し表情を隠す練習でもしなくてはなりませんわ。わたくし、見ていてクフィーが心配でなりませんの」
援護射撃もばっちりのようです。いい連携で私の逃げ道をばっちりと防いで固めてきます。私の表情とはいったいどんな顔をしていたのだろうか。練習って言うけど、どんな練習するんだろうね。
結局は3人にガッチリと取り囲まれて白状したさっ。対面のお母様は笑顔だし、リディお姉様とトールお兄様のサンドで質問攻め。逃げれるわけないじゃん!そして怒られる未来は覆らなかったっ!!お母様とトールお兄様から冷たい視線。リディお姉様は分かりやすく、怒ってくれた………
そりゃあ、もしかしたら意思疏通しちゃったかも、なんて言えば怒るよね。私にそんな気がなくてもなんか相づちがそれっぽく聞こえるわけでして………ポメアに連絡係として速攻、お父様に報告行きである。そんな、怒らなくてもいいじゃないか………これぞ7歳児であり得るうっかりさんだと私は思うんだけどなー………私、何を目指してるんだっけ………
み ー つ け た ! で も こ れ じ ゃ ま ー !!―――…
「あ、見つかりました。でもなにかが邪魔だそうです」
「私の旦那様はどうしちゃったのかしっ―――…」
「母様?母様っ!?」
「え、トールお兄様!?トールお兄様もどうしました!?」
ええ!?ちょ、なんで二人して口許を押さえて屈みこんじゃうの!?お母様にはリディお姉様が。トールお兄様には私がついて声をかける、けど………顔色がわからないっ。でも、辛そうで口許を押さえるなら吐き気?なんで急に?毒?お茶はポメアだし、トールお兄様は飲んでないよ!?なんでっ。
出すに出せない状態なのか、わけがわからない私はトールお兄様の背中をゆっくり撫でて声をかける。リディお姉様もお母様に声をかけるけど―――なぜか返事はしてくれなかった。吐き気の時ってそんなに声が出せなかったっけ?でもそれって本当にぐっと込み上げるものがある時でしょ?どうなっているの!?こんな時にまた目が変な違和感もあるしっ。あっ。
どうしてか、知らないけどトールお兄様に頭を撫でられた。押さえていた口許を膝上に強く握りしめ、必死に笑顔を向ける顔で。私の頭を撫でる。私が心配してるのに、逆に心配させてしまったらしい。トールお兄様の方が辛いのにっ。
そこで私もかなり焦っていたことに気がつく。ようやく分かったのだが、頭に置かれた手から伝うトールお兄様の魔力が乱れに乱れていた。触れればなんとなくこうだろうなー、と思える相手の魔力がすごく乱れているのが分かる。
乱れは2つあって、魔力があっちにこっちに集まったり散ったりするのが魔法師の精神異状で診られる症状。魔力暴走がよくこの症状で、もう1つは体全体に広がっている魔力が嵐にあった海のように激しく揺れ、頭のとくに後頭部から首にかけで魔力が荒れた波のまま駆け回る。強い魔力に当てられて酔うこの症状は魔力酔い。トールお兄様は後者のようだ。
そうと分かれば強い魔力が干渉しているのだと分かったのだから―――と言うわけにいかない。だって原因がまったく分からないのだから。魔力酔いをしたのならその存在を止めればいいしか教本には書いていなかった。つまり元凶を突き止めて止めろと言う。原因がわからないのになんとかする方法なんて分かるはずもないよっ。
しかもなんか埃が降ってくるし!!しかもデカイ。この家の掃除はどうなってんの!ふわあと降りてきた白い埃を払い落として私はそっちも大変だろうリディお姉様にも声をかけて椅子に座ってもらう手伝いをしてもらった。なんとか手を借りながらでも、トールお兄様はゆっくりと座ってくれる。
落ち着いてもらうために水は必要か聞いてみたり、座ったままの方がいいのか横になった方がいいのか。とりあえず介護に当たってなんとか不安をかき消す。カリャルさんたちは外の動物の世話で忙しいから助けなんてお父様たちを待つしかない。魔力酔いは気持ち悪さが継続するだけだし、本当に原因を突き止めなきゃ何もならないんたけど………
い、たぁいっ!
また聞こえてくる声に私の余裕なんてない。トールお兄様とお母様は今も気持ち悪そうに下を向いている。どうしよう、とそればかりが私のなかに連呼。沈みそうな思考にお母様が必死に呟いてくる。リディお姉様がそれを聞き取った言葉は「まとり」。初めて聞く言葉だった。
そこからリディお姉様が頑張って『まとり』とは何なのかを聞き出す。物?人?家具?動物?魔物?―――行き着いた返事は魔物。それを知ってどうしろと言う。見つけて討伐しろと?どんなのか知らないのにどうしろと言う。
まったく働いてくれない私の頭は不安より苛立ちが沸き上がったらしい。ついに馬鹿な事を心の内に叫んだ。『私の声が聞こえるなら、姿を見せなよアホまとり』と。罵らなきゃ苛立ちは治まりそうになかったんだもんっ。
ひどーい!ようやくみつけたのに、たたいたのはそっちでしょっ!もーいいよ!かってにたべちゃうから!!
やけに鮮明に聞こえたな、と思った瞬間………私の視界にデカイ埃が舞ってきた。ちょっと空気ぐらい読んでよ、邪魔。
ふぇっ…………いたいよぉ………
ん?




