プチ家族旅行2
改訂いたしました。27.6.6
私の顔は相当おかしかったらしい。個人的にはきょとんとしていたつもりだったんだけどね。相手から見たら驚きすぎた驚愕な顔になっていたらしい。いや、驚いたには変わりないんだけど!!
ははは!と笑うこの人。声はやっぱりどこかで聞いたことがあるんだけど思い出せない。でも私は基本、どうでもいい人は覚えない。無関係そうな人だな、て言うのも気にしない。じゃあ、この人は私にちょっとは関係のある人で………誰ですか。
きっとお茶会とかじゃない。お茶会に男をみた覚えがないし。―――女装だったらしかたないけど。でも、ほら。リディお姉様も怪訝な顔でおじさんを見ている。トールお兄様だって………あれ?なんで気にしていない素振り?いや、訪ねられたのは私だけど。むしろ
「トフトグルも休みにされたのか。巻き添えだな」
「そうですよ。まあ、たまには、と腹をくくりました」
「そんな大した事じゃないだろうが」
いやいやいやいや。親しいとかどうなってんの!?もしかしてトールお兄様のお友だち!?いやむしろ先輩かなにか!?どうなっているんだこの関係!?たくよーとかおじさんが頭をかいて大袈裟にため息までついちゃってさ。
まてまて。ダレデスカ?ええと、トールお兄様の知り合いならまあ、問題はないはず。酷い事にはならない。えっと、おじさんは私のリボンに気づいた………魔法院に行くのに私はリボンを変えていない。そこまでお洒落するつもりはないからだ。まあ、ポメアに言われて休日は変えているんだけど。
今日はお出掛けだからと言ってポメアが違うものにしてくれた。色はやっぱり私のイメージカラーとなりつつある青(らしい)で、今回はより濃く細い紐に白いレースが大振りで両端についているもの。じゃあ考えてみよう。『リボンを変えたのか』………まず、休日のお出掛けはない。つまり魔法院での関係者で絞ってもいいよね。リボンを変えた事に気づいたのだから見ていたと言うこと。ストーカーじゃない事を切に願うよ!
見ていたのはどの程度かと考えるとしたら頻度は高いほうだよね。いちいち人の装飾なんて確認しないと思うし。私が同じものを付けているのを知っていて、今日は変えたことに気づいているのだから。誰だろう?おじさんだからすぐにわかると思ったのにわからないや。
わからないと言えば教壇に立つ魔法師ぐらいだよ。顔なんて覚えていないし。でも毎日あっているわけじゃない。日替わりでそれぞれが曜日の属性持ちの人が代わる代わるに教えてくれる。じゃあこの人は………?ローブを着ていて遠目で判断できる自信なんてない。まったくわかんないよ~!!
「おいおい嬢ちゃん。さっきから黙ってるけどまさかわからないって言わないよな?」
「リディはさすがに城にいかないから分からないかもしれないが、クフィーは知ってる人だぞ?たぶん毎日あってるはずだ」
「えっ。えーと………」
すぐに出てこないよ!ギブアップでっ!
「あ、そうか」
いえ、手を打ってもらっても分かりません。お願いだから答えを早く教えてよ。
「そう言えば一度も顔だしてねーな」
「あ。全身鎧でしたね、門兵は」
「そりゃわかるわけねーよな。悪い悪い!」
全身、鎧………だとっ!?つまりあれですか!?お父様と親しくていつも門で出迎えてくれて手を振ってくれるあのっ―――
「ウェルターさんですか!?」
「おうよ」
「ああ、お父様のご友人ですのね」
「あれは悪友という」
声だけでわかるくぁぁあああああああああああああ!!!!!!ただでさえあの鎧の色とかマントの色とかさえも分かっていないのに隠された素顔なんぞ分かりません!!子どもっぽく頬を膨らませて睨む。私の悩んだ時間を返せ!誰だろうと必死に悩んだ時間をっ!私とウパカラマとのふれあい時間を返すのだよ!!
「おーおー。怒るな怒るな。分かると思ってたんだからしかたないだろ。ほら、なんだ。せっかくの可愛らしい顔が台無しだぞ」
「クフィーもまだ子どもですわね。それだけで怒ってはいけませんわ。わたくしは顔を見るのが一度ですからしかたないのです」
いや、リディお姉様はなに一人で納得をしているの?てか私はまだ子どものはずだからそのセリフは別に痛くも痒くもない。
ぶー!とまだ怒りを抑えられない私はずっとウェルターさんを睨んで………睨んで、疲れて拗ねた。声でわかるわけないもん。顔も見たことないのにわかんないもん。トールお兄様が苦笑いしながら頭を撫でてくれたって許してやるもんかっ。ウェルターさんめっ!ウパカラマを私に触らせてくれたら許してあげるよ!
「お。ウェルター、こんなところにいたのか?お前がいないから親父さんか挙動不審で困ってたんだぞ」
「グレストフ、お前な。俺は馬の調子を見てくるから朝の9の鐘すぎたら来いって言っただろう?聞こえてなかったのか?」
「聞こえていても早く来るのが常識だろう?」
「相手の事情を汲めよ!!まだ鐘が鳴るにもほど遠いぞ!!」
そんな事より私にウパカラマをっ!!あのゆらゆら揺れるしっぽを!!
お父様となんだかお怒りモードのスイッチが入ったウェルターさんに私は思うのです。子どもをほっぽって話すならなにかさせてくれ。子どもに自由を!!
と、言うわけでお母様がさりげなく私たちを引き連れてちょっとした休憩所?に向かった。ここはどういうところ?と聞けば、普通の待合室だった。さすが貴族街に建っているだけあって中も広くてちょっと豪華。飾りはそんなに目立つものはないけど、椅子やテーブルはインテリアとしてかなり高い存在を出している。布製はやっぱり高そうだけど………白黒ゆえの視界なので高価かは………リディお姉様を見れば一目瞭然。
あら、と一言。声を出したと思えばスタスタと私たちを置いて椅子に近づく。回りを確認したり肌触りを確認したり。今度は座ってみて考え込んでは手を打ってお母様と何やら相談をしだした。欲しいらしい。そこでお母様はこの椅子の利点を聞いて笑顔で返り討ち。物をねだる時はその物の価値をお母様に熱弁しなければならないので、リディお姉様はかなり必死だね。私は変な椅子じゃなければなんでもいいかな。
トールお兄様も座ってみてリディお姉様が言った利点を吟味する。どうやら座席が他のよりちょっとゆったりしているそうです。私は小さいのでどれも大きいから分かりません。で、トールお兄様、どんな感じ?
「普通」
まあ、椅子なんて綿の強度とあと使ってある布の素材で決まるよね。あと形?私にはわからないが、リディお姉様いわく、それなりに高いらしい。馬屋がすごすぎる件について誰か説明、求む。
「あ、あの、どどどどうぞ」
「ありがとうございます」
「ありがとう」
とりあえず座ってお父様が帰ってくるのを待つ間に気が利くさっきのおろおろしていた青年が水をくれた。手がガクガクと震えていて大変な事になっているが、ガラスコップ(ガラスはなぜあるんだろう?文化はどうなっているっ)から水が零れていない不思議。表面張力ってどんな時に見れるんだっけ。これじゃない事はたしかなんだけどなあ。あ、そうだ。
「あの、少しいいですか?」
「えっ、あ、なんでしょう!?」
「私は馬屋が初めてなのですが、ここはどのような建物なのでしょう?」
「こ、ここここここは、あの、馬を扱っていまして!」
この青年がヤバイ。なんだか顔がさっきより白っぽく見えるのは気のせいかな………こんな時は困った時のトールお兄様!なんだか分からないけど助けて!!
「馬を預かって世話をしたり貸し出したり、売買を行ったり、奥では馬車便で荷物や人を送ったりするところだよ。君はどうやら貴族に慣れていないようだな」
「あのっ!僕、見習いの平民でっ、ゆ、ゆゆ郵便担当、だったんです。それで、今日はべ、別の仕事を覚えるのためにっ、表に!」
「落ち着いた方がいいですよ?」
見ていてこっちが悪いし、心臓を押さえてまで頑張って話そうとする姿勢がなんだか申し訳ない。どうやら彼は裏方でせっせと働いていた見習いだったらしくて、今日にかぎって貴族と初対面してしまったんじゃないかな。アーガスト家が早く来すぎただけなんだけど………よかったね、他の貴族が悪いわけじゃないけど………中にはふんぞり返る人もいるからさ。
このまま引き止めていたら青年の心臓が持たない気がしたので会話はここで終了。すごく必死な顔で逃げていくものだから本当に慣れてないことは一目瞭然。彼は果たしてこれからやっていけるのだろうか………
それからトールお兄様にどんな馬がいるのか、なぜここにウェルターさんがいるのかを聞いてみた。馬は体力自慢のウパカラマ。力自慢のウヒヒンマ。癒し系のウブルルマ。一般主流のウママンがいるらしい。全部に『ウマ』が付いているのは気のせいにしておこう………トールお兄様の顔は真剣だ。
ウパカラマはさっき見た足が6本足が生えた馬。長距離移動にはもってこい。ウヒヒンマは4本足の馬。ただ足がすごく太いんだって!普通の馬の3~5倍とかなんとか。しかし、力はあるが馬の中では鈍足だそうな。そしてなぜかある癒し系のウブルルマは線の細い馬だそうです。人は乗せられるけど体重制限があり、ほとんど鑑賞用らしい。鑑賞用の馬ってなに?そして最後に一般的な馬のウママン。ウ、ママンと言う発音ではありません。馬男の発音ですウマ、マン………よく動く柔軟性のある、馬だよ。騎士がよく使う馬です。ただし顔の彫りは深い、凛々しい馬なんだって………見てみたいような、見たくないような………
それで、ここはウェルターさん宅らしい。奥さんの実家の馬屋をウェルターさんが昇格したついでに建てたんだって。で、奥さんと息子さんと奥さんのお父さん。それに従業員が10人ほどで切り盛りをしているんだとか。けっこう有名だとは知らなかったよ。そしてウェルターさんが“ 上流騎士 ”なんて事も、知らなかったよ!強いんだね!?
そんな事を話してたら帰ってきたお父様とウェルターさん。ウェルターさんの不機嫌は収まっていないらしく、眉間にしわを寄せながらお小言を発してこっちに来る。対してお父様は笑って流していた。いいの?
「じゃあ、話はまとまったから行くんだけど、馬と馬車だ。みんなはどちらがいい?馬は相乗りで3頭。ウェルターも来る。馬車は6人乗りだから安心してみんな一緒に乗れるよ!もれなくウェルターがついてくるが」
「俺は付属かっ!なんならお前らだけで行けよっ」
「………いいのかい?私たちだけで―――いいんだね!?」
お父様の目が………輝いてる。魔力は―――灯ってない。てか馬で行くんじゃなかったの?
「俺の許可なく入れると思うなよ?」
「え、入れるよ?君の奥さんから許可はすでに取ってるからね」
「は?いつ」
「お前が結婚してから最初に遊びに行ったとき」
あ。ウェルターさんが沈んだ。頭を抱えて唸りながら沈んだ。なんだかお父様が勝ち誇った笑みで肩を叩いてる。仲がいいね!
で、どうする?と言われればまず場所と距離を聞きたいと思いませんか?それは兄妹全員が思ったらしく、トールお兄様が代表で聞いてくれた。私たちを驚かしたくてお父様は渋るけど、すかさずウェルターさんが答えをバラしちゃうから今度はお父様が嘆く。なんだか面白いね。
行き先はウェルターさんの実家の牧場だそうです。どうやら騎士になるために拠点を王都に移して、下級騎士になったウェルターさんが馬屋の奥さんに惚れて結婚し、牧場と馬屋を繋いだらルートが広がって、ついでに貴族街にまで繁栄してくれたおかげでアーガスト家が出入りしやすくなったそうな。
お父様はいつ頃からウェルターさんと仲がいいの?と聞くと子どもの頃からだよ、と嬉しそう。対してウェルターさんは不貞腐れた顔でただの腐れ縁だと主張。なんだか口許が緩む。イイ!
でも牧場ってさ、平原だよね?この王都の近くに緑があるなんて思えないんだけど?あれ、ウェルターさん牧場の経営支援者?それとも牧場の人?でも貴族街に馬屋………あれ?広がったのは後だし、お父様は貴族だよね?どうやって子ども時代に逢っているの?
「飛ばした馬なら今から夕方。馬車なら夜に隣の領地に行ける。………里帰りは、含んでないよ」
「里帰り?ええと………」
「クフィーは気にしなくていいんだ。さ!みんなどっちがいいかい?」
いやいや、流しちゃ駄目だろ!里帰りって事はお父様の実家!クロムフィーアのお爺ちゃんに逢えるじゃん!そっか、隣の領地は緑があって牧場ができて、お父様はそこで暮らしていたからウェルターさんに出会えたんだね!?てっきり王都が拠点だと思っていたよ!
とか一人であれやこれやと納得していたらなんだか勝手に決まっている事に気づかなくて、私はなぜかウェルターさんに「よろしくな!」と言われた。頭をぐりぐり付きで。なに?と聞き返せば馬で行くそうです。そして私はウェルターさんと相乗り………微妙。




