プチ家族旅行1
改訂いたしました。27.6.6
「日差しが強くなってきたな………」
「でも、こう言うのもいいですね。みんなでお出掛けなんて早々にありませんから」
「クフィー、陽には気を付けなければなりませんのよ!肌が荒れてしまいますわ!」
「リディ、まだクフィーは7つだろ。そんなに気にする年でもないと思うぞ」
「年は関係ありませんわ!対処は早めにいたしませんと、顔が黒ずむのですっ!トール兄様は殿方ですから分かりませんのよっ」
「そうなのか?クフィー」
トールお兄様………さっき私を7歳って言ったじゃん!
「肌に刺激を与えすぎると痛い人もいますよ。それにトールお兄様、女性は主に華やいだ場所や花園の空間にしかいませんから進んで陽には当たりません」
「………ああ、そうか。茶会の席や女性が集まると言えば屋根のついた庭か。リディはまさにそれだな」
え。私もそれだよ!花園の空間とかあんまりしていないけどまさにそれだから!妙に納得してしまってトールお兄様は一つ頷くとまた歩き出す。と、言っても私とリディお姉様と歩調は一緒。まさに紳士だね!
でもリディお姉様が微妙に納得していないようです。いや、私が帽子を被らないからかもしれない。トールお兄様を挟んだ視線が少しだけ痛い。あれ、間のトールお兄様は素通りなの?
まあ、いいや。汗をかく前に早く目的のところに付けば問題がない。てかぶっちゃけトールお兄様で影になっているし。あと、日傘をさすリディお姉様の影が微妙にね。
今から向かうところはとある馬屋。これから少し遠出をするため、そこに向かっています。どこにいくかはまだ聞いていないのだけど、お父様とお母様の提案だからきっと何かあるに違いない。思いでの景色でも見せたいのかな?
因みに今日からお父様は五日間のお休みです。お休みだって!王宮筆頭魔法師がっ!?なんで!?と思ったけどずいぶん単純な話でした。私の事で色々と駆け回ったのと、グラムディア様の提案を陛下が涙を流して喜んでくれたからその褒美だと言う。
まだグラムディア様から色好い返事はもらっていないけど、息子を心配していたからそうやって王太子として戻ってきてくれる事が嬉しいらしい。今まで本当に影の日陰で、最近では姿も見せてくれなかったとの事。
これから大変だと思うけど、私も頑張ってやる、と意気込みももらったらしいので、その成果として休暇。今ごろレーバレンス様は大変だろうとなぜか笑うお父様にちょっと複雑である。
しかしながら思うに、こうしてプチ家族旅行に出るとなれば当然、魔法院と騎士棟にいる私たちもお休みしなくてはならない。見習いと若魔法師がちょくちょく休んでもいいのだろうか。私は冬の終わりにある試験を受けて少しでも短縮を目指して魔法師になりたいんだけどなあ。
まだ調べてないから分からないけど。雑学と魔力操作なら詰め込めばなんとかなると思いたい。最年少は13歳と言っていたから私もその波に!!………乗ったら偉いことになりそう。自重ってどこかに落ちてないかな。つけた方がいい気がしてきた。
振り返ってみると、けっこうはっちゃけすぎだよね。大人に囲まれるのがいけないんだ。なんで年の近い子どもを連れてこなかったのお父様。私も弾けて馬鹿だけどさ。みんな重鎮だから、私がすごく浮いているじゃん。こりゃ誰かにまたおかしいって疑われるね。もうちょっと子どもらしく生きよう………これぐらいの子どもって走り回る年齢だけど貴族が走り回るのは………今さらすぎるっ!
それより、さ。なんで貴族か歩いているの?と思うわけですよ。初夏と言っても暑いのに―――炎天下までとは行かなくても蒸し蒸しする。とてもいただけないのですよっ!
とくに目の前で繰り広げられるいちゃいちゃっぷりに………たぶん、このために徒歩にしたのかもしれない。いや、馬車の見えないところにしてくれた方がよかったんだけどね。馬車は4人乗りである。それが2台。
私だってなにが言いたいか、わかるよ。もう一つのって家臣ようの馬車なんでしょ?別にアーガスト家は気にしないけど、言いたいのはそこではない。お父様とお母様が気にしているのはそこではないのだ。
馬車は4人乗り。さて、誰を省くか………決められないのである。そう、この両親はせっかくの家族遠出でなぜ誰か一人が馬車ごときで離れなきゃいけないのか―――真顔で言い切って馬車で行くことを却下した。
私が誰かの膝の上に乗ると言う案も出たけどさすがに貴族のルールもあるし、私は認定式を終えて一応は貴族令嬢の仲間入りなのでそんな事はできない。どこかの二人がちょっと残念そうだったが、揺れる馬車で誰かの膝の上はさすがに遠慮したい。トールお兄様とやんわり断るよ!
で、決まったのがとりあえず馬屋に行って大きめの馬車か馬で行こう、と言う形に。まあ、大きめの馬車になると思うけどね。私たちは薄手だけどドレスですから。その格好で馬を跨ぐなんて恐れ多い。はしたないとお母様に怒られること間違いないね!!因みにポメアたちはお留守番。お父様からの発言は絶対である。
まあ、そんな理由もあって徒歩………うん。お母様の大きめな日傘を持ったお父様。腰を抱き締めて寄り添う二人。………………………………………暑くないのだろうか。そしていくら日傘で肩から上が見えなくても、私は見ていていいのだろうか………いや、前方にいる方が駄目だよ。前を向いて歩かなきゃ転ける。
「クフィー、前を見るのは当たり前だが、見すぎるのも駄目だ」
「………どうすればいいのでしょう?」
「なるべく、赤の他人でいるんだ」
いいの、それ?
「クフィー、わざと見せている以外は親でも仲睦まじい様子を見つめるものではありませんのよ。できるだけ会話して視線を反らせたり、距離を取るものです。トール兄様のは言い過ぎですわ」
「これより離れたら無駄に心配するだろうから他人のふりしかないだろう?父上はなぜか察知する」
むしろそれは家族愛ゆえの本能………
「では、会話して反らすしかありませんわね。トール兄様、お話しをしてくださいませ」
「無茶苦茶を言う。そう言うのはクフィーが得意だろう?」
「得意と言うほどではありませんよ。そう言えばトールお兄様は秋に成人を迎えられますよね?どのような仕立てをしたのですか?」
「まあ!そうですの!?わたくしに内緒だなんてずるいですわ。トール兄様、どんなのか教えてくださいませ!きっとお母様が最高によい仕立て案を考えたのでしょう?」
あれ、ごめん。なんでトールお兄様が疲れた目で私を見るのかがわからないよ。リディお姉様がドレスに宝石やアクセサリーが好きだからいい話題だと思うんだけどなあ。
「対したものではないよ。今年は王子とご一緒だから控えめだ」
「そうなんですの?でも、控えめでも飾りは絶対に付けますでしょう?どのような物です?」
「リディお姉様、お母様に聞いてみてはいかがですか?きっと細かく教えて下さいます」
「それもそうね!」
やばい。二言目でリディお姉様の目が魔力も灯っていないのに輝いていた。きっと服について興味ありありだったんだと思う。トールお兄様はこれを察したのか………
なんだかトールお兄様がホッとしたような気がするよ。ごめんなさい。次は無難な話題にしよう。魔法について是非とも話したかったけどあいにくとみな進む道が違う。騎士と、魔法師と、令嬢と。繋がりがあまりない。
しかし、私たちは兄妹なのだ。なにかあるに違いない。そう、お家の事とか。私は知らないよ。お母様は実は公爵令嬢なんて知らなかった。ちょっと特殊とも言っていたし。気になっちゃうよ。前に風邪を引いたとき、お爺ちゃんの代わりがヴィグマンお爺ちゃんだもん。なにか、複雑な事情があるんだよね?路上で話すのもどうかと思うけど。誰もいないしいけないかな?
「あの、駄目ならしかたないのですけど、いいですか?」
「かしこまる事ですの?」
「話にもよるだろう?何を聞きたいんだ?」
「アーガスト家についてです。私、前に家系図を見たと言いましたでしょう?親戚の名前を見ました。けど、交流を見たことも聞いたこともありません」
「ああ。さすがにここで詳しくは言えないが、母上の方は勘当されて絶縁だよ。父上の方は………どうだったかな?」
「クフィーが知らないのも無理がありますわね。お父様の方はわたくしが生まれて疎遠ですわ………わたくしとクフィーが7つ離れている理由が含まれていますの」
そう、だね。ちょっと年が離れているかな、とは思ってたよ。あんなにベタベタな親に子宝が止まるはずがない。それだけあそこにはいつも、愛があるんだもの。
まあ、路上でお家話はするもんじゃないよね。出来るだけ人目を気にしてなら聞けると思うって言っているから今度どっちかに聞いてみることにしよう。そしてその話の繋がりでユリユア様の話題を出してみた。『剣豪時代』、まだ諦めていません。
ユリユア様の話題はリディお姉様から絶賛の声がボロンボロンと溢れ落ちてくる。わたくしの憧れですわ!から始まってどんな人柄で、どんな方で、どれだけ素晴らしくて、どれだけ慕われているか、どれほどの方で、どれくらい素敵なのか………もう、リディお姉様が色々と全開である。
私は言葉を間違えたんだよね?止めどなく出るわ出るわユリユア様。まさかここまでリディお姉様が語るとは知らなくて、トールお兄様と一緒に目が点になって遠くなった。
目頭を押させるのって、疲れた人とか流れそうな涙を拭う人だよね。目頭から出るかは人それぞれだけど。トールお兄様の行動は疲れた方に決まっている。私もやりそうになったよ。頬を添えるだけになんとか出来た!危ない危ない。
じゃっかんリディお姉様を気にしながら無視しつつ、私とお兄様は遺伝について語る。と、言ってもこの世界に『遺伝』と言う言葉はないのでこのリディお姉様はお父様とお母様、どちらに似ているか。で話し合う。この興奮しているところは間違いなくお父様だと私は思うんだ。トールお兄様は?
「そうか………(いや、このうっとりとして語る姿勢は母上かもしれない)」
「そうなんですね(でも、お父様のように弾けていますよ?お母様はここまで弾けない気が………)」
「トール兄様もクフィーもそう思うでしょう!?だから今度ユリユア様に―――」
「ほう(弾けないが気にせず語るだろう?母上はよく興奮するとこの状態になる。相手を気にしない)」
「わあ(でしたらどちらも大差ありませんね。魔法棟でもこのような感じでした)」
こそこそ、と会話してるのだけど………うわ。リディお姉様はまったく気づかずに語っているよ………ユリユア様はそんなに凄いのか。ほとんど聞いていなかったんだけどこれは大丈夫かな?あとで聞き返されても答えなんて持ち合わせていませんよ?
しかし、天はちょっとだけ私たちの味方についてくれたらしい。リディお姉様の語りを中断させるような呼び声が前方から聞こえる。あの状態で振り返った我が両親が呼んでいるのだから。
トールお兄様の掛け声のおかげでユリユア様の話は終わる。よし!お父様ナイスだよ!走る事はせずにお父様とお母様の前まで歩けばここが馬屋だよ。との事。貴族街にある馬屋ってどうなんだろうか………外見は長方形でちょっと黒よりのグレー。入り口が家の半分。高さはそれなりの横長の扉。馬屋って、馬だけ?馬小屋じゃないんだね。
「じゃあ、中に入ろうと思うのだけど、今日は本当に馬にするよ」
「まあ!でしたら私たち、着替えないといけませんわ」
「大丈夫だよリディ。私とトールがお前たちを乗せるから。綺麗なままで問題ない」
そしてやっぱりお母様の腰を抱きながら店内に入っていく………私の、素朴な疑問なのだが………馬って最大2人乗りではなかろうか。詰めるの?いやいやキツいって。本当になぜ貴族がここに来てるの?と言わんばかりに店員?店主?は驚いているから。
誰か常識を私にでも教えてください。なんだかフレンドリーにお父様が交渉しているよ。あれはなんでだろう。おっさんの顔がひきつっている。そりゃあ夫婦愛を見せつけられたらひきつるか。
誰かの名前を呼んだと思ったらもう一人いた若そうな青年が走り去っていく。慌ただしそうだったなあ。ねえ、トールお兄様や。こう言うのは事前に言っておくもので、なおかつ家臣にやらせるものだと私は思うんだ。なにか違うのだろうか。アーガスト家が特殊すぎるっ。
そして帰ってきた青年はどうしようと言わんばかりに2頭の白と白っぽい斑模様をつけた黒っぽい馬(きっと茶色)の手綱をもっておろおろ。うん―――これは無茶な事を言ったかしてるに違いない。
てか言わせて。馬の足は4本だと思う。前足と後ろ足の4本。私の目には6本に見える不思議な感じなんだが………あれ、馬?助けて!トールお兄様!!
「あれはなんと言う馬ですか?(馬屋って言うぐらいだから馬だよね!?)」
「嬢ちゃんはこいつが初めてか?こいつはウパカラマ。馬の仲間で体力があって足腰が強いぞ」
そりゃあ………………6本もあれば強いんじゃない?よくわからないけど後ろから声があったので振り向いて見る。男の人の声で、なんだかどこかで聞いたことのある声。はて、誰だろう?
そこにはもう1頭と馬―――ウパカラマを引き連れた………うーん。おじさん?体格が男前で顔がなんだかスッキリしているせいか若く見える。髪色は黒じゃない黒っぽさに瞳はなんだろう?不思議………濃すぎるグレーだね。活発な印象だし、色をつけるなら豆の濃い小豆色にこっちも濃い鶯で!!和風で固めてみた!
「お。リボン変えたのか?女は小さくてもお洒落とやらを気にするんだな」
………誰ぞ?なぜわかる。




