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遠い記憶の守人  作者: 名波 笙
成長記録
82/99

魔術協会 5

~街歩き 1・2 を編集して、終わらせました。

1に2の前半部分を追加、2は1に追加部分を削除、後半に話を追加してあります。

最新話で飛んでこられた方は前話途中「総レースー!!」後からお読みくださいませ~






 帰ればすぐにお昼寝の時間である。

 久しぶりに出かけた疲れもあって、瞬く間に熟睡である。司祭が頬をつついてもひっぱっても、全く起きない。

 午後はまた話し合いという事で、司祭も公爵も、外交官たちも宿舎代わりの建物を出た。

 辺りは静まり返っている。



 魔術協会では、建物ごとに不審者除けの結界が張られている。知らずに入れば、協会所属の魔術師たちに一斉に連絡がいくようになっている。その後、特殊な結界が張られて不審者は逃げられない仕様だ。

 リスヴィアの使節団は皆、それを知っていた。だから建物に子供たちだけ残すことに、疑問を持たなかった。

 一方、スランダード側は知らない。魔法の普及率が低く、魔術協会との付き合いも浅い為だ。

 彼らは不用心に子供だけを残すリスヴィア官僚に、そっとほくそ笑む。残念ながら、国家の行く末を心配する者はここにいなかった。



 眠る子供たちに忍び寄るものがあった。浅黒い肌が、リスヴィアの者ではないことを教えている。

 侵入者の男はにたりと笑う。

 不用心に子供たちに近づき、手を伸ばした。


「!!」


 激痛が走り、男は手を引っ込めた。驚きに目を瞠れば、シーツの間から小さな蛇が這い出てくる。蛇に噛まれたのだ。

 一筋の黒模様の入った白蛇は、チロチロと赤い舌を出し入れしながら、金色の眼で男を見た。

 男が忌々しそうに蛇を睨み付ける。だが次の瞬間、男の顔は驚愕へと変わる。

 蛇は素早く移動すると、男の足を伝い体を上って来たのである。

 慌てて振り払おうとするも、蛇はあっという間に男の首に巻きついた。そしてそのまま締め上げ始めたのである。蛇の体に指をかけ何とか引き剥がそうとするが、蛇の締める力は増すばかりで、首に食い込んでいく。

 やがて男は膝をついた。顔が増々黒くなり、口の端から唾液が零れる。

 男が床に伏しても、蛇は暫く男の首を絞め続けていた。完全に動かなくなった頃、ようやく体を緩める。そのまま男から離れてベッドまで戻る。金色の眼がベッドの上を見上げる。

 ぬっと手が現れた。小さな手が白蛇を掴む。


「ぐえ」


 蛇から人の声が漏れた。

 蛇を掴んだレグルスは、寝ぼけた目で蛇を見つめていた。突然、ふにゃりと表情が緩む。両手にしっかり蛇を握ったまま、布団の中に潜り込む。


「おチビちゃ~ん、おチビちゃ~ん。中身が出る~。出ちゃうヨ~」


 蛇が必死で訴えると、手が緩んだ。代わりに柔らかい頬が当たる。


「んふふ~…ふぉ~……」


 健やかな寝息が聞こえる頃、俄かに廊下が騒がしくなった。白蛇はレグルスの手をすり抜け、布団の中を移動する。







 バンッと乱暴に扉が開け放たれた。


「レグルス!」


 飛び込んできたグランフェルノ公爵たちの目に真っ先に入ったのは、床に伏せた男だ。

 あえてそれを無視して、公爵はベッドに近づく。子供たちはこの部屋を出た時と変わらず、すやすやと眠っている。公爵は安堵の息を吐いた。


 シュルリ


 袖口から何かが忍び込む。誰も気づかなかった。

 公爵は軽く袖を叩き、倒れた男を取り囲む面々を振り返る。

 公爵の視線を受け、魔術師が首を左右に振った。

 外交官が忌々し気に舌打ちをする。


「彼の国の執着心にも恐れ入りますが、一体誰が……」

「さてな。だが死体でも十分証拠になる。引き渡さず、使ってこい」

「はい」


 手練れの外交官が素早く身を翻す。魔術師が遺体を地下の死体置き場へ転移させ、場の汚れを浄化する。

 すっかり元通りの部屋に、公爵は子供たちに向き直る。


 同席した魔術師たちが一斉に、この建物への侵入者を察知した。それから間もなく、生命の消失を。

 公爵は内心「あ~…」とは思ったが、顔には一切出さなかった。密かに連れてきたグランフェルノ家の裏方の長は、加減を知らない。

 明らかに絞殺されたと思しき死体だが、犯人は捕まらないだろう。殺害道具が何なのかも解明されないだろう。もしかしたら気付く者もあるかもしれない。だが、魔術協会は明るみに出さずに闇に葬り去るだろう。


 これだけ騒いでも起きる気配を見せない子供たちの頭を撫でる。ベッドの脇に座り、交互に撫でていると、部屋がいつの間にか静かになっていた。

 顔を上げれば、司祭さえいない。そういえば、司祭は席を立つ事もしなかった。恐らく会議場に残ったのだろう。彼も子供たちのことを心配だっただろうに。

 公爵は小さく息を吐いた。腕の辺りがもぞりと動く。


「主~、おチビちゃんに思いっきり掴まれたヨ~」

「バレたのか」

「寝ぼけてたから、わからないネ~」


 ぴょこりと袖から顔を出す。その顔を公爵は思いっきり抓む。


「目立つ真似はするなと言っただろう?」


 蛇はシューという音だけ発する。反論しようにも、縦に抓まれて口が開かない。抓んだまま袖から引き抜かれ、プランとぶら下がる。

 公爵は胸ポケットを開くと、その中に蛇を落とした。


「余計な事を」


 もぞりと動いた蛇は、再び顔だけ出す。ポケット口に顔を乗せ、こてんと首を傾ける。


「ダメだった?」

「殺さず捕らえた方が、役に立った」

「…ごめんなさ~い……」

「勝手に動くからこうなる。己の役目を違えるな」

「はぁい」


 白蛇はポケットの中に沈んでいった。もぞりと僅かに動いたのを最後に、静かになる。

 公爵はポンとポケットを叩いた。







 その後目覚めたレグルス達は外交官たちから「ようやく交渉が進んだ」と、歓喜の報告を受けたのである。







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