魔術協会 1
出現場所は、魔術協会の広間の一つに設定されていた。大がかりの魔術を行うための場所だ。足元には魔法陣の名残がかすかに光を放ってる。
待ち構えていた魔術師たちが一斉に動き出し、保護された少年少女たちの様子を窺う。
予め言っておいたせいか、少年二人は素直に意識を手放していた。仲良く床に倒れている。繋いだ手は緩んでいたが、離れてはいない。
駆け寄った少女が床に膝をつく。一人を仰向けにすると、顔に手を当て、胸に耳を当てて、呼吸と鼓動を確認する。もう一人も同じように確認して、ほっと息を吐く。
「満足したか?」
ノクターンが笑いながら声をかける。
ユリアナは顔を上げた。途端、顔を真っ赤にして両手を頬に当てる。
彼女の行動は、魔術師たちを不愉快にしてもおかしくない。彼らを信用していないという事になるのだ。顔を赤くするだけで済んだのは、魔術師の最高峰であるノクターンが怒っていなかったからだ。
ノクターンは彼女の手を頬から外した。顔を覗き込む。
「君も夜明けまで休むんだ。彼らは一緒に帰れない」
ユリアナは泣きそうに顔を歪める。その瞳には懇願の様子が伺える。
けれどノクターンは頷かない。
「二人は暫くここで預かる。君は先に家族のところへ帰るんだ」
潤んだ瞳から、一粒の雫が頬を伝った。彼女はそれを拭い、小さく頷く。
見知らぬ男が少年たちを抱え上げた。魔術協会の護衛たちだろう。
ユリアナも慌てて立ち上がる。既に彼女以外の被害者たちはそれぞれ指示を受け、移動し始めている。
彼女はレグルスを抱える男の袖を掴んだ。男を立ち止まらせ、気を失ったレグルスの顔に掛かる髪を払う。そして無事を願い、頬に口づけを落とした。
レグルスを抱える男がとっさに何か呟いたが、言葉が違ったために、何を言ったのかは解らなかった。振り返るとノクターンを含めた数人の魔術師が笑っていたため、悪い言葉ではなかったようだが。
ユリアナはきょとんとして、首を傾ける。その背を女性の魔術師が触れた。
「さあ、貴方もいらっしゃい。朝になったらリスヴィアまで転移するのよ。体力を回復させないと、向こうで倒れちゃうわ」
促されて、彼女も広間を後にする。
後にノクターンと、数名の魔術師や事務官たちが残された。
「転移陣は暫く固定。リスヴィア側は?」
「死者三名、転移完了しております。スランダードとの直接交渉を望んでいますが、どうなさいますか?」
「させてやれ。場所はここでいいだろう。放っておくと自分たちで転移陣を敷いて、勝手に乗り込むぞ、あの国は」
「仲介は?」
「俺がやるよ」
「長殿自らがですか?」
「王族が絡んでいる以上、下手に任せられないだろう?」
事務官たちは困りつつも納得する。他の国ならともかく、リスヴィア王国だけは彼らの特権が行使しきれないのだ。
ノクターンが欠伸を漏らす。彼も昨日からほとんど休んでいない。拠点に戻ってきて、流石に疲労感が出た。
事務官が眉を寄せる。
「長様もお休みになられては?アヴィレイ殿もおられますし」
「ん…そうだな。あの子たちを送る時間になるまで、寝ようかな」
「送り届けるだけでしたら、他の魔術師殿たちに任せてもよろしいでしょうに」
「俺の祖国だからね。譲らないよ」
呆れた様子の事務官に、ノクターンは悪戯っ子のように笑った。もう一度欠伸をする。
事務官が溜息を吐き、腰に手を当てた。
「早くお休みください。全く。無茶をしていざという時に使い物にならなかったら、困るのはご自分ですよ」
「そんなに軟なつもりはないけど。部屋に戻るよ。おやすみ」
ひらりと手を振って、ノクターンも広間を出た。
◆◇◆◇◆◇
レグルスはぐっすりと眠っている。小さな体を更に小さく丸めて、深い闇の中で目を覚ますことはない。
精神体は外見に比べさらに幼い。外に出て少し大きくなったと思ったら、それきり止まってしまった。
レグルスの魂は酷く弱い。彼が己が内に取り込んで、ようやく存在出来る。けれどもう、一人立ちさせなければならない。レグルスとは別の存在になってしまったから。
彼はレグルスを抱き上げた。膝に乗せ、ゆっくりと髪を梳くように頭を撫でる。
これからも傍にいるのだろう。記憶もいつでも見えるようにしてあげよう。けれど能力は譲り渡すべきではない。憑依させるのは、意識があるときだけにしよう。
弱くて脆い魂の欠片に、あげた核が定着するまではここにいよう。
だがその為には、今しばらく眠りにつかなければならない。この弱い魂と隔絶しなければならない。
その為にはどうしても、父親との相互理解が重要だ。レグルスは「父様」が大好きだから……
レグルスが身じろぎした。
彼は顔を上げる。うっすらと光が漏れている。
「…もうお昼ですよ。レグルス、そろそろ起きましょうか……」
すうっと彼の姿が揺らぎ、レグルスを包む白い靄へと変わった。
レグルスは目を開けた。起きたはいいが、何も考えられず、しばらく横になったままぼんやりする。
かなりの間を置きて、レグルスはのそのそと起き上がった。辺りを見回す。
(……?)
見知らぬ部屋に首を傾げる。
レグルスがいたのは、籐製の大きなベッドの上だ。隣ではまだルオーが眠っている。
こしこしと目をこすり、もう一度室内を見回す。
ベッドは籐製だが、家具は普通の木製だった。大きな窓には厚手の遮光カーテンもかけられているが今は纏められ、レースのカーテンが強い日差しを和らげるのみだ。
「んと…?」
やっぱり頭の働かないレグルスは、とりあえずベッドから降りることにした。靴が見つからないので裸足のまま降りる。
サイドテーブルに水差しを見つけたので、グラスに移して一気に飲み干した。一緒に置いてあったポシェットも襷掛けにする。
続いて大きな窓に近づく。外はやはり知らない場所で、石積みの壁が見える。窓の外はバルコニーになっていて、下は見えない。ただ、元気そうな声は聞こえた。
外に出てもいいのか少し悩んだ後、外に出る窓のカギを開けた。押し開けようとして、爆音と爆風に阻まれた。
レグルスは目を瞠ったが、鈍い頭では危険を感じることが出来ない。「うんしょ」と窓を押し開ける。
外には炎が舞っていた。炎で出来た竜巻が高く上がっている。
熱風がレグルスのところにまで飛んできた。
「まほー…魔力暴走?」
自然にできた炎とは思えず、熱風に逆らい手すりに近づく。下を覗き込めば、何人もの人が騒いでいた。倒れて動かない者もある。
レグルスは手すりから離れた。下へ続く階段を見つけたのだ。ふらふらと階段を下りる。
「…あら~……」
増した熱気に、怒声。その中でレグルスは明らかに場違いな声を発した。
右を見て、左を見る。そして炎の竜巻に目を戻す。
「ん~…丁度良い、です?」
「何が?」
聞き慣れた声にレグルスは振り返った。そこにはやはりどこか虚ろな目をしたルオーがいた。
レグルスはポシェットに入っていた魔具を引っ張り出す。『守護天使の翼』は幾分光が陰っているように見える。購入した時はただのガラス玉のようだったから、その時の状態に近い。
レグルスはそれを目の高さまで持ち上げた。
「減っちゃったので、補充しようと思います。あと、暴走している子を止めます」
「ん。手伝う」
ルオーがこっくりと頷いた。そして魔具を受け取る。
彼の性格上、普段ならレグルスを止めるし、そもそもレグルスもこんな申し出をしない。だが、それを突っ込む者も諫める者も、ここにはいなかった。
シャラン……
魔具を繋ぐ金属が涼やかな音を立てた。ルオーがくるくると振り回す。
炎の流れに沿って、魔具を振る。すぅっと炎が魔具の中に吸い込まれていく。
それを確認して、レグルスが足を進めた。先を行くルオーの作った道を駆け抜ける。
誰かが何か叫んでいるが、言葉が解らないので無視する。
炎の竜巻の前まではあっという間だった。ルオーが魔具を振り回し、竜巻の一部を切り裂いた。すかさずレグルスが飛び込む。
竜巻の中では一人の少年が蹲っていた。レグルスよりいくつか年上だろう。彼は両手で頭を抱え込むようにして、外部から自分を切り離そうとしている。
「だいじょーぶですよぉ」
ゆったりとした口調で話しかければ、少年が驚いた様子で顔を上げた。その顔は涙で濡れている。
レグルスはにっこりと笑い、少年の肩に両手を回した。ぽんぽんと背を叩く。
「だいじょーぶだいじょーぶ。何にも怖い事はないんですよ~」
「ダイ、じょ…ブ?」
「うんうん。怖かったですね~。もう大丈夫。落ち着いて、ね?」
少年は茫然としている。けれど炎が収まる様子はない。
レグルスは少し考えて、体を離した。少年に微笑みかけ、指で涙を拭う。それから膝を抱える少年の頭に手を置いた。
「痛いの痛いの、飛んでいけ~。遠いお山に飛んでいけ~」
丸く円を描くように、少年の頭を撫でる。
少年は相変わらずきょとんとしていたが、暫くしてクシャリと顔を歪めた。何か言葉を発するが、レグルスにはわからなかった。
「うん。怖かったですね。もう大丈夫ですよ」
向こうにもこちらの言葉は伝わっていないだろう。けれど想いが伝わるように、出来るだけ優しく話しかけた。
「貴方は優しい子です。良い子です」
少年の手が、レグルスに縋る。
炎の竜巻が掻き消えた。熱気は暖かい風となり、空へと舞い上がる。
幸いにも建物に燃え移ることはなく、立木と芝生の一部が焦げただけで済んだようだ。
レグルスはぽんぽんと少年を撫で続ける。
「良い子ですねぇ。よしよし」
少年は肩に顔を埋め、しっかりとレグルスの服を掴んでいる。
「―――、――」
聞き覚えのある声が聞きなれない言葉を紡いだ。
レグルスは振り向いた。少年が体を強張らせる。
「会長さん」
「仕方ない子だね。裸足のまま外に出て」
少し呆れ気味に言われたが、レグルスはきょとんとして首を傾げた。
ノクターンがふっと目元を緩ませる。
「食事をさっきまでいた部屋に運ばせたから、食べておいで」
「……ごはん?」
「そう。大したものじゃないけどね。お腹が空いているだろう?」
「はい!」
レグルスは少年をその場に残し、走り出した。途中でルオーと合流し、二階へと駆けあがっていく。
楽しそうな声が聞こえてくる。
「魔具、溜まりました?」
「そこそこ?もう少しいけそうだったのに、消えちゃったから」
「あら~…仕方ないです」
「そっか…」
「ごはんくださ~い!」
「その前に足を拭きなさい」
「「はぁい」」
「手も洗うんだよ~」
「「はぁい!」」
元気のいい返事を最後に、声が室内に消えていった。
ノクターンはそれを見送って、視線を戻す。
未だ座り込んだままの少年が、びくりと体を揺らす。
『どうして学生がここにいるのかな?』
魔術協会に隣接する魔法学園。
少年は勿論だが、周りにいる者たちも生徒だ。揃いの制服を着ている。
魔術協会の会長代行の登場に、彼らは一斉に姿勢を正す。ただ一人だけ、つまらなさそうに口を尖らせてそっぽを向いた。
ノクターンは目を眇める。
『…まあいい。怪我人の状態は?』
『打ち身に擦り傷程度です。少々魔力に中てられた者もいるようですが、放っておいても問題ありません』
『なら学園へ送り返せ。迷惑だ…ああ、この子はちゃんと診てやってからにしろよ』
座り込む少年の隣に膝をついていた魔術師が頷いた。
ノクターンがマントを翻す。僅かに目を瞠った。
『アヴィレイ』
深くフードを被った魔術師が傍まで来ていた。ローブで分かり辛いが、長身というより細長い。長身を気にしてか、背が丸まっている。
彼はノクターンの隣を通り過ぎ、そっぽを向いた学生の頭を掴んだ。学生の顔を自分の方に向ける。
『アヴィレイ。やめろ』
アヴィレイは不満そうに、ノクターンを見下ろした。手はしっかりと学生の頭を掴んだままだ。
ノクターンが息を吐く。
『…魔力暴走を起こさせて、楽しかったか?』
それは学生たちに向けられた言葉だ。
俯く学生たちに対し、頭を掴まれた一人だけが憤然と言い放った。
『ふんっ。この程度で暴走させるなど、躾がなってないせいだ。これだから庶民は……』
『関係ないな。精神が揺れれば、魔力が不安定になるのは当然だ。学園で何を学んでいる?』
魔術師に必要なものは、魔力と魔法の知識。出自は関係ない。
魔力が高ければ制御も難しくなるのも当然だ。どうしても感情で暴走してしまう。幼い頃、暴走を繰り返した結果、家族からさえ見放された子は、大きくなっても些細なことで暴発させることが少なくない。
魔術学園ではその辺りも教えているはずだ。魔術師たちは魔力の高い子供を保護し、導く義務もある。
目の前の学生がそれを理解していないのは、彼も特殊すぎる出自のせいか。
学生は高慢に、ノクターンに蔑むような視線を向けた。
『そもそも平民の分際で、王族に意見するか』
ノクターンは眉を顰めた。アヴィレイも溜息を吐く。
騒ぎに集まってきていた魔術師たちもポカンとしていた。
指先で額を押さえると、ひらりと手を振る。
「何を言っても無駄だ。アヴィ、捨ててこい」
「……」
アヴィレイはこっくりと頷く。そしてしっかりと頭をしっかり掴みなおし、そのまま引きずって歩き出した。
当然だが悲鳴と怒声が上がる。他の学生たちも慌てて追いかける。
しかしアヴィレイは全く気にせず、ずんずんと歩いていく。ノクターンは両手で耳を塞いで、それをやり過ごした。
だいぶ遠くまで行っただろうに聞こえてくる声に、魔術師たちが苦笑を漏らす。
「無知とは恐ろしいものですねぇ」
「成り上がりなのは事実だしね」
「大国の英雄を……まあ、英雄は大抵成り上がりですか」
考え込んでしまった魔術師に、ノクターンも笑う。
「しかしあの二人…無謀にも程がありましょう」
「うん?」
「魔力暴走の只中に突っ込むなど…肝が冷えました」
魔術師の顔には呆れた表情がある。
ノクターンは首を左右に振る。
「仕方ない。少しばかり、判断能力が鈍くなっている」
「はい。解っておりますが……」
「それに、リスヴィアでは魔力暴走は忌避される事柄ではない」
魔術師たちが目を瞠る。
魔力暴走は、どこの国でも厄介だ。それはリスヴィアも例外ではない。けれどその後の対応が違う。
地方や田舎でそんな事になれば、普通住民は暴走させた子供を嫌う。家族から捨てられることもある。
リスヴィアでは、そんな子供でも貴重な魔具の魔力供給減として、有難がられる。暴走しても、各家から一斉に魔具を持ち出してきて、貪欲に補充しようとするのだ。生活魔具が一般家庭にまで広く普及しているからの業かもしれない。
近隣住民がせっせと魔力を吸い取らせて被害を減らし、その間に身内が宥めて子供を落ち着かせる――そんな方法が出来上がっている。
話を聞き、魔術師たちが呆気にとられた。
「何と逞しい……」
「普段から魔具の補充は遊びも兼ねた子供の仕事だし、あの国でも高い魔力を持つ魔術師は貴重だからな。非難されるのは暴走した子供ではなく、させる原因になった相手だ」
大人の虐待は勿論、子供同士の喧嘩でも。子供同士なら親が叱って謝らせて終わりだが、大人が原因だと法で裁かれる可能性もある。
あの国はただ魔法に長けているだけではない。異端とされる者たちを守るために広めた知識が、隅々までいきわたり、定着しているのだ。
「庶民でも基礎の魔法を使える国だよ。だから魔力酔いも起こさなかっただろう?」
「代わりに魔力切れを起こしましたけれど……」
「そっちの方が命の危険性があって怖いです」
魔力酔いは、魔力の低い人間が高魔力に中てられて、体調を崩す程度。
魔力切れは下手をすると生命力を魔力に転換してしまうので、最悪死に至る。
魔法に慣れている者は、無意識に魔力酔いを防ぐ代わりに、どうしても魔力切れを起こしやすい。今回は特に粗末な転移魔法陣で魔力を奪い取られた後、更に長距離を跳んでいる。
あの二人は深く魔法を学んでいるわけではない。だから生命力を魔力に転換する事はなかったが、魔力切れで強制的に生命維持の為の身体機能の低下状態となった。クマの冬眠と似た状態とでもいうのだろうか。
今も起き抜けで、それ程頭が回っていたわけではないだろう。何となく「止めなきゃ」「魔具の補充しなきゃ」という、体に染みついた生活習慣で動いていたように思う。
魔術師たちは呆れるばかりである。
ノクターンは笑いを堪え、後始末を魔術師に頼む。建物に被害はなかったが、焼けた芝生や植木は植え替えが必要だろう。
二階に登る。
彼らに与えた客室に入れば、一生懸命食事を取っていた。
正直、客人に出す料理としてはどうかと思う。何しろ、大皿にサンドイッチの大盛りである。傍らのワゴンにはスープの入った寸胴が鎮座していた。
けれど子供たちは文句ひとつ言わず、一生懸命食べている。木製の器にはたっぷりと野菜スープが入っている。合間にそれを取って一気飲みしては、またサンドイッチに戻る。その間に給仕の魔術師が器にスープを注ぎ足す。
事情を知らなければドン引きである。
体の機能が低下している二人に今必要なのは、睡眠と栄養だ。眠ってある程度回復したところで、今度は大量の食事を必要とする。限界まで食べた後はまた眠る。その繰り返しだ。
魔法使いや魔術師なら、この状態が一週間は続く。普通の子供でも、2・3日かかるだろう。
不意に片方の手が止まった。
「ねむいです…」
「お腹がいっぱいになったら、おやすみ」
給仕の魔術師がそういうと、レグルスはこくりと頷いて椅子から降りた。
ふらふらしながらベッドに向かう。何とか辿り着くが、ベッドの上には登れず、上体だけ突っ伏してオチた。
仕方なくノクターンがベッドに乗せる。そのまま彼もベッドの端に座った。
ルオーの方はもうしばらく食べそうだ。
「小さいのに、よく食べるよねぇ…」
「小さいからよく食べるんですよ」
「ソレ、山がもっと大きかったよね?」
「三回りくらい小さくなりましたね」
「この体のどこに入ったの?」
「成長期の男の子ですから」
苦笑いと共に返されたのは何とも曖昧な答えで。
最後は丘くらいの高さになったサンドイッチを前に、魔術師たちは感嘆の声を上げるのだった。
おまけ
美しい少女の唇が、眠る子供の頬に触れる。
「…羨ましい……!」
思わず口について出たのを、誰が咎められようか。けれど笑われる事も止められないわけで。
少女が魔術師に連れられて行き、彼らも抱えた子供たちを別室に連れていく。
道中、子供の顔を眺める。
流れるような青銀色の髪に白磁の肌。眠っていてもわかる、愛らしい顔立ち。まるで少女のようだが、抱えた感触は確かに少年だ。
「本当に羨ましい!」
「お前、モテないもんな~」
「俺も美少女にキスされたい!!」
「無理言うな~」
強面の魔法剣士の嘆きは、同僚に軽くいなされ、夜の帳に消えていった……
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