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遠い記憶の守人  作者: 名波 笙
成長記録
75/99

閑話 隠される真実







 今までよく隠し通せたものだ――グランフェルノ家からの護衛が呟いた。

 確か去年までシェリオンの側によくいた使用人だ。決してお喋りでも、出しゃばりでもない。特に目立つこともなかったので、普通に使用人だと思っていた。護衛として現れた時は驚いた。それほどに熟練した使い手だったのだ。

 そんな男が思わずというように呟いていた。

 それほどに似ていた。若い頃の肖像画を見たことがあるが、今の姿に瓜二つだ。

 これでは疑いようがない。何の関係もない赤の他人だと言い張られる方が不審である。


『腹違いの兄に会いに行こうと思う』


 彼が守る主にそう告げられた時は、何の事か理解できなかった。

 兄。よりによって兄。いや、弟といわれたらそれもそれで問題だが、主の存在の根本が揺るがされるような兄。

 存在は隠されていた。父親や腹心たちにより、母親の希望で。

 母親は男爵令嬢だった。疫病で家族を失い、名ばかりの貴族であったが。けれど当時の事情により、結婚はそう難しくないように思われた。

 それなのに、彼女は父親のもとを去った。既に子がいる事は互いに承知していたのに。


 ――何故?


 そう問いかけた自分に、主は首を左右に振った。主も知らないのだという。けれど推測は出来ると、話をしてくれた。

 それはあまりに残酷な事情だった。




 そしてその事情は、今もまだ、彼らに纏わりついている。











 両手をテーブルに叩きつけ、さんざん罵倒の言葉を吐きだした彼は、今はただ力なく椅子に座っている。

 その言葉のすべてを受け止めたヴェルディは、静かに異母兄を見ていた。

 何も知らされていなかったヴェルディの異母兄。

 その隣で彼の母が背を伸ばして立っている。彼女はただ前を向いていた。全てを明かされた事に、悲嘆も憤慨もしない。いつか来るかもしれないと覚悟していたのかもしれない。


「私は貴方が羨ましい」


 すっかり憔悴した異母兄がヴェルディに視線だけ向ける。

 ヴェルディは無表情のまま、淡々と告げる。


「母に守られ、見ず知らずの父に隠され、刺客を向けられることもなく、自由に将来を選べた貴方が羨ましいし、妬ましい」

「殿下。その咎は私に」


 兄の母が一歩前に出る。

 ヴェルディは首を左右に振った。


「責めているわけではありません。私は『王太子』ですから」


 ヴェルディの母は、リスヴィア国王の隣にある事を望み、他国から嫁いできた。そしてヴェルディが産まれた。

 生まれるわが子の命を守るため、愛する人から離れることを望んだ彼女とは違う。



 表面上は平和に見える国。その裏側で陰惨な権力争いが続けられていると知る者は少ない。

 現王は名君で、諸外国との関係も良好。国内に目立った問題もない。

 見せかけの平和の中、ヴェルディは幾度となく命を狙われてきた。毒を盛られ生死の境を彷徨ったのも、物心つく頃には小さな両手で数え切れなくなっていた。

 疫病で亡くなった先代国王の死も、事情を知る者の中では謀殺との噂もあるほどだ。それより更に前に亡くなった先代王妃の死も。



 ヴェルディは仄暗い笑みを浮かべる。


「それでも、羨ましい…私には選べるものなど、何一つとしてありませんでしたから」


 王太子として、次期国王として。与えられるものを享受し、勝手な行動は許されない。

 少し羽目を外した結果が、幼子の大事な時間を奪うことになった。ヴェルディは忘れない。

 目の前の青年が呻いた。


「それを背負えというのか……好きで生まれたわけではないというのに!」

「…俺もですよ、兄上」


 異母兄が苦虫を噛み潰したような顔になる。

 ヴェルディは首を左右に振る。


「別に貴方に表舞台に立てと言っているわけではありません。貴方は貴方のままでいい」

「……」

「ただ、私と国王に『万が一』があった時…その時だけ、どうかこの国をお願いします」


 深々と頭を下げた。

 異母兄が慌てて立ち上がる。


「頭をお上げください!」


 いくら不敬な態度を取って見せても、彼はこの国の騎士である。王族に謝罪されることを甘受できない。

 根は真面目な性格なのだろうと、ヴェルディは僅かに目を細める。


「私もそう簡単に死んでやるつもりはありません。けれど、絶対はありません。そうなれば否が応にも貴方は巻き込まれます。その前に、ご自身で関わって欲しい…それが私の頼みです」


 異母兄が深い溜息を吐き、再び力なく椅子に座った。両手で顔を覆う。

 静かに隣に控えていた異母兄の母が口を開いた。


「どうか、息子に時間を頂けませんか?私はこの子に父親の事は何一つ話さずにまいりました。自分の出生ですら受け入れがたいのに、更にその先のことなど考えられないでしょう」

「……いいでしょう」


 横柄にも聞こえる返事をし、ヴェルディは立ち上がる。これは想定の範囲内だ。

 黙って控えていたハロンに目配せをし、彼は母子二人の住む家を出た。






   ◆◇◆◇◆◇






 建物の外で、マリスは馬の世話をしていた。

 結構無理をさせたので、馬も大分疲労している。帰りも頑張ってもらう。今のうちに十分な休息を取らせなければならない。

 四頭に水を飲ませ、汗を拭き、ブラッシングをし、餌とご褒美の角砂糖をやり…結構な時間が経ったが、ヴェルディたちが出てくる様子はない。

 そして偵察に出かけた弟も帰ってこない。


(あの阿呆…またどっかで未亡人引っ掛けてんのか)


 兄は馬に懐かれながら、苛立ちを覚えた。

 弟の女癖の悪さは周囲も知るところだ。いつもへらへらと締まりのない顔をしているが、あれが社交的で良いらしい。ちょっと頼りない姿が母性を擽るのだとか。実際仕事に通じているのだから問題ないのだが、年増好みというのが引っ掛かる。兄としては、可愛い妹が欲しい。

 世話のお礼をしたいのか、毛繕いと銘打って髪を毟ろうとするお馬さん方の親切をやんわりと断りつつ、周辺に注意を巡らせる。


 少し寂れた王都の衛星都市。街道警備隊の砦があるが、街道そのものからは少し外れているため、宿場町のような賑わいはない。だが王都へも近隣の宿場町へも手軽に出かけられる距離で、警備隊が傍にあるため治安も良く、自然も多い閑静な町だ。住む人に草臥れた様子はない。夏になれば、もう少し賑わうだろう。

 穏やかな緩慢な時に支配された場所。

 だからこそ、彼女は――或いは彼らは――この街を隠れ場所に選んだのだろう。


 マリスは一つの足音を聞き取った。耳慣れた足音だ。溜息を一つ漏らす。


「にいちゃ~ん!」


 まるで子供のように手を振って駆けてくる。パタパタと勢い良く振られる尻尾の幻覚が見えた。

 殴ってやりたい。

 と思ったことは取りあえず抑える。代わりに冷やかな一瞥を送る。


「遅かったな」

「……怒ってる?」


 平素と変わらぬ声のはずだったが、敏感に何かを感じ取った弟はしゅんと幻の耳を下げた。目を眇める。


「怒られるようなことをしてきたのか?」

「うん!」

「アルナスに伝えとく」

「やめて!給料減らされちゃう!!」

「あと、実家に帰ったら母さんにも言っとくわ」

「兄ちゃん、ホントにごめん!もうしないから、言わないで!!」


 ここでマリスが怒っても、反省はその場でだけなので、全く無駄な事は思い知っている。

 クレオが泣きながら縋りつく。

 兄は鬱陶しそうに引き剥がそうとしていると、それをじっと見つめてくる男がいる事に気付いた。首を傾けると、向こうも同じように傾けてくる。


「愚弟」

「なぁに?」

「お前は何をしに戻ってきた?」


 クレオは目を瞬かせる。そして兄の視線を辿る。それから手を打った。


「あっ、そうそう。兄ちゃん、ユリアナちゃんって知ってる?」

「ユリアナ?」

「うん。王宮で侍女やってるんだって」

「王宮に侍女がどんだけいると思ってんだお前」


 シェリオンに付いて王宮に上がった事もあるマリスだが、流石に侍女まで把握していない。

 クレオは「だよね~」と言いながら、眉を下げる。


「ごめんねぇ、お兄さん。やっぱり知らないって」

「そうかそれはすまなかったな手間を取らせた」


 抑揚を一切つけずに、一気に言った男はやはり無表情にこちらを見ていた。身なりから街道警備隊の騎士だろう。

 そういえば『彼』も騎士だといった。だとしたら、目の前の男とは同僚なのだろう。

 マリスは懐いてくる弟を引っぺがす。


「まだ何か?」

「この隣が俺の家だここの長男は俺の幼馴染で同僚でもある家族ぐるみの付き合いだそこに見も知らん何か目立つ奴が来たら不審に思うだろうこのまましょっ引いてみてもいいが俺は今日は非番だ面倒臭い」

「言いたいことは理解した。が、息継ぎをして話をしてくれないか」


 まるで嵐のように怒涛の如く言葉を紡ぐのだが、抑揚も切れ目もないので、何やら怪しい呪いを呟いているように聞こえる。何より、こちらの息が詰まる。

 男は頷く。


「よく言われる」


 けれど直らないのは、この喋り方ですっかり定着しているせいだろう。しかも直す気もない。

 後ろで弟が笑っている。


「凄いよねぇ、このお兄さん。すごい無表情でお喋りなの」


 で、お前はこのお喋りに付き合って、今の今まで戻らなかったと。

 無言で耳を摘まんで引っ張る。悲鳴と謝罪の声が上がるが気にしない。


「ここに来たのは護衛だ。理由までは知らない。だが、悪事を働きに来たわけではない」

「そうか…護衛というからにはそれほど腕が立つのかところでお前ら双子かよく似てるなお前が兄か性格は全く違うんだなそろそろ離してやらないのかかわいそうじゃないか」

「だから一気に喋るな!」


 思わず一喝してしまう。途端、男は口を閉ざす。

 マリスは大きく息を吐きだし、摘まんでいた弟の耳を離す。クレオは涙目で真っ赤になった耳を押さえる。


「戦闘訓練は受けているが、騎士や戦士ではない。だからそちらと手合わせする気はない。それから双子ではない。二つ違いの兄弟だ。弟はお調子者で、小さい頃から苦労させられているんだ。これくらいお仕置きにもならない」

「…驚いた」


 男が一言呟く。何度か頷いて、唐突に手を伸ばしてきた。

 マリスは反射的に叩き落とす。

 男は目を瞠る。それから無表情のまま手を引っ込めた。


「つまらん」

「何がだ。見知らぬ男の頭を撫でて何が楽しい」

「年下なら撫でる」


 いや、意味が解らない。とは言えなかった。

 建物の扉が開いた。

 ヴェルディとハロンに続いて、この家に住む母子が出てくる。


 元男爵令嬢と街道警備隊の騎士になった息子。


 息子は何度見ても、一瞬身構えてしまう。

 髪と瞳の色はヴェルディと同じだ。顔だちもどことなく似ている。


「エイルお前弟がいたのか」


 空気を読まない幼馴染という男が訊ねた。母子の顔が強張る。

 ヴェルディが振り返り、にこりと笑った。


「そんなに似てますか?」

「よく見ればそれほど似ているわけではないがかなり似てる腹違いの兄弟なら十分通用するレベルだし赤の他人といわれ……」

「リオン、黙ってくれ……」


 幼馴染が片手で顔を覆いながら懇願する。ピタリと男は口を閉ざした…のは一瞬だった。


「俺と二十三年幼馴染やってるのに止めるの下手だなこっちのお兄さんを見習え初対面にもかかわらず切れ目でピタリと止めるぞうちの妹に勝るとも劣ら……」

「頼むから!」

「煩いな俺は俺が喋りたいだけ喋る止めたいなら俺が止めていいと思えるタイミングできっちり止めろといつも言っているだろう二十三年付き合って未だに出来ないお前が悪い」

「解ったから、口を閉じてくれ」


 仕方なくマリスが止めた。するとピタリと止まり、満足そうに頷く。

 矢継ぎ早に言葉を紡ぐ男に、ヴェルディとハロンも目を真ん丸にしていた。目線だけで訊ねてくるので、マリスが答える。


「お隣にお住まいの方だそうです。見知らぬ者が訊ねてきたので、心配していらしたと」

「それは失礼しました。話は終わりましたので、私どもはこれで」


 ハロンが一礼し、男の視線を遮る。男はしばらくハロンを見つめていたが、我慢できなかったのか再び口を開いた。


「ユリアナ・リーデンを知らないか?」


 ピクリとヴェルディが反応する。男を振り返った顔は、驚きに満ちていた。


「どうして、その名を……」

「ユリアナは俺の妹だ知っているなら教えてくれ妹はどこに行った何があった行方不明という連絡があったきり何もないんだ」


 ヴェルディが表情を強張らせた。次いで視線を彷徨わせる。それがハロンの前で止まり、ハロンは眉根を寄せる。

 顰め面を作りつつ、ハロンは男に向き直った。


「ユリアナは知っている。けれど俺たちも、街に遣いに出て、そのまま戻らないという事しか知らない」

「王都は今誘拐事件が多発していると聞いた妹はそれに巻き込まれたのか?それとも別の事件なのか?」

「解らない。発動済みの魔法陣は発見されたが、同日に行方不明者が数名出ている。目撃者はない」


 ユリアナ・リーデン…王子宮の侍女だ。

 彼らの会話で、マリスは不意に思い出した。最初は思い出す努力もしていなかったのだと、少しばかり反省する。

 男が肩を落としたのが分かった。


「そうか…手間をかけた」

「リオン……」

「すまんな。お前の家に王都から人が来たと聞いて、どうしても訊かずにはいられなかった」


 一息置いた!

 マリスとクレオの驚きはそこだったが、口には出さない。彼らは空気を読む、出来る使用人だ。

 しょんぼりとした様子で、ユリアナの兄は去っていく。道を挟んだ隣の家だが。

 ヴェルディが異母兄に目を向けた。先ほどまでの動揺は掻き消していた。

 視線を受け、今度は向こうが強張る。


「良いお返事を期待しています、兄上」


 何か苦い物でも飲み込んだような顔になる。片手で顔を覆う。それがずれるように移動し、髪を掻き毟った。


「なぜ…いまごろ……」


 苦悶する声は、恨みをも孕んでいる。伏せた目には動揺と怒り。

 マリスの手が体の芯にまで浸み込ませた反射で、懐に隠した武器を握った。恐らく向こうは気付いていないだろう。隣の弟が僅かに視線を送ったくらいだ。

 息子の背に母が手を置く。


「…もしこの子が、貴方の意にそぐわない答えを出したら…どうなさいますか?」

「どうにもできません。初めに申し上げました。この件は私の独断です」


 ヴェルディははっきりと答え、そして微笑んだ。


「俺はいつも守られてきました。でもそれは、両親にじゃない。幼馴染とその家族です」

「え…」

「幼馴染には弟妹がいます。小さな俺はそれが羨ましくて…向こうも気付いたんでしょうね。彼らは俺の事も兄と呼んでくれます」


 唐突に全く関係ないように思われる話をし始めたヴェルディに、異母兄はきょとんとしている。

 ヴェルディは構わず話し続ける。


「一番下の弟はもうすぐ十一になる。でも、中身は五歳のままで、五年以上も独りぼっちにしてしまった。俺の我儘で。でも、誰も俺を責めなかったんです。大事な弟を失った幼馴染でさえ」


 王太子である彼を責めることなど、誰が出来ただろう。それに直接関わったわけではない。彼はほんの少し、堅苦しい世界を抜け出しただけに過ぎない。

 王太子の背に、数年前のシェリオンの姿が重なった。いつも俯いて、背中を丸めて歩いていた頃だ。ヴェルディの背は丸まっていないし、あんなに小さくもない。けれど寂しそうな後姿がどうしてか、マリスの目に重なって見えた。

 

「俺も守る側に立ちたいんです。王子としてではなく、兄として」

「その、末の弟君を、ですか?」

「私の後に擁立されるのは、その子です。私の次に殺されるのも」


 マリスとクレオがぎょっとして目を見開いた。流石に感情を隠しきれない。

 母子も同じである。

 ヴェルディだけが淡々と、話をする。


「私は国を守らなければならないけれど、俺は弟を守ってやりたい。その為には、実の兄だって利用します。だってズルいじゃないですか。小さな子にすべて押し付けて、自分は安全な場所でのうのうと生きてるなんて」


 まるで子供のような発言だ。これが本音なのだろう。

 息子の方が視線を下げる。固く握られた手が震えていた。

 ヴェルディは言いたいことを言えたのか、そのまま踵を返す。マリスから馬の手綱を受け取った。


「待たせたな。帰ろうか」

「はい」


 短く返事をし、彼らは騎乗する。後ろでは母親の方が深く頭を下げていた。




 街中では馬を走らせられないから、速足で歩かせることになる。けれど街を抜けても、ヴェルディは速度を上げなかった。

 ふ…と、後ろに控えていても解るほど、大きな息が吐きだされた。肩が下がる。


「二人はクラルバーニュ大公は知っているか?」

「お名前だけは」

「大公家との因縁は?」

「…噂話程度に」

「ふうん?珍しいな。マリス、お前が知らないなんて」


 振り返った視線に、マリスは少しだけ困惑を表情に出す。


「上からきつく言い渡されております。大公家には関わるな、と」

「それは公爵が?」

「『大人たちから』でございます」


 ヴェルディとハロンが首を傾げた。

 マリスも、謎かけでこんなことを言ったのではない。文字通りなのだ。

 公爵は勿論、長・執事・家令・両親にまで、幼い頃から強く言い聞かせられてきた。決して大公家には近づいてはならない、と。マリスとクレオだけではない。恐らく公爵家に仕える者全てに、この言葉は言われているはずだ。

 簡単にそれを説明する。


「私も弟も、大公の事は市井に出回る噂話でしか存じ上げません」

「徹底してんなぁ」


 ハロンが呆れ半分に言った。

 ヴェルディは笑っていない。真剣な顔のままだ。


「グランフェルノ家がそれほど警戒する相手という事だ」

「王女の降嫁を阻まれたってだけで、そこまで根に持つかぁ?」

「それだけじゃない」


 ヴェルディはそれだけ言って、突然馬足を上げた。

 三人は無言でそれに続く。もう彼は何も言わないだろう。



 マリスは彼らの言葉の端々から推測する。

 恐らく、クラルバーニュ大公は時の王女リンジェリンを妻として望んだ。けれどそれは叶わず、王女は先代グランフェルノ公爵のもとに嫁いだ。クラルバーニュ大公が王女を望んだのは、第一王子でありながら人柄に問題ありとして継承権を外された、父親の敵討ちの為か。王女を娶り、再び彼らが王族直系として返り咲く。そして王位をといった所だろう。恋愛感情もあったのかもしれないが。

 それが今、自分の幼い主を狙っている。もしかしたら、誘拐事件にも絡んでいるのかもしれない。


(なんだ…敵か……)


 マリスの口元が弧を描いた。



「……兄ちゃん?」


 不穏な気配を敏感に感じ取った弟が、不安げな声を出す。

 一瞬で表情を消す。クレオを一瞥すると、鋭い閃光が走った。魔獣の悲鳴が上がる。


「油断するな。敵は人ばかりじゃない」

「……怖っ」


 首振り人形の如くこくこくと頷く弟の向こうから何か聞こえたが、さくっと無視する。







 彼らが王都に帰り着いたのはギリギリ当日のうちで、待ち構えていた近侍からの小言は回避された。

 その代わり、残酷な報告を受けるのである……







誤字脱字、表現ミスなどの報告、お願いします。


一部読み辛い部分があると思いますが、仕様です。聞き取り辛い=読み辛いにしておりますw

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