公爵令息の授業風景
「さあ!今日は前回まで教えたステップを実践するわよ!!」
今日も一際テンション高く、ダンス講師のシリル・フォーンティアッドは宣言した。
何故か女性言葉だが、れっきとした男性である。すらりとした長身で、金色の髪に切れ長の緑の瞳が爽やかな印象を与える。
が、口を開けば残念さが際立つ。
最初は驚かされたが、今ではすっかり慣れた。レグルスはにっこりと笑う。
「実践ですか?お相手はどうするのです?」
「フフフ…抜かりはなくってよ!いらっしゃい、セレスティーヌ!!」
フリも大仰に、扉を開く。その向こうからはクリーム色のドレスをまとった少女が現れた。
ストロベリーブロンドというのか、赤味がかった金髪に、シリルと同じ緑の瞳。髪は纏められ、リボンで結われている。背はレグルスと同じくらいだが、年は二つ三つ下だろう。
彼女は淑女の礼を取った。
この場合、目上のレグルスから言葉をかけなければならない。
「初めまして。レグルス・グランフェルノです」
「お初お目にかかります。シリル・フォーンティアッドの姪、セレスティーヌと申します。本日は精一杯務めさせていただきますので、よろしくお願いいたします」
「こちらこそ。練習相手を承諾してくださって、ありがとうございます」
丁寧なあいさつに、レグルスは笑顔を保ったまま彼女に答えた。
セレスティーヌが顔を上げる。可愛らしく微笑む。
「セレスは貴方より二つ下だけれど、腕は確かよ。さあさ、始めましょ!」
シリルが手を叩く。
レグルスはセレスティーヌに手を差し出す。小さな手が重なると、基本の姿勢から指導が始まる。
「ほら、姿勢!レグルス様、猫背になっているわよ」
「はいっ」
早速叱られて、レグルスはピッと背を伸ばす。更に手の位置や顔の位置を直された。
ダンスの授業に使われる今日の奥広間は、壁中に鏡が設置されている。
シリルは鏡に映るレグルスを指さした。
「よぉく見て。覚えなさい。これが最も美しい姿勢」
「はい」
彼はレグルスの返事に満足げに頷くと、女中に視線を移す。
女中が壁際に置かれた魔具を操作する。そこからゆったりとしたピアノの音色が流れ始める。三拍子の曲だ。
シリルが微笑む。
「まずはスローワルツから。1・2・はいっ」
すっと足がステップを踏み始めた。
三拍子の基本のワルツから、二拍子四拍子のステップへと移り、少々難度の高いステップを踏み間違えてレグルスが転んだ。セレスを避け、床に肩から滑り込む。
「………豪快ね」
シリルが肩を竦める。音を止め、レグルスの傍にしゃがんだ。
「セレスの足を踏まないように気を遣ったのは解るけれど、転んだら駄目よぉ?」
「ううっ…格好悪いのです……」
レグルスは顔を真っ赤にしていた。よろよろと立ち上がる。
セレスティーヌは最初こそ驚いた様子で目を丸くして見つめていたが、やがてにこりと笑った。
「少しなら、踏んでいただいても大丈夫ですわ」
そう言って、ドレスを摘まんで、スカートの裾を僅かに上げる。靴のつま先で床を叩くと、コンコンという固い音が響いた。
「特注の靴ですわ。鉄板を仕込んでありますの」
「…重くありませんか?」
「痛い思いをするよりはマシですもの」
涼しい顔でドレスを直す。
レグルスはほっと息を吐いた。パタパタと服を払う。
セレスティーヌは控えめに笑った。それから頭を下げる。
「でも、ありがとうございます」
セレスティーヌは、叔父の依頼でレッスンの相手役を度々努めている。彼女と同じくらい、または少し年上の子供たちは皆、間違えた上に勢いよく踏んづけてくれるのだ。自分のバランスを崩してまで避けてくれる相手はいなかった。
レグルスは首を傾げた。
「女の子に怪我をさせるわけにはいきませんから」
「その心意気は買うけれど、本番で転んだら、恥ずかしいどころじゃないわよ」
「あう~……」
シリルの厳しい指摘に、再びレグルスは顔を赤くするのだった。
「もう一度、と言いたいところだけれど、少し休憩しましょ。セレスも疲れたでしょう?」
「ええ、叔父様」
下手な相手と踊るのは大変である。初めてにしてはなかなか筋のいいと思われるレグルスだが、それは上手なセレスティーヌが相手をしてくれるからだ。
まだまだなのは自覚済みなので、レグルスは少女を気遣って手を差し伸べた。壁際に用意された長椅子へと誘う。セレスティーナを座らせて、自分も隣に座った。ふうっと息を吐く。
「そういえばレグルス様。マナー講師をクビにしたんですって?」
「耳が早いですね」
レグルスは呆れた様子でシリルを見上げた。
家庭教師に相談したのは今朝のこと。決定したのは昼前だ。
シリルはにんまりと笑う。
「ふふん。執事に相談いただく程度には、人脈もあるのよ」
得意げに胸を張るシリルに、レグルスは肩を竦める。
だがシリルは、すぐに真顔に戻った。
「でも意外と遅かったわね」
「…どういう事です?」
「同業の間では有名なんだけどね。アイツ、あんまりいい噂がないのよ。公爵家に雇われたって聞いて、驚いたもの」
シリルの話だと、生徒である子供に地味な暴力をふるう事が多かったらしい。具体的には細い棒で叩いたり、足を引っ掛けて転ばせたり。その半面、見目の良い子供だとあちこち触ったり。
「服を脱がされた子もいたらしいわよ。よく訴えられないわよねぇって話をしたんだけど、どうやら有力貴族の隠し子らしいのよ」
今更だが、ぞわっと全身が総毛だった。顔を強張らせて、両腕をさする。
「世の中変態ばかりです」
「あらぁ?どーゆー意味かしら?」
シリルが笑顔を張り付けて、レグルスの額を軽く小突いた。
シリルは言葉使い以外は男である。たまにしなを作るが、基本的に第三の人種に間違えられることは無い。恋愛対象も女性だ。
レグルスは首を傾げる。
「シリル先生のは、お仕事で必要なのでしょう?」
「…そうね。レグルス様くらいの子なら大丈夫なんだけど」
困ったように頬に手を当て、小さく溜息を吐く。
成人前後の令嬢相手だと、いろいろ問題があるらしい。問題を回避しているうちに、こうなったという。
「そうそう」と、シリルは手を打つ。
「話を戻すけれど、マナー講師の件ね。私でよければ引き受けましょうかって事になったの」
「シリル先生が?」
「ええ。こう見えても、子爵家の出身ですからね。一通りできるわよ」
「……少し、考えさせてください」
「何でよっ?」
レグルスは口元に手を当て、視線を逸らせた。
「ほぼ毎日シリル先生は、正直キツいです……」
「失礼ね!」
「ふっ…ふふ……」
腰に手を当てて憤慨するシリルを前に、姪が耐え切れずに笑い出す。口に手を当てて笑い声を殺そうとするが、すでに色々漏れている。
セレスティーヌは二人の視線を受け、はたと我に返った。つんと澄ましてみせるが、もう遅い。叔父に額をつつかれた。
「セレスぅ?叔父様、泣いちゃうわよぉ?」
「だって…ふふっ……うん。毎日叔父様は辛いわ」
「本当に泣くわよ!?」
両手で顔を覆って泣き真似をするシリルに、幼い二人は顔を見合わせて笑った。
手の隙間からそれを見ていたシリルは、「あら?」と首を傾げる。それから二人の間に割って入る。しっかりと姪を抱きしめながら、レグルスに忠告する。
「ちょっとレグルス様。セレスはダメよ?」
「はい?」
「そもそもレグルス様には、候補の方がいらっしゃるでしょ?」
「何の話です?」
レグルスは不思議そうにシリルを見る。
セレスティーヌが眉を寄せた。体に回る腕を指で抓んで、ギュッと力を入れる。
痛みに顔を顰めたシリルが視線を落とす。
「痛いじゃない」
「わたくしもレグルス様もそんな事考えてませんわ。失礼です」
「そんなこと?」
レグルスだけが付いていけず、頭の周りに疑問符を飛ばしている。
レグルスはもちろん、セレスティーヌに恋愛感情を抱いていない。飽く迄子供らしい感情の中、彼女に接している。
けれど周りの大人はそう思わない。
シリルは苦笑いを零し、改めてレグルスに向き直った。
「セレスは大事なうちの跡取りですからね」
「そんなに大事なら、連れてきちゃダメです」
よく解らないなりに、レグルスは反論する。
「大事なら、ちゃんとしまっておきなさい。進んで僕に関わらせる必要はありません」
「あ、あら…?」
「やっぱり、シリル先生にマナー講師は無理ですよ。お断りさせて頂きます」
レグルスは椅子から降りた。姿勢を正しふっと一つ息を吐き出せば、顔から感情が消える。
物凄く気合を入れねばならないが、やろうと思えば出来るのだ。冷徹で尊大。公爵家の子息にふさわしい振る舞いが。
父譲りの薄い水色の瞳がシリルを射抜く。
パンっと高い音が鳴った。
レグルスが扉の方を向けば、執事が手を合わせて佇んでいた。目が合えばにこりと微笑む。
「休憩なさるのでしたら、お茶はいかがですか?美味しいお菓子もご用意いたしました」
レグルスはちらりとシリルを見た。ばつの悪そうなシリルに、溜息を吐く。
「お願いします。あと、何か冷やすものをください」
「どうかされましたか?」
「転んだ際に打ち付けた肩が、なんだか痛みを増してきたのです」
「それは大変です。別室で様子を見ましょう」
執事は顔を曇らせ、レグルスを室外へと連れ出した。
シリルはほっと息を吐く。そんな叔父に対し、今度はセレスティーヌが冷ややかな視線を送った。
「軽口もほどほどになさらないと、職を失いましてよ」
「解雇を言い渡されなければ、気を付けるわ」
肩を竦めてみせるが、本当に反省しているかどうかはわからない。
女中がお茶を整え、下がっていく。広間には二人だけとなった。
セレスティーヌは舌打ちを漏らす。
「せっかく噂のご本人と直接お話しできる良い機会だったのに…何とかお近づきになりたかったのに」
「だからアンタに近づけたくなかったのよ」
叔父は苦虫を噛み潰したように、顔を歪めた。
シリルは姪がただならぬ傑物だと知っている。日頃は流石はあの祖父の曾孫だと感心するだけだが、今回はそうはいかない。
実年齢こそ姪より二つ上だが、行動に端々に幼さを滲ませる愛らしい公爵令息。姪の毒牙にかけるのはあまりにも忍びない。
セレスティーヌは椅子に座りなおし、用意されたお茶に手を伸ばす。
「お優しい叔父様。でも、だから子爵家の跡取りになれないのよ」
「なりたいとも思わないわよ。あの古狸の跡なんて真っ平ゴメンだわ」
「ふふふ…それに叔父様の杞憂かもしれなくてよ?」
「……どういうことかしら?」
セレスティーヌは口角を釣り上げた。
「どんなに幼く見えても、公爵グランフェルノ家の子供だってこと。意外と付け入るスキがなくて困るわ」
「あら?アンタが手こずりそうなんて珍しいわね」
「あれくらいの年の男の子なんて、ちょっと煽てればすぐに調子に乗るのに…社交辞令のように流してくれちゃって、やり辛いったら……」
「確かに、一筋縄ではいかないようね」
肩を竦めて首を振るセレスティーヌに、シリルは苦笑する。
彼女は叔父を見上げ、その視線があらぬ方向を向いていることに気付いた。後ろを振り返って、体を強張らせる。
壁中に立てかけられた鏡の向こうに、外に通じる窓があった。その窓が開いていて、風に青銀色の髪が揺れているのが見えた。
「……ウォーテルおじいちゃまは、ぼくを利用しようなんてなさいませんでしたよ」
それだけ言い残し、窓の向こうへ消えていく。
セレスティーヌの強張った顔を見て、シリルは噴出した。
「向こうが上手だったわねぇ」
祖父の名まで出されては、これ以上セレスティーヌが彼に付け入る事は出来ない。彼女の顔が悔しさに歪む。
シリルがぽんぽんと姪の頭を撫でた。
レグルスは隣の部屋に戻ると、大きく息を吐き出した。肩をさする。
マリスが上着を脱がせた。
シャツのボタンは自分で外し、肩を見る。何とか背中の方を見ようと体を捩る。
「痛みますか?」
「う~、ひりひりするのです。どうなってますか?」
何となく赤くなっているようなのだが、よく見えない。
そっと肌をなぞったマリスは、眉を顰めた。
「内出血をしております。どういう転び方をなさったんですか」
氷嚢を当てられて、びくりと体が竦んだ。冷たさに驚いたのは最初だけで、次第に気持ち良くなる。僅かに痛みが和らぐ。
ふにゃりと顔が緩む。
「冷たくて気持ちいいのです」
「はいはい。エミール先生にさっさと治してもらいましょうね」
「あうっ。治されたらサボれないのです!」
衝撃にレグルスの本音が漏れた。
マリスは頭痛がしそうになり、こめかみを押した。
治癒魔法に頼りすぎるのは良くないと言われている。普段ならこの程度の傷、自然に治るに任せるのだが、このままでは授業の進み具合に影響する。
ただでさえ色々と詰め込まねばならない状況で、それは非常によろしくない。
レグルスは残念そうに眉を下げた。
「お休み、出来ないのです」
「後が大変になりますよ」
冷静に指摘されれば、レグルスは拗ねるしかない。口を尖らせ、足をばたつかせる。
「だって…お勉強は嫌いではないけれど、孤児院に遊びに行けなくなっちゃったのです。それに怖い女の子は来るし」
ふっとマリスが笑う。
その声を聴き、レグルスはますます機嫌を悪くする。
「見た目は可愛いのに、中身があんななんてガッカリです」
「おませで可愛らしいお嬢様ではありませんか」
「…それは年長者の余裕なのです……」
レグルスはがっくりと肩を落とす。途端ピリッとした痛みが走り、顔を顰める。
やがて執事がエミールを伴って部屋に戻ってきて、怪我は治されてしまった。渋々広間に戻る。
一歩足を踏み入れた瞬間から、ピンと空気が張り詰める。レグルスは反射的に作り笑顔となった。視線の先はダンス講師の姪がいる。
彼女も負けじと笑顔を取り繕っていた。
シリルだけが変わらない。
「お怪我はど~お?」
「大した事はありませんでした。ご心配おかけしました」
「無理しちゃダメよ。今日はこれで終わりにしましょうか」
「いいえ。全く問題ありませんので、続けてください」
執事が言った。
厳しい言い方にレグルスは首を竦め、シリルは目を見張った。
だがシリルはすぐに笑みを浮かべる。
「それではそのように。レグルス様、休憩は終了でいいかしら?」
「はい」
「じゃあ、セレス。準備なさい」
彼女は椅子から降りると、すっと手を差し出した。
二人の間にはまだ距離がある。だが、セレスティーヌはそれ以上前に出ようとしない。我儘なお嬢様のように、尊大にふるまうだけだ。
レグルスは眉ひとつ動かさず、彼女の手を取るために進み出た。差し出したまま微動だにしない小さな手を取る。
「今度は転ばぬようにお願いいたします」
「代わりにおみ足を踏みつけることになると思いますけれど、許してくださいね」
鉄板入りの靴は今、ふんわり膨らんだスカートの中に隠れている。が、コンコンという音が聞こえた。
準備は万端。二人は中央へ進んだ。シリルに言われる前に姿勢を整える。
(吹雪が見えるわぁ…)
二人とも笑顔なだけに怖い。
シリルはそっと笑みをこぼし、手を打った。
「音楽をお願い」
控えていた女中が魔具を操作する。先ほどと同じ音楽が流れ始めた。
「最初から。はい!」
二人がステップを踏み始める。
シリルは「あら?」と頬に手を当てる。セレスティーヌも一瞬だけ目を見張った。
先程までもたついて、ついつい視線も下げがちだったものが、全て消え失せていた。堂々と足を運んでいる。
シリルがほうと息を吐いた。
「やだ。出来てるじゃない」
「どういうわけか、極度の緊張状態に置かれますとお出来になられるのです」
執事が淡々と述べる。
日頃はの幼い部分が目立ち、のんびりとした様子が伺える。ところが何かのきっかけ一つで、いつもは噛み合わない歯車が嵌ったかのように、すんなりとこなすようになるのだ。
では普段、それを隠しているのかといえば、そうでもないようだ。勉強は真面目にこなすが、時に嫌々という様子を隠そうともしない。そして出来ないものは出来ない。時に怒られながら、机にへたれている。
何よりも、のんびりおやつを食べながらお茶を飲みつつ、本を読むのが好き。小さな頃からの性格は変わっていないのだ。
位置を変えながら、小さな二人がくるくると回っている。表面的にはにこやかに。
「先程もこれだけ踊ってくだされば、痛い思いをせずに済みましたのに」
「…セレスティーヌ嬢のお蔭です」
レグルスは目を細めてみせる。軽く腕を上げれば、セレスティーヌはクルリと回る。
「感謝は形にしてくださいまし」
「あはは。ご冗談を。こちらに利子が欲しいくらいですのに」
「まあ酷い。可愛いお願いの一つや二つ、聞くのが男の甲斐性でしてよ」
「可愛いのはお顔だけでしょう?」
「ふふふ。お褒めに預かり光栄ですわ」
ほんのりと頬を紅く染める。
レグルスも笑みを深くした。
「本当にお顔だけは可愛くて困ります」
「……本気で仰ってますの?」
「質の悪い冗談は言いません」
セレスティーヌは一瞬呆気にとられた。だが足は止まらない。我に返った彼女は大きく息を吐いた。
曲が変わる。レグルスが転んだ曲になった。だが、今度は戸惑う様子さえ見せない。滑らかにステップを踏んでいく。
「レグルス・グランフェルノ」にこの曲は難しい。けれど「彼」ならば、それほど大変なことではない。今は白い靄となって漂う彼の一部を纏えば、何も問題はない。
ただし、これを使うのは非常時だけとレグルスは決めている。自分の為にならないと知っているからだ。レグルス自身の実力で、彼に追いつかねばならない。いや、越えなければならない。そうでなければ、彼でさえ手を焼くだろう『王国守護隊長の双剣の奪還』は出来ない。
レグルスはふわりと笑う。
「ですが、嫌いではありませんよ。我儘なだけの令嬢より、遥かに好ましいです」
最後までミス一つせずに踊り切って、レグルスは足を止めた。腰に回していた手を放し、握っていた手に顔を寄せた。
セレスティーヌがはっと手を引いた。
レグルスは驚いて顔を上げる。踊った後、手に口付けるふりをするのは、礼儀作法の一つだ。本当にするわけでもなし、拒否されることは普通はない。
そこにはセレスティーナの真っ赤な顔があった。目を潤ませ、口をパクパクとさせている。
キョトンとしていると、彼女がくるりと背を向けた。シリルに向かって走っていく。
「叔父様ぁ!苛められましたのぉ!!」
「お待ちなさい!何を言い出しますか!?」
シリルに抱き付いたセレスティーヌはべーっと舌を突き出した。レグルスは口をへの字に曲げる。
子供たちの応酬に、大人たちは苦笑いを零すのだった。
◆◇◆◇◆◇
「オンナノコ、メンドクサイデス」
二人を見送った後、ふらふらと母のもとにやって来たレグルスは、そう言って母に倒れ込んだのである。
誤字脱字の指摘、お願いします。
拍手ぽちっと&コメント、ありがとうございます。
レスは活動報告で。