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遠い記憶の守人  作者: 名波 笙
成長記録
55/99

公爵令息の授業風景







「さあ!今日は前回まで教えたステップを実践するわよ!!」


 今日も一際テンション高く、ダンス講師のシリル・フォーンティアッドは宣言した。

 何故か女性言葉だが、れっきとした男性である。すらりとした長身で、金色の髪に切れ長の緑の瞳が爽やかな印象を与える。

 が、口を開けば残念さが際立つ。

 最初は驚かされたが、今ではすっかり慣れた。レグルスはにっこりと笑う。


「実践ですか?お相手はどうするのです?」

「フフフ…抜かりはなくってよ!いらっしゃい、セレスティーヌ!!」


 フリも大仰に、扉を開く。その向こうからはクリーム色のドレスをまとった少女が現れた。

 ストロベリーブロンドというのか、赤味がかった金髪に、シリルと同じ緑の瞳。髪は纏められ、リボンで結われている。背はレグルスと同じくらいだが、年は二つ三つ下だろう。

 彼女は淑女の礼を取った。

 この場合、目上のレグルスから言葉をかけなければならない。


「初めまして。レグルス・グランフェルノです」

「お初お目にかかります。シリル・フォーンティアッドの姪、セレスティーヌと申します。本日は精一杯務めさせていただきますので、よろしくお願いいたします」

「こちらこそ。練習相手を承諾してくださって、ありがとうございます」


 丁寧なあいさつに、レグルスは笑顔を保ったまま彼女に答えた。

 セレスティーヌが顔を上げる。可愛らしく微笑む。


「セレスは貴方より二つ下だけれど、腕は確かよ。さあさ、始めましょ!」


 シリルが手を叩く。

 レグルスはセレスティーヌに手を差し出す。小さな手が重なると、基本の姿勢から指導が始まる。


「ほら、姿勢!レグルス様、猫背になっているわよ」

「はいっ」


 早速叱られて、レグルスはピッと背を伸ばす。更に手の位置や顔の位置を直された。

 ダンスの授業に使われる今日の奥広間は、壁中に鏡が設置されている。

 シリルは鏡に映るレグルスを指さした。


「よぉく見て。覚えなさい。これが最も美しい姿勢」

「はい」


 彼はレグルスの返事に満足げに頷くと、女中に視線を移す。

 女中が壁際に置かれた魔具を操作する。そこからゆったりとしたピアノの音色が流れ始める。三拍子の曲だ。

 シリルが微笑む。


「まずはスローワルツから。1・2・はいっ」


 すっと足がステップを踏み始めた。







 三拍子の基本のワルツから、二拍子四拍子のステップへと移り、少々難度の高いステップを踏み間違えてレグルスが転んだ。セレスを避け、床に肩から滑り込む。


「………豪快ね」


 シリルが肩を竦める。音を止め、レグルスの傍にしゃがんだ。


「セレスの足を踏まないように気を遣ったのは解るけれど、転んだら駄目よぉ?」

「ううっ…格好悪いのです……」


 レグルスは顔を真っ赤にしていた。よろよろと立ち上がる。

 セレスティーヌは最初こそ驚いた様子で目を丸くして見つめていたが、やがてにこりと笑った。


「少しなら、踏んでいただいても大丈夫ですわ」


 そう言って、ドレスを摘まんで、スカートの裾を僅かに上げる。靴のつま先で床を叩くと、コンコンという固い音が響いた。


「特注の靴ですわ。鉄板を仕込んでありますの」

「…重くありませんか?」

「痛い思いをするよりはマシですもの」


 涼しい顔でドレスを直す。

 レグルスはほっと息を吐いた。パタパタと服を払う。

 セレスティーヌは控えめに笑った。それから頭を下げる。


「でも、ありがとうございます」


 セレスティーヌは、叔父の依頼でレッスンの相手役を度々努めている。彼女と同じくらい、または少し年上の子供たちは皆、間違えた上に勢いよく踏んづけてくれるのだ。自分のバランスを崩してまで避けてくれる相手はいなかった。

 レグルスは首を傾げた。


「女の子に怪我をさせるわけにはいきませんから」

「その心意気は買うけれど、本番で転んだら、恥ずかしいどころじゃないわよ」

「あう~……」


 シリルの厳しい指摘に、再びレグルスは顔を赤くするのだった。


「もう一度、と言いたいところだけれど、少し休憩しましょ。セレスも疲れたでしょう?」

「ええ、叔父様」


 下手な相手と踊るのは大変である。初めてにしてはなかなか筋のいいと思われるレグルスだが、それは上手なセレスティーヌが相手をしてくれるからだ。

 まだまだなのは自覚済みなので、レグルスは少女を気遣って手を差し伸べた。壁際に用意された長椅子へと誘う。セレスティーナを座らせて、自分も隣に座った。ふうっと息を吐く。


「そういえばレグルス様。マナー講師をクビにしたんですって?」

「耳が早いですね」


 レグルスは呆れた様子でシリルを見上げた。

 家庭教師に相談したのは今朝のこと。決定したのは昼前だ。

 シリルはにんまりと笑う。


「ふふん。執事に相談いただく程度には、人脈もあるのよ」


 得意げに胸を張るシリルに、レグルスは肩を竦める。

 だがシリルは、すぐに真顔に戻った。


「でも意外と遅かったわね」

「…どういう事です?」

「同業の間では有名なんだけどね。アイツ、あんまりいい噂がないのよ。公爵家に雇われたって聞いて、驚いたもの」


 シリルの話だと、生徒である子供に地味な暴力をふるう事が多かったらしい。具体的には細い棒で叩いたり、足を引っ掛けて転ばせたり。その半面、見目の良い子供だとあちこち触ったり。


「服を脱がされた子もいたらしいわよ。よく訴えられないわよねぇって話をしたんだけど、どうやら有力貴族の隠し子らしいのよ」


 今更だが、ぞわっと全身が総毛だった。顔を強張らせて、両腕をさする。


「世の中変態ばかりです」

「あらぁ?どーゆー意味かしら?」


 シリルが笑顔を張り付けて、レグルスの額を軽く小突いた。

 シリルは言葉使い以外は男である。たまにしなを作るが、基本的に第三の人種に間違えられることは無い。恋愛対象も女性だ。

 レグルスは首を傾げる。


「シリル先生のは、お仕事で必要なのでしょう?」

「…そうね。レグルス様くらいの子なら大丈夫なんだけど」


 困ったように頬に手を当て、小さく溜息を吐く。

 成人前後の令嬢相手だと、いろいろ問題があるらしい。問題を回避しているうちに、こうなったという。

 「そうそう」と、シリルは手を打つ。


「話を戻すけれど、マナー講師の件ね。私でよければ引き受けましょうかって事になったの」

「シリル先生が?」

「ええ。こう見えても、子爵家の出身ですからね。一通りできるわよ」

「……少し、考えさせてください」

「何でよっ?」


 レグルスは口元に手を当て、視線を逸らせた。


「ほぼ毎日シリル先生は、正直キツいです……」

「失礼ね!」

「ふっ…ふふ……」


 腰に手を当てて憤慨するシリルを前に、姪が耐え切れずに笑い出す。口に手を当てて笑い声を殺そうとするが、すでに色々漏れている。

 セレスティーヌは二人の視線を受け、はたと我に返った。つんと澄ましてみせるが、もう遅い。叔父に額をつつかれた。


「セレスぅ?叔父様、泣いちゃうわよぉ?」

「だって…ふふっ……うん。毎日叔父様は辛いわ」

「本当に泣くわよ!?」


 両手で顔を覆って泣き真似をするシリルに、幼い二人は顔を見合わせて笑った。

 手の隙間からそれを見ていたシリルは、「あら?」と首を傾げる。それから二人の間に割って入る。しっかりと姪を抱きしめながら、レグルスに忠告する。


「ちょっとレグルス様。セレスはダメよ?」

「はい?」

「そもそもレグルス様には、候補の方がいらっしゃるでしょ?」

「何の話です?」


 レグルスは不思議そうにシリルを見る。

 セレスティーヌが眉を寄せた。体に回る腕を指で抓んで、ギュッと力を入れる。

 痛みに顔を顰めたシリルが視線を落とす。


「痛いじゃない」

「わたくしもレグルス様もそんな事考えてませんわ。失礼です」

「そんなこと?」


 レグルスだけが付いていけず、頭の周りに疑問符を飛ばしている。

 レグルスはもちろん、セレスティーヌに恋愛感情を抱いていない。飽く迄子供らしい感情の中、彼女に接している。

 けれど周りの大人はそう思わない。

 シリルは苦笑いを零し、改めてレグルスに向き直った。


「セレスは大事なうちの跡取りですからね」

「そんなに大事なら、連れてきちゃダメです」


 よく解らないなりに、レグルスは反論する。


「大事なら、ちゃんとしまっておきなさい。進んで僕に関わらせる必要はありません」

「あ、あら…?」

「やっぱり、シリル先生にマナー講師は無理ですよ。お断りさせて頂きます」


 レグルスは椅子から降りた。姿勢を正しふっと一つ息を吐き出せば、顔から感情が消える。

 物凄く気合を入れねばならないが、やろうと思えば出来るのだ。冷徹で尊大。公爵家の子息にふさわしい振る舞いが。

 父譲りの薄い水色の瞳がシリルを射抜く。

 パンっと高い音が鳴った。

 レグルスが扉の方を向けば、執事が手を合わせて佇んでいた。目が合えばにこりと微笑む。


「休憩なさるのでしたら、お茶はいかがですか?美味しいお菓子もご用意いたしました」


 レグルスはちらりとシリルを見た。ばつの悪そうなシリルに、溜息を吐く。


「お願いします。あと、何か冷やすものをください」

「どうかされましたか?」

「転んだ際に打ち付けた肩が、なんだか痛みを増してきたのです」

「それは大変です。別室で様子を見ましょう」


 執事は顔を曇らせ、レグルスを室外へと連れ出した。

 シリルはほっと息を吐く。そんな叔父に対し、今度はセレスティーヌが冷ややかな視線を送った。


「軽口もほどほどになさらないと、職を失いましてよ」

「解雇を言い渡されなければ、気を付けるわ」


 肩を竦めてみせるが、本当に反省しているかどうかはわからない。

 女中がお茶を整え、下がっていく。広間には二人だけとなった。

 セレスティーヌは舌打ちを漏らす。


「せっかく噂のご本人と直接お話しできる良い機会だったのに…何とかお近づきになりたかったのに」

「だからアンタに近づけたくなかったのよ」


 叔父は苦虫を噛み潰したように、顔を歪めた。

 シリルは姪がただならぬ傑物だと知っている。日頃は流石はあの祖父の曾孫だと感心するだけだが、今回はそうはいかない。

 実年齢こそ姪より二つ上だが、行動に端々に幼さを滲ませる愛らしい公爵令息。姪の毒牙にかけるのはあまりにも忍びない。

 セレスティーヌは椅子に座りなおし、用意されたお茶に手を伸ばす。


「お優しい叔父様。でも、だから子爵家の跡取りになれないのよ」

「なりたいとも思わないわよ。あの古狸の跡なんて真っ平ゴメンだわ」

「ふふふ…それに叔父様の杞憂かもしれなくてよ?」

「……どういうことかしら?」


 セレスティーヌは口角を釣り上げた。


「どんなに幼く見えても、公爵グランフェルノ家の子供だってこと。意外と付け入るスキがなくて困るわ」

「あら?アンタが手こずりそうなんて珍しいわね」

「あれくらいの年の男の子なんて、ちょっと煽てればすぐに調子に乗るのに…社交辞令のように流してくれちゃって、やり辛いったら……」

「確かに、一筋縄ではいかないようね」


 肩を竦めて首を振るセレスティーヌに、シリルは苦笑する。

 彼女は叔父を見上げ、その視線があらぬ方向を向いていることに気付いた。後ろを振り返って、体を強張らせる。

 壁中に立てかけられた鏡の向こうに、外に通じる窓があった。その窓が開いていて、風に青銀色の髪が揺れているのが見えた。


「……ウォーテルおじいちゃまは、ぼくを利用しようなんてなさいませんでしたよ」


 それだけ言い残し、窓の向こうへ消えていく。

 セレスティーヌの強張った顔を見て、シリルは噴出した。


「向こうが上手だったわねぇ」


 祖父の名まで出されては、これ以上セレスティーヌが彼に付け入る事は出来ない。彼女の顔が悔しさに歪む。

 シリルがぽんぽんと姪の頭を撫でた。






 レグルスは隣の部屋に戻ると、大きく息を吐き出した。肩をさする。

 マリスが上着を脱がせた。

 シャツのボタンは自分で外し、肩を見る。何とか背中の方を見ようと体を捩る。


「痛みますか?」

「う~、ひりひりするのです。どうなってますか?」


 何となく赤くなっているようなのだが、よく見えない。

 そっと肌をなぞったマリスは、眉を顰めた。


「内出血をしております。どういう転び方をなさったんですか」


 氷嚢を当てられて、びくりと体が竦んだ。冷たさに驚いたのは最初だけで、次第に気持ち良くなる。僅かに痛みが和らぐ。

 ふにゃりと顔が緩む。


「冷たくて気持ちいいのです」

「はいはい。エミール先生にさっさと治してもらいましょうね」

「あうっ。治されたらサボれないのです!」


 衝撃にレグルスの本音が漏れた。

 マリスは頭痛がしそうになり、こめかみを押した。

 治癒魔法に頼りすぎるのは良くないと言われている。普段ならこの程度の傷、自然に治るに任せるのだが、このままでは授業の進み具合に影響する。

 ただでさえ色々と詰め込まねばならない状況で、それは非常によろしくない。

 レグルスは残念そうに眉を下げた。


「お休み、出来ないのです」

「後が大変になりますよ」


 冷静に指摘されれば、レグルスは拗ねるしかない。口を尖らせ、足をばたつかせる。


「だって…お勉強は嫌いではないけれど、孤児院に遊びに行けなくなっちゃったのです。それに怖い女の子は来るし」


 ふっとマリスが笑う。

 その声を聴き、レグルスはますます機嫌を悪くする。


「見た目は可愛いのに、中身があんななんてガッカリです」

「おませで可愛らしいお嬢様ではありませんか」

「…それは年長者の余裕なのです……」


 レグルスはがっくりと肩を落とす。途端ピリッとした痛みが走り、顔を顰める。

 やがて執事がエミールを伴って部屋に戻ってきて、怪我は治されてしまった。渋々広間に戻る。

 一歩足を踏み入れた瞬間から、ピンと空気が張り詰める。レグルスは反射的に作り笑顔となった。視線の先はダンス講師の姪がいる。

 彼女も負けじと笑顔を取り繕っていた。

 シリルだけが変わらない。


「お怪我はど~お?」

「大した事はありませんでした。ご心配おかけしました」

「無理しちゃダメよ。今日はこれで終わりにしましょうか」

「いいえ。全く問題ありませんので、続けてください」


 執事が言った。

 厳しい言い方にレグルスは首を竦め、シリルは目を見張った。

 だがシリルはすぐに笑みを浮かべる。


「それではそのように。レグルス様、休憩は終了でいいかしら?」

「はい」

「じゃあ、セレス。準備なさい」


 彼女は椅子から降りると、すっと手を差し出した。

 二人の間にはまだ距離がある。だが、セレスティーヌはそれ以上前に出ようとしない。我儘なお嬢様のように、尊大にふるまうだけだ。

 レグルスは眉ひとつ動かさず、彼女の手を取るために進み出た。差し出したまま微動だにしない小さな手を取る。


「今度は転ばぬようにお願いいたします」

「代わりにおみ足を踏みつけることになると思いますけれど、許してくださいね」


 鉄板入りの靴は今、ふんわり膨らんだスカートの中に隠れている。が、コンコンという音が聞こえた。

 準備は万端。二人は中央へ進んだ。シリルに言われる前に姿勢を整える。


(吹雪が見えるわぁ…)


 二人とも笑顔なだけに怖い。

 シリルはそっと笑みをこぼし、手を打った。


「音楽をお願い」


 控えていた女中が魔具を操作する。先ほどと同じ音楽が流れ始めた。


「最初から。はい!」


 二人がステップを踏み始める。

 シリルは「あら?」と頬に手を当てる。セレスティーヌも一瞬だけ目を見張った。

 先程までもたついて、ついつい視線も下げがちだったものが、全て消え失せていた。堂々と足を運んでいる。

 シリルがほうと息を吐いた。


「やだ。出来てるじゃない」

「どういうわけか、極度の緊張状態に置かれますとお出来になられるのです」


 執事が淡々と述べる。

 日頃はの幼い部分が目立ち、のんびりとした様子が伺える。ところが何かのきっかけ一つで、いつもは噛み合わない歯車が嵌ったかのように、すんなりとこなすようになるのだ。

 では普段、それを隠しているのかといえば、そうでもないようだ。勉強は真面目にこなすが、時に嫌々という様子を隠そうともしない。そして出来ないものは出来ない。時に怒られながら、机にへたれている。

 何よりも、のんびりおやつを食べながらお茶を飲みつつ、本を読むのが好き。小さな頃からの性格は変わっていないのだ。


 位置を変えながら、小さな二人がくるくると回っている。表面的にはにこやかに。


「先程もこれだけ踊ってくだされば、痛い思いをせずに済みましたのに」

「…セレスティーヌ嬢のお蔭です」


 レグルスは目を細めてみせる。軽く腕を上げれば、セレスティーヌはクルリと回る。


「感謝は形にしてくださいまし」

「あはは。ご冗談を。こちらに利子が欲しいくらいですのに」

「まあ酷い。可愛いお願いの一つや二つ、聞くのが男の甲斐性でしてよ」

「可愛いのはお顔だけでしょう?」

「ふふふ。お褒めに預かり光栄ですわ」


 ほんのりと頬を紅く染める。

 レグルスも笑みを深くした。


「本当にお顔だけは可愛くて困ります」

「……本気で仰ってますの?」

「質の悪い冗談は言いません」


 セレスティーヌは一瞬呆気にとられた。だが足は止まらない。我に返った彼女は大きく息を吐いた。

 曲が変わる。レグルスが転んだ曲になった。だが、今度は戸惑う様子さえ見せない。滑らかにステップを踏んでいく。

 「レグルス・グランフェルノ」にこの曲は難しい。けれど「彼」ならば、それほど大変なことではない。今は白い靄となって漂う彼の一部を纏えば、何も問題はない。

 ただし、これを使うのは非常時だけとレグルスは決めている。自分の為にならないと知っているからだ。レグルス自身の実力で、彼に追いつかねばならない。いや、越えなければならない。そうでなければ、彼でさえ手を焼くだろう『王国守護隊長の双剣の奪還』は出来ない。

 レグルスはふわりと笑う。


「ですが、嫌いではありませんよ。我儘なだけの令嬢より、遥かに好ましいです」


 最後までミス一つせずに踊り切って、レグルスは足を止めた。腰に回していた手を放し、握っていた手に顔を寄せた。

 セレスティーヌがはっと手を引いた。

 レグルスは驚いて顔を上げる。踊った後、手に口付けるふりをするのは、礼儀作法の一つだ。本当にするわけでもなし、拒否されることは普通はない。

 そこにはセレスティーナの真っ赤な顔があった。目を潤ませ、口をパクパクとさせている。

 キョトンとしていると、彼女がくるりと背を向けた。シリルに向かって走っていく。


「叔父様ぁ!苛められましたのぉ!!」

「お待ちなさい!何を言い出しますか!?」


 シリルに抱き付いたセレスティーヌはべーっと舌を突き出した。レグルスは口をへの字に曲げる。

 子供たちの応酬に、大人たちは苦笑いを零すのだった。






   ◆◇◆◇◆◇






「オンナノコ、メンドクサイデス」


 二人を見送った後、ふらふらと母のもとにやって来たレグルスは、そう言って母に倒れ込んだのである。






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