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遠い記憶の守人  作者: 名波 笙
成長記録
38/99

閑話 王兄イルネージュの日記~抜粋





 9月16日


 リョーヤ、君が亡くなったと聞いたよ。私よりずっと若いくせに、何をやっているんだい。全く。君は若い頃から、無茶をし過ぎなんだよ。散々言って聞かせたのに、君は何一つ聞いてはくれていなかったんだね。

 今更何を言っても、遅いのだけれど。

 そもそも、私たちが君を頼り過ぎたのがいけなかったんだろう。すまない。異界人である君が少しでもこの世界に必要とされるように配慮したつもりが、いつの間にか預け過ぎていた。どうしてこんな事になったんだろう。

 冗談で言った過労死が、まさか本当になるなんて、思いもしなかったよ。

 幸いにも君には優秀な後継者がいるから、何の問題もないのかもしれないけれど。私は寂しいよ、とてもね。

 だから今日は、君との思い出に浸ろうと思う。


 私がリョーヤと出会ったのは、君がこの世界に来てから二年ほどたってからになるのかな。君はまだ十二歳で、あどけない少年だった。

 今思い出しても笑ってしまうね。あの出会いは。あの時私は国境でストラスとの戦の真っ最中だった。少し下手を打って、敵の捕虜になっていて、拷問も受けていた。そんなひどい有様で王宮に強制転移させられたんだから、私もだけど、陛下も師匠も、皆ポカンとしてしまっていて。その中で君だけが私の心配をしてくれた。覚えているよ。心配というより、驚きだったのかもしれないけれど。その後、師匠に傷を治してもらいながら、怒られた。あの師匠にだよ?君にとっては少し違うのかもしれないけれど、あの他人になんて何の興味を持たなかった、冷徹魔術師だよ?何をしたんだと、心から驚かせてもらった。あの衝撃こそ、忘れ得ぬのかもしれないな。

 私を怪我させたことを許さない陛下に師匠が出陣を命じられた時、君が一緒に来ると言い出した時もね。今にして思えばだけど、君もしかして、師匠と離れる事が不安だったんじゃないかい?二年間、ずっと君の傍にいた人だもの。急にいなくなる、まして行き先は戦場では、怖くなるよね。幸いにしてトマが君を鍛えてくれていたから、問題無かったけれど。でも、あんな初陣で良かったのかな?もっと華々しい――といったら、君に怒られるかな――デビューもあったと思うんだけれどね。それに早過ぎる。十二歳なんて、まだ親に甘えて充分なんだよ。君なら、師匠にね。それとも、これが甘えた結果なのかな。だとしたら、とんでもない甘え下手だよ。

 でも、連れていったのは正解だと思っている。君の未来の奥方と会わせてあげられたからね。この頃はまだ仲の良い兄妹のようだったけれど。人見知りの激しいあの子が君に一目で懐いたのが、全ての始まりだったのかな。師匠から預かった子だけれど、師匠に返せて良かったよ。彼女からしたら、君の傍にいたいってことだろうけど。

 私も結局、王都に連れ戻されたし。その点は恨むよ。地方での生活が楽しかったのに。

 リョーヤが死の寸前の父と出会っていたことも、何かの運命だったのかもね。たった一度だけだと言ったけれど、その一度の会話が私も救ってくれたと、君は知っていたのかな。父が最期まで母を想ってくれていたと知れたのだから。

 惜しむらくは、ガーベルナ侯爵を自らの手で葬ってやれなかったことかな。病気になるとか、ずるいと思わないかい?向こうは私が毒を盛ったと思い込んでいたようだがね。本当に私は何もしていないよ。まぁ、向こうで母が自分で鉄拳制裁を喰らわせただろうから。

 ああ、そうか。私がここで妻となる女性と出会えたのも、君のお陰だね。シェリアが君と親しくしてなければ、ガーベルナ侯爵の愛人の娘としてしか見なかっただろうから。

 今更思うけれど、私は君に頭が上がらないのかな?

 半分騙す様にして君を王国守護隊に入れてしまったし。守護隊長も、殆ど押し付けるようになってしまったし。国王補佐官とか、コーレィの管理とか、侯爵位とか。どれも君は要らないって言っていたものばかりだね。

 国王補佐官に関してはね、申し訳なく思っているのだよ。まさかあの子が、政務を放り投げるようになるとは思ってなかったんだ。真面目なリョーヤが見限ったのも無理はないよ。陛下は反省してはいたけれど、君は帰ってこないと思っていた。

 ガルディアスの侵略戦争がなければ、君は市井で暮せたのかもしれないね。そうしたら、あれほど傷つく事はなかった。守護天使とも死神ともよばれる事もなく、普通の人間として生きていくことができた。何故戻ってきたんだい?君がこの国の為に犠牲になる事はなかったんだよ。君は自由に生きていくべきだった。

 本当に今更だね。ごめん。

 だからかな。君が殆ど他人を頼らなくなったのは。弱っている時ほど人を傍に寄せ付けなくなったのも、この後からだね。私たちとも距離を置くようになって、宰相と愚痴を言い合ったものだよ。




 本当に、語りつくせないくらいに思いだすよ。けれど、今日はここまでにしておこうか。少し疲れてしまった。

 おやすみ、リョーヤ。向こうに行ったら、両親によろしく伝えてくれ。

 いや、君は生まれた世界へ帰ってしまうのかな?それも寂しいけれど。


 願わくば、君がこの世界に来て良かったと思ってくれていますように。










     ◆◇◆◇◆◇






 9月20日


 リョーヤ、すまない。君の遺体に、師匠が何かしでかしたらしい。問い詰めようとしたんだけど、その前に逃げられた。あの人、宮廷魔道士を辞めたよ。国内からも姿を消した。完全に行方不明だ。

 君にこの日記が届くと思いたくないけれど、万が一の為に記しておく。




 リョーヤ、頑張れ。






     ◆◇◆◇◆◇








 どさり





 レグルスの手から貴重な日記帳が落ちた。






誤字脱字の指摘、お願いします。


前世君のあれこれは、完結したら連載したいな~とは思ってます。

思うだけ。


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