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遠い記憶の守人  作者: 名波 笙
成長記録
35/99

子供を巻き込む大人の事情 2





 大臣が戻ってきた。けれど、どこかおかしい。生気が抜けたような感じだ。

 隣のレグルスは落ち着きを取り戻した様子で、まず執務室の面々に頭を下げた。


「しんぱいをかけて、ごめんなさい」

「ああ、良かった。ちゃんと言葉を発せられてますね」

「顔色も良くなりましたねぇ」


 老齢の副大臣がレグルスの前にしゃがむ。好々爺といった様子で、孫にでもするようによしよしと頭を撫でれば、レグルスはくすぐったそうに首を竦めた。


「もうだいじょうぶなのですよ。ウォーテルおじいちゃま」

「ほほっ。おじいちゃまとは、可愛い呼び方をしてくださいますな」


 政務省における、陰の支配者。副大臣、ウォーテル・レイス・フォーンディアット子爵。

 爵位は低いながら、政治の中枢である政務省で今も辣腕を振るう古狸。


 レグルス様、見た目に騙されちゃダメです!


 そんな官僚たちの心の叫びは、レグルスには届かない。にこにことウォーテルと話している。

 その横で、大臣である父公爵はどこか呆けている。

 ウォーテルは困り顔を作り、レグルスに言った。


「さてさて。お父上にはもう少し働いてもらわねばなりません。レグルス様は待っていられますかな?」

「はい。こんどはちゃあんと、父さまにせつめいして、もらいましたから」


 確かに、説明もされずにつれてこられては、小さな子どもは不安になってしまうだろう。まして、忙しそうな大人たちに囲まれてしまっては、早く出たくて仕方なかっただろう。

 レグルスは顔を上げ、父の手を引っ張った。


「がんばってくださいね、父さま」

「…うん……」


 ふらりと前に進む。そして執務机までふらふらと歩いて、どさりと椅子に体を放り出す。


「…父さま?」

「ああ…大丈夫だ。日程表は届いたか?」

「はいっ。つい先ほど……」


 紙束を差し出せば、いつものように受け取る。いつものように本当に読んでいるのか解らない速度で目を通し、素早く指示を出す。

 いつも通りの筈なのに、何かが違う。

 指示を受け動き出す官僚たちの足もとで、レグルスは首を傾げていた。


「レグルス様」

「はい?」


 テュールに呼ばれ、レグルスはそちらに視線を向ける。

 テュールは大量の紙束を抱えていた。


「今から、各部署にこの書類を届けに行くのですが…一緒に来られますか?」

「いいのですか?」


 パッとレグルスの表情が輝く。父を振り返る。

 公爵が何故か固まった。油を差した方がいいんじゃないかというような動きで、カックンと頷く。

 レグルスは心配して、父に駆け寄ろうとした。が、ウォーテルに邪魔される。ふわりと被せられたのは、着てきた白いフード付きのローブ。


「いってらっしゃい。テュール、頼みましたよ」

「はい。参りましょう」


 テュールが半ば強引にレグルスの手を取った。心配をしつつ、レグルスはそれに従うしかなかったのである。


「父さま、行ってきます」


 振り返れば、公爵は仄かに笑った。そして手を振ってくれた。

 レグルスはにっこりと笑い、手を振り返して部屋を出る。




 パタンと扉が閉められた瞬間、室内に鈍い音が響き渡った。


「大臣…机がへこんだら困るので、お止め下され」


 老人は容赦ない。

 机に頭をぶつけたグランフェルノ公爵は、険しい顔を上げた。額が赤くなっている。


「案ずるな。これくらいで凹むような、軟な素材は使っていない」


 何かずれてるなぁと、官僚たちは内心溜息を吐く。表立って言える者はない。

 ウォーテルは書類を積み重ねた文箱を、公爵へと差し出す。


「大臣のおつむが悪くなられても困りますのでな。割れる前に、お済まし下され」


 公爵の心配というより、仕事の進み具合の心配をされている。

 やれやれといった様子で、公爵は一番上から書類を取る。さっと目を通し、サインと印章を入れ、裁可済みの文箱へと移す。

 普段の仕事風景に戻り、官僚たちも自分の事に専念しはじめる。

 だが、副大臣は違った。厳しい目を大臣に向けている。


「……自己嫌悪、ですかな?」


 一瞬だけ、公爵の手が止まった。眉間の縦皺を深くしながら、作業を続ける。


「数ヶ月前の自分を殴り殺してやりたくなった」

「ほっ、ほほっ。まさに自業自得ですな」


 副大臣は楽しげな声を上げる。

 それに恨めしげな視線を向け、公爵は息を吐く。

 まさに自業自得の自己嫌悪。助け出された我が子を、偽物と疑った――自分の軽率な発言が、何も分からない我が子に深い傷を残していた。

 それだけではない。

 茨道を行くだろう子供に対して、厳しい条件をつき付け過ぎたのかもしれない。良い子でいなければ偽物…などと、誰が言うものか。どれだけ悔やんでも、もう遅い。あの子は自分を偽物と疑い続けるだろう。

 公爵は深い溜息を吐いた。




 レグルスはテュールの後を歩いていた。テュールから渡された書類を抱えて。

 廊下を行けば、すれ違う人に必ず二度見された。そして唖然とした様子で見送られる。

 既に幾つかの部署を回ったが、その度に驚いた様子で見下ろされた。テュールの手前、何も訊かれなったが。レグルスが礼儀正しくお辞儀すれば、ますます不思議そうな顔をされた。

 とてとてと着いて歩いていると、テュールは時折振り返る。眼鏡の奥の瞳が眇められるが、あまり嫌な感じはしない。

 試しに話しかけてみる事にする。


「テュールさま」

「…何でしょうか?」

「テュールさまのめがね、どが合ってないのではないですか?」

「……何故そう思われましたか?」

「ぼくを見るとき、目つきがするどくなってます」

「そうですか。失礼しました」


 テュールはそう言ったきり、黙ってしまった。

 質問の答えをもらっていない。もう一度話しかけようとして、突然飛び出してきた男に阻まれた。


「テュール様!」


 テュールと同じくらいの年頃だろうか。だが印象はまるで正反対だ。男のローブはよれよれで、無精髭を生やしている。髪もぼさぼさだ。

 彼はテュールに向かって、紙の束を差し出した。


「今度こそ、お願いします!」


 差し出されたそれを、テュールは無愛想に受け取った。パラパラとめくり、眉を潜める。そして突っ返した。


「話にならない」

「そんな!」

「お前は私の言った事の何を聞いていた?専門家の意見書。万が一橋が落下した時の被害予測、それに伴う復興費と、事前補強した場合の費用の差額。事業行程。この辺りは用意しろといった筈だ」

「ですがそれは議題にのせて頂いた後でも…!!」

「馬鹿か」


 男が受け取ろうとしないのに苛立ったのか、テュールは書類の束を投げ捨てた。男が悲鳴を上げ、辺りに紙が舞う。

 慌ててかき集めようとする男に、テュールは更に言った。


「熱意だけで何でもできると思うな」


 男は顔を歪めた。

 テュールは行こうとレグルスを振り返った。そして固まる。

 レグルスがしゃがんで、散乱した書類を集めていた。


「…レグルス様。行きますよ」

「ちょっとまってください」


 一枚。また一枚。辛うじて順番に並んでいるそれらに、じっくりと目を通している。

 自分の周囲に書類がなくなると、男の方へと目を向けた。読み終わったそれらを渡す。


「あ、ありが……」

「それ、かしてください」


 男が集めた書類へ、両手を差し出す。男も目を丸くしていたが、何となく素直に渡してしまった。

 書類は王都内にかけられた、橋の老朽化による落下の危険性を示唆するもの。全部で二十枚ほどのそれらを読むのに、五分ほどかかっただろうか。

 レグルスが顔を上げた。


「おにいさん。テュールさまの言ったこと、おぼえてますか?」

「え…?えと……」

「テュールさまは、なにもまちがったことは言ってないのです。ちゃんとおぼえてますか?」


 戸惑う男に、レグルスは書類を床で揃えてから返した。


「おぼえてないのなら、もういちどきいて、メモをしてください。つぎは、そのしょるいもよういして、もってきてください。そうしたら、ぎかいでとおります」

「は、はいっ。えと、ペン…ペン、持ってくるので、少し待って下さい!」

「ぶんかんさんなのに、ペンもってないのですか?」


 レグルスが顔を顰めた。自分の上着のポケットからペンを取りだして、男に渡す。

 男は力なく、「すみませんと」頭を下げた。


「ぶんかんさんにとって、ペンはだいじなせんゆうなのです」


 テュールがハッとして目を見開けば、男は不思議そうに首を傾げる。


「戦友、ですか?」

「ぶんかんさんは、ほんとうのいくさをしりません。でもここは、まいにちがせんじょうです」


 レグルスは真っ直ぐに男を見つめている。


「せんじょうをいきのこるには、よいなかま、そしてよいぶきがひつようなのです。ぶんかんさんにとって、ペンはなかまであり、ぶき」

「武器……」

「きしさまがぶきにこだわるように、ぶんかんさんはペンにこだわらなければいけないのですよ」


 レグルスは僅かにフードを上げる。サラリと青銀色の髪が零れた。

 男が目を瞠る。この政務省において、青銀色の髪を持つのは大臣だけである。それと同じ色を持つ子供が、大臣付の秘書官と一緒にいる。その意味を理解できないほど、男は愚かではない。

 レグルスはにこりと笑う。


「せんじょうで、けっきさかんなだけのきしさまは、生きのこれません」


 男はかっと顔を赤くした。唇を引き結ぶ。

 レグルスはフードをかぶり直した。


「これも、ぎだいにのせたところで、とおるわけありません。おにいさん、何回やりなおすつもりですか?せんじょうでは、やりなおしなど、ききませんよ」


 レグルスがテュールに目を向ける。

 それで彼は我に返った。一つ、息を吐き出す。男から書類を一枚取り上げると、裏に何か書きつける。


「何度も議題に乗せれば、議員たちは『またか』と呆れることになる。真面目に審議などされない」

「――っ!」

「議場に上げる場合は一回勝負が基本だ。どんなに良い議案でも、不備が見つかれば通らない。議員たちは無駄金を使う事を嫌う。自分の取り分が減るからな」


 書きつけたそれを男に手渡した。さきほど彼が言ったことだ。

 レグルスは首を傾げた。


「とりぶんって、なんですか?」

「議員たちもそれぞれ、分野があります。誰しも、自分の所の予算が減るのは嫌でしょう?」


 なるほどとレグルスは頷く。

 男がレグルスにペンを返してきた。書き取りに使っている、愛用品だ。それを大事にポケットにしまう。

 テュールがレグルスを見下ろした。


「それがレグルス様の『戦友』ですか?」

「いまのところ、そうです。たくさんのおくりものの一つだったのです。えっと…どなたがくださったんでしたっけ……?」


 公爵家には無事に見つかったレグルスの為、大量の贈り物が届いた。それは国内の貴族ほとんどが送ってきたのではないかと思われる程。

 お菓子や果物、地域の特産物、玩具に飾り物…その中には文房具も大量にあった。幾つか気に入った物を手元に残し、残りは使用人たちで分けてもらった。一部は孤児院などにも流れたと思われる。

 あまりに沢山で、レグルスは一部の仰天した贈り物を除き、誰から贈られたものかは覚えきれなかった。

 両手を頬に当てる。


「…わすれちゃいました……」


 こてんと首を傾ければ、一瞬…ほんの一瞬だけ、テュールの目元が綻んだ――と、男は思った。驚愕する間もなく、いつもの冷淡な表情に戻っていた為、見間違いかもしれない。

 レグルスが男を見上げる。


「たぶん、これはだいじなことなのです」


 男はレグルスに視線を戻す。フードの奥の表情を伺おうとするが、全く見えない。


「だいじなことだから、テュールさまはじょげんを、してくれているのです。いっかいで、ぎかいをとおるように」

「……」

「テュールさまは、いやがらせとか、いやみで、言っているわけではないのです。はなしをちゃんときいてくれて、たりないぶぶんを、おしえてくれているのですよ」

「…そう、ですね……」

「たしかに、ぶあいそうで、つっけんどんですけど。でもこうやって、じかんをさいてくれるのですから、きっとこれは、だいじなじぎょうなのです」


 テュールが顔を顰めた。そっぽを向く。

 男は書類を抱えなおした。姿勢を正し、レグルスに向かって深々と頭を下げる。


「はい。次は受け取って頂けるよう、大事に進めていきます」

「がんばってくださいね」


 レグルスは男に手を振り、テュールを促した。随分時間を取ってしまった。急がねば、執務室で待つ父に申し訳がない。

 テュールは溜息を吐く。

 あの厳しい大臣が仕事中、うちの子は天才だと、度々親馬鹿になるのが分かる気がする。どう考えても、子供の発言ではなかった。しかもこれで、五年も世界から隔離されていたというのだ。

 レグルスは鼻歌を歌いながら、後ろを付いて来ている。

 不意に鼻歌が止んだ。短い悲鳴が上がる。


「レグルス様!?」


 慌てて振り返れば、金髪の男がレグルスを抱き上げていた。フードも外してしまう。

 テュールは息を飲む。

 レグルスも目をまん丸にして、男を見つめていた。


「大分肥えたな。重いぞ」

「せいちょうしたと言ってください、へいか」


 その膝に抱えられたのはもう三ヶ月近く前だ。レグルスは口を尖らせる。

 国王は悪戯っ子のような笑みを浮かべた。


「こんなにちっさいのに?」

「しつれいです」


 ぷくりと頬を膨らませる。

 国王は笑いながら、レグルスを抱えなおす。そしてテュールに目を向ける。

 我に返ったテュールは、一礼する。


「これ、預かっていくな」

「は。ですが……」

「返して欲しけりゃ、さっさと仕事終わらせて迎えに来いと伝えろ。昼食の時間に間に合うようにな」


 悪い笑い声を残し、国王はレグルスを連れ去っていく。

 後ろに控えていた近衛騎士が申し訳なさそうな笑みを浮かべ、軽く頭を下げた。

 彼らが去ると、テュールは溜息を吐いた。そして事態を大臣に報告するべく、まずは手持ちの書類を片付ける事を急いだのである。





(きょうはよく、つれさられる日です)


 レグルスは王宮の奥へと連れて来られた。ソファに下ろされて、辺りを見回す。


「ここ…みおぼえがあります……」


 そう言えば、国王は苦笑を洩らした。


「お前は知らない筈なんだがな」

「じゃあ、きおくちがいなのです」


 レグルスはぷらぷらと足を揺らした。

 前に座った国王は、ココノエ侯爵を促す。彼はレグルスの前に古びた日記帳を置いた。


「これがファントムの言っていた日記だ」

「…くすりの……?」

「記述があったよ。そしてそれは、ベイル隊長の死亡報告書にあった原因不明の症状と一致した」


 レグルスは泣きそうに顔を歪めた。手を握りしめる。

 国王は首を振った。


「お前のせいではない」

「…おじいちゃま、どうして……?」


 涙は出ない。それがもどかしい。

 会ったのは一度きりだ。それでも、たくさんの話をしてくれた。双剣の歴代の主たち話を。面白おかしく。また話を聞かせてくれると約束もした。そして大きくなったら、レグルスに双剣をくれると。

 ココノエ侯爵が頭を撫でてくれた。レグルスは真っ直ぐに彼の日記を見つめる。

 国王が告げる。


「魔術協会にも今、問い合わせている。毒の出先を調べる為に」

「……あの子、は……」


 レグルスが口を手で覆った。驚きに目を瞠っている。一生懸命首を左右に振る。

 国王が異変の正体に気付いた。


「手を外せ。ファントム、言いたいことがあるならはっきり出て来い!」


 レグルスはゆっくりと手を外す。その手は震えていた。固く閉ざそうとしていた口が、再び開かれる。


「ノクターン、は…?お師匠様、は、どこに……?」

「ノクターン?」


 国王が首を傾げる。


「ウチの初代の子供の一人です。祖父や母の魔力を受け継ぎ、不老の魔術師となっています。師というのは義父である、賢者ルーグのことかと」

「直接の血縁が生きているのか!」


 レグルスがのろのろと頷いた。ぎこちない動きなのは、レグルスの意識が失われていない為だ。

 『彼』が言った。


「ああ…駄目です…あの子には、知らせないで……」


 ふっとレグルスの体が傾ぐ。慌てて侯爵が支える。

 レグルスは肩で息をしていた。酷く憔悴したようにも見える。額は汗でびっしょりだ。

 国王も腰を浮かせる。


「大丈夫か?」


 レグルスは首を左右に振る。ココノエ侯爵が抱えて、ソファに横にした。


「…いしきは、ないのです……」

「今のファントムの事か?」


 国王が訊ねれば、レグルスは小さく頷く。そして大きく息を吐きだした。


「このへやにきてから、きおくがはねて、なんだかざわめいて、いたのです。だから、あれはきおくだけで、かれではないのです」


 会いたいと願う半面、今の状況を知られたくないというのが、彼の本音だ。レグルスだけが知っている。

 汗がひき、ようやく体の震えが治まってくる。レグルスはココノエ侯爵の手を借り、上体を起こした。ソファに座り直す。


「こんなこと、はじめてなのです」


 彼が表層に出てくる時は、必ずレグルスの意識は奥へと引っ張られる。レグルスの意思にかかわらず。けれど今回は、レグルスはそのままで、彼の言葉だけが出てきた。

 酷く疲れたレグルスは、顔を顰める。


「二度とゴメン、なのです」


 国王は表情を緩めた。テーブルの上の日記帳へと視線を移す。

 つられてレグルスもそれを見た。


「日記…もしかしたら、どくのきじゅつのある古い日記が、どこかにのこっているのかも……」

「可能性として、あり得るだろうな」


 徹底的に削除したと彼は言っていたが、個人で付けられた手記などもあったはずだ。彼の日記によれば、毒の製作にはどれほどの人物が関わったのかまでは解らなかったとある。

 毒は、王家の人間を病気に見せかけて弑する為に作られたものだった。彼がこの世界に召喚される少し前、国王を意のままに操る為、当時の権力者である貴族が魔術師に作らせた。国王はそれで、側室とその子供一人を喪っている。後には王妃も殺され、彼女の産んだ第一王子が廃太子にされている。そして新王妃の息子が王太子とされた。

 新王妃の息子は国王になったが、母やその実家とは相容れなかったので、貴族の思惑とは大分異なる結末を迎えたようだが。


 ぐるるるる~きゅる


 重苦しい空気になりかけたところで、レグルスの腹が鳴った。

 国王は思わず吹いた。


「お前は燃費が悪いな」

「せいちょうきなのです」


 僅かに顔を赤らめたレグルスが、お腹を押さえながら反論する。

 ココノエ侯爵も笑いながら、遠ざけていた侍女を呼び、お茶と昼食までのつなぎの用意を頼む。

 レグルスは口をへの字に曲げた。


「そもそも、父さまがいけないのです。朝早くからたたきおこされて、いいめいわくなのです」

「ここんとこ忙しくて、政務大臣もご乱心だったみたいだからな~……」


 会議で顔を合わせるたび、息子に会えないと妙な嫌味を言われ続けるのだから、国王も堪ったものではない。

 国王はに~っこりと笑う。


「きょうはお前達と一緒にすると、料理長に伝えてあるからな。きっと旨いものを出してくれるぞ」


 途端にレグルスの目が輝く。自分が王宮にいた時も十分おいしい料理を提供してくれたが、なにしろ病人扱いだ。料理長渾身の力作は拝めなかった。

 レグルスは両手を頬に置く。


「たのしみなのです!」

「グランフェルノ公爵が間に合えばいいけどな」

「…むりな気がするのです……」


 レグルスはがくりと肩を落とした。






 何をどうやったのかは知らないが、見事仕事を片付けたグランフェルノ公爵は、国王の食事会に乱入し、息子を奪還したのである。






誤字脱字の指摘、お願いします。


レグルスには既に前世君と融合してしまった部分もあるので、時々子供らしからぬ発言をします。が、基本は子供なので、大人の発言に右往左往してしまうのです。

さて、次は病院で書いたものですかね。お父さんと一緒、再びです。

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