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遠い記憶の守人  作者: 名波 笙
幼年期
16/99

15.王国守護隊






 王国守護隊


 それはリスヴィア王国を護る為に結成された、特殊部隊。

 彼らの任務は、「リスヴィア王国」の守護・存続。

 国家存続の為にならないと判断すれば、国王の命令を退け命さえ奪う。

 構成員の中には非戦闘員もおり、全てを把握しているのは隊長のみとされている。




 メレディス・レジナルドは、子爵家の二男として生まれた。家督継承権を持たない彼は、迷わず剣の道を選び、近衛師団に入った。そして王国守護隊士となった。

 彼は名誉を重んじた。名を上げる事に何よりも喜びを感じた。

 だから。


「だったら、王国守護隊には入るべきじゃなかったなぁ」


 ベイルはそう言った。酒が入って、顔は更に赤くなっている。


「守護隊の仕事はさ、所詮裏方よ。時には汚ぇ仕事もこなさなきゃならん。だがな、罪は罪。逃れる事は許されん。罰せられる覚悟が無けりゃ、勤められんよ」

「…何故です?守護隊のお陰で改善されたものも多いはずです。それを……」

「良い部分ばっか出して栄光に浸んのは、誰だって出来らぁな。」


 理解できない。

 そう言うと、ベイルは低く笑ったきり、何も答えてはくれなかった。




 以来、彼はメレディスを遠ざけるようになった。






 ソレは踝まで届くローブを羽織っていた。フードを目深に被り、表情も窺えない。

 傍には赤燕騎士団の団長がおり、訓練に励む団員達もいる。時折、何か話しかけられた団長が顔を寄せ、ソレの言う事に応える仕草を見せる。


 名門公爵家に生まれただけの、何の取り柄もないただの子供。家名がなければ、何も出来ない。

 全ての間違いはあの子供が生まれてきた事なのだ。

 そしてあんな子供を後継者になどと言い出すから、先代には天罰が下った。それだけの事。


 微かな気配を感じて振り向けば、そこにはよく知った顔が立っていた。

 レリック・リム・ココノエ。侯爵家の当主。そして国王付きの近衛騎士。

 何故こいつがここに居る…と、辺りを探れば、通常ではある筈のない気配を幾つも感じた。それとなく配置されているが、これは確実にあの子供の為の警備態勢。


「何を見ている?」


 訊ねられれば、答えないわけにはいかない。


「赤燕の団長の傍にいる、妙なものだ」

「…随分と睨んでいたようだが?」

「睨んだつもりはない。何だろうと思って見ていただけだ」


 ココノエは不躾にこちらを見た後、突然興味を失くしたように視線を逸らせた。謝罪の一つもなく、横を通り過ぎる。


「レリックおじさま!」


 掠れた子供の声。振り返れば、フードをかぶったソレが、ココノエ目がけて駆けてきていた。但し、途中で足をもつれさせて転んだが。


「おっと」


 そう呟いて、練兵場に設けられている低い柵を軽く飛び越えていく。座り込んでいるソレに駆け寄った。


  たかが子供。家柄だけの子供。

  そんなものに何の価値がある?

  皆、狂っている。

  先代も、あの剣も。

  お前も、王太子も、国王も。

  だから、正しいものに正しい評価が与えられないのだ。


 それら全てに背を向けて、王宮へと歩き出す。




 ココノエ侯爵が見送っていた。腕にはレグルスを抱えている。


「あのひとが、おーこく・しゅごたい・ちょうさん・ですか?」

「そう。メレディス・レジナルドだ」

「でも・けん、もってま・せんよ?」


 レグルスは首を傾げた。守護隊長の剣は、常に持ち歩くものだ。


「腰に下げてただろう?」

「あれ、ちがい・ます。ちがうもの・です」


 侯爵が目を瞠った。一瞬で動揺を隠し、フードの奥を覗き込む。


「それは…喋らないから、そう思ったんだろう?」 

「ちがい・ます。おなじなの・は、みためだけ・です」


 侯爵の眉間に皺が寄る。

 レグルスはそれを指で付いた。両手で皺を伸ばす。


「ダメです。とうさまみたい・に・なっちゃいます・よ」

「おおぅ。それはマズいな」


 顔の力を抜いて、緩い笑みを浮かべる。

 グランフェルノ公爵はこの五年間の苦労からか、眉間の皺が痕になってしまっている。折角の美中年なのに、それが気難しい雰囲気を作っていた。

 ココノエ侯爵は赤燕騎士団長を振り返った。


「今の話は……」

「何も聞いてません」


 団長は面倒は御免だと言わんばかりに言い捨てた。

 苦笑いをして、レグルスに目を戻す。


「そろそろ戻ろうか。お腹が空いただろう?」

「はい」


 レグルスも目を細めて応えた。

 後ろから赤燕騎士団長が頭を掴む。乱暴に髪を掻きまわす。


「今度はもー少し、体力付けてから来い。構ってやる」

「はい。ありがとう・ござい・ます」


 手を振ると、団長も手を振って見送った。

 そこに新米騎士が駆け寄ってくる。彼は深々と頭を下げた。


「ご迷惑をおかけして、申し訳ありません!」

「まー…少しくらいの我儘は、なぁ……」


 団長は歯切れ悪く応える。

 弟が騎士団の訓練を見たがっていると、この新米騎士が直接頼みこんできたのは昨夜の事だ。見学だけだから、大人しく手もかからないからと、押し切られた。

 今朝初めて会って、ただただ唖然とさせられた。フードの奥の目は落ち窪み、頬はこけている。袖から覗いた指も骨に皮を張り付けたようで、抱え上げた時も十歳の子供の重さとは思えなかった。

 職業柄、そんな状態の人間も目にする事がある。その中には子供もいた。貧しさから食べることさえままならない孤児や、親から虐待を受けた子供だ。

 そんな子供たちでさえ、あれよりまだマシだったように思う。ましてや、あれは筆頭貴族である公爵家令息なのだ。

 

「それを言ったら、お前もか…」

「は?」


 独り言だったのだが、聞き損じた新米騎士が顔を上げたので、団長は苦笑いを零した。

 ハーヴェイ・デミトリィ。家名はグランフェルノ。

 あの子供、レグルス・グランフェルノの下の兄。多くの地位を持つ父親からデミトリィ卿の位を預かり、家名の代わりに名乗っている。

 家の名に頼りたくないと、近衛師団では無く騎士団を選んだ、変わり者の貴族令息。

 団長は新米騎士の頭をぐしゃぐしゃと掻き回した。


(しかし、王国守護隊の剣が偽物とはな…真実ならとんでもない話だ)


 それを見抜いた子供の能力も。




 赤燕騎士団長はその事実から、暫く目を逸らす事にした。




 目を逸らす事が出来ないのは、ココノエ侯爵だ。

 王子の宮に戻りながら、レグルスに訊ねる。


「アレは本当に偽物なのか?」


 レグルスはコックリと頷いた。目を細める。

 嬉しそうな様子に、ココノエ侯爵が首を傾げる。


「楽しそうだな?」

「さがし・だせば、ぼくのもの・です」


 とんでもない言葉に、侯爵は目を向いた。

 この子は、あの男から奪う気でいる。戦う事は勿論、日常生活さえ一人で満足にこなせない幼子が。

 思わず噴き出す。レグルスを抱えているのであまり大笑いは出来ないが、盛大に笑いだしてしまった。目に涙が浮かぶ。


「そっかそっか。是非見つけてくれ」

「はい。きっと、みつけ・ますよ」


 幼子は力強く応えた。

 その様子にココノエ侯爵は表情を変える。

 あまりに途方もない話に聞こえるが、レグルスは本気だ。まだ現実が見えていないだけなのか、ただの無謀か。

 レグルスがぎこちなく、口の端を上げる。


「だって、あれは・ぼくの・です。おじいちゃま・が・いないのなら、ぼくがしゅご・たいちょうさん・なのです」

「それはそれは……」


 ココノエ侯爵が物騒な笑みを浮かべれば、レグルスはその額をペチリと叩いた。


「ひがみは・ダメ・なのです」


 侯爵は盛大に噴き出し、腕から落ちそうになったレグルスに首を絞められる事になった。







誤字脱字の指摘、お願いします。

ついでに感想も頂けると単純馬鹿な作者が舞いあがります。


夏ですね。暑いですね。

…パソコン、立ちあげたら室内温度が三度上昇。もうムリ……ガクリ

エアコンなんて存在しない我が家です。夏場は更新が滞るので、諦めてください。

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