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遠い記憶の守人  作者: 名波 笙
幼年期
1/99

プロローグ




 螺旋階段を慎重に上がっていく。

 淀んだ空気に、無機質な足音だけが響く。登り切った先に、堅牢な扉が現れる。

 無言のまま、鍵を開けるように促す。ジャラリと重い音を鳴らし、兵士は鍵束から一つのカギを選びだした。乾いた音の後、扉が悲鳴と共に開かれた。

 長く閉ざされたままである筈の扉の奥から、すえた匂いが漂ってくる。


 何かがいる。


 入ろうとすれば、近衛騎士に押し留められる。彼はゆっくりと首を左右に振り、自身が先に立った。

 思わず苦笑が漏れ、彼の後に続いて部屋に足を踏み入れた。

 塔の最上階にある、狭い部屋。置いてあるのは小さなテーブルに椅子、粗末な寝台。それだけ。

 

「…誰もいない……?」


 更に後から入ってきた近侍の青年が呟く。

 それにしては、時折鼻につく臭いが気になる。誰もいないというのなら、もう何十年も使われていない牢獄に漂うのはもっと乾いたものか、黴臭いものだろう。






「だあ・れ?」






 掠れた小さな声。とっさに腰の剣に手がいった。

 声の主を探すが見つからない。

 金属の擦れる音がする。音を頼りに探せば、壁から鎖が伸びていた。それは寝台の下へと続いている。

 近侍が覗き込むと、小さな物体がこちらを窺っている。


「出てきなさい」


 声をかけると、それは首を傾げるような仕草を見せた。そしてずるずると、体を引きずって寝台の下から這い出てくる。

 出てきたのは子供だった。頬はこけ、目は落ち窪み、手足は枯れ枝のようだ。身に纏う服もボロボロで、辛うじて体にひっついているような有様。

 そして何より目に付いたのは、左足に付けられた足枷。鉄輪が擦れて、周辺の皮膚の色が変色している。

 子供は伸び放題の髪の向こうから、ギョロリとした目で彼を見上げた。乾いた唇から、やはり掠れた声が漏れる。


「だぁ・しぃ・て、く・れぇ・る・の?」


 ゆっくりと、一つずつ区切るように言葉を発する。少しおかしい発音は、長く喋る相手がいなかったからか。

 傍に寄ろうとするのを、近衛騎士に止められた。


「何故ここに居る。ここで何をしている。お前は…何者だ?」


 近侍が訊ねるが、子供はじっと彼を見上げるだけだ。無表情のまま。

 何を言われているのか、きっと理解できていない。この見た目のままの子供なら。


「お前、名前は?」


 近衛騎士が剣の柄に手をかけたまま、声をかける。子供の目がこちらに向いた。


「なぁ・ま・え?」

「そう。名前。オレはハロン。この人がヴェルディ。それはシェリオン」

「は・ろん。べぅ・でぃ?しぇ・り……?」


 子供がこてんと首を傾ける。

 そして、決して好意的といえる雰囲気ではない近侍へと、手を伸ばしたのである。






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