-7ウーの見る景色
イープ村が出来るより以前、そこには原始文化が未だ使われているような集落があった。その集落に住む人々は森にいる原生獣・ゲゲルを狩って食料にし、またそれを森の外との交易材料にして豊富な野菜などを得ていた。集落の人々は野菜を栽培する技術を持っていなかったため、森の外と物々交換をして新鮮な野菜を食べていた。森の生物と共存しながら生きていた彼らは自身を貧しいやらひもじいなんて考えもせず、悠々自適に暮らしていた。
そんな生活が崩壊したのはおよそ100年ほど前、森の中の集落の存在を知った数組の男女が鉄剣、鎧などといった装備を身に着け集落を襲ったのだ。各々の武器を持って反撃に出たものの結果として集落に住む人々は全滅。一夜にしてその集落は数組の男女のものとなってしまった。
これがイープ村の始まりである。
僕は間違ったことなんか言ってない、なのになんで僕はこんなに皆に嫌がられ、危害を加えられて、裏切られてしまうのだろうか。
ウーはガルと最後に会った場所―村で一番高い高台―にいた。高台は普段登ることを禁じられているのだが、それがウーにとっては逆にいい隠れ蓑になっていた。
ウーは先ほどスーとネーにやられた傷を見ながら家からこっそり持ってきた包帯を使ってその傷を塞いだ。痛みは少しあったが、そのままほっとくよりましだとウーは考えていた。
――出来ればここには来たくはなかった。だってここに来たら否が応にもあの頃のいい思い出が、こんなことになる前の平和な、たとえそれが偽りだったとしても、それなりに笑えた頃の思い出が湧き上がってしまうからだ。
ウーは高台から村を見つめながらそんなことを考えていた。
ウーが『悪意ある真実』を知るものとされてからの3ヶ月間。彼は外側から内側から、様々な苦痛を受けてきた。そしてその度3ヶ月前のことを思い返していた。それでも彼は嘘をつかないことを諦めなかった。それはやはり、自分の信じる事実を知ったからであろうか。本当の本当は彼自身もわかっていはいないが、それでも彼は頑なにガルの言うことを信じ続けていた。
しかし、どんなに志が高くとも子どもは子ども、限度というものがあった。肉体的にも、精神的にも。そしてそれは同時に『復讐』という感情を静かに成長させていった。そしてその感情は、ウーの倫理やら情やら、そういった部分を少しずつ削っていった。
ウーが広場の方に目を向けると、そこには人だかりができていた。どうやら森の中で狩りをしていた男衆が帰ってきたようだ。その中に、昨日自分の家に寝泊まりしたカリウがいることを視認する。ウーは周りからはやし立てられているカリウを見て、
――カリウは皆から感謝されてるって思ってるんだろうけれど、それも全部嘘なんだよなぁ・・・。こういう事って教えたほうがいいのかな?知らないより知ってたほうがいいよね。それじゃあ今日の夜にでも話してあげたほうがいいよね。うん、そうしよう。
ウーは空を見る。太陽が西に傾きはじめていることに気づくとすぐさま高台から下りる動作をとった。そろそろ日が沈むから係の人がここに来ることを危惧したからだ。ウーは階段を下りながら、一体どこから話すべきかと思案していた。イープ村の夜は長い。
前半戦終了です。次回からもう進めるだけ進めてガチャガチャやって一話を終わらせていこうと思います。二話以降も続ける予定ではありますけれども、続くかは知りません。
私信。
最近『キノの旅』を読み始めました。中学生か!なんてツッコミが来そうですが読んだことなくて読みたかったけど当時は手を出しづらかったということもあり今更ながら読み始めた次第であります。まだ1巻の途中ですけど面白いですねキノの旅。今後の読書タイムはキノの旅一辺倒になりそうです。