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繰り返される日々

作者: 舞原きら

何気に流血表現あり。苦手な方はご注意。

「ずっとずっといっしょにいようね!みかるちゃん」

「うん!やくそくだよ。かなはくん」

 ずっと一緒にいようねって約束したのに……

 どうして……?



 ***



「いやぁっ!」

 自分の声で目が覚めた日曜日の朝。

 嫌な夢を見た。大好きな幼なじみがあたしを庇って事故に遭う夢。

 なんでこんな夢を見てしまったの?よっぽど思い詰めていたのかな……

 そんなとき友人から届いた一件のメール。


《今日の更科くんのお別れ会参加者は11時に駅前集合!》


 幼なじみの更科叶葉は明日、この街から去る。それはたった1ヶ月前に決まったこと。

 叶葉は忘れてしまったの?あの日の約束を。

「ひどいよ、叶葉。もう叶葉なんか知らない。お別れ会なんて絶対行かないもん……」

 約束破るなんてひどいよ。どんなに謝られても絶対許さないんだから。



 ***



「それでは皆さん一斉に」

『カンパーイ!』

 ただいまの時刻、11時30分。絶対行かないと決めたのに来てしまったお別れ会。

「どうしたのみかる?叶葉くんと離れるのが嫌なのー?」

 隣に座っている友人が大きめの声で騒ぐ。

「そういえば宇野と更科は幼なじみだっけ?」

「あぁ。幼稚園からずっとな」

 叶葉がさらっと真実を語る。そう、あたし達は幼稚園から今までずっと一緒だった。クラスは離れても家が堂々と目の前にあるからよく一緒に登下校をした。だから離れたことなんて一度もなかった。

「それで?実際付き合ったりしてないの?」

『はい?』

 見事に声が重なった。叶葉の少し低い声とあたしの少し高い声。

「そうだよ!そこ気になるところ!」

「で、どうなの?」

 みんなが興味津々で聞いてくる。どうなの?と言われても付き合ったりしてないし、叶葉はあの日の約束さえもわす――

 そうだ。叶葉からもう何年もあの日の約束の話はなかった。絶対忘れてるに決まってる。叶葉はもう……あたしのそばからいなくなるんだ。

「……えぇーい!みかる、歌いまーす!」

「ちょっとー話そらすなー!」

「よし、歌おうぜみかる!みかると叶葉のスペシャルメドレー!喜べー!」

 叶葉もマイクを手に取り、立ち上がった。

「それより真相を……!」

『繰り返される日々は……』

「曲始まったじゃん!」

 機械はあたしたちのことなんてお構いなしに入れた曲を流す。それでいい。誰も真相は聞かないで……



 ***



「それじゃあ更科。元気でな」

「あぁ」

『またなー!』

「じゃあなー!」

 これにてお別れ会は終了。あたしと叶葉は帰路についた。

「これでみかるとお別れかー」

「あーぁ。目の前にすっごいいい人来ないかなー」

「むむっ……みかるさん、浮気っすかー?」

 そう言って後ろから抱きつく叶葉。

「なっ……!なに言ってんのよバカー!てか抱きつくなー!」

 叶葉を無理矢理突き飛ばす。

「冗談だって。みかるは冗談が通じないなぁ」

 ふと叶葉があたしの胸元に目をやる。

「みかる……それって……」

「っ!」

 叶葉が見たもの、それは小さなおもちゃの指輪が通してあるネックレス。昔、叶葉からもらった約束の証。

「な、なんでもないよ!」

「なんでもないわけないだろみかる」

「なんでもないってば!」

 これ以上そばにいたらあたしが壊れる。その前に離れよう。

 身体の向きを変え、叶葉から逃げる。

「おい!待て!」

 叶葉は走って追いかけてくる。お願いだから来ないで。叶葉への気持ちは消すの、消したいの!

「叶葉はあたしの気持ち……全然分かってない……!」

 こんなにも叶葉が好きなのに。ずっとそばにいたかったのに。約束を忘れたことなんか一度もなかったのに。

「叶葉のバカぁぁ……!」

 横断歩道に一歩踏み出す。そして聞こえたクラクション。

 気づいたときには遅かった。トラックがあたしめがけて走ってくる。スピードは変わらない。

 ――――死ぬ……!

 そう思った時だった。


「みかる!!」


 誰かに背中を強く押され突き飛ばされた。その直後響き渡る衝突音。充満する鉄の匂い。あちこちから聞こえる悲鳴。

 周囲の人が見ていたものは。


 倒れている叶葉の姿。


「嘘…でしょ……か…なは……えっ……?」

 全身が血にまみれ、腕や脚が変な方向に曲がっている。

 そんな……。叶葉は……。


 あたしを守るために……?


 死んでないよね……?

 あたしを置いて逝かないよね……?

 もう会えないわけないよね……?

 嫌だよ。そんなの。叶葉に会えなくなるなんて絶対嫌だよ……

「叶葉……叶葉あぁぁぁぁ!」

 目を開けて……!

 涙がネックレスの指輪に落ちた。



 ***



「叶葉!…………あ、あれ……?」

 目を覚ますとあたしはベッドの上にいた。もちろんパジャマ姿で。

 ピロリンピロリン♪

 部屋に響くメールの受信音。送り主は友達。内容は叶葉のお別れ会について。


《今日の更科くんのお別れ会参加者は11時に駅前集合!》


 ……えっ?あたし、このメール、前にもどこかで見たような……

「夢……見てたのかな……」

 思い詰めすぎだな、あたしも……あんな夢見るなんて……あんな……残酷な夢を。

 でも大丈夫。夢と現実は一緒じゃない。叶葉は死んだりしない。あたしを置いて、死んだりしないから。


 そう思っていたあたしの考えは子供じみていた。



 ***



 叶葉のお別れ会後、あたしと叶葉は一緒に道を歩いていた。

「にしても、みんな聞くんだね」

「なにを?」

「あたし達がつ、付き合ってるか……」

「そうだな。やっぱ幼なじみだから長い時間一緒にいたしみんながそう思うのも仕方ないよ」

 叶葉はあたしのことどう思ってるの?そう聞こうとしてやめた。返事を聞くのが怖かったから。

「あっみかるの好きなアイス屋さん発見♪」

「えっ!?ホント!?」

「ちょっと待ってろよ」

 叶葉は歩道と車道の間の策を飛び越えた。

「今買ってく――――」

 叶葉の言葉はそこで止まった。

 それと同時に響き渡る衝突音。充満する鉄の匂い。

 この光景を、あたしは見たことがある……。これは……

 ふと朝見た夢を思い出した。あの夢で


 叶葉は車にひかれた。


 あたしを守るため。


 でも、これは状況が違うよ……。なんで?どうして……?

 血塗れで倒れる叶葉に駆け寄る。

「叶葉……!しっかりして!叶葉!」

「…………っ……み、か……る……」

「叶葉っ!」

 叶葉はあたしの名を言った後、再び目を閉じた。

「嫌……叶葉ぁぁぁ!!」

 涙がネックレスの指輪に落ちた。



 ***



「叶葉っ!…………えっ!?」

 目を覚ますとベッドの上。着ているものはパジャマ。

「あれ……叶葉は……?」

 叶葉は事故に遭ったんじゃ……

 ピロリンピロリン♪

 携帯がメールを受信した。送り主は友人で内容は……


《今日の更科くんのお別れ会参加者は11時に駅前集合!》


「う……そ…………?」

 もしかしてあたし、


 同じ日を繰り返しているの?


「なんで……?どうして……」

 同じ日を繰り返しているってことは叶葉のお別れ会をして、一緒に帰って……叶葉が事故に遭って……。

 あたしは、一体どうすればいいの……?



 ***



「どうしたみかるー。暗い顔してー!」

 隣に座ってる友人があたしの顔を覗き込む。

「なんでもないよ……」

 本当はなんでもなくない。叶葉があんな目に遭うのは嫌なんだ……。あたしの目の前で事故に遭うなんて……

「どうしたんだよみかるー!俺と離れることがそんなに寂しいのかー?」

 横から抱きついてくる叶葉。

「なっなにすんのよー!」

 そう叫んで思いっきり突き放した。

「痛い痛い!なんだ。そこまで騒げるってことは元気じゃん」

「……!」

「最後くらい笑って過ごせよ。みかる」

 叶葉が優しくあたしの頭を撫でる。それが嬉しかった。

 昔からそうだった。叶葉はあたしが元気ないときいつも優しく頭を撫でてくれた。でも、もうされることはないのか……

 あっでも……


 この日々が続けば叶葉はまだ……


 ってあたし、今なにを……。それってつまり叶葉を事故に遭わせ続けること?

 そんなこと、させてはいけないのにあたしは……。

 自分が叶葉と離れたくないからってそんなことを考えるなんてなんて酷い人間なんだ。

「ごめん。あたし帰るね」

「えっ?みかる?」

「お金は置いてく。それじゃあ」

「おい、みかる!」

 主役の言葉に耳を傾けず部屋を出て行った。



 ***



 あたしはなんてことを考えたんだろう。叶葉を何回もあたしの身代わりになって死なせてしまうなんて……。

「どうしてこんなことに……」

 胸のネックレスを握りしめる。

 叶葉からもらった指輪。今でも大切にしている約束の証。

 あたしは忘れてないのに叶葉は……。

「みかる!」

 あたしの名を誰かが叫ぶ。その誰かはもちろん――。

「かな、は……?」

 あたしの元へ走ってきた叶葉は息が上がっていた。

「お前……!なんで理由もなしに帰るんだよ!?今日で俺達、離ればなれになるって言うのに」

 なんで?なんではこっちのセリフだよ。

 なんであたしを追いかけてきたの。

 なんでお別れ会の主役が抜けてくるの。

 なんでそんな心配そうな顔であたしを見るの。

 なんで……なんで離ればなれにならなくちゃいけないの。

「バカ……叶葉のバカっ!」

「……はっ?」

 あたしがいきなりそんなこと言ったから叶葉は口をあけポカーンとしてる。

「あたしは……ずっと信じてたのに!約束通り叶葉とずっと一緒にいられるって!」

「っ!」

「叶葉は忘れちゃったの?あたしは忘れたことなんて一度もなかった。だってあたしは――」

「みかる」

 叶葉がぎゅっとあたしを抱き寄せた。叶葉の体温が伝わってくる。

「俺だって、俺だって忘れたことねぇよ。叶葉とずっと一緒にいたい。その気持ちは変わらねぇ」

「じゃあ……!」

「でも仕方ないんだ。父さんの転勤だ。行くしかない」

 あたしから身体を離し、胸のネックレスに触れる。

「これ、大切にしてくれてたんだ。ありがとう」

「だってこれは」

「でもごめん」

 叶葉は悲しそうな顔で言った。

「約束守れなくてごめん」

 そんなこと言わないで。これは夢だもん。そしたらずっと一緒に……

 そんなことを考えてはっとした。


 あたし、また残酷なことを考えてしまった。


「叶葉ごめん……あたし、叶葉に酷いことを……!」

「み、みかる!?」

「叶葉を傷つけたくないのにまたあんなこと……」

 その時ブチっと切れたネックレスのチェーン。チェーンから指輪が抜け落ちて道路に転がる。そして指輪が転がっている場所へ走ってくるトラック。

 このままじゃ指輪が……!

「やだ……!」

 指輪に手を伸ばすとトラックがすぐそこまで来ていた。

「みかる!」

 叶葉の叫び声。背中に強い衝撃。衝突音。人々の悲鳴。鉄のにおい。

 全てが一瞬の出来事。

 大丈夫。これは夢……。きっと目が覚めたらまた同じ日を繰り返すんだ。

「男の子がひかれた!早く救急車!」

 周囲の人が叫んでる。

 大丈夫。夢だから。叶葉は死なない。でもおかしいよ。夢が終わらない。

 そんなことを考えてるうちに到着した救急車。叶葉が救急車で運ばれて行く。

 どうして。どうして夢が終わらないの。叶葉が死んじゃうよ。

「い、や……叶葉ぁぁぁぁ!」

 叶葉が倒れていたところの近くには型の歪んだ約束の証が落ちていた。



 ***



 もう日付が変わりそうな時間。

 叶葉の運ばれた病院の集中治療室前であたしは叶葉が目を覚ますのをただ待っていた。

「みかるちゃん」

 ふと顔を上げると叶葉のお母さんがいた。目を真っ赤にしている。余程辛くて泣いていたのだろうか。

「叶葉なら大丈夫よ。もう遅いわ。あなたは帰りなさい」

「いやです。叶葉は、あたしを庇って事故に……」

「みかるちゃんが悪いわけじゃないわ。みかるちゃんを守るためにあの子がしたことだもの」

「でも、でもあたしが道路に飛び出さなければ……!」

 思い出すだけで涙が溢れてくる。

 こんなことになるとは思わなかった。こんなことになるなら叶葉に好きって言えばよかった。

「叶葉……ごめんね叶葉……あたしの、あたしのせいで!あたしを庇うために!」

「みかるちゃんっ!」

 叶葉のお母さんがあたしの手を握った。

「叶葉なら大丈夫。みかるちゃんの知ってる叶葉はこんなことで死ぬ子じゃないでしょ?」

「は、い……」

 あたしがそう言うと叶葉のお母さんは優しい笑みを浮かべた。

「だったら叶葉を信じましょ?叶葉は大丈夫って信じるの」

「……はい」

 そうだ。叶葉は大丈夫って信じよう。あたしが信じないでどうするんだ。

「そうそう。叶葉の服のポケットから出てきたの。きっとみかるちゃん宛てね」

 叶葉のお母さんがあたしの手のひらに小さな箱を置いた。ピンクのリボンが結んである藍色の箱。

「これは……」

 リボンをほどいて箱を開ける。そこにあったのはハートのついたシルバーリング。

「最近忙しそうにバイトしてるからなにかあったのかと思ってたけど……これを買うためだったのね」

「そんな……なんで……」

「叶葉がみかるちゃんのことを大切に思ってるからよ」

 ふたの裏側に挟まってた紙。その紙を開いて読んだ。


《約束は忘れない。いつか迎えにくるからそれまで待ってろ!この指輪が新しい約束の証だ》


 叶葉……!

 涙がとめどなく溢れる。

 約束なんてどうでもいいよ。叶葉に会いたい。叶葉が無事ならそれでいい。

 一度だけ願いが叶うなら、叶葉が事故に遭う前に時間を戻して……!

 一筋の涙が頬に伝ってシルバーリングに落ちた――



 ***



「みかる!」

 叶葉の声が聞こえた。

 すぐさま声のする方へ振り向き、叶葉に追突する。

「わっ!」

 追突した衝撃であたしと叶葉は倒れ込んだ。

「みかる!お前……道路に飛び出そうとしてんじゃねぇよ!危ねぇじゃ――」

「叶葉……!」

 叶葉に触れられたことに喜びを感じ、しがみついた。

「お、おい……!」

「よかった……。無事なんだね、叶葉!」

 叶葉が無事ならもうどうでもいいよ。ずっとそばにいなくたって叶葉が生きててくれればなにもいらない。

「一体どうしたんだ、みかる?」

「叶葉……」

「ん、なに?」

「あたし、叶葉のことずっと好きだった。今までずっと」

「み、かる……?」

 叶葉は一瞬顔を赤くする。そして顔を下に向け髪をくしゅっと触った。

「ああーもう!なんでそういうこと言うんだよ!」

 そっか、それが返事なんだ。でも構わない。叶葉があたしのこと好きじゃなくてもあたしは叶葉のこと好きでいる。

 あたしは叶葉が好き。その想いをここ数日でやっと言う勇気が出た。

「それ、俺が言うはずだったのに……」

「……えっ?」

 叶葉はいきなりあたしを強く抱きしめた。

「好きだ、みかる。小さい頃からずっと好きだった」

 叶葉が耳元で優しく言った。思わずビクッとなる。

「か、なは……」

「きっと迎えにくる。だから――」

 叶葉はポケットからピンクのリボンが結んである藍色の箱を取り出した。

「それまではこれで我慢してほしい。いつになるかは分からないけどきっと来るから」

 あたしはこの箱の中身を知ってる。けど確かめるために開けた。

 そこにはやっぱりハートのついたシルバーリングがあった。

「これ……あたしには可愛すぎるよ」

「大丈夫。絶対似合うから。つけてあげるよ」

 叶葉は箱から指輪を取り出してあたしの左手の薬指にはめた。

「ほら。やっぱり」

 こんなシンプルな指輪が叶葉にはめてもらっただけで、薬指にはまっただけですごく輝いて見えた。

「ありがとう……叶葉……」

「これが約束の証だ。そして――」

 あたしの前髪をさっと上げておでこにそっと口付けをした。

「誓いのキス」

 いたずらっぽく笑う叶葉を見てあたしも笑った。


 いつか約束が果たされますように……。


 ***



 数年後――

「それじゃあ言ってくるね!」

 あたしは家を出て仕事場に向かった。

 あの日から数年経った今、あたしは夢だった保育士になった。まだまだ未熟で大変だけどなんとか頑張っている。

 だって、叶葉と毎日メールや電話してお互い励ましあっているから。

 でも昨日はメールしても返信来ないし、電話も出てくれない。留守電にメッセージ入れたのにかけ直してくることはなかった。

 叶葉になにかあったのかな?そんな思いを胸に秘め、あたしは仕事場へ向かう。


 駅に着いたとき着信音が鳴った。まだ駅のホームでよかったと思いながら画面を見る。非通知と言う文字が出ていた。少し警戒気味に電話に出る。

「はい、もしもし」

《みかる?昨日はごめん。メールも電話もしなくて》

 電話から聞こえたのは紛れもなく叶葉の声だった。

「叶葉!もう心配したんだよ!なんかあったんじゃないかって!」

《だからごめんって言ってるだろ。それより今駅にいる?》

「うん。駅のホームにいるけど」

《後ろ、振り返ってみて》

 後ろに振り返る?なんでだろう。

 そんなことを考えながら叶葉に言われた通り後ろを向く。

 そこにいたのはスーツを着て変わらぬ笑顔であたしを見てる叶葉だった……。

「か、叶葉……」

「やっと迎えに来れたよ。みかる」

 叶葉は電話を切ってあたしの元へ歩いてくる。

「待たせてごめん。やっと独り立ち出来たよ」

「叶葉……!」

 人目を気にせず叶葉に抱きついた。離されるかと思っていたけど叶葉は抱きしめ返してくれた。

「会いたかったよ……。叶葉」

「俺も。みかるに早く会いたかった」

 叶葉はそう言ってあたしから少し離れるとあたしの左手を取った。

「約束の証、つけててくれたんだね」

「もちろん。一度だって忘れたことないよ」

「それじゃあ新しい約束をしよう。みかる」

 そう言って鞄の中からあの時と同じような小さな箱をあたしに差し出した。

「これからも俺達はずっと一緒にいよう。俺はずっとみかると一緒にいたい。そばにいたいんだ」

 叶葉は箱を開けて中身をあたしに見せた。その中には小さな宝石がついている指輪が入っていた。

「だから結婚しよう、みかる。今すぐじゃなくてもいいから俺と結婚してほしい」

 それは叶葉からのプロポーズだった。その言葉を言う叶葉の瞳は強い意志で満ちていた。この瞳を見てプロポーズを断れるわけがない。むしろ心から受け入れる。

「……はい」

 あたしの返事はそれだけ。でもこの一言にもいろいろな思いがつまっている。この一言はとても思いんだ。

 あたしがプロポーズの返事をするとホームにいた人々が拍手をした。

「あっ……」

 そう言えばここが駅のホームだってことをすっかり忘れていた。

「やっと約束を守れるよ。もう離れない。だからずっと一緒にいよう、みかる」

「うん」

 叶葉はあの時と同じようにあたしの左手の薬指に指輪をはめた。

「新しい約束の証だね」

「そうだな」

 あたし達はお互い微笑みあった。あの時と同じように……。



 こうしてあたし達の小さい頃の約束は新しく変わり、果たされるようになりました。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 叶葉カックイーですね。今の世の中、叶葉のような男なかなかいないんじゃないでしょうか。恋愛小説の醍醐味ですね。 キュンキュンしました(*^^*) [一言] とても良かったです。 長編を書くん…
2012/10/14 16:17 退会済み
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