表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

天獄と地国

作者: 藤堂壽太
掲載日:2026/06/09

一文字入れ替えると印象が変わるなぁと。

「おめでとうございます。」


白衣の女性が微笑んだ。

「審査の結果、あなたの天獄への移住が認められました。」


私は黙ったまま窓の外を見た。


灰色の街。

渋滞。

騒音。

雨漏りする古いアパート。


地国は不便だった。


病気がある。

老化がある。

失恋がある。

失業がある。

死がある。


対して天獄は完璧だ。


病気にならない。

老化しない。

欲しい物は何でも手に入る。

事故も犯罪もない。

永遠に幸福でいられる。


誰もが憧れる場所。

そう教えられて育った。


「どうされました?」

女性が尋ねる。


「一つ聞いてもいいですか。」


「どうぞ。」


「なぜ天国ではなく、天獄なんですか。」


女性は少し驚いた顔をした。

「古い言葉をご存知なんですね。」


彼女は端末を操作した。

古い映像が映し出される。


何千年も前。

人類は死を克服した。

病を克服した。

飢えを克服した。

争いを克服した。


そして天国を作った。


「当時は本当にそう呼ばれていました。」

女性は言う。


映像は続く。


百年後。

千年後。

一万年後。


人々は何も失わなくなった。

だから何も得なくなった。

挑戦しなくなった。

恋をしなくなった。

夢を見なくなった。


やがて人類は、その場所を別の名で呼び始めた。


天獄。


私はしばらく映像を見ていた。


「では地国は?」


女性は笑った。

「昔は地獄と呼ばれていました。」


窓の外では、

子供が転んで泣いていた。

若い恋人たちが喧嘩していた。

誰かが失敗し、

誰かが挑戦し、

誰かが夢を語っていた。


「移住なさいますか?」


女性が尋ねる。


私は立ち上がった。


「やめておきます。」


「理由を伺っても?」


少し考えてから答えた。


「まだ、失敗してみたいので。」


女性は小さく頷いた。


「承知しました。」


そして事務的な声で言った。


「それでは引き続き、地国での人生をお楽しみください。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ