放浪騎士と夢見る少女の出会い
初投稿です
「ったく…これだから辺境の田舎町には行きたくなかったんだ」
槍を背に下げどこか気だるげに独り言をこぼす彼はアランという。騎士鎧…をまとっていたはずではあったが腰から上は路銀の足しに売る羽目になったが目指す町は目前でありもうひと時足を動かせばすぐにでも温かいスープや快適な眠りにありつけるであろう。しかしながら億劫さを振り切れない原因が目の前に立ちふさがっていた。
「グギャ!グギャギャギャギャ!」
「ブヘヘヘ、そう慌てるんじゃねえぜゴブリーナ。こいつをぶちのめしたら今夜は宴だぜぇ!」
緑と茶色を混ぜたような肌に長鼻、そして妙に可愛らしい小さな牙を出した小さな亜人…ゴブリンとガラの悪そうな男が粗末なナイフを構えて飛び出してきたのだ。
「こんな貧相な男を狙って追い剥ぎって…世も末だな」
「グギャギャギャギャ!」
「てめえ!俺に文句でもあんのか!?泣いても許してやんねえぞ!」
そういうなりゴブリーナと呼ばれたゴブリンはナイフを投擲…とっさ構えた槍でそれをはじくも男がそのすきに飛び掛かる。その連携は並の盗賊をはるかに上回り二人の時間の積み重ねを確かに感じさせるものであった。しかしそれは届かない。槍の柄で腹部を鋭く突かれ、盗賊の男が付けていた粗末な皮鎧に柄の先の金飾りが深く食い込む。
「ま、命は取らないで置いてやるさ。相方もひどい目にあわされたくなきゃ”ガファンの町”へと案内しな」
「はい…ありがとうございま…ぐふっ」「おいおいおいおいおい!」
そのまま気絶したのでゴブリンの方に必死に介抱させた。
ガファンの町…それはグラディオル王国領にあり戦士の国ダルマとの境にある田舎町である。町の近くにある豊かな森にゴブリン族が住んでおり、俺たちのような人間との取引もあってか町の市場はラインナップが非常に豊かである。また大地に豊穣をもたらすと言われる地竜の目撃情報も多数あり、小さくはあるものの王国の中でも中々存在感のある町だ。
「ま、領主がいろいろうまくやってるんだろうな…っと」
その入り口の門付近ではちょうど衛兵が町に入る人間の身分調査をしていた。
「次そこの君!何か身分を証明できるものはあるか?」
「あー…一応竜騎士…をやってるけど…ちょっとそういうのは持ってない…かなあ…」
とそう告げた時、衛兵は少し間を開けてクスリと笑った。
「おいおい、竜騎士ってのは世界に7人しかいない最強の集団なんだぜ?任命されるときはその国のお偉いさんから直々に竜の顎を模したヘルムが贈られるって話だ。そんな大事なもん持ってないわけないだろ?」
と信じてはもらえなかったものの捕縛した盗賊を引き渡したら詰め所で少しの問答の後、仮の身分証と懸賞金をくれた。衛兵は良い奴だった。賊共からは「俺をだましたのか!」なんて非難が飛んできたが罪を重ねる前にぶち込んでやったことを感謝してほしい。戦闘ではあれだけ動けていたのに罪状が連続食い逃げで盗賊行為は自分が初であったという事には非常に驚いた。本当に驚いた。真実を見通す魔道具で見たから間違いはない…らしい。
「はーっ…時間食っちまったな…適当な安宿でも良いからもう寝たい。」
そう言いながらも町を散策していると一つの古い建物を発見する。入り口の横にはこれまた朽ちかけの看板が立っており、そこには≪エリーの飯付き宿≫と書かれていた。
他に宿を見つけたわけでもなく今日はもう疲れていたのでその宿に世話になることにした。どうしてなかなか、さびれた外見とは裏腹に中は活気で満ちており期待をはるかに上回る場所であった。
「いらっしゃい。ご予定は?」
「一晩だけ泊まりたい。飯は…そうだな。今晩と明日の朝の分まで頼むよ。」
「二食付きで一泊だね。王国銅貨4枚だよ。」
ふくよかな女主人に案内してもらい早速夕飯をもらうことに。食堂は狭いながらも人が多く、食事だけを目的に訪れる人もいるようだ。
メニューは選択式ではないようで提供されるまで待つだけなのは正直旅の身としてはありがたい。
「お兄さん、冒険者?」
栗色の髪をした少女に声をかけられる。背丈からして14歳くらいといったところか。女主人と同じ服装だからまあ給仕だろう。冒険者というのはその国の王や錬金術師の組合、魔法使いの工房などから依頼を受けて世界各地の調査や素材の調達を行う雇われ者の総称である。
「あたしもいつか世界中を旅してみたいなぁ。ねえ知ってる?この世のどこかにはドラゴンが身を寄せ合ってクラス岩山の集落があるって話だよ!めったに見れないドラゴンが集まって暮らしてるなんて夢があると思わない?」
「そんな良いもんでもないだろ。ドラゴンが好きってんならまあ…俺もだけど。」
夢がないなあ、なんて返され少しむっとはなるものの出てきた飯があまりにも美味しかったものだから普通に流せた。
どうやらいつかは町を飛び出したいと思っているらしくこうやって旅の人間に色々話を聞くのが趣味なのだそうだ。
「あたしファスカっていうの。いつか大物冒険者として名をはせるんだから!よろしくね」
元気な自己紹介を残して夢見る少女は店の奥に姿を消した。
「俺ももう寝るか…ごっそさん」
案内された部屋へ行き、寝支度を済ませて床に就く。
瞼を閉じて明日の予定を反芻していると自然と意識が落ちていった。
翌日目を覚ますとどうやら窓の外に見える住民があわただしくしているのが見えた。大勢が町の正門とは反対の方へ駆け出しており、衛兵や魔法使いは戦闘態勢と言わんばかりに隊列を組んで正門の方へ向かう。
「お前ら!大変だぞ!竜が…ドラゴンが町に向かってくる!逃げろ!」
…朝くらいは穏やかにいきたかった。




