第6話 ヒロインとの出会い、騎士の誤解の拡大 -3
アーサーは片膝をつき、恭しく頭を垂れた。
「先日は、メアリー殿の指導を拝見いたしました。
リリアナ嬢をあそこまで鍛え上げられるとは……
アメリア様のお力は、この国の未来を憂う、真の賢者のものだと確信いたしました」
「え、あ、その……」
(賢者!?賢者じゃないし!
ただのゲーム知識だし!)
(てか、リリアナは鍛えてるつもりだけど、まさかアーサー様にまでバレてるなんて!?)
(ってか、この人が私を賢者扱い!?)
アメリアは内心で大混乱に陥る。
アーサーは顔を上げ、その碧い瞳でアメリアをまっすぐに見つめた。
「貴女様の真の目的は、この腐敗した国を内側から変革し、未来へと導くこと。
そのために、貴女様はあえて悪役を演じ、民衆を奮い立たせ、未来を担う者たちを育成されている……そう、私は理解いたしました」
(悪役を演じてる!?全然そんなことない!ただ善行してるだけ!
てか、何でそんなに都合よく解釈されてるの!?
いや、あの、私、悪役令嬢って言われてますけど、それってゲームの設定で、私、本当はただの一般人ですから!)
アメリアは頭を抱えたくなった。
彼の言葉は、アメリアの真意とはかけ離れているのに、あまりにも力強く、確信に満ちていた。
「アメリア様。このアーサー、貴女様の御心のままに、この剣を捧げましょう。
貴女様こそ、我が国が待ち望んだ真の光。
どうか、我らにその偉大な御力を振るってください!」
アーサーの熱烈な忠誠の言葉に、アメリアはひきつった笑顔を浮かべた。
(うわぁ、なんかすごい重い誓いされてるんですけど!?
しかも、完全に私のことを「冷徹な策士」か何かだと勘違いしてる!
これ、もう誤解解けないやつじゃん!? いや、むしろ深みにハマってる!?)
その場に居合わせた庭師や、たまたま公爵邸の門前を通りかかった通行人が、その光景に足を止め、ざわめき始めた。
庭師Aが、隣の庭師Bの腕を掴んで小声で囁く。
「おい、見ろよ!あのアーサー師団長が、オルテンシア様にあんなに恭しく……!」
庭師Bも驚きに目を見開く。
「信じられん……あの厳格なアーサー様が、片膝をついて忠誠を誓うなんて……オルテンシア様は、やはりとんでもない御方だ!」
通行人Cが、畏敬の眼差しでアメリアを見上げながら、友人Dに話しかける。
「あれが噂の悪役令嬢、アメリア様か……。まさか、あのアーサー師団長まで心酔させてしまうとは……」
通行人Dは顔色を変え、唾を飲み込んだ。
「あれはもう、悪役なんて生易しいもんじゃない。この国の闇を裏から牛耳る、影の支配者よ……!」
アメリアの耳には、彼らの囁き声が風に乗って届いていた。
(影の支配者!?やめて!私、ただ平穏に生きたいだけなんですけど!
なんで勝手に壮大な悪役設定追加されてるの!?)
アメリアの「悪役令嬢としての評判」は、確実に、そして着実に拡大していった。
数日後、貴族たちが集まるサロンでは、アメリアに関する噂話が飛び交っていた。
貴族Fが扇子で口元を隠しながら、隣の貴族Gに囁く。
「オルテンシア公爵令嬢が、村人たちを私兵として囲い込んでいるらしいぞ。
あれは、以前の飢饉で弱った領民を助けた後のことだとか……恐ろしい手腕よな」
貴族Gは驚いたように目を丸くした。
「まさか、あの慈悲が……そういう意図だったとは……!
さすがはアメリア様だ。その冷徹な計算高さ、並大抵ではないな」
そこに、別の貴族Hが加わった。
「なんでも、あの若き天才騎士アーサー様も、その才覚に惚れ込んでいるとか。
公の場で彼女を称賛しておったぞ」
貴族Iが神妙な顔で頷く。
「恐ろしいお方だ……誰も手を出せない真の悪役令嬢。
しかし、この国の腐敗を鑑みれば、ああいう強引なやり方も必要かもしれんな」
貴族Jがごくりと唾を飲み込んだ。
「いずれこの国も、彼女の掌の上で転がされるのかもしれないな…
…私達も、早めに媚びを売っておくべきか……」
アメリアは偶然、その噂話を耳にして、心の中で盛大に叫んだ。
(私兵化!?正当化!?どこが善行なのこれ!?
私、単に村を助けただけなんですけど!?)
アメリアは自室に戻ると、メアリーから届いた報告書を読んだ。
そこには、村人の訓練状況、アーサーの言動、そして自身に関する噂が事細かに書かれていた。
(これでどうやって処刑を回避しろっていうのよ!
ヒロインを育てて悪役脱却するはずが、かえって悪役化してるじゃない!)
報告書を握りしめ、アメリアは頭を抱えた。自分の善行が次々と悪役の評判に繋がっていることに、新たな焦りを感じる。
(私、これ以上どうすればいいの……?)
絶望に支配されそうになるが、そこでハッと顔を上げた。
(いや、まだだ。まだ何かできるはず……!)
窓の外を眺めるアメリアの目に、決意の光が宿った。
(ゲームのシナリオでは、ヒロインは社交界で王子と出会い、恋に落ちるんだった……そうだ、これだ!)
アメリアは拳を握りしめた。
「よし、私が社交界でヒロインを王子に会わせ、二人の仲を取り持つわ!」
(これで私の評判も上がるし、悪役令嬢の役回りも終わるはず!
絶対に、絶対に処刑なんかされないんだから!
待ってなさい、ハッピーエンド!)
彼女の瞳は、未来への希望と、少しの無謀さを秘めて輝いていた。
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