第5話 ヒロインとの出会い、騎士の誤解の拡大 -2
数日後。アメリアの屋敷の庭で、リリアナが迷子の小鳥を探す「試練」を受けていた。アメリアはゲームのイベントを再現し、リリアナの動物と会話する能力を伸ばそうとしているのだ。
「リリアナ、この小鳥はどこに行ったと思う?
あなたの力で探してごらんなさい」
リリアナは真剣な表情で、庭のあちこちを見回した。
「は、はい!
小鳥さんの心が読めるように…集中します…!」
(よし、これでリリアナの動物と会話する能力が目覚めるはず…!)
アメリアは期待に胸を膨らませて見守っていた。
その様子を、メアリーは庭の隅から無表情で見守っていた。
(アメリア様は、あの娘の才能を見極めているのだ。
弱き者は許さない…厳しき試練。
あの娘は、アメリア様の望む存在となれるか、今、その精神力を試されている)
メアリーは静かに目を閉じた。
(私も、アメリア様の期待に応えねばならない。
試練を乗り越えさせるために、私も動こう。アメリア様が慈悲を与えた村人たちを鍛え上げたように、あの娘も鍛え上げるのだ。)
メアリーの瞳は、一点の曇りもなくアメリアとリリアナに向けられていた。
(私の主の御心は、常に深遠だ。私には、その全てを読み解くことはできない。
だが、私はただ、忠実に、アメリア様の御心のままに動くのみ。)
アメリアは、メアリーの視線を感じた。
(あれ?メアリー、もしかして、また何か勘違いしてる!?
いやいや、これはただの才能開花イベントだから!
スパルタだけど、愛のあるスパルタだから!)
その日の午後、騎士のパトロール中に、第一師団長アーサー・ペンドラゴンが偶然オルテンシア公爵邸の門前を通りかかった。
彼は、庭でメアリーがリリアナに厳しい指導(とアーサーは誤解する)をしている場面を目撃した。メアリーは、小鳥を見つけるのに手間取っているリリアナに対し、一切の妥協なく指示を出していた。
「リリアナ嬢。その程度の集中力では、アメリア様のお眼鏡には叶いません。
もっと深く、もっと奥へ。心を読め!」
リリアナは必死にうなずき、再び集中しようと努めている。
アーサーは馬上でその光景を静かに見つめた。
(あれは…アメリア様のメイド、メアリー殿か。
そして、あの娘は…新しく屋敷に招かれたリリアナ嬢だったか)
彼の目は、メアリーの凛とした立ち姿に注がれた。
(ほう、あの若き令嬢を鍛え上げているのか。メアリー殿の献身ぶりも、並大抵ではないな…)
アーサーは、メアリーの無表情の奥に、主への揺るぎない忠誠と、自分にはない強さを見出した気がした。
(アメリア様は、将来を見据え、自ら人材を育成しているとでもいうのか…恐ろしいお方だ。
だが、その先見の明、まさに王妃の器。
我が国の未来を担うべきは、アメリア様しかいない…!)
アーサーは馬を降り、メアリーに近づいた。
「メアリー殿、ご苦労されているようですね」
メアリーはアーサーを一瞥したが、何も言わずに指導を続けた。その無言の圧力に、アーサーはむしろ感銘を受けた。
(その無表情の奥に秘められた、主への揺るぎない忠誠。
自分にはない、絶対的な強さ。素晴らしい…!)
彼は、メアリーの献身的な姿に、微かな憧れと好意を抱き始めていた。
アメリアの屋敷の庭で、リリアナが迷子の小鳥を探す「試練」を受けてから数日後。
領地内の教会前に、安堵した表情のリリアナが立っていた。彼女の腕の中には、迷子だったはずの子猫がすっかり安心しきって眠っている。周囲の村人たちは、リリアナの能力に驚きと感動の声を上げていた。
「子猫ちゃん、大丈夫?
お母さんはあっちの森にいるよって…」
リリアナが子猫の耳元でそっと囁くと、子猫はニャアと小さく鳴いた。
村人の一人が、信じられないものを見るようにリリアナを見つめる。
「本当に動物の声が聞こえるのか……リリアナ様は聖女様だ!」
別の村人も興奮した声で続いた。
「まさか、こんな御方がこの村にいらっしゃるとは……!」
(やった!リリアナの能力が開花した!
これで処刑フラグ回避だわ!
順調、順調!)
アメリアは遠巻きにその様子を観察しながら、心の中でガッツポーズをした。
リリアナは満面の笑みでアメリアの方を振り返った。
「アメリア様のおかげです!
私、もっともっと頑張ります!」
(私のおかげだけど……これで悪役じゃなくなる……はず……。
いや、お願いだからなってくれ!)
アメリアは内心で祈りながら、優しく微笑んで頷いた。これでヒロインが活躍する道筋はついたはず。あとは彼女が王子様と結ばれて、私が悪役令嬢から解放されるだけだ。
その頃、騎士団の訓練場では、第一師団長アーサー・ペンドラゴンが激しい訓練をこなしていた。彼の剣筋は鋭く、見る者を圧倒する。だが、彼の頭の中には、アメリアとメアリーの姿が浮かんでいた。
(メアリー殿のあの献身……アメリア様への絶対的な忠誠心……
彼女は、真の騎士だ。
そしてアメリア様は、そのような忠誠を引き出す、真の君主……)
彼は、メアリーがアメリアに捧げる絶対的な忠誠こそが、彼が追い求める「騎士道」の極致だと錯覚し始めていた。その忠誠を通じて、メアリーの隣に立つ資格を得ようと無意識に努力する。
(私も、アメリア様のような偉大な方に、その身を捧げたい。メアリー殿に劣らぬ忠誠を誓って……)
剣を振り下ろすたびに、彼の瞳には決意の色が宿る。
(いや、メアリー殿に負けていられない!
私こそが、アメリア様の最も忠実な盾となろう!
この胸の高鳴りは……主君への絶対的な忠誠……に違いない!)
彼は汗を拭い、高らかに宣言するかのようにつぶやいた。
「アメリア様の御為ならば、この命、喜んで捧げましょう!」
訓練を終え、騎士団本部に戻る途中、アーサーは偶然、公爵邸の庭で散策するアメリアの姿を目にした。
彼女は優雅に花を眺めていたが、その瞳の奥には、どこか遠い未来を見据えるような冷静さが感じられた。(実際は「処刑フラグ、どうしよう」と考えているだけなのだが)
アーサーは迷いなくアメリアに近づいた。その表情には、強い決意が宿っている。
「アメリア様!」
アメリアは突然の声に驚き、振り返った。目の前に立つアーサーの、普段は冷静沈着な彼からは想像もできないほどの熱のこもった視線に、アメリアはたじろいだ。
(え、アーサー様?私に何か用?
ってか、私、アーサー様と直接話すの、これが初めてじゃない!?
なんかすごい熱い視線なんですけど!?)
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