第4話 ヒロインとの出会い、騎士の誤解の拡大 -1
悪役令嬢アメリアとして国を救い(と周囲には思われている)、私兵集団を築き上げてしまったアメリアは、なんとかしてこの誤解の連鎖を断ち切ろうと新たな一手を考えていた。
ゲームの知識を総動員し、次に打つべき手を探す。
領地内の小さな教会。
アメリアが貧しい人々のために寄付をしていると、そこで小さな子供たちに優しく読み聞かせをするリリアナ・エヴァンスに出会った。
柔らかな栗色の髪に、優しげな緑の瞳。その姿は、まさにゲームのヒロインそのものだった。
「あの子がリリアナ…!ゲームのヒロインだわ!」
アメリアは思わず息を呑んだ。
(まだ子供だけど、ゲームでは特殊能力を開花させて国を救ったんだった…!
そうだ、彼女の才能を伸ばせば、私が悪役令嬢である必要もなくなるはず!)
リリアナが、読み聞かせを終え、子供たちを優しく見送っている。
「…そして、お姫様は皆と幸せに暮らしました、と」
アメリアはそっとリリアナに近づいた。
「…素敵なお話ですね。あなたの声は、皆を魅了する力がある」
リリアナは驚いたように振り返り、瞳を丸くした。
「あ、ありがとうございます…!」
「わたくしはアメリア・オルテンシアと申します。あなたのお名前は?」
アメリアは優雅に微笑みかけた。
リリアナは少し戸惑いつつも、はにかむように答えた。
「リリアナ・エヴァンスと申します…
…アメリア様は、あのオルテンシア公爵令嬢様でいらっしゃいますか?」
リリアナの目が、驚きと畏怖で大きく見開かれる。
(うわぁ、やっぱり悪役令嬢ってバレてるじゃん!処刑されるって噂も知ってるのかな!?)
アメリアは内心で冷や汗をかきながらも、努めてにこやかに頷いた。
「ええ、そうですわ。
あなたのような美しい声をお持ちの方が、このような教会で子供たちに読み聞かせをしているとは…素晴らしいわね」
「い、いえ、そんな…恐縮でございます…」
リリアナは俯きがちに、頬を染めた。その純粋な反応に、アメリアはますます「この子を育てよう!」という気持ちを強くした。
(よし、完璧な出会い!これで処刑フラグ、さらに遠ざかるはず!)
アメリアは心の中でガッツポーズをした。
その日のうちに、アメリアはリリアナを屋敷に招いた。
リリアナにとって、公爵邸を訪れるのは初めてのことだった。門をくぐり、広大な庭園と威風堂々たる屋敷を目にした途端、心臓が大きく跳ねた。
大理石の床、天井まで届く豪華な絵画、そして廊下の隅々にまで配された美しい調度品。全てが別世界のようで、呼吸をするのもためらわれた。緊張で手汗が滲み、アメリアの隣を歩く足が震える。
「リリアナ、ここがわたくしの屋敷よ。どうかしら?」
アメリアが笑顔で尋ねたが、リリアナは顔を上げられずにいた。
(あれ、すごい緊張してる?
そりゃあ、貧しい教会の娘がいきなり公爵邸に来たら、そうなるか…)
アメリアはリリアナの震える小さな手を見て、少しばかり困惑した。
「ひ、広いです……!その……と、とても……き、綺麗で……」
声が震える。目の端に映る、廊下の先に続く豪奢な階段に、思わず息を呑んだ。
(ここが、あの悪役令嬢の屋敷……!
あまりにも、すごすぎて……息が詰まる……)
「そうでしょう?
でも、何も怖がることはないわ。
貴女はわたくしのお客様なのだから、安心してちょうだい」
アメリアはリリアナの手を優しく包み込むように握り、そっと力を込めた。アメリアの手は、柔らかく温かかった。
「さあ、足元に気をつけて。書斎にご案内するわね。
そこで貴女の素晴らしい才能をもっと詳しく見せてほしいのよ」
アメリアの言葉と、その柔らかな手の感触に、リリアナはびくりとしながらも、僅かに顔を上げた。
「は……はいっ……!」
その顔にはまだ緊張が残っていたが、アメリアのまっすぐな、それでいて優しい目を見て、少しだけ不安が和らいだようだった。
(アメリア様……もしかして、世間の噂とは違う、とても優しい方なのでは……?)
リリアナの心の中に、今まで抱いていた「悪役令嬢」のイメージとは異なる、新たなアメリア像が芽生え始める。その手は、まるで自分を導いてくれる光のように感じられた。
(よし、これで少しは緊張が解けたかな?やっぱりヒロインは私が守ってあげないとね!)
アメリアは内心、これでリリアナの信頼を勝ち取れたと満足そうに頷き、優雅に歩き続けた。広々とした書斎に通されると、壁一面に並べられた膨大な蔵書に、リリアナは再び圧倒される。
(ここが、あの悪役令嬢の部屋……。こんなところで、私が、本当に……?)
心臓が早く打つのを感じながら、リリアナは震える足でアメリアの前に立った。アメリアは微笑みながら話を切り出した。
「リリアナ、今日の練習問題よ。
この絵の中の人物の感情を読み取ってごらんなさい」
アメリアが差し出したのは、悲しげな表情の女性が描かれた絵だった。リリアナは絵をじっと見つめ、眉を寄せた。心臓の音が耳元で大きく鳴り響く。失敗したら、何を言われるだろうか。震える指先で絵を指差す。
「え、ええと…これは悲しい…でも、本当は希望をもって戦おうとしている?」
アメリアは目を輝かせた。
「正解!すごいわリリアナ!
この絵のモデルは、のちに革命を起こすの!
(やっぱりこの子、本物だ!ゲームと同じ才能持ちだ!)」
アメリアは喜びを抑えきれない。
「よし、この調子でどんどんスパルタ教育するわよ!」
リリアナは目を瞬かせた。
「は、はいっ!アメリア様のために、頑張ります!」
(そうそう!その健気さが可愛いんだよね!
これで立派な聖女に育てて、私の悪役令嬢ライフを終わらせるんだ!)
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